宝石学会(日本)講演会要旨
平成27年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
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平成27年度 宝石学会(日本) 講演会 論文要旨
  • 綿打 敏司
    p. 1-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    会議録・要旨集 フリー
    クリスタル科学研究センターは文部省令により1962年に設置された無機合成研究施設を前身とした研究センターである。当時の人工水晶の育成に関する研究は特筆に値し、科学技術庁長官賞などを受賞した。
    1980年代頃までわが国の貴石研磨、加工および水晶振動子の生産中心地である山梨県に設けられた研究施設として、地元業界との密接な交流を基にその発展に貢献した。同時に無機材料科学の発展にも貢献してきた。
    1989年には、世界に類のない大型で高純度の酸化物超伝導体単結晶の育成に初めて成功し、その単結晶を用いた世界的な共同研究へと進展させた。また、その単結晶育成に用いられた浮遊帯溶融(FZ)法は、その後、全世界の物性研究者に広まった。また、その結晶育成装置の製造販売を手がける県内メーカーは世界的にも大きなシェアを占めている。 無機合成研究施設の設置から40年経った2002年、21世紀を支える結晶材料の新領域を開拓することを目的に改組し、文部科学省令により「クリスタル科学研究センター」へと改称した。その後更なる変革を経て2014年から大学院総合研究部附属の研究施設として活動している。
    そうした特徴を有するクリスタル科学研究センターにおいて、私はFZ法の改良に関する研究を行っている。これは、FZ法が物性研究者だけではなく、結晶材料の工業的な生産にも用いられるようになることを目指したものである。このFZ法では、物性測定に必要な大きさの結晶は育成できるものの、工業的に利用する際に必要とされる大口径の結晶育成が困難であるためである。私は、工夫すればFZ法でも工業的に利用可能な大口径の結晶育成が可能になると信じて、その実現を目指している。その詳細については当日お話させていただく。
  • 高橋 泰, 小泉 一人, 依田 幸裕, 名田谷 隆平
    p. 2-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    会議録・要旨集 フリー
    山梨県南巨摩郡南部町上佐野には山梨県の自然記念物指定されたクロムダイオプサイドの産地がある。ここの産状は幅10m前後の岩脈で、周囲の砂岩礫岩に貫入している。岩の種類は玄武岩質安山岩で、斑晶として透輝石(ダイオプサイド)の巨晶を含む。特にダイオプサイドは0.2∼0.3%のクロムを含む鮮やかな緑色を呈し、通常長径5∼20mm、最大40∼50mmの単結晶で産出する。
    最近、このクロムダイオプサイドを山梨県内の複数の地域からも凝灰角礫岩の中に確認したのでここに報告する。現在の調査範囲では富士川町(鰍沢)から南アルプス市芦安までの15km以上に渡り分布している。複数の産地に共通して緑色から紫褐色の玄武岩質安山岩で類質の岩片を含んでいる。岩質は上佐野と同様の玄武岩質安山岩であるが、角閃石の斑晶は見られない。クロムダイオプサイドは0.8%前後のクロムを含む鮮やかな緑色を呈する。短冊状の斜長石は破片状になっていることから噴火に伴う火山性砕屑物の堆積と推定される。
    一方、本研究ではこのクロムダイオプサイドの宝飾品への応用方法について検討してみた。
  • 林 政彦, 林 富士子, 坂巻 邦彦, 安井 万奈, 山崎 淳司
    p. 3-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに
     日高ヒスイ(透輝石)は番場猛夫が1972年に鉱山地質学会誌(現,資源地質学会誌)で発表し,1980年には宝石学会誌でも紹介され,世界的に有名になった日本産宝石の一つである.同種の透輝石を,現場近くの転石で観察する機会を得たので,他の産地の透輝石と比較して報告する.
     2.産状について
     北海道日高町千栄(Chisaka)産の日高ヒスイは,蛇紋岩とロジン岩の間に挟在する産状で見られる.鉱物種としては,新潟県糸魚川などで見られるひすい輝石(Jadeite:NaAlSi206)ではなく,透輝石(Diopside:CaMgSi206)である.
     一方,様似郡様似町幌満(Horoman)等の橄欖岩に含まれる緑色∼濃緑色透輝石も含有するクロムで着色されたものである.これも日高ヒスイと呼んでもよいのではないだろうか.
