宝石学会(日本)講演会要旨
平成23年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
  • 鈴木 淳
    セッションID: 1
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/01
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    宝石サンゴと真珠は、生物が作る鉱物であるが、その美しさと安定性から、宝石として世界各地で古くより珍重されている。高知沖は宝石サンゴの世界的な産地として有名である。また、真珠養殖法の開発に関して日本は大きな貢献があった。
    宝石サンゴは、花虫綱八放サンゴ亜綱に属して八放サンゴ類とも呼ばれ、造礁サンゴ類とは亜綱のレベルで異なった分類群である。地中海に分布するベニサンゴ (Corallium rubrum)は宝石サンゴとして古くから有名であり、日本周辺からはアカサンゴ(Corallium japonicum)、シロサンゴ(C. elatius)、モモイロサンゴ(C. konojoi)などが産する。骨軸と呼ばれる炭酸カルシウム骨格は、高マグネシウム方解石からなる。数十年、数百年の年月をかけて形成される宝石サンゴの骨格には、各種の同位体比や化学組成の変化として深海の環境変動の記録が残されている可能性があり、気候変動史の研究者の注目を集めている。高知沖から採取されたシロサンゴについての、酸素・炭素安定同位体比および各種元素濃度の結果を報告する。
    真珠は、貝殻内部に入り込んだ不純物に対する貝の防衛反応により形成される。そのため、多くの貝が真珠を形成する機能を有するが、現在、一般的に真珠養殖の母貝として使用されるのは、商品価値のある宝石真珠を形成する二枚貝である。例を挙げると海生のアコヤガイ(Pinctada martensii)、クロチョウガイ(Pinctada margaritifera)、シロチョウガイ(Pinctada maxima)、そして淡水棲のイケチョウガイ(Hyriopsis schlegeli)などがある。この中で、クロチョウガイは黒色の黒蝶真珠を形成する。イケチョウガイは、緑系や赤系、灰色系など様々な色合いを持つ。アコヤガイとその真珠については比較的多くの研究が行われているが、その他についての研究例は極めて乏しい。石垣島・西表島で養殖されたクロチョウガイとその真珠や、志摩半島で養殖されたアコヤガイとその真珠 (Kawahata et al., 2006)、また、淡水の新利根川で養殖されたイケチョウガイとその真珠について(Yoshimura et al., 2000; Izumida et al., in press)、酸素・炭素安定同位体比および各種元素濃度を分析することにより、貝殻と真珠の形成が活発な時期や形成が停滞する時期が判明した。また、環境要素や生活史が与える影響についても報告する。
    生物が宝石サンゴや真珠などの鉱物を作る現象はバイオミネラリゼーション(生物鉱化作用)と呼ばれている。生物起源炭酸塩を構成する代表的な鉱物は方解石とアラレ石で、通常、海洋の石灰化生物は上記の2種の鉱物のいずれかを分泌するが、例えば、アワビ類の場合には、両者の混合層を持った殻を作ることもある。石灰化機構は普通に思われているよりずっと変化に富んでいて、まだ十分に知られていない重要なプロセスが関与している可能性もある。現在、海洋酸性化に対する石灰化生物の実験研究、生物起源炭酸塩を用いた気候変動解析をはじめ,分子レベルから地球環境スケールの広範な研究分野に関係して、生物鉱化作用の研究は世界的にも注目されるトピックスである。
    謝辞:(株)明恒パール牛久観光・北尾正一氏ならびに(株)琉球真珠・中野氏には、貴重な分析試料を提供して頂きました。本研究は、次の方々との共同研究の成果を紹介しています。記して御礼申し上げます。東京大学大気海洋研究所・川幡穂高教授、横山祐典准教授、井上麻夕里助教、吉村寿紘氏、牛江裕行氏、立正大学・岩崎 望教授、慶応義塾大学・鹿園直建教授、泉田悠久氏、田子裕子氏、古田望美氏、産業技術総合研究所・中島 礼博士、長尾正之博士。
  • 中島 彩乃, 古屋 正貴
    セッションID: 2
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/01
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    近年ベトナムなどから産出するブルースピネルに、以前のブルースピネルのような暗い青ではなく、変成岩起源のサファイアのように鮮やかな明るい青のものが見られるようになった。市場では、その色の濃いものはコバルトスピネルや、パステルカラーから薄いカラーチェンジスピネルの名称で販売されているようである。(ツーソン2011)
