宝石学会(日本)講演会要旨
平成26年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
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平成26年度 宝石学会(日本) 講演論文要旨
  • 「世界最硬」ヒメダイヤの合成と応用
    入舩 徹男
    原稿種別: 特別講演要旨
    p. 1-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    単結晶ダイヤモンドの合成は,1950 年代にアメリカの GE 社とスウェーデンの ASEA 社が,ほぼ同時に高温高圧下で成功したのが最初あるとされる.現在では,無色透明の宝石級ダイヤモンドも合成可能である.一方で,バラスやカーボナードと称される多結晶ダイヤモンドが,特定のキンバーライトなどから産出する.天然の多結晶ダイヤモンドは,粒界の不純物も多く単結晶に比べて透光性が良くないため宝石には向かないが,硬い上に割れにくいため工業的には貴重である.
    高温高圧実験技術を用いた多結晶ダイヤモンドの合成は長年試みられてきたが,純粋なダイヤモンド多結晶焼結体を得ることは困難であった.講演者らはマルチアンビル型高温高圧装置を用い,グラファイトを出発物質とした直接変換法により,純粋な多結晶ダイヤモ ンドを合成することに成功した (Irifune et al.,Nature, 2003).この多結晶ダイヤモンドは, 10~20 ナノメートル程度の微小なダイヤモンドの焼結体で,高い透光性を有するとともに非常に硬く割れにくいことがわかった.
    講演者らは,この多結晶ダイヤモンド(Nano-polycrystalline diamond, NPD)を,愛媛で生まれたことから「ヒメダイヤ」とも称している.ヒメダイヤはその後,耐熱性にもすぐれていることもわかり,2012 年には共同研究先の住友電工及び関連会社から,ナノ多結晶ダイヤモンドツール(商品名スミダイヤバインダレス)として商品化されている.単結晶ダイヤモンドに比べて耐摩耗性が高く,また単結晶のように機械的特性に方向依存性がないなど,優れた特徴を持ち,2012 年の日刊工業新聞社「10 大新製品賞」の本賞にも選出された.
    ヒメダイヤ開発の開始は,講演者がオーストラリアで博士研究員をしていた1980年代に遡る.岩石試料のカプセルとして用いていたグラファイトが,実験の失敗により透明なダイヤモンドに直接変換したのを見出したのがきっかけである.その後,愛媛大学に赴任した1990年頃から再現実験を試みた.当初は失敗の連続であったが,1995 年頃にようやくこの現象の再現に成功した.20 万気圧程度の超高圧とともに,思っていた以上に高い,2000°Cを大きく越える温度が必要だということがわかったのである.
    ヒメダイヤの合成領域を更に詳細に確かめるのに,更に 5 年余りを要し,ようやく日本高圧力学会の会合で発表できたのが,2001 年秋のことであった.その後,住友電工の研究者との共同研究が開始され,ヒメダイヤの高品質化・大型化が試みられ,2006年頃には大きさ4∼5 mm 程度の試料の合成が可能になった.更に 2009 年には,現存するマルチアンビル装置としては世界最大の装置(BOTCHAN-6000)が,新居浜市の住友重機工業において製作され,より大型の試料容積の確保が可能になった.この結果,現在では直径・長さともに 1cm 程度の,高品質なヒメダイヤ合成も可能になっている.
    このような大型ヒメダイヤを用い,ダイヤモンドアンビル装置やマルチアンビル装置への応用がすすめられている.この結果,先端サイズの比較的大きなダイヤモンドアンビル装置では,単結晶ダイヤモンドを用いた場合よりも 2倍近い圧力発生も報告されている.また,放射光を用いた X 線吸収実験などにおいても,ヒメダイヤの優位性が示され,現在では国内外の研究者と 30 件近い共同研究が進められている.
