放射線処理による真珠の着色は主にアコヤ真珠や淡水真珠に高線量で行われてきた。高線量で照射されたアコヤ真珠や淡水真珠は色が黒く変わり、照射前と比べてその差も大きく明らかである。[1]
放射線照射による色の変化はマンガンの酸化数が原因であると報告されている。[2] そのため、マンガンの含有量が多い真珠核や淡水真珠の色の変化は照射線量に依存している。
真珠層が薄いアコヤ真珠は放射線照射で黒くなった真珠核の色が反映され易く、線量と共に青灰色に変わる。しかし、真珠層が厚い南洋真珠は高線量で照射してもその変化は軽微である。[3]
そのため、一般的な検査方法である光透過検査や真珠穴から真珠核の色観察は判別に限界がある。
更なる問題は、最近、低線量で放射線の照射を行っていることである。この場合、真珠を切断してもその差はほとんど分からない。
このような問題点からこの研究では電子スピン共鳴装置(ESR,EPR)を導入し、分析を行った。
低線量となる0.1 kGyから高線量となる10 kGyまで照射実験を行い、放射線によるフリーラジカルの変化を観察した。ESRによる分析の結果、放射線処理された真珠ではCO2-と関連したフリーラジカル(g=1.9833)が観察された。フリーラジカルは色の変化がない0.1 kGyの線量でも生成され、線量に比例して増加することが分かった。そして、フリーラジカルの放射線照射による依存性は真珠核より真珠層で強い。このように真珠核と真珠層の特性が異なるため、真珠を構成する真珠層、真珠核、コンキオリンを分離し、放射線によるフリーラジカルの変化を観察した。
固体状態の場合、測定方向による異方性からフリーラジカルのシフトが観察される。
このような傾向から、真珠層のみの微量の粉末を真珠ドリルを利用して採集し、分析を行った。得られた真珠層の粉末からは一定な位置のフリーラジカルが観察された。本研究の分析方法は、真珠の製品化のため穴を開ける際に得られる微量の真珠層の粉末で検査を行うため、真珠を切断せずに検査する方法として有効である。
引用文献
1. T. Tsuji, The change of pearl colors by the irradiation with r-ray or neutron ray, J. Radiat. Res. 4 (2-4), (1962), 120.
2. S. Okamoto, Coloring of cultured pearls by Gamma-rays irradiation, Radioisotopes, 34, (1985), 668-674.
3. H.M.Choi, B.H.Lee, Y.C.Kim, Detection of gamma irradiated South Sea cultured pearls, J. Kor. Crystal Growth and Crystal Technology, 22 (1), (2012), 36-41.
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