宝石学会(日本)講演会要旨
平成24年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
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平成24年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
  • 吳 元鐸
    p. 1-
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/30
    会議録・要旨集 フリー
    The most flourishing gold culture of Korean history was at its height in Silla of the Three Kingdoms period ranging from the 5th century to the 6th century. However, it was not flourishing any longer and it went in decline. The purpose of this article is to look at the splendid gold culture from the 5th century to the 6th century and analyze the causes of its decline. The Three Kingdoms period around the 4th~5th centuries was the developing period which had the most outstanding cultural and political activities on the international stage in Korean history. People in the Three Kingdoms period could acquire the foundation of developing ancient Korean metal craft, especially jewelry because they developed the new way of mining gold and silver and metallurgy. It was based on this era to build up the imposing ancient tombs in the Three Kingdoms period, and the knowledge of craft art in the era was mostly gained from their inside ancient tombs. It was the golden jewelry that was the most distinctive thing among craftworks excavated from these ancient tombs in the Silla period. Most of all, the outstanding craftwork is the golden crown excavated in the Gyeongju area. The golden crowns, belts and earrings presented diversity rarely seen in the jewelry world history as well as masterful gold jewelry. There are gold metalwork skills developed from the golden earrings in Silla, which is called “NuGeumSeGong”. It is the same techniques as a fringe and embroidery of the design with gold thread and grain, which is named “Filligree” from ancient Greece in the West. In addition, the development of “Gokok” which had been regarded as the origin from the teeth of some fierce animals also attracts people’s attention as the Silla jewelry. The “Gokok” of Silla made of Jade, crystal•glass, and other jade was used in jewelry such as golden crowns, and it had been spread in Japan. Brilliant golden jewelry of the ancient Silla had been started to decline after the Unified Silla. The Silla culture around A.D. 6 had been declined with the decline of the culture of ancient tombs, but it started to build on Buddihism stone pagodas, whereby the installation work to enshrine small crystals inside of the pagodas had been developed. This is because the cremation culture of Buddihism got spread, and this made big tombs and diverse golden ornament disappeared gradually. However, instead, the golden culture turned over a statue of the Buddha of Buddhist temple and an object of metal craft.