    講演者らのグループでは,ヒメダイヤ合成と同様の高温高圧実験技術を用いて,更に様々な高圧相多結晶体の合成に取り組んでいる.その一例が石英の高圧相スティショバイトの多結晶焼結体である「ナノ多結晶スティショバイト(NPS)」であり,超硬合金より硬くて割れにくい新素材として注目されている.また,高圧型ガーネットの合成も試み,透光性の高いこのような新物質を「多結晶宝石」と称しており,地球深部物質の物性測定用試料として,多結晶焼結体の合成にも成功した.講演者また従来にない特徴を持つ新しい材料としての可能性を探っている.
  • 森 孝仁
    p. 2-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    モリスミャンマー現地法人(FC12)にて2007年∼2011年まで,北部カチン州ナヤン鉱山を採掘し,採取した原石を品質ごとに分類し各々の出現率を調査,その結果を報告する.
    また,それぞれの原石の外観の特徴,研磨することにより,予測された品質と実際の仕上がりの差はどの様なものか等の情報も発表する.調査の主旨について,宝石の定義は,美しさ,希少性,経年変化のないことである.鉱物名コランダム,宝石種ルビーは産出される原石の殆どが加熱などの処理により美しさを改良し,市場に流通する.その最たる理由は,無処理で美しいルビーの希少性は驚くほど高いから,と言われるが,どのくらい産出しているのか?は意外と知られていない.鉱区で産出された原石の状態で,品質ごとに出現率を把握することは,何故,処理が行われるか?という鑑別技術の必要性に関する情報だと考える.
    また,産出鉱区ごとのインクルージョンの特長なども参考資料として付け加えて発表したい.
  • 上根 学, チャンドラー ラビ, 古屋 正貴, 畠 健一
    p. 3-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    英国のウイリアム王子からケイト妃に贈られた婚約指輪は,ブルー・サファイアである.ウイリアム王子の母であり,世紀のロイヤリティ・ウエディングといわれたダイアナ妃の左手に輝いていたものと同じブルー・サファイアである.このブルー・サファイアはスリランカのラトゥナプラ産であり,ラトゥナプラの宝石商からかつてエリザベス女王に献上されたものであった.2011年.スリランカのカタラガマで良質でしかも大粒のブルー・サファイアが産出されたことは記憶に新しい.今回,スリランカにおける良質なブルー・サファイアを産出する代表的な4つの鉱山,サバラガムワ県のラトゥナプラ,パルマドゥッラ,そしてウーバ県のオッカンベディア,新鉱区であるカタラガマを現地調査した.
    各地区の鉱山数は現在,ラトゥナプラで約3000箇所,パルマドゥッラで約300箇所,オッカンベディアで50~60箇所,そして新鉱区となったカタラガマは10~20箇所で採掘されている.サンプル石の産地確認を徹底するために各鉱区の鉱山から直接原石を入手し,研磨,インクルージョン観察を試みた.更にFTIRにより,Fe,Ti,Ga,Crの成分分析,蛍光X分析を試みた.今回の現地調査の目的は,加熱処理,Be加熱処理が横行する中,確かなサンプル検査石を入手すること,そして各鉱区の品質をジェム・クオリティー,ジュエリー•クオリティー,アクセサリー・クオリティーの3段階に分けそれぞれ3クオリティーのブルー・サファイアの出現率を調査することにあった.宝石の価格相場は,宝石の品質を評価し,その品質の出現率と需要できまる.今回,スリランカ産ブルー・サファイアの新鉱山を含む4鉱区を調査実施したので,その原産地状況を報告する.
  • 中嶋 彩乃, 古屋 正貴
    p. 4-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    ルビーとレッドスピネルを現在の一般的評価で比較すると,ルビーはいわゆる貴石に含まれ,スピネルは半貴石に含まれるなど,評価はルビーの方が高いと言えよう.