     3流通について
     日高山脈博物館で日高ヒスイを観察できるが,現地で緑色透輝石は確認できなかった(2014年9月20日調).また,市場ではほとんど見られない.これらの緑色透輝石の着色原因はいずれもクロムの含有によるものであり,綺麗な緑色を呈する魅力的な宝石として,今後は流通する可能性がある.
  • 川崎 雅之, 加藤 睦美, 廣井 美邦, 宮脇 律郎, 鍵 裕之, 今井 裕之, 長瀬 敏郎
    p. 4-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    会議録・要旨集 フリー
    奈良県天川村五代松鉱山は石灰岩と花崗岩体の境界にできた接触交代鉱床であり、形態的に特色のある水晶が多数産出している。我々はトラピッチェ・クオーツの産出を報告しているが、近年、その鉱体の延長に当たる場所から黄色不透明の先細り水晶(径数mm、長さ数cm)が採取された。その形態とトラピッチェ・クオーツとの関連について述べる。
     先細り水晶の表面は著しく凹凸で、空隙も多く、微結晶の集積により成長した形状を示している。内部のCL像では下部に平面で囲まれた累帯構造が見られるが、上部では不鮮明になり、先端が分裂した形状になる。
     外形とCL像から、facet成長 → セル成長 → 付着成長の履歴がわかる。トラピッチェ・クオーツの内部にも先細り状の累帯構造と多くの空隙があることから、この先細り水晶はトラピッチェ・クオーツのコア結晶の特徴を示していると考えることができる。
  • 中嶋 彩乃, 古屋 正貴
    p. 5-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    会議録・要旨集 フリー
    近年、ファセットカットされたビーズがジュエリーのチェーンの代わりに使われ始めているが、それに伴い新しい問題も起きている。下の写真のブラックスピネルのビーズでは、ペンダントのバチカンに当たる部分が摩耗されて他の部分に比べて明らかに輝きが弱くなっている。このような地金とビーズの摩耗の特徴と対策を調べるため、各種摩耗に関する実験を行った。
     実験にはブラックダイアモンド、ブラックスピネル、ブラックカルセドニーのビーズを用意した。1)まず、地金側の傷を調べるため、Pt900(割金Pd10%)、K18金(割金Ag15%, Cu10%)、K18ホワイトゴールド(割金Ag11%, Pd8%,Cu4%,Zn2%)および銀(SV925, 割金Cu7.5%)の板と擦り合わせた。続いて石側の傷を調べるため、2)金、および銀で出来た半円形の棒と擦り合わせを行った。3)また共擦りを調べるためビーズの連を平行に束ねた状態と編み込んだ状態で擦り合わせを行った。同じ条件下で比較するため、電動サンダー(毎分13000回転)を用い、機械の自重(約1kg)で決まった時間擦り合わせた。
     1)の地金の板との擦り合わせ実験では、地金側にダイアモンド>スピネルの順に深い傷がつき、カルセドニーではほぼ傷はつかなかった。地金はSV925≒Pt900 >K18ホワイト>K18の順に傷がついた。石側はカルセドニーを含め、あまり傷は生じなかった。
     2)の地金の棒との擦り合わせ実験では、金、銀ともにダイアモンドには目立った傷が見られず、ブラックスピネルではエッジの摩耗が見られ、カルセドニーではわずかな面傷が見られた。硬度の高いものは傷はつきにくいのだが、スピネルは地金より硬度は高いにもかかわらず、当たり傷としてエッジの摩耗が生じたためと解釈される。また、エッジの摩耗は硬度の低いカルセドニーでは目立たなかったが、これは使用したサンプルが元よりあまりエッジを立てないカットが行われていたため、目立たなかったものと考えられる。
     3)の共擦りを調べる実験では編み込んだものでスピネルは激しいエッジの摩耗、面傷が見られ、カルセドニーでは面傷が見られ、ダイアモンドではあまり傷は目立たなかった。また、平行にしたものではどれも比較的傷は少なかった。これも先のものと同じ理由と考えられるが、スピネルの摩耗が特に激しかった。
     これらの対策としては、地金とビーズがあまり当たらないデザインにすること、ビーズ同士に力がかからないデザインにすること、エッジをあまり立てないカットを用いることなどが考えられる。
    謝辞:株式会社八紘商会(地金試料提供)
  • 大江 昌子, 武 聖子, 山内 常代, 畠 健一
    p. 6-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    会議録・要旨集 フリー