  • 真珠養殖技術のイノベーションを目指して
    青木 秀夫
    p. 2-
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/30
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    真珠は、アコヤガイの持つ貝殻(生体鉱物)形成の能力によって生みだされる宝石であり、その美しい輝きは、炭酸カルシウム(aragonite)の板状結晶と有機基質が交互に整然と形成されることによりもたらされる。真珠養殖業はアコヤガイという生き物の持つ能力を活用しつつ、自然と生き物が調和した環境のもとで成り立つ産業であり、そのうえで高品質な真珠をつくるための養殖技術の向上を図ることが重要である。わが国における真珠養殖の産業規模は、疾病や有害な赤潮によるアコヤガイの被害のほか、世界的な経済状況の悪化や海外産真珠との競合等により、近年縮小して低迷状態が続いており、この対処として高品質真珠の生産効率の向上のための技術開発が求められている。
     真珠の価値は複数の要因によって決定される。主な要因とは、色調(実体色、構造色)、光沢、巻き(真珠層の厚さ)、シミ・キズの有無、形、大きさ等である。これらのうち、真珠に含まれる黄色色素の量によって決まる実体色(黄色より白色の真珠が高価)は、アコヤガイの挿核施術に用いる外套膜片給与体(ピース貝)の遺伝的な性質が関与し、黄色い貝殻真珠層のピース貝を用いると黄色い真珠ができることが明らかになっている。また、巻きについては母貝の真珠層形成能力に影響され、この性質も遺伝することが示されている。こうした遺伝形質については、親を一定の基準で選抜することによって子どもの性質・能力を改良することが可能であり、すでに実用的な育種技術としてアコヤガイ種苗生産施設で活用されている。 次にシミ・キズについては、最近演者らの研究グループは、挿核された直後のアコヤガイを塩分の低い海水で一定期間飼育(養生)することにより、シミ・キズの形成を低減できることを明らかにした。シミ・キズは真珠の品質を低下させる大きな要因となるので、現在、われわれはこの技術の普及に向けた実用研究を継続している。そのほかの要因である構造色、光沢については、貝の性質や漁場の環境の影響に関する基礎的知見が乏しく、今後それらの評価と技術開発への展開が期待される。
     真珠養殖の生産性を向上させるためには、真珠品質の改善のほかに、生残率の高いアコヤガイをつくることも重要である。特に、養殖現場では夏季のエサ不足による衰弱や疾病によるアコヤガイの死亡が問題となっていた。演者らの研究グループでは、その対策としてアコヤガイの貝殻を閉じようとする力(閉殻力)を指標とした選抜育種による貝の生残率の改善効果を明らかにするとともに、現在では本技術の実用化に取り組んでいる。
     そのほか、大学等研究機関による最近の研究の成果として、アコヤガイのゲノム(すべての遺伝情報)の解読や真珠層形成に関与する遺伝子の探索・特定およびその機能の解明が進められている。これらの成果はアコヤガイという生き物、そして真珠をつくる機構の理解のほか、高品質真珠を生みだす優れたアコヤガイをつくる技術の開発に応用が可能である。また、これまで困難であった真珠の光沢および構造色の程度を計測する技術の開発と実用化(製品化)が進められている。この成果は、真珠養殖技術の高度化のみならず、品質を客観評価することで流通も含めた真珠産業全体に対しても貢献が期待される。こうした基礎的研究の成果を、真珠産業の発展に活かしていくため、研究機関と真珠関係者(生産~販売)が連携し、現場での新しい技術の開発・導入に努める必要がある。
  • 中島 彩乃, 古屋 正貴
    p. 3-
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/30
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    スピネルは、近年市場での人気が高い。そしてその傾向は高まる方向にある。これはコランダムにおいては外見向上のため各種の処理を施される傾向が強い近年にあって、スピネルはコランダムと類する美しさを備えながらほとんど処理が施されないためであり、またコランダムに比べて産出量が少なく、稀少性が高いためと考えられる。
    スピネルは色々な色相があるが、やはり人気が高い色はピンク~レッドの赤色系である。近年のピンク~レッドの赤色系のスピネルの産出を見ていくと、現在では様々な産地が知られている。以前から知られていたミャンマーやスリランカなどの産地に加え、1980年代には現タジキスタンのパミール高原が加わり、1990年代になるとタンザニアのTundulu、ベトナムのYen Bai地方、マダガスカルのIlakakaが加わり、さらに2000年代になるとタンザニアのMorogoro地方でもスピネルの発見があった。