    しかし,歴史を振り返ると多くの人々を魅了してきたロイヤルジュエリーに使用されてきた宝石が,実はルビーではなくレッドスピネルであったことが,後に判明したことが何度もあった. 後にスピネルと判明したロイヤルジュエリーとしては,Imperial State Crownの黒太子のルビー,エカチェリーナ2世の王冠のレッドスピネル,チムールルビーなどが挙げられる.これらはスピネルと分かるまでルビーとして人々のあこがれを集めてきた.
    一方,ルビーでは,196.10ctsのHixon Rubyや,The Rosser Reeves Star Ruby 138.7cts など100ctを超えるような原石やスタールビーも知られているが,これらはルースや原石自体として博物館に所蔵・展示されているものであり,王室など著名人のジュエリーとしては使われてはいない.
    ロイヤルジュエリーとして人々の目に触れてきたものとはしては,10~15ctsと推測されるStuart Coronation ringのルビーや,ナポレオンの妹ポリーヌ・ボナパルトのためにつくられたパリュールに使われた数ctsの複数のルビーからなるBorghese Ruby等があり,どれも素晴らしいものであるが,ルビーの大きさも限られており,レッドスピネルのように一つの石が大きく,一石がジュエリーに強いインパクトを与えられるものではなかった.
    このようなことから,ロイヤルジュエリーに用いられてきた有名なルビーと言われてきたものの中には,レッドスピネルだったものがあり,それらがルビーとして人々の羨望を受け,人々のあこがれを喚起されてきた.ロイヤルジュエリーにおいて,ルビーとして活躍したスピネルの役割は大きいと言えるだろう.
    謝辞)
    アルビオンアート株式会社
    Dr. Jack Ogden
  • 藤原 知子
    p. 5-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    長い間,スピネルは処理されていない宝石と信じられてきた.しかし2005年のGIAラボによる加熱処理実験を皮切りに,ミャンマー産•タンザニア産のレッド∼ピンク石について同様の実験報告がなされ,熱処理されたスピネルが市場に流通している可能性が指摘されている.
    今回は,入手できた非加熱のスリランカRatnapura産ピンクスピネルの原石を1000°Cで5時間,酸化雰囲気の下で加熱処理した実験結果を報告する.処理前と処理後の変化をEDXRF,紫外可視分光スペクトル測定,フォト•ルミネッセンス分光,および蛍光分光光度計を用いて比較•グラフ化した.処理後の測定グラフと,フラックス合成スピネルについての測定グラフとの比較は,興味深い結果となった.
    スピネルとルビーは見た目や成因がよく似ていて産地も重なり,クロム含有レッド∼ピンクスピネルは,ルビーと同じく,微量元素のCr(クロム)が色因である.片や,光分析における天然レッドスピネル特有のクロム•ライン「オルガンパイプ」は.ルビーでは見られない.そこで,非加熱のミャンマーMong Hsu産ルビー原石を上記ピンクスピネルと同じ条件で加熱処理し,処理前後の変化をスピネルのそれと比較した.この比較に基づき,加熱処理によってスピネルに生じたクロム•ラインの変化の要因を考察してみたい.