    青い天然のスピネルは、1980年代に一部コバルト着色であるものが含まれることが発見され、それまでのコバルトは天然石の色原因とはならないという常識から外れるもので驚きを持って受け入れられた。(Fryer, 1982) これらいわゆるコバルトブルースピネルの着色原因とその色について調査を行った。
    分光器を使う伝統的な宝石学としてGem Testingを見ると、ブルースピネルはコバルト着色のものと、鉄着色のものがあることが示され、その違いは基本的にコバルト着色のものはベルヌイの合成石の特徴であり、鉄着色は天然石の特徴として示され、鉄着色の天然石は459nmの強く大きな吸収バンドの他、555nm、592nm、632nmの3つの吸収を特徴とし、コバルト着色の合成石は540nm、580nm、635nmの3つの吸収バンドがあるとされている。また、分光光度計を用いた研究では先のものに加え、天然の鉄+コバルトで着色されたものの吸収ピークが示され、429.5nm、434nm、460nm、510nm、552nm、559nmが鉄による吸収、575nm、595nm、622nmがコバルトが影響したものとして示された。(Shigley, 1984) また黄色~赤色の3つの吸収については、鉄による555nm、590nm、635nmの吸収は、コバルトによる550nm、580nm、625nmと非常に似ているとした研究もあった。(Kitawaki, 2002)ブルースピネルの分光パターンにはこのような詳細な研究が行われてきた。
    このようにこれまでも研究されてきた吸収のパターンを踏まえて、タンザニア、スリランカ、ベトナム、およびベルヌイ法合成のブルースピネル、44石の分光スペクトル、蛍光X線成分分析、およびLA-ICP-MSによる成分分析の着色元素の含有率と比較・調査し、分光スペクトルの特徴と着色原因の特徴との関係を調べた。
  • 森 孝仁
    セッションID: 3
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/01
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    ミャンマー北部カチン州のナンヤ鉱山採掘現場での産出状況の報告と原石の特徴やインクルージョンの特徴、また、自社で採掘した原石をカット研磨したサンプルを低温加熱することにより、インクルージョンがどの様に変化したのかサンプリングした100個から特徴的な変化を報告いたします。弊社にて、原石のサンプリング、既定の厚さにカット研磨、データ取りを行い、その後、加熱処理の前後の特徴の変化を確認する作業を行いました。
    インクルージョンの写真撮影は米国GIAの協力のもと、加熱前、加熱後のインクルージョンの変化を見ました。その写真をご覧いただきながら、中には、600℃で5時間加熱することによりインクルージョンが大きく変化したルビーもありました。100枚を超える写真の中から分りやすい例をあげてお知らせ致します。
  • 藤田 直也
    セッションID: 4
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/01
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    琥珀のFT-IR分析を行う場合、試料を削って粉末にして測定することがある。これは拡散反射法とよばれる測定方法で、琥珀などの有機物の測定方法としては大変すぐれたものであるが、試料を削らなければならないため、非破壊検査をモットーとする宝石の検査には本質的に向いていない。
    今回発表する正反射法による測定は、非破壊で測定できるというメリットがある。しかし、拡散反射法に比べると得られるデータが少ないというデメリットがある。
    グラフ1はバルチック産の琥珀を正反射で測定したデータである。1145cm-1のところに山があるのが確認できる。グラフ2はドミニカ産のデータである。1226cm-1,1163cm‐1に弱い山があるのが確認できる。グラフ3はミャンマー産のデータである。1120cm-1に山があるのが確認できる。
    このように、正反射法では得られるデータは限定的とはいえ、バルチック産等の古い琥珀とドミニカ産等の新しい琥珀の判別は可能であると思われる。
    グラフ1 Fullsize Image
  • 福田 千紘, 但馬 秀政, 宮崎 智彦
    セッションID: 5