    これらの産地ごとの赤色系スピネルの産状をまとめ、その分光スペクトルの観点から代表的な色相やその成分構成およびその他の各種宝石学的な特徴を分析する。
  • 江森 健太郎, 北脇 裕士, 岡野 誠
    p. 4-
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/30
    会議録・要旨集 フリー
    2001年9月頃からBe拡散処理が施されたオレンジ/ピンクのサファイアが大量に日本国内に輸入され話題となった。当初は輸出国側から一切の情報開示がなく、“軽元素の拡散”という従来にはなかった新しい手法であったことから、鑑別機関としての対応が遅れる結果となった。その後の精力的な研究によってBe拡散処理の理論的究明には進展が見られたが、軽元素であるBe(ベリリウム)の検出にはSIMSやLA-ICP-MSなどのこれまでの宝石鑑別の範疇を超えた高度な分析技術が必要となり、その後の検査機関のあり方を問われる結果となった。
    LA-ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)は、軽元素を含む多元素同時分析による高速性と、ppb~ppmレベルの分析が可能な高感度性能を持つ質量分析装置である。鉱物等の固体試料の測定にはレーザーアブレーションにより直径数10μm程度の極狭小な範囲を蒸発させる必要があるが、Be拡散処理サファイアの鑑別には欠かせない新たな分析手法として宝石学分野においても活用されるようになった。さらにLA-ICP-MSは蛍光X線分析では検出できない微量元素の検出が可能であるため、それらの検出された微量成分の種類や組み合わせがケミカル・フィンガープリントとして宝石鉱物の原産地鑑別に応用されている。既にコランダム、エメラルド、パライバ・トルマリンなどでは多くの研究例があり、一定の成果が上がっている。
    本研究では、これらのLA-ICP-MS分析法の宝石学分野における他の重要な応用例の1つとして、天然及び合成ルビーの鑑別法について検討した。
    1990年代初頭、新産地であるベトナム産ルビーの発見と同時期に大量の加熱処理されたベルヌイ法合成ルビーが宝石市場に投入された。加熱が施されることにより、鑑別特徴であるカーブラインが見え難くなり、さらに液体様のフェザーが誘発されることで、識別が困難となった。1990年代半ば以降にはフラックス法によるカシャン、チャザム、ラモラ等の合成ルビーに加熱処理されたものが出現した。特にフラックス法合成ルビーは加熱によって内部特徴が変化すると、標準的な鑑別手法では識別が極めて困難となり、他の有効な鑑別手法の確立が必要とされている。本報告では、ベルヌイ法、結晶引上げ法、フラックス法、熱水法等の合成ルビーをLA-ICP-MSで分析し、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等の遷移元素や希土類元素等の相違について纏めた結果を紹介する。
  • 西村 文子, 岩松 利香, 大池 茜, 藤原 知子
    p. 5-
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/30
    会議録・要旨集 フリー
    クンツァイトとはスポデュメン(リチア輝石 LiAlSi2O6)の一種で、ペグマタイト鉱床から産出される。スポデュメンのうち、特にピンク~紫色石のスポデュメンはクンツァイト、クロム着色の緑色石はヒデナイトと呼ばれている。クンツァイトは1902年にアメリカ カリフォルニア州にて発見され、近年は主にアフガニスタン、ブラジル、マダガスカルで産出される。クンツァイトは退色しやすく、また、放射線を照射すると緑色に変化すると言われている。
    GEMS & GEMOLOGY(2001)には米郵政公社が始めた郵便物への放射線照射により、一部の宝石が影響を受けたことが報告された。その中でクンツァイトも放射線照射の影響を受けて緑色に変化し、自然光の下で短時間のうちに元のピンク色に戻った事が言及されている。
    色調の変化をより詳しく調べる為に、今回複数の産地からクンツァイトを入手した。放射線照射、退色テスト、加熱処理を施してその変化を観察すると共に、FTIR、EDXRF、可視分光スペクトル測定を行いその推移を考察した。幾つかの知見を得たので報告をする。
  • 林 政彦, 安藤 康行, 安井 万奈, 山崎 淳司
    p. 6-
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/30
    会議録・要旨集 フリー
    ブルー・オパールは大変綺麗な色調であり,人気のある宝石の一つである。その中に変色するものがあったので、その原因について報告する。
    この変色は、標本ケースに入れた状態で生じており、ケース内部が青色になってしまっていることから、オパールから染み出てきたことによることは明らかである。そこで、変色した標本について、X線粉末回析実験とエルギー分散型EPMA により化学組成の分析を試みたので、それらの結果を報告する。
    (1)X線粉末回折実験
    装 置
    ・リガク製X線ディフラクトメータ RINT ULTIMA3
    条 件
    ・X線源:Cu Kα
    ・電圧/電流:40kV / 20mA
    結 果
    非晶質のシリカの回折パターンを示す。いわゆるOpal-CTである.
    (2)エルギー分散型EPMA
    装 置
    ・日本電子製JSM-6360 + OXFORD製INCA EDS
    条 件
    ・加速電圧:15 kV
    ・測定範囲:20 mm
    ・積算時間:60 sec
    結 果
    銅と塩素が検出された.