  • 福田 千紘, 宮﨑 智彦, Lee Bo-Hyun
    p. 6-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    エチオピアからは 1994 年ごろにオパール の 産 出 が 報 告 さ れ て い る (KoivulaJ.I.,et al 1994).2008 年前半には Wollo地区において豊穣な鉱床がみつかり,多量のカット石が市場に供給されている(Rondeu.,et al 2010).また 2013年初め頃に原石のままでの輸出が禁止されたと報じられた(Addis Fortune Jan. 2013).これらは主に色調が無色∼白色から淡黄色∼褐色を呈し,半透明∼不透明まである.オーストラリア産オパールにみられる強い青白色の紫外線蛍光や燐光はほとんど認められず弱い青白色の蛍光が認められる.ほかの産地のオパールに比べて多孔質で日常の取り扱いで重量が変化しやすい個体が多く見受けられる. 2013年初めごろから暗黒色不透明なエチオピア産オパールとされるブラックオパールに似たオパールが流通し始めた.これらは売り手の情報によると処理を施してあり,酸と有機物を用いて黒色化しているとのことである.価格も処理を施されていない同産地のオパールよりも割高で明らかにブラックオパールを模して製造されていると推定される.外観はオーストラリア産ブラックオパールとは異なる独特の鮮やかな遊色とわずかに褐色を帯びた漆黒の地色を呈し,従来から知られている砂糖液処理やスモーク処理の処理オパールとも異なる.またあまり小さなカット石は存在せず数カラット以上の比較的大きく厚みのあるルースのみ存在する点も特徴的と思われる.透過光では暗赤色を呈する試料が多く,拡大検査にてスクラッチ状または斑点状の黒色の色だまりがみられる個体が多い.試料を切断したところ内部まで黒色で外形に沿った色の濃淡が認められた.これは内部まで処理の効果が及んでいることと原石のまま処理するのではなくカットして完成品に近い形状に仕上げた後に処理を施し表面を再研磨していることを示唆すると考えられる.色の起源に関してはアモルファスカーボンが原因との報告があり(Williams 2012),本研究でもアモルファスカーボンの存在を追認した. さらに今年に入ってから様々な色調に着色されたエチオピア産とされるオパールが流通し始めた.これらはファイアオパールに似せた黄色∼オレンジ色系のものと天然には存在しない地色が青色系,ピンク色系を確認した.これらは有色樹脂の含浸が疑われたが近赤外分光分析の結果,樹脂は検出されず色素を用いた着色処理であることが判明した.
    本研究では黒色の処理オパールとそのほかの色の着色オパールの鑑別上の諸特徴を報告するとともに処理の再現実験の途中経過と暫定的な結果も報告する.
  • 古屋 正貴
    p. 7-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    宝石における変色性は宝石鑑別団体協議会の定義のように,自然光で緑∼青緑色,電灯光(A光源)で赤∼紫赤色に変化するものが一般的であるが,それ以外にも色が変わったり,変わって見える宝石がある.昨今宝石のさまざまな特性が注目される中でこれまでの変色性とは異なる色の変化を示すものについていくつか紹介したい.
    光の当たることで色が変わって見える宝石がある.パキスタンの石全体に微少インクルージョンを含むピンクサファイアは,白い光を受けるとその微小インクルージョンが光を散乱して,青色を帯びる.これは青いシラーの出るムーンストーンと同じでレイリー散乱によるものである.また,この効果はスリランカ産のピンクサファイアやタジキスタン産のルビーでも見られる.
    似たように光が当たることで色が変わって見える効果はアンデシンでも見られる.緑のアンデシンでは同じファイバー光を当てても,石を透過すると緑色で,石に反射すると橙赤色になる.透過法と反射法で紫外-可視分光を測定すると図1(PDFのFigure.1を参照)のようになる.その仕組みとしては内包される微小な銅片に光が反射すると橙赤色に発色し,透過光では微小な影として色に影響を与えないものと考えられる.
    また,近年見られるスキャポライトは,極めて明瞭なテンブレッセンスを示す.この石のテネブレッセンスは,無色だったものが10秒ほどの短波紫外線照射で,鮮やかな帯紫青色に変わる.(PDFのFigure.2を参照)また,この帯紫青色は強い可視光を当てると数秒で元に戻るという可逆性もある.
    このように色が変わったり,変わって見える宝石はいろいろあり,それが宝石の特徴となっている.
