中央宝石研究所に非開示で持ち込まれた15個のⅠb型黄色系CVD合成ダイヤモンドを検査した。これらはラウンドブリリアントカットされたルースで平均重量が0.25ctであった。カラーはVery Light Yellow∼Light Yellow、一部はBrownish であるが、同系色の天然ダイヤモンドと視覚的には識別ができない。
FTIR分析ではすべての試料に1130cm
-1、1344cm
-1および1332cm
-1に置換型単原子窒素ピークが検出された。これらのピーク強度から単原子窒素の濃度を見積もると平均3.6ppmであった。また、2875、2908、2948、3032、3107cm
-1のピークが検出されており、これらは成長後のHPHT処理(1900∼2100°C程度)により形成されたC-H由来の吸収と考えられる。なお、2875および2908 cm
-1のピークはBrownish な3個の試料ではそれぞれ2871および2902cm
-1と低波数側にシフトしており、他の Yellowのものよりも熱処理の温度がやや低かったのではないかと推定される。
633nmレーザーによるPLスペクトルはSi関連の737nmピーク(736.4/736.8nmのダブレット)が15個中13個に検出された。うち5個は非常に弱いピークであった。ほとんどの試料に908.9、876.7、853.4、851.6、850.2、824.6、819.1および795.8nmに帰属不明の小さなピークが認められた。
514nmレーザーによるPLスペクトルは非常に強い637nm(NV
-)および 575nm(NV
0)がすべてに検出された。630.4および628.6nmの対のピークが15個中9個に見られた。また、ほとんどの試料に565.6、555.6、554、544.4、536.5、534.9、533.0、532.0、529.1、528、524.1および521.4nmに帰属不明の小さなピークが検出された。
488nmレーザーによるPLスペクトルはすべての試料に637nm(NV
-)、575nm(NV
0)および503.2nm(H3)の強いピークが検出された。H3/NV
-の強度比は12個のYellowの平均が1.43、3個のBrownishの平均が0.82であった。As-grown のCVD合成ダイヤモンドではH3センタは検出されず、高温での熱処理においてH3/NV
-の強度比が大きくなることが知られており、このことからもBrownishな試料は熱処理温度がやや低かったと推定できる。
DiamondViewを用いて検査した試料すべてにH3に因ると思われる緑色が優勢な発光色とCVD合成特有の線模様が観察された。また、同系色の燐光もすべてに観察された。
このようにⅠb型の黄色系CVD合成ダイヤモンドは、標準的な宝石学的検査だけでは識別が困難であるが、低温下でのPL分光分析やDiamondViewによる紫外線蛍光像の観察によって確実に識別することができる。
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