    以上の結果から,青緑色を呈する塩化銅(Ⅱ)のニ水和物によって着色されたオパールと思われる。 なお、無水の塩化銅(Ⅱ)は黄褐色である。
    流通しているブルー・オパールのネックレスで、身に着けている間に黄色に変色した報告もある。これは,塩化銅(Ⅱ)のニ水和物が脱水して無水になったためと考えられる。塩化銅が人為的に含浸させたものかどうかは不明であるが、流通しているブルー・オパールの取扱いには注意が必要である。
  • 川崎 雅之
    p. 7-
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/30
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     地球表層には大量のシリカ鉱物、特に石英(水晶)が存在しているが、地球外物質(隕石、月、火星など)には極めて少ないことが既に知られている。実際、隕石中に含まれている鉱物は珪酸塩鉱物(かんらん石、輝石、長石)と鉄ニッケル合金が中心であり、シリカ鉱物は一部の隕石に少量報告されている程度である。
        太陽系形成の初期において、惑星は高温の溶融状態にあり、その後の冷却過程で核・マントル・地殻に分化している。核には主に鉄(+ニッケル)が、マントルにはかんらん石や輝石が濃集し、地殻には玄武岩が形成された。月の地殻は斜長岩と玄武岩である。水星・金星・火星では地形と分光分析により、その地殻は玄武岩質と推定されている。一方、地球の地殻は海洋地殻と大陸地殻に分けられ、海洋地殻及び大陸地殻下部は玄武岩質であるが、大陸地殻上部は花崗岩質である。 シリカ(SiO2)はNa、Mg、Ca、Alなどと共に容易に珪酸塩鉱物を形成するので、シリカ鉱物が存在するためには、それらの元素以上に過剰なSiO2が必要である。玄武岩中のSiO2量は少なく、シリカ鉱物とは共存しない。一般的にシリカが単独で存在し得る火成岩はSiO2量の多い花崗岩である。月物質の一部に石英を含む花崗岩が確認されているが、量は少なく、他天体を含めても、水晶の存在は希である。分化によってできる地殻を構成するのは主に玄武岩ないし斜長岩であり、量的に花崗岩はできにくい。マントルのかんらん岩が部分溶融してできるマグマも玄武岩質である。他天体の地殻が花崗岩よりSiO2量の乏しい岩石で構成されていれば、そもそも水晶が存在しにくい。むしろ、地球の地殻において水晶が多い理由は大量の花崗岩が存在することにあると言える。
    では、花崗岩はどのようにしてできたのか? 実験から水の存在下で玄武岩が部分溶融すると、できたマグマはSiO2量に富む安山岩~花崗岩質マグマであることがわかっている。玄武岩質の海洋地殻は中央海嶺で生成され、プレートの沈み込み帯で地球内部に入り込み、大量の水をスラブ(沈み込んだ海洋プレート)上側のマントルに放出する。その水が地殻下部を部分溶融させ、SiO2量の多い安山岩質~花崗岩質マグマを形成している。
    元々、地球は金星、火星や月に比べて、水に富んだ星である。惑星の分化が進んだ時点で、海洋が存在し、プレートの動きに従い、地球内部と地表との間で水の循環が成立している。その結果、地殻下部への水の連続的な供給が安山岩~花崗岩質マグマの形成を促進し、大陸の成長につながったといえる。他の天体ではプレートの動き(プレートテクトニクス)は無かったか、あるいは限定的であったと考えられている。
    地球表層の豊富な水は地殻上部でも循環し、熱水作用により、SiO2の単結晶、すなわち水晶を大量に形成した。地球が他天体(月や地球型惑星)に比較して、水が豊富であったこと、プレートテクトニクスにより水の循環が容易に行なわれたことが、地殻上部における水晶の形成につながった。
    大昔、水晶を見た人々は「水晶は透明な硬い氷である」と考えた。今日、我々は水晶が氷ではなく、SiO2の結晶であることを知っている。しかし、水晶の形成過程を見れば、「水晶こそ水が作った結晶である」と言えるのである。
    もちろん、これは水晶だけに当てはまるのではない。花崗岩に伴う鉱物、水から晶出した鉱物はすべて水の賜物である。2008年、アメリカのHazen et al.は鉱物進化論を唱えた(Amer. Mineral., 93, 1693;日経サイエンス2010年6月号)。地球の進化(起源、分化、大陸の形成、生命との共進化)の過程に応じて、新たな鉱物形成プロセスが生まれ、鉱物の種類が増えてきた。特に生命の発生が地球大気を酸化的にしたことの影響が大きいという。大陸の形成、生命の発生・進化に水が必須であることから、水の存在こそが鉱物の多様性を生み出した原動力と言えるだろう。水晶の普遍性はその結果の一つである。
    (地球惑星科学連合2012年大会で発表)
  • 下村 道子
    p. 8-
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/30
    会議録・要旨集 フリー