  • 川口 昭夫, 二宮 洋文
    p. 8-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    緒 言:宝石評価法としての鑑定士の肉眼目視は,経験差・体調・恣意性・観察環境・光源などに左右される懸念から,時に購入者の混乱の原因にもなる.これに対してより高い客観性や再現性を持つ測定装置も提案されているが,現時点ではその根拠となる原理や官能評価との対応に必ずしも明確な説得力を持つとは言い難い. 筆者らは回折法としてのゴニオメータを応用することで宝石の輝きを「多面体による光学散乱」として観測し,可算性のある物理量として計測した結果,いくつかの定性的傾向が数値として認められたので報告する. 実 験:光源には赤色レーザー光または直進性が比較的に良好な白色LED光を用いた.この光源の角度位置を球面極座標 (φ,θ)上で,常に光束が試料を照射するように移動させることで「宝石に対する等方的光源入射」の近似とした.このとき試料のブリリアントカットダイヤモンドから来る散乱光(輝点)を形状設計された曲面スクリーン(今回は半径100mmの放物面)に投影し,「輝点」の形状・数・分布方位などをカメラで撮像し,解析ソフトWinROOF(三谷商事)で解析した.このデータを光源の角度位置のステップ数で算術平均し数値化する一方で,カメラ感度の段階的変化によって,統計量として「輝点」の相対強度分布を見積もった. 結果・考察:今回は投影面として試料位置(=光源の移動する球中心)と同じ位置に「焦点」を持つ放物面スクリーンを採用したが,他の任意形状の面(平面,楕円面,等)も利用できる.また「スクリーンへの投影」だけでなく「(曲面)鏡による反射像」も可である. ブリリアントカットダイヤモンドのような多面体に入射した単一光源からの直進光は,試料内外の稜によって分割され(時には全反射によって内部に戻され),外部に放射される角度条件の光路が放射・観測される.これが「(カットされた)宝石の輝き」に相当すると考えれば,問題を「光束の(無限回の)光路分割」と解釈することができる.そこで「輝点」のサイズを立体角Ω (strad.)に換算した結果をヒストグラム化したところ,立体角の数分布の一部に「指数則 N(Ω)=A0exp(-λΩ)」が認められた.(λ>0) この分布(と指数則からの逸脱)を特定方位(たとえばブリリアントカットのテーブル面方向のθ~0付近)毎に数値化することによって,使用環境(リング,ネックレス,はめ込み,等)に近い状態での評価が可能になると同時に,各使用環境に最適化したカットデザインの提案ができるものと考えている.
  • 小松 博, 矢崎 純子, 鈴木 千代子
    p. 9-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    球体であるアコヤ真珠で起こる光の干渉現象は,真珠層での反射による干渉と透過による干渉が同時に観察される.また蛍光灯などの拡散光源に球面の一端を接触させれば,上下半球に,全入射角の各干渉色が観察される.
    これら干渉色の目視観察によれば,テリの強弱は
    ⅰ)発現する色相の多寡に対応(色相),
    ⅱ)発現する色相の彩度の高低に対応(彩度),
    ⅲ)発現する色相の明度の高低に対応(明度)することが経験的に知られて いる.

    専用装置で現れる反射・透過の干渉色をカメラで撮影し,その画像を色彩分析した.
    結果は熟練者によって選別された,5 種のテリ強弱のマスターパールと測定結果が一定の相関性を有することが判明した.
  • 矢崎 純子, 小松 博
    p. 10-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    アコヤ真珠,シロチョウ真珠は,ともにホワイト系からイエロー系,ブルー系があり,長年その鑑別方法が研究模索されてきたが,判別できる方法はいまだに確立されていない.
    したがって,貝の大きさや生息する海域の違いにより,生産される真珠の大きさや真珠層の厚さである“まき”,その質感などから母貝が推定されてきた.しかし近年,養殖技術の改良などにより,10ミリ以上のアコヤ真珠や,10ミリ以下のシロチョウ真珠も流通するようになってきている.そのため,アコヤ真珠,シロチョウ真珠の判別方法の確立が急務となっている.