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/01
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    昨年、含銅リディコータイトが出現し、 国際的に“パライバ・トルマリン”の定義についての議論が再燃した。これらはEDXRFの実測値において明らかに Ca>Naであり、これまでのエルバイトとは異なり、含銅トルマリンとしては初めてリディコータイトに属するものであった。 LMHCや国内のAGLにおいて慎重に議論された結果、これらも“パライバ・トルマリン”としてカテゴライズされる方向にある。本報告では、パライバ・トルマリンの産出地ごとの外観および化学的特徴を総括し、最近出現した含銅リディコータイトの詳細な化学分析の結果を紹介する。
    1980年代後半に含銅トルマリンが最初に発見されたブラジルのパライバ州Sao Jose da Batalha地域のMina da Batalha鉱区のものは、鉱物学的にはエルバイトに属していたため、以降パライバ・トルマリンは銅およびマンガンを含有する青~緑色のエルバイトとされてきた。この地の青色含銅トルマリンのCuO含有量は、我々の蛍光X線分析(日本電子製JSX3600M)による実測値では2~2.9%であった。その後1990年代以降主流となったリオグランデ ド ノルテ州の2つの鉱山のうち、Mulungu鉱区のもののCuOの含有量は、0.6~1.8%で、Alto dos Quintos鉱区のものは0.5~4.9%であった。2000年代に入って発見されたアフリカのナイジェリア産の青色含銅トルマリンには、比較的CuO含有量が少なく、PbOの含有を特徴とするいわゆるタイプ_II_と蛍光X線分析ではブラジル産と化学的に識別が不可能なタイプ_I_が存在する。2005年の中頃、モザンビークのAlto Lingonha地域から産出するようになった含銅トルマリンは、比較的CuOの含有量が少なく、0.20~0.9%で淡い色調のものが多い。最近になって産出が知られるようになった含銅リディコータイトはCuOを0.2~0.6%含有しており、同時にPbOを0.1~0.2%含有しているのが特徴である。
  • 大池 茜, 岩松 利香, 西村 文子, 藤原 知子
    セッションID: 6
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/01
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    鉛ガラス含浸ブラック・スター・サファイア、およびオーストラリア、メキシコ以外から産出された遊色効果のあるオパールを検査する機会を得ましたので報告致します。
    ・鉛ガラス含浸ブラック・スター・サファイアについて 過去に報告例がありますが、当社でも実際に鑑別をした際の印象や以下の点に着目し再度紹介致します。
    _丸1_ 基本検査・X線透過性検査・蛍光X線装置による分析の結果と考察
    _丸2_ 従来のブラック・スター・サファイアの充填との違い
    _丸3_ 同処理ルビーの特徴と比較
    _丸4_ 比較的安価で不透明石のブラック・スター・サファイアに含浸を施すメリット
    _丸5_ 上記を踏まえ実際に鑑別する際の注意点
    ・オーストラリア、メキシコ以外から産出された遊色効果のあるオパールについて
    最近主要産地以外のオパールを鑑別する機会が増えました。そこで今回少量ずつではありますが、エチオピア、スーダン、インドネシアの遊色効果のあるオパールを検査しましたので各石の特性値を紹介します。外観の印象・これらオパールが産出する地質等からオーストラリアとメキシコどちらのタイプに近いのか比較分類も試みました。
    また、インドネシア産の1石に見慣れない球体の内包物を確認した為、光学顕微鏡等を用いてより詳しい観察を試みました。
    ・その他鑑別した石について
  • 望月 陽介, 佐野 照雄, 宮川 和博
    セッションID: 7
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/01
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    めのうは水晶と同じ二酸化ケイ素を主成分とした半貴石である。水晶が単結晶であるのに対し、めのうは潜晶質(微細な結晶の集合体)であるため、内部に微細な空洞が存在している。そのため、空洞に着色液を浸透させることにより、着色を行うことができる。めのうや水晶の加工は、山梨県宝飾業界の伝統産業のひとつであり、めのうの着色も古くから行われている。しかし、着色時間が長いなど、課題も存在する。そこで、本研究では、めのうの物性調査と着色方法の検討、新色の開発を試みた。