    美しく輝く宝石は古代から人々を魅了し続けている。古代ギリシアの哲学者は宝石の成因や性質の違いについて思索したが、1世紀のプリニウスは『博物誌』のなかで宝石の色や性質や産地のほかに、様々な伝説や効能や神秘的な力を記述した。その後、中世ヨーロッパでは宝石の美しさよりも神秘的な力や効能が増幅され、魔力や薬効を列挙した「鉱物誌」と呼ばれる文学のジャンルの書物が広く流布した。16世紀になると、現在では「鉱物学の父」と呼ばれているドイツのゲオルグ・アグリコラが、科学的な観察に基いて『鉱物の性質について』を著わした。しかし「鉱物誌」の神秘的な力や薬効が完全に払拭されたわけではなかった。そしてその後、科学の発展によって18世紀ころから近代的な鉱物や宝石に関する著作が次々に出版されるようになり、19世紀末にイギリスで宝石学の教育が始まった。
    こうした宝石学の歴史のなかで、16世紀のイギリスのエリザベス1世の宮廷肖像画家の一人であり金細工師でもあった画家ニコラス・ヒリヤード(1546/7-1619)が著わした文書は注目に値する。彼は宝石の熱処理、各種宝石の色変種、ダイヤモンドの輝きとカット、ダイヤモンドと類似石の識別方法など現代の宝石学に通ずる情報を自分の経験に基いて詳細に記述しているのである。また16世紀のイタリアの彫刻家であり金細工師であったチェッリーニや、17世紀初期のイギリスの金細工師による著述と比較・検討することも興味深い。
  • 森 孝仁
    p. 9-
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/30
    会議録・要旨集 フリー
    鉱区での宝石ルビーの出現率の調査の結果と処理前後の内包物の熱変化の例、そして、新しい市場である中国における情報開示の実情を報告致します。昨年に引き続き、ミャンマー北部カチン州のNam-Ya鉱山における採掘、カット研磨作業、インクルージョンの撮影、品質の判定を自社で一貫して行い、ルビーの品質ごとの出現率について調査しました。
    他の産地と比較して、無処理で美しい原石が産出されることが多いNam-Ya鉱区でも、ジェムと呼ばれる品質のものは、とても希少であり、供給量を確保するために、原産地では、加熱処理をして色の改良が行われますが、その情報開示は、充分ではありません。特に低い温度での加熱処理については、見分けるのが容易ではありません。モリスでは、10年前より、無処理で美しいルビーの内包物の拡大写真のデータを取集し、そして、その内包物を実際に加熱処理し、その熱変化したモノを撮影しデータとして蓄積しております。今回は、ルビーの内包物で500度から600度/5時間の加熱で、熱変化しやすいインクルージョンとNam-Ya鉱山のルビーの特徴的なインクルージョンについて報告します。
    また、品質ごとのルビーの出現率を調査し、加熱処理の有無も含めた正確な、情報開示を積極的に行っていく意義と販売現場での反応をお伝えします。出現率につきましては、Nay-Ya, Mogok の両鉱山での鉱山主への聞き取り調査をまとめました。品質ごとに出現率の調査は、間接的に加熱処理の有無を判定する際の手がかりの一つになると考えます。
    その他、6年前から進出した中国上海市でのルビーの鑑別についての実情と、これからの展望を報告します。
  • 福田 千紘, 宮﨑 智彦, 亀井 淳志
    p. 10-
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/30
    会議録・要旨集 フリー
    1912年1月28日は白瀬中尉率いる白瀬南極探検隊が日本で初めて南極点を目指し、南緯80度5分、西経156度37分の地点に到達した日であり、今年でちょうど100周年を迎える。これを記念し各所でさまざまな式典やイベントなどが開催されている。
     第50次日本南極地域観測隊、セール・ロンダーネ山地地学調査隊が2008年~2009年にかけて現地調査を行った。2009年1月の調査では新鉱物であるマグネシオヘグボナイト-2N4Sを発見し国際鉱物学連合(IMA)の新鉱物命名分類委員会により新鉱物として認定されている(Shimura et al.(2011))。マグネシオヘグボナイト-2N4Sは青色のコランダム(サファイア)と共生するなど宝石となる鉱物も見つかっており、セール・ロンダーネ山地では他に宝石質のバナジウム着色のグリーングロッシュラーガーネットなども産出が知られているが、極地での開発や採掘は国際条約の制限を受けるため手付かずのまま保護されている。
     セール・ロンダーネ山地で採取された花崗岩質の岩石試料には淡青色の粗粒な結晶が含まれているものがあった。これは既に長石(アマゾナイト)として存在が知られており予察的な分析で追認できた。セール・ロンダーネ山地から産出するアマゾナイトは花崗岩質の岩石中に淡青色の結晶として点在し、形状は半自形のものが多い。岩石中のやや祖粒な部分に集中する傾向がみられた。結晶は明瞭な劈開面が観察され低倍率の顕微鏡下ではラメラ構造が認められる。分析の結果、カリウム、ナトリウムに富み微斜長石(マイクロクリン)に分類される。主要な成分のほかに着色要因として鉄、鉛が少量検出された。また着色にはあまり影響しないと思われる微量成分としてRb,Sr,Ba等が最大数1000ppm程度と比較的高い濃度で含有されていた。