    今まで報告されてきた鑑別方法には,紫外線レーザー励起発光スペクトル測定法(1984年,小松博ら),蛍光X線分析法(2002年,伊藤映子)などがある.前者は,アコヤ真珠,シロチョウ真珠の紫外線レーザー励起光の分光パターンの違いを測定する方法で,両者の有機基質の違いが要因となっていることがわかっている.しかし,漂白等の加工により,その違いは消失してしまうため,鑑別方法として実用化していない.後者は,蛍光X線分析装置により,Sr/Ca,Na/Caの強度比を算出し,両者を判別する方法である.一部重複する領域があるため,一定の弱点となっている.
    今回,これら両者の構成元素,有機基質の違いに着目し,新たな鑑別方法を模索するため,次の分析方法を試みた.まず,試料の極表面の元素組成や化学構造の情報を測定する飛行時間型二次イオン質量分析法TOF-SIMS(Time of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)で,アコヤ,シロチョウの貝殻と真珠を分析した.次に,産地を限定したホワイト系のアコヤ,シロチョウ貝殻のLA-ICP-MS(Laser Ablation Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)測定を行い,両者の構成元素を比較したので報告する.
  • 牧野 翠, 小松 博
    p. 11-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    1.背景
    ゴールド系のシロチョウ産真珠は,養殖真珠の中でもその希少性や豪華さにより人気が高まっている.しかし近年,ゴールド系シロチョウ産真珠の色調を精巧に模した着色真珠が市場に出現したことから,両者の鑑別が急務となってきた.ゴールド系シロチョウ真珠の従来の鑑別法には,着色痕の観察,紫外線照射下による蛍光観察,分光反射法がある.従来法である紫外線照射下による蛍光観察では,着色試料の場合は蛍光を発し,非着色(以下,ナチュラルと呼ぶ)の場合は蛍光が微弱であることが報告されている.蛍光が微弱である理由としては,ナチュラルの場合は色味が濃いほど真珠層内には多くの黄色色素を含んでいるため,タンパク質の蛍光を遮蔽するからだと考えられている.反射分光法では,ナチュラルのゴールド系シロチョウ真珠は 280nm,360nm,450nm 付近に特徴的な吸収が存在することが報告されている.しかしまた近年の着色技術の発達により,孔口に染料痕が全く見られないことや蛍光を発しない例も多くなったため従来法では鑑別が難しくなっている.そのため,本研究ではより精度が高い新たなゴールド系真珠の非破壊鑑別方法として,ラマン分光法について検討した.
    2.材料•方法
    あらかじめ着色試料として収集した着色ゴールド系シロチョウ真珠とナチュラルであるゴールド系シロチョウ真珠を用意し,紫外線照射下による蛍光観察,反射分光法,ラマン分光法をそれぞれ観察・測定した.また分析結果により,着色試料がナチュラルである可能性が示唆された試料は切断し薄片切片を作製,着色か否かを確認した.
    3.結果•考察
    紫外線照射下による蛍光発光の観察では,紫外線短波もしくは長波で赤色,青白色発光などなんらかの蛍光発光をする着色試料もみられたが,ナチュラルと同様に蛍光発光しない着色試料もみられたため紫外線照射下による観察のみでは鑑別は難しいと考えられる.
    分光反射法ではゴールドの特徴的な3つの吸収は,着色試料では一部が観察されないもしくは吸収位置がシフトしているなどナチュラルとは異なる傾向を示した.また分光反射法の問題点としては,材料である真珠が多層膜の球体であることから反射干渉色の影響を受けることが分かっている.分光装置内の積分球に試料を設置し測定すると,本来表面の実体色である色素の色を測定するが,テリが強い試料の場合実体色ではなく反射干渉色が測定に大きく反映される.よって分光反射法でテリの強い試料を測定する際は,ナチュラルであっても特徴的な吸収が消失することがあるため着色と判断を誤る可能性がある.