    1.物性調査  光の透過率(透明度)でめのうを分類し、電子顕微鏡による表面観察、熱膨張率、温度上昇に伴う熱量・重量測定を行った。電子顕微鏡による表面観察では、光の透過率の低いめのうは、光の透過率の高いめのうに比べ、大きな空洞が多数確認された。熱膨張率の測定では、光の透過率の低いめのうは、光の透過率の高いめのうに比べて、温度上昇による膨張率が小さく、亀裂の生じる温度が高くなることが判明した。また、加熱後に元の温度まで冷却すると、元のサイズよりも収縮し、その割合は光の透過率の低いめのうの方が大きかった。熱量・重量測定では、400度以上で熱量が大きく減少し、同時に重量も減少しているため、蒸発による吸熱反応が起きていると考えられる。また、重量の減少量は光の透過率の低いめのうの方が大きかった。
    2.着色方法の検討  めのうを着色液に浸漬する際に、温度、圧力、超音波照射の有無を変化させて着色を行い、着色液の浸透度を測定した。その結果、圧力の変化では、着色液の浸透度に大きな差異はなかったが、温度変化では、温度が高くなるほど着色液は内部まで浸透しやすくなることが判明した。また、超音波を照射した場合、照射しないときに比べて、着色液の浸透度は深さ方向に大きな変化はなかったが、着色されている領域において、より多くの着色液が浸透していることが判明した。これらの結果から、めのうを着色する際に、温度を高くし、超音波を照射することによって、より短時間で着色液を浸透できることが判明した。
    3.新色の開発  現在、めのうの着色に使用されていない試薬を用いて、新色の着色を試みた。着色後の溶出を防ぐため、二種類の試薬の混合により有色沈殿を生じるものを選択し、めのうへ着色した。着色されためのうについて報告する。
  • 勝亦 徹, 簔輪 俊介, 岸 裕幸, 相沢 宏明, 小室 修二
    セッションID: 8
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/01
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    スピネル(MgAl2O4)にチタン(Ti)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)などの遷移金属不純物を1 %程度添加した結晶を育成した。結晶育成の原料は純度99.99 %のMgO、Al2O3および、純度99.9 %のCr2O3、Mn2O3、TiO2を用いた。育成には光加熱式の浮遊帯域溶融法(Floating Zone; FZ法)を使用し、アルゴン(Ar)を雰囲気ガスとして結晶育成速度4 mm/hで結晶を育成した。スピネルは、MgとAlの組成比が大きく変化する固溶体結晶であることが知られている。そこで、今回は、MgOとAl2O3の組成比(MgO/Al2O3)を0.5~1.5の範囲で変えた原料を用いて、MgO/Al2O3=1の化学量論組成、MgO/Al2O3<1のMg不足組成、MgO/Al2O3>1のMg過剰組成の結晶を育成し、結晶品質へのMgO/Al2O3組成の影響を評価した。結晶品質の評価は、育成したスピネル結晶の発光スペクトル測定および粉末X線回折パターンの測定によって行った。
    育成した化学量論組成付近のスピネル結晶は、チタン(Ti) 添加スピネル結晶は青色、マンガン(Mn) 添加スピネル結晶は薄黄緑色、クロム(Cr) 添加スピネル結晶は赤色であった。FZ法による結晶育成は、Mg不足組成の場合が化学両論組成の場合に比べて容易であった。育成した結晶の粉末X線回折パターンから、Mg不足結晶およびMg過剰結晶のどちらも化学量論組成のスピネルに比べて格子定数が減少する(結晶格子が縮む)ことがわかった。蛍光スペクトルへのMg/Al組成の影響は、Cr添加スピネル結晶の場合に特に顕著であった。Mg不足組成で育成したCr添加スピネルでは、結晶は赤色から緑色に変化し、可視光の蛍光強度も著しく低下した。種々の不純物を添加したスピネル結晶の育成結果とMgO/Al2O3組成の影響について報告する。
  • 間中 裕二, 岡野 誠
    セッションID: 9
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/01