     本研究ではセール・ロンダーネ山地から持ち帰った試料に含まれるアマゾナイトの結晶についてさまざまな特徴、化学組成等を検討し世界各所から産出が報告されているアマゾナイトとの比較を行った。比較対象はかつてゴンドワナ大陸として超大陸を形成し現在は分断されている南米大陸、アフリカ大陸から採取されたもの、ユーラシア大陸から採取されたもの、北米大陸から採取されたもの、沈み込み帯の島弧である日本から採取されたものを準備した。各大陸、プレートテクトニクス論上の共通点、相違点を中心に産地ごとの特徴を検討し報告する。
  • 三浦 保範
    p. 11-
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/30
    会議録・要旨集 フリー
    大隅石族鉱物は宝石の杉石を含む鉱物で、組成はKNaCa長石鉱物にFeとMgを含むのが特徴である(Web mineral, 2012) が、科学論文でもよく間違って長石と記載されている。その大隅石族鉱物にまだ未記載の鉱物があるので、この紙面で紹介する。
    1)地球に多く存在する大隅石族鉱物 (Miyashiro, 1956) はK-Fe (sugilite, almarudite, klochite, merrihueite)とK-Mg (trattnerite, chayesite, friedrichbeckeite) に富む2相で、いずれもKが多いのが特徴で、微粒子ではよくK長石組成と誤解されやすい鉱物である。
    2)また、その他の大隅石族鉱物でNa-Mgに富む相 (roedderite, yagiite, eifelite)が報告されているが、Na-Feに富む相は地球ではまだ未記載である(Miura, 2011)。これも微粒子でNa斜長石と混同して記載した論文報告をよくみかける。
    3) 残りの大隅石族鉱物でCa-MgとCa-Feに富む相は地球ではまだ未記載である(Miura, 2011)。これも微粒子でCa斜長石と混同して記載した論文報告がある。
    今後の研究の進展が期待される。
    引用文献
    A. Miyashiro, Am. Mineral 41, 104 (1956).
    Web Mineral (2012): Osumilite-group minerals.
    Miura (2011): (in press)
  • 久永 美生, 北脇 裕士, 山本 正博
    p. 12-
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/30
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    1990年代に入って、合成ダイヤモンドが宝石市場に流通するようになり、業界関係者にもその存在は広く知られるようになった。これらの多くは高温高圧(HPHT)法で合成された1ct未満の黄色ダイヤモンドであったが、その後の技術革新により、青色、ピンク色、緑色及び無色等の高品質の高圧法合成ダイヤモンドが製造されるに至っている。2003年8月に米国、Boston, MassachusettsのApollo Diamond inc.がCVD法で合成したダイヤモンドを宝飾用に販売する計画を明らかにして以降、宝石業界においてもCVD合成ダイヤモンドが注視されるようになり、宝石学の文献にも登場するようになった。2007年以降、国際的な宝石鑑別ラボの鑑別およびグレーディング実務に供せられたCVD合成ダイヤモンドの報告が散見されるようになり、2010年11月には高圧法合成ダイヤモンドの製造で知られているFlorida のGemesis Corp.が宝飾用CVD合成ダイヤモンドの販売計画を公表している。
    宝石ダイヤモンドを研究対象とする場合、すでにカット・研磨が施されており、表面特徴の観察は期待できない。従って、宝石ダイヤモンドの成長履歴を読み取り、逆に成長条件を推定するためには、結晶内部に残された不均一性を検知する必要がある。ダイヤモンドを始めとする天然の結晶は、一定の速度や一定の条件下で成長するわけではない。形成過程においては、成長速度あるいは成長条件が緩やかにあるいは急激に変化し、部分的な溶解・再成長が生じることがある。そのため、欠陥密度や不純物分配が変化し、包有物、格子欠陥(点状欠陥、転位、面状欠陥)、成長縞(累帯構造)、成長分域などが形成される。このようなダイヤモンド内部の不均一性はさまざまな方法を用いて研究されてきたが、宝石ダイヤモンドの鑑別にはカソードルミネッセンス(CL)法や紫外線ルミネッセンス像が有効である。
    本研究では、グレーディングに供された1万個以上の天然ダイヤモンド及び250個以上の合成ダイヤモンドについて、主としてDTC 製DiamondViewTMによる紫外線ルミネッセンス像の観察結果を纏めた。