    他方でラマン分光法による鑑別法では,着色試料では散乱強度が 5000 以上を示し,ナチュラル試料では 5000 以下であったことから有意の差が認められ,鑑別が可能であることが示唆された.また着色として収集した試料の中にはナチュラル試料と同様のスペクトルデータを示すサンプルもあったため,薄片を光学顕微鏡で観察した.顕微鏡観察の結果,表層に着色層が観察されずナチュラルであることが分かった.以上のことから,ラマン分光法が非破壊による信頼性の高い測定方法であることが考えられた.
  • 林 政彦, 竹内 雄平, 山崎 淳司
    p. 12-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    シジミ(corbicula)から得られた霰石(aragonite:CaCO3 orth.)の粉末と合成樹脂の一種であるPVA(polyvinyl alcohol)との層状構造を,多層膜作製方法により人工的に生み出すことで,真珠光沢(pearly luster)を呈するものが生成できた.これは真珠層(nacre)に似た構造となっている.
    今回用いた多層膜作製方法は次のとおり.
    1. シジミ(corbicula)の貝殻を300°Cで焼成後,振動ミルにて粉砕し,エタノール中で超音波を使って20分間振とう.
    2. 溶液を遠心分離し,10µm以下の粒子を含んだ上澄み液を取り出す.
    3. この上澄み液(微粒子分散溶液)をガラス基板上に滴下.
    4. 80°Cに熱したホットプレート上で加熱後,蒸発乾固.
    5. ガラス基板上にPVA 1wt%溶液を滴下し,スピンコート.
    6. 15分間乾燥.
    7. 180°Cに熱したホットプレート上で1.5分間加熱.
    8. 3~7の操作を繰り返す.
    これらの実験結果について報告する.
  • 渥美 郁男
    p. 13-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    わが国では万葉時代から,アコヤガイに天然真珠が多く出来ることが知られていた.それらの真珠の中で,芥子粒を思わせるほど小さいものを「ケシ」と呼んでいる.これらの「ケシ」は古の時代には当然,天然真珠であった.また古来の文献からその外観や採取した部位から既に「ケシ」と分類されていた.およそ100年前の日本でアコヤ貝による商業的な真珠養殖が成功した.そこでは養殖を行っている貝から養殖真珠とは別に人為的な関与を受けている,いないに関わらず外套膜や貝柱付近から微小な真珠が副産物として採取され「ケシ」の呼称で流通してきた.
    またアコヤ真珠の養殖過程において生殖腺の中で核とピースが隔離したため核を含まない比較的大粒なバロック形状の真珠が出来てしまうことがある.こちらも「ケシ」の範疇とされてきた.これらの状況から現在では「ケシ」は養殖真珠として扱われ,その認識も時代とともに変化している.
    今回は国内のアコヤ真珠養殖場から取り寄せた「ケシ」サンプルの内部の様子について検証を行った.
    サンプルは熊本県天草苓北産,愛媛県宇和島明浜産,長崎県壱岐産などを含む幾つかの真珠養殖場から10万個以上のご提供いただいた.その結果,様々な内部構造を持つものがあることが判った.
    「ケシ」と呼ばれている真珠の内部構造の軟X線透過像について今回は報告する. 
    25年ほど前からシロチョウ養殖真珠やクロチョウ養殖真珠においても10ミリ以上の大粒化した海水産バロック状無核真珠が流通している.現在では更に大粒化した20㎜以上の海水産バロック状無核真珠も登場している.
    これらの一部に共通する特徴として内部に均一な空洞の存在が軟X線透視像で確認できた.これらの空洞の要因として養殖技術の多様化とともに登場してきたゼリー状核やパラフィン核の存在があげられる.