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    “ジェイダイト”は半透明の緑色の美しさが際立つ東洋の宝石である。一般には“翡翠(ひすい)”という呼称のほうが馴染み深いかもしれない。この“ジェイダイト”は、ひすい輝石の学名(Jadeite)のカタカナ読みである。そしてこのひすい輝石が集合した岩石はひすい輝石岩(Jadeitite)と岩石学的に呼称されている。これに対して“翡翠(ひすい)”は、学術的に厳密な定義がなされていない。宝石学ではひすい輝石から成る岩石を“ジェイダイト”もしくは“翡翠(ひすい)”としているのが実情である。
    一方、“翡翠(ひすい)”を寵愛する中国では鉱物学的なひすい輝石、オンファス輝石(オンファサイト)、およびコスモクロア輝石が総称され、“Fei Cui”と呼ばれている。 “翡翠(ひすい)”は岩石であるため、ひすい輝石以外の鉱物が多少なり混在する。その中で代表的なものがオンファス輝石である。ひすい輝石とオンファス輝石は鉱物学的には近縁の鉱物である。ひすい輝石とオンファス輝石は、化学組成でNa:Ca比が8:2で便宜上区分されているに過ぎず、化学組成の漸次的変動には(宝石としての特性を含む)物性に顕著な相違を伴わない。糸魚川産の緑色翡翠(ひすい)には、ひすい輝石ではなくオンファス輝石が卓越するものも報告されている。
    宝飾品に供される翡翠(ひすい)は、ほとんどがミャンマー産であり、緑色以外に白色、ラベンダー、赤、黒色等のバラエティが見られる。これらのうち白色の翡翠(ひすい)は理想組成に近いひすい輝石から成り、ラベンダー色には若干のマンガン(Mn)が関与しており、黄色~赤色は鉄(Fe)の影響に因る。黒色は炭素質の黒色内包物に因るものと実体色が濃緑色の2つのタイプがある。前者ではひすい輝石が主成分を成すが、後者はオンファス輝石、コスモクロア輝石の輝石鉱物の他にエッケルマン閃石(エッケルマイト)、エデン閃石(エデナイト)等の角閃石鉱物で構成される。
    さて、緑色の宝飾用翡翠(ひすい)であるが、いわゆる琅玕(ろうかん)と呼ばれる透明度・光沢の高いものでもひすい輝石の他に少量のオンファス輝石を含有している。また、見た目には普通の緑色翡翠(ひすい)であってもオンファス輝石が主体のものもある。通常、オンファス輝石成分が増えることにより深みのある緑から黒色へと色調が変化してゆく傾向にあるため、濃緑から黒色のものはオンファス輝石である可能性が高い。
    以上のことから、 “翡翠(ひすい)”は、ひすい輝石およびオンファス輝石を主体とする宝石・装飾用に供される岩石であると定義されるべきである。
  • 高橋 泰, 山本 千綾, 山中 淳二
    セッションID: 10
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/01
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    昔から金属の表面などに見られる物質の光沢面は、単純に表面の凹凸が極微細になることにより生じると考えられていた。20世紀初頭、G.Beilbyは研磨された固体の表面に液体が流れたかのような層の形跡を発見した。この表面の傷を覆うニス塗りしたような層は『ベイルビーレイヤー』と呼ばれる。1937年、G,I,Finchは個体表面の構造を電子線回折技法で実験を行い、Beilbyの発見を実証し、かつ発展させた。Finchは鉱物の研磨面には4種類の異なるタイプが存在するとした。
    _丸1_:部分溶融を生じるほど高温にはならず、ベイルビーレイヤーが生じなかった場合。この場合、研磨は脆性破壊のみで行われる。
    _丸2_:ベイルビーレイヤーが生じても、直ちに下層の結晶構造に類似した再結晶が生じる場合。
    _丸3_:ベイルビーレイヤーが形成されるが、主要な結晶面に平行な場合や長時間の加熱の場合にはアモルファス層は残らない。
    _丸4_:アモルファス層としてベイルビーレイヤーが表面を覆う場合。
    近年の研磨剤および研磨技法の研究では、光沢面は固体表面の化学変化または極微細な脆性破壊の結果であるとまとめられている。
    本研究では、宝石の研磨面について表層断面のTEM(透過型電子顕微鏡)観察とSTEM(走査透過型電子顕微鏡)による観察を用いた分析を行い、光沢面における表層の状態を調べた。天然スピネルの原石について{100}に平行な方向に面を加工し、カーボランダム#400、#800、酸化クロム(青粉)の順に研磨して得た光沢面の断面を調べた。結果として、天然スピネルの光沢面は表層から深さ200~300nmの塑性変形によると考えられる多数のディスロケーションが確認された。このディスロケーションはカーボランダム#800で同時加工した天然スピネルの研磨面には観察されなかった。このことから、天然スピネルの光沢面は艶出し加工時の圧力およびこれに伴う熱の影響により表面が塑性変形をおこしながら光沢面が生じたものであることが確認できた。また、他の宝石鉱物についても観察と分析を試みた。