    天然ダイヤモンドの結晶のモルフォロジーの基本は、PBC(Periodic Bond Chain)解析法で導き出されるように、{111}で囲まれた八面体で、条線模様としての{110}を伴うが、{100}は結晶面上に現れない。これに対して、金属溶媒を用いて高温高圧下で合成したダイヤモンドの結晶は、{111}面のみならず、{100}面も良く発達した六・八面体の結晶形をとるのが一般的で、金属溶媒の種類や温度によっては、{110}や{113}面を伴うことがある。また、天然ダイヤモンドでは、{100}面は常にラフな面として振る舞い、スムースな界面として振舞うのは{111}面のみである。しかし、高温高圧法合成ダイヤモンドでは、{100}面は{111}面と共に常にスムースな結晶面として振る舞い、渦巻き成長機構による結晶成長が行われている。CVD法において宝飾用の単結晶を育成するためには高速度成長が不可欠である。一般に高速(10μm/h)以上で成長させると、成長丘と呼ばれる異常成長が起こる。これを防ぐために{100}基板上にエピタキシャル成長をさせている。また、窒素を添加することで高速度の成長が得られ、成長丘の発生が抑制されて長時間成長が可能となる。しかし、窒素の添加量が多くなると、“step bunching”と呼ばれる線状の表面荒れが出現する。このstep bunchingは窒素の含有量が多くなると直線ではなくなり乱れた形状となるようである。
  • 渥美 郁男, 矢崎 純子
    p. 13-
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/30
    会議録・要旨集 フリー
    巻貝に属すホース・コンク(英名)・ダイオウイトマキボラ(和名) 学名Pleuroploca giganteniは東南アジア沿岸やフロリダから一部のカリブ海沿岸に生息すると報告がある。この巻貝にはホース・コンクパールと呼ばれる真珠層を持たない天然真珠が稀に発見されることがある。それらはゴールデン、赤色、赤褐色、オレンジ色、白色などである。同じような巻貝でピンク貝は主にカリブ海に生息している。多くは食用にされるが稀に真珠層を持たない独特なピンク系の色調のコンク・パールを産出し天然真珠として流通している。しかし真珠層を持たない天然真珠としてはホース・コンクパールはコンク・パールよりさらに産出が希少である。今回はホース・コンクパールと母貝であるホース・コンク(ダイオウイトマキボラ)とダイオウイトマキボラの亜種の貝殻を切断し両者の断面構造の違いを高倍率の実体顕微鏡および電子顕微鏡下で観察、分析を行った。通常、流通している宝飾品は非破壊検査が前提である。今回の結果及び、非破壊おける母貝鑑別での可能性についての考察を報告する。
  • 李 宝炫, 崔 賢珉, 金 永出
    p. 14-
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/30
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    放射線処理による真珠の着色は主にアコヤ真珠や淡水真珠に高線量で行われてきた。高線量で照射されたアコヤ真珠や淡水真珠は色が黒く変わり、照射前と比べてその差も大きく明らかである。[1]
    放射線照射による色の変化はマンガンの酸化数が原因であると報告されている。[2] そのため、マンガンの含有量が多い真珠核や淡水真珠の色の変化は照射線量に依存している。
    真珠層が薄いアコヤ真珠は放射線照射で黒くなった真珠核の色が反映され易く、線量と共に青灰色に変わる。しかし、真珠層が厚い南洋真珠は高線量で照射してもその変化は軽微である。[3]
    そのため、一般的な検査方法である光透過検査や真珠穴から真珠核の色観察は判別に限界がある。
    更なる問題は、最近、低線量で放射線の照射を行っていることである。この場合、真珠を切断してもその差はほとんど分からない。
    このような問題点からこの研究では電子スピン共鳴装置(ESR,EPR)を導入し、分析を行った。
    低線量となる0.1 kGyから高線量となる10 kGyまで照射実験を行い、放射線によるフリーラジカルの変化を観察した。ESRによる分析の結果、放射線処理された真珠ではCO2-と関連したフリーラジカル(g=1.9833)が観察された。フリーラジカルは色の変化がない0.1 kGyの線量でも生成され、線量に比例して増加することが分かった。そして、フリーラジカルの放射線照射による依存性は真珠核より真珠層で強い。このように真珠核と真珠層の特性が異なるため、真珠を構成する真珠層、真珠核、コンキオリンを分離し、放射線によるフリーラジカルの変化を観察した。
    固体状態の場合、測定方向による異方性からフリーラジカルのシフトが観察される。
    このような傾向から、真珠層のみの微量の粉末を真珠ドリルを利用して採集し、分析を行った。得られた真珠層の粉末からは一定な位置のフリーラジカルが観察された。本研究の分析方法は、真珠の製品化のため穴を開ける際に得られる微量の真珠層の粉末で検査を行うため、真珠を切断せずに検査する方法として有効である。
    引用文献
    1. T. Tsuji, The change of pearl colors by the irradiation with r-ray or neutron ray, J. Radiat. Res. 4 (2-4), (1962), 120.