    このように多様化した真珠養殖工程のため真珠検査においても現状では限界があることも判ってきた.伝統的な養殖用核の存在が無い大粒のケシと呼ばれている海水産バロック状真珠は今後どのように呼称するべきであるかも合わせて提案する
  • 久永 美生, 北脇 裕士, 山本 正博, 江森 健太郎
    p. 14-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    2012年,アントワープの国際的なダイヤモンドグレーディングラボラトリーから大量ロットのCVD合成ダイヤモンドの報告があり,ダイヤモンド業界を賑わせた.それ以降,インドや中国の検査機関からも相次いでCVD合成ダイヤモンドに関する報告がなされており,当研究所からも非開示で持ち込まれた1ct upのCVD合成ダイヤモンドについて報告を行った.また,高圧法合成ダイヤモンドにおいてもAdvanced Optical Technology Co.など無色合成ダイヤモンドの新たな提供者が現れて業界の関心を集めている.
    合成ダイヤモンドの鑑別には,宝石顕微鏡下における拡大検査,紫外線蛍光検査,歪複屈折の観察などの標準的な手法も有効であるが,多くの場合フォトルミネッセンス分析やDiamondView™などの先端的なラボの分析が必要である.
    フォトルミネッセンス分析においては737nmのSi-Vの発光ピークがCVD合成ダイヤモンドの特徴であり,DiamondViewTMでは天然とのモルフォロジーの相違によるセクターゾーニングが高圧合成ダイヤモンドの特徴となる.
    本報告では,偽合成ともいえる①Si-Vの発光ピークを示す天然Ⅱ型ダイヤモンドと②セクターゾーニングを示す天然Ⅱ型ダイヤモンドについて報告する.
    (1)Si-Vの発光ピークを示す天然Ⅱ型ダイヤモンド
    2012年以降,当研究所において鑑別を行った無色~ほぼ無色のCVD合成ダイヤモンド31個すべてに514nmレーザーもしくは633nmレーザーにおいて737nmピーク(736.4/736.8nm)が検出された.これらはCVD合成装置の石英ガラス由来と考えられる.いっぽう,同期間に分析を行ったⅡ型天然ダイヤモンドにも8個にSi-Vの発光ピークが検出された.これらのうち6個には714 nm他の多数の付随ピークが見られた.また,1個については737nmの吸収が深く灰紫色の地色に影響している.
    (2)セクターゾーニングを示す天然Ⅱ型ダイヤモンド
     別々の時期の異なるクライアントから供された2個のⅡ型天然ダイヤモンドに,DiamondView™において帯緑青色の発光色と燐光を伴う明瞭なセクターゾーニングが観察された.これらは通常高圧合成ダイヤモンドの証拠となるが,拡大下においてクラウドを伴い,FTIRにて特有のピークを示すSolid CO2を内在する天然ダイヤモンドであることが判った.
  • 三浦 保範
    p. 15-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
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    1. Introduction: Previous formations of large to micro diamonds are studied on solid-changes of carbon-rich starting materials of graphite or fullerene. The purpose of this study is to elucidate dynamic process of micro to nano-diamonds including material state changes [1, 2].
    2. Micro-diamond carbon by artificial explosive formation: Artificial micro-diamond formed by explosive process (as dynamic standard) shows clear shapes with carbon-rich composition (and Si etc.) obtained by the FE-SEM data and micro-Raman spectral patterns..
    3. Natural micro-diamond carbon from Yamaguchi, Japan: Natural formation of carbon-rich samples with mixed compositions are found at volcanic basalt on Shimonoseki, Yamaguchi, Japan, which are checked so far by the FE-SEM (as carbon-rich) and micro-Raman spectral pattern (as diamond main peak) .
    4. Discussion: Gem-crystals of diamonds can be also related with shallow carbon sources of carbonatite (or calcite) by reaction within ring dikes, where are compared with artificial impacts [2] and volcanic breccias of Arkansas (U.S.A.) diamonds. Localized carbon-bearing breccias at the interior triggered initially by shock wave process can be formed at shallow sites during long geological history.
    5. Summary: Diamond-like carbon grains were found at volcanic basalts of Yamaguchi, Japan, which are studied by the micro-Raman and FE-SEM.
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