  • 岡野 誠, Ahmadjan Abduriyim, 川野 潤
    セッションID: 11
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/01
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    ピンク・ダイヤモンドは、ファンシー・カラー・ダイヤモンドの中でもとりわけ人気が高く、世界的なオークションにおいても毎回その落札金額が注目されている。天然ピンク・ダイヤモンドの90%以上を産出するといわれているオーストラリアのアーガイル鉱山では、2010年9月より露天掘りから地下採掘に切り替えられており、その生産性の低下が懸念されている。これに対して、高温高圧法やCVD法による合成ダイヤモンドをはじめ、高温高圧処理、照射処理、または両者を組み合わせたマルチプロセス処理やコーティング処理による処理ピンク・ダイヤモンドが増加してきている。本報告では、これらのうち合成ピンク・ダイヤモンド(特に最近話題のCVD合成)に焦点をあわせてその概要と天然との識別特徴を紹介する。
    アーガイル産の天然ピンク・ダイヤモンドは、塑性変形を強く蒙っており、それがピンク色の要因となっている。そのため、pink grainと呼ばれる色帯が顕著で偏光下では色帯部に高次の干渉色を示す。CLイメージにおいては天然ダイヤモンドに特有の{111}面における成長履歴が確認されるが、しばしば{111}と{100}のmixed habit growthが認められる。
    高温高圧法による合成ピンク・ダイヤモンドは2003年以降、米国のChatham Created Gems & Diamonds社等から市販されている。紫外線下におけるNVセンターに因るオレンジ色蛍光や金属内包物の存在が天然との識別特徴となる。結晶原石は高温高圧法における合成ダイヤモンドに特有の{110}、{100}等を主体とした晶癖となるため、CLイメージではカット・研磨後においてもこれらの成長履歴が明瞭に観察できる。
    CVD法による合成ダイヤモンドは、2003年8月に米国のApollo Diamond inc.が宝飾用に販売する計画を明らかにして以降、宝石業界においても注視されるようになった。2007年以降、国際的な宝石鑑別ラボの鑑別およびグレーディング実務に供せられたCVD合成ダイヤモンドの報告が散見されるようになり、最近では、ピンク色のメレサイズのCVD合成ダイヤモンドが注目を集めている。
    CVD法による合成ピンク・ダイヤモンドは、拡大検査における非ダイヤモンド構造炭素由来と思われる黒色ピンポイントの存在、交差偏光下における筋模様の歪複屈折、紫外線下における鮮やかな紫外線蛍光が天然との識別の手掛かりとなる。CLイメージの観察では、しばしば特有の積層構造のイメージが観察される。633nm波長のレーザーによるPLスペクトルでは637 (N-V-)、 575nm(N-V0)が検出され、Si関連の737nmピークが検出される。325nm波長のレーザーによるPLスペクトルは503.1nm(H3)が検出され、496.1nm(H4)も検出されることが多い。また、504.9と498.3nmの一対のピークがすべてに見られ、415.2nm(N3)にピークが検出されるものがある。
  • 三浦 保範
    セッションID: 12
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/01
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    はじめに:
    米国アリゾナ州の隕石衝突による炭素(マイクロダイヤモンド)生成について、これまで同隕石孔ダイヤモンド炭素は、隕石起源の地球外起源生成と考えられていた。実際、炭素質隕石からマイクロダイヤモンドが発見されている。しかし、炭素塊の含有元素(Ca, Si)は炭素質隕石とは異なり、地球の衝突岩石の石灰岩と砂岩起源であり、その蒸発起源の炭素であると新しく三浦(2005)が報告した。新解釈の報告であったが、隕石とターゲット岩石が直接反応した二次鉱物の形成の報告がなく、その点で衝突起源の炭素である詳細なデータによる説得力がさらに要求されていた。筆者は、ナノテク技術のFE-SEM 走査電子顕微鏡観察(JEOL7000F)による詳細な研究が本論文の目的である。
    隕石溶融層の中に形成された赤金鉱:
    鉄と塩素(Cl)-を含んだ赤金鉱は、これまで日本のアカガネ鉱山等から報告されているが、隕石衝突破片や、地表で発見された隕石から発見されている。筆者は、地球落下隕石(玖珂隕鉄、仁保隕石、美保関隕石など)破片の特に溶融層(ヒュージョンクラスト)から特異な組織をして発見されてり事を発見した。これらは人工的にも同じ特異な組織のアカガネ石を形成し粉末X線回折(XRD)で確認されています。
    米国バリンジャー隕石孔の炭素塊:
    米国アリゾナ州の隕石衝突による炭素(マイクロダイヤモンド)は、二種類の場所から観察される。1)鉄ニッケル金属破片中に不規則状に含む六八面体外形を示す炭素塊、2)多量の炭素塊中に不規則分布する鉄ニッケル金属破片の集合体などで観察される。いずれも鉄隕石起源の鉄ニッケル金属破片と炭素塊(微量のCa, Si を含むため衝突原岩起源)による集合体で地球外起源と隕石とは異なる組成と組織である。
    米国バリンジャー隕石孔の炭素塊中の赤金鉱:
    特異な急冷組織を示す赤金石粒子集合体が、1)六八面体外形を示す炭素塊中にはないがその周囲に分布していること、2)多量の炭素塊中に不規則分布する鉄ニッケル金属破片集合体の周囲に分布すること、そして3)二次的な鉄ニッケル酸化物中に二次的に不規則介在する炭素粒子の周囲に分布すること、などがFE-SEM観察で詳細にEDX組成分析とともに確認された。
    炭素塊中の赤金石の形成:
    以上のFE-SEM観察分析から、炭素塊は、鉄隕石が衝突溶融中に、原岩の石灰岩が蒸発して炭素化している周囲に付着して固化したことを示す。したがって、これらの炭素塊がターゲット岩のカイバブ石灰岩である事を示す生成鉱物組織であることを示すことが確認された。
    まとめ:
    本研究成果は、以下の通りにまとめられる。
    1) 米国アリゾナ州の隕石孔の炭素(マイクロダイヤモンド)は、赤金鉱とその特異な急冷組織を不規則に炭素塊の周囲に形成され、地球深部では説明できないことがわかった。
    2) 本研究結果を他の隕石の溶融層や実験と比較して、急冷衝突時に鉄と炭素源の混合でできたことを示す直接的な証拠であることがわかった。
    バリンジャー・カーボン・ブロックは、影響の間、3つの集計から成ります。
    3) 以上の対比的な研究データから、米国アリゾナ州の隕石孔のマイクロダイヤモンド炭素源は鉄隕石が地表の石灰岩と衝突してできたものであることが直接的に確認された。
    謝辞:
    著者は、この研究で議論していただいた多くの方々にお礼申し上げます。
  • 江森 健太郎, 横山 照之
    セッションID: 14
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/01
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    真珠の巻厚は、養殖真珠を評価するにあたって重要なポイントの一つである。どれだけ真珠層が核を巻いているかを実際に目で見て測定ことができないので、非破壊で巻厚を測定するには特殊な技術が必要となる。
    中央宝石研究所では、軟X線透過装置を用いて真珠の巻厚を測定してきた。これは医療用のレントゲンと同じ原理のものである。
    この原理を用いて撮影したレントゲン写真から真珠の巻厚を計算する。
    最近、超音波を用いて測定する装置、超音波厚さ計「ECHOMETER 1062」を導入した。 この装置は「真珠層表面」、「真珠層と核の間」で音波が反射することを利用して真珠層の厚さを測定する装置である。プローブから超音波を発生させ、真珠層表面で反射されプローブに返ってくる音波、そして真珠層を貫通して核で反射され返ってくる音波の2つの音波を観測し、その時間差と真珠層を通る音の速さから真珠層の厚さを計算するというものである。
    今回の発表は、この超音波厚さ計を用いた真珠の巻厚測定について、軟X線を用いた巻厚測定の手法を比べ合わせつつ紹介する。結果的には、両者はよい一致を見せるが、一長一短があり、両者をうまく使い分け、もしくは組み合わせることでよい測定結果を出すことが可能になることがわかった。
  • 林 政彦, 山崎 淳司, 間中 裕二
    セッションID: 13
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/01
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    次のような物性を示した透明青色宝石に遭遇した。
    ・屈折率:1.57-1.56
    ・比 重:2.70