    2. S. Okamoto, Coloring of cultured pearls by Gamma-rays irradiation, Radioisotopes, 34, (1985), 668-674.
    3. H.M.Choi, B.H.Lee, Y.C.Kim, Detection of gamma irradiated South Sea cultured pearls, J. Kor. Crystal Growth and Crystal Technology, 22 (1), (2012), 36-41.
  • 矢崎 純子, 佐藤 静香, 押切 美奈子
    p. 15-
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/30
    会議録・要旨集 フリー
    放射線照射により淡水産貝殻から作られた核が黒褐色化することが知られており、その黒褐色化の原因は、淡水産貝殻に多く含まれるMnが2価から3、4価のマンガン酸化物に変わることによると考えられている(1959,堀口)。また近年、放射線照射核のESR(電子スピン共鳴)測定結果が報告されている(2011,Hea-Yeon Kimら)。
    今回淡水産貝殻から作製された核を粉砕後、放射線照射しその形状等を観察するとともに、Mn2+量等をESRで測定し、
    ① 照射量とMn2+量の相関関係は確認できない。
    ② 同方法で照射量とCO2-量との良好な相関関係がある。
    という結果を得た。この測定結果と真珠黒褐色化について考察した。
    また、放射線照射真珠の鑑別法の試み(2009,佐藤ら)について、その現状と今後の方向について報告する。
  • 阿倍 有圭子, 横瀬 ちひろ, 小松 博
    p. 16-
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/30
    会議録・要旨集 フリー
    2000年に発表した当研究所の「PSL・パール・グレーディングシステム」では、真珠の品質要素をテリ、キズ、面、かたち、まきの5つに分けている。そして各々3~4区切りに設けた評価段階のすべてが最高位に達しているものについては、「最高品質の範疇にある」と認定し、鑑定書に「最高品質マーク」を添付し、「特別呼称」を記入している。
     また評価に入る前に、独自に設けた「パールマーク制度」に沿って、欠陥チェックを行っている。
     本報告では、それらの評価について、どのような器材や装置を用い、判定基準を設定しているのか、その概要を特別呼称の「オーロラ花珠」「オーロラ真多麻」「オーロラアコヤクイーン」の3つについて報告する。
     また評価の客観性やその数値化について、現状および今後の課題についても報告する。
  • 山本 亮, 櫻間 馨織
    p. 17-
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/30
    会議録・要旨集 フリー
    真珠の養殖過程において、真珠の表面あるいは真珠層内部には真珠層以外の異質層が形成されることがある。これら異質層の中の主たる存在が“稜柱層”と総称されている白色または褐色の不透明な層である。“稜柱層”が存在するとその部分から亀裂が生じる可能性があり、真珠が内包する代表的な欠陥と見られている。
    “稜柱層”には様々な形態が存在する。そこで真珠によく見られる形態の“稜柱層”を選出し、光学顕微鏡により真珠表面と断面からそれぞれ観察を行った。また主たる成分である炭酸カルシウムは結晶構造の違いによりアラゴナイトやカルサイトなどいくつかのパターンが存在する。これらについて、ラマン分光を用いて結晶系の違いについても調べたので報告する。
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