    これらから、菫青石(Cordierite)を思わせたが、確認のため赤外分光特性や蛍光X線による化学組成を求めたところ、これまで得られた分光特性とは異なり、さらに理想化学組成式とも合わないことから、微小領域X線回折法を試みた。その結果、菫青石によく似た回折パターンを示した。また、レーザー・アブレーション誘導結合プラズマ質量分析ではBeが検出され、通常の菫青石ではないことが判明した。
    今回はこれまで得られた分析データを紹介するが,当該宝石は新鉱物の可能性がある。
  • 渥美 郁男, 矢崎 純子
    セッションID: 15
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/01
    会議録・要旨集 フリー
    磯和楠吉著による昭和32年3月の国立真珠研究所報告2:158-166によれば真珠には真珠層真珠と輝層真珠の二つに分類されることが提案されている。その中で輝層真珠とは柱状構造であると述べている。またアコヤ天然真珠が当たり前の万葉時代の文献中にも真珠の光沢や出来る場所で「外套膜内に出来るものはハネダマ、ミミダマ、ハラダマ」また白っぽく真珠層光沢を持たない真珠は「貝柱(閉殻筋内)から出来たものはザラダマ、シンダマ」と分けて呼ばれていたことが判った。しかし現在では明確に輝層真珠とはどのような真珠であるのかあまり知られていない。そこで通常流通している アコヤ産の“ケシ”に混入しているのか、あるいはアコヤガイにブリスターとして付着しているのか、取り寄せたサンプルの範囲で検証を行った。サンプルの真珠と貝殻は熊本県天草産、愛媛県宇和島産、長崎県壱岐産などを含む幾つかの真珠養殖場からご提供いただいた。今回の調査の中で幸いにしてアコヤ貝の貝殻内面に多数付着しているブリスター状の輝層真珠らしき物を入手できた。
    今回はそれらの構造が柱状構造であるか貝殻と真珠の両方を比較した。特に両者の断面を高倍率の実体顕微鏡と電子顕微鏡で比較してそれが輝層真珠であるか検証を行ったので報告する。また輝層真珠はアラゴナイト柱状構造であるといわれるが、その点についても観察してみた。
  • 山本 亮, 横瀬 ちひろ
    セッションID: 16
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/01
    会議録・要旨集 フリー
    真珠の干渉色は、光が真珠層内で反射あるいは透過することで見える。これは真珠層が幾重にも積み重なった炭酸カルシウムの結晶が多重薄膜構造を構築しているからである。しかし中には真珠層構造をしているにも関わらず、干渉色を起こさないものがある。今回は以下の真珠や貝殻の事例について、発現しないメカニズムを構造面から調べた。
    _丸1_イケチョウガイ貝殻内面の腹側に見られる白濁した部分
    _丸2_オーロラビューアーで干渉色が観察されるホワイト系クロチョウ真珠
    _丸3_アコヤ真珠に現れた帯状の白濁部
  • 荻村 亨, 並木 俊裕
    セッションID: 17
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/01
    会議録・要旨集 フリー
    貝殻や真珠は、結晶層の厚さの違いにより独特の干渉色を呈することが分かっている。また、真珠養殖において、ピース貝の実体色の形質が出来上がった真珠に引き継がれたり、ピース(外套膜片)の採取部位の違いにより分泌機能や巻きの形質が引き継がれたりすることが証明されている。しかし、結晶層の厚さの形質が引き継がれるか否かを研究した例はまだない。そこで本研究では、今後の実証試験の礎とすることを目的とし、クロチョウガイおよびアコヤガイの、ピースに使用される外套縁膜部が接している貝殻(リップ部)の結晶層の厚さや干渉色を分析した。その結果、外套膜縁膜部の部位による結晶層形成能の違いがあることが示唆された。
  • 椎塚 純, 吉田 孝一
    セッションID: 18
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/01
    会議録・要旨集 フリー
    パール・エンドスコープは、20世紀前半に市場に出現した「真円養殖真珠」と天然真珠を鑑別する目的で作られたものである。
    今回、1927年製パール・エンドスコープを入手した。我々は先ずこのエンドスコープを修復し、80年以上も前の方法で現代流通している種々の真珠を観察してみた。観察試料として、無核の淡水真珠、ホワイト系とナチュラルブルー系のアコヤ真珠、放射線により核を変色させたアコヤ真珠、イエロー系の白蝶真珠、またシャコ貝の貝殻を核とした真珠なども使用した。
    なお参考までに、これらの真珠についてマイクロX線CTによる観察を行った。
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