    宝石市場は高額なハイジュエリー、一般的なジュエリー、ファッション性を重視したジュエリー、そしてお守り的な色彩を強く打ち出したパワーストーンが市場を賑わしている。
     ジュエリー市場はステータス性、資産性、ファッション性、そして信仰的なお守りとしてのジュエリーが混とんとした状態の中にある。
     一方、世界視野に立ち、日本の宝石市場を見た時、日本の宝石市場は黎明期、発展期を経て、まさに成熟期を迎えている。
     一番に成熟期を迎えたのはヨーロッパ、そしてアメリカ、東洋では日本が最初である。世界の宝石を集めた日本は、鑑別技術を著しく向上し、鑑別技術についてはトップレベルにある。
     しかし、残念乍ら、日本における宝飾文化の研究、そして普及は、ヨーロッパ、アメリカに遠く及ばない。
     日本の宝飾市場において、確かな宝飾文化の普及は、成熟期を迎えた今、大切な課題である。
     ハイジュエリー、ジュエリー、ジュエリーアクセサリー、パワーストーンはすべて大地、地球の美しい創造物である。違いは一つ、品質の良し悪しによる商品価値の違いである。背景にある歴史的な宝の石、宝石の存在価値は同じである。
     歴史の流れとともに時代が求めるニーズとして、宝石はお守り、信仰、ステータス、財産、おしゃれそしてパワーストーンとして身を飾ってきた。しかし、精神文化における宝石の本質はお守りである。お守りとしての歴史の変遷を年表としてまとめたので報告する。
  • 福田 千紘
    p. 7-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    会議録・要旨集 フリー
    無色の宝石はダイヤモンドを筆頭に多くの宝飾品に使用されている。小粒のダイヤモンドは製品において脇石として数多く使用されるがダイヤモンド以外の無色石が使用されていたり混入しているケースが散見される。ダイヤモンドとダイヤモンド以外の無色石の識別は硬度の差による鋭いファセットエッジの有無や紫外線蛍光、内包物や軟X線の透過性によって行われる。ダイヤモンド以外の無色石の鑑別は蛍光X線分析による組成分析やラマン分光法が有効であるがより簡易的な手法としてFTIRの反射スペクトルの比較による識別を試行した。反射スペクトルは光学的異方性のある物質の場合、測定する面や方向によりスペクトルの強度比、吸収が変動する欠点もある。
    無色石として脇石に使用される可能性のある物のうち、天然石としてジルコン、コランダム、グロッシュラーガーネット、スピネル、スポジュメン、フォルステライト、トルマリン、トパーズ、ベリル、クォーツ、スカポライトを、合成石として合成スピネル、合成ルチルを、人造石として人造キュービックジルコニア、人造YAG、人造GGG、人造チタン酸ストロンチウムを、模造石としてガラスを準備し比較検討を行った。この内光学的等方体ではないルチル、ジルコン、コランダム、スポジュメン、フォルステライト、トルマリン、トパーズ、ベリル、クォーツ、スカポライトについては異方性によるスペクトルの変動を観察し、測定する際の問題点を検討した。
    その結果、鉱物ごとに明瞭な差が認められ異方性によるスペクトルの変動は結果に影響を与えない範囲に留まった。また、予察的に枠にセットされたものを測定した結果概ねルースと同等のスペクトルを得ることが出来た。天然・合成の両方が存在するものについては本手法だけでは識別が困難なケースが確認され,確実な識別にはその他の手法を用いるか組み合わせる必要があると考えられる。
  • 難波 里恵
    p. 8-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    会議録・要旨集 フリー
    ターフェアイトは非常に稀少とされるレアストーンで、1945年にアイルランドのターフェ伯爵によって発見された。当初スピネルと思われていた青紫色のファセットカット石が、わずかに複屈折性を示す事に気づき検査したところ新鉱物と判明し、発見者のターフェ伯爵に敬意を表しターフェアイトと命名された。ターフェアイトの色は淡いピンクや紫色、濃い紫色や青紫色などがあり、稀少な色として赤色も報告されている。今回その中でも特に稀少であろう魅力的な青の色合いを持つスリランカ産ファセットカット石のターフェアイトを入手した。
     ターフェアイトのスペクトル吸収特徴にはスピネルの吸収特徴が有効とされる(Schemetzer et、1989)青色系の発色は鉄(Fe)やコバルト(Co)、赤色系はクロム(Cr)によるものとされる。これら分光特性と比較した結果、当該青色ターフェアイトの発色はコバルトであると予測される。
     今回は非常に稀少石ゆえ、主に分光により非破壊で検査を行った。幾つかのスピネルとターフェイト試石を用い、その特性を紹介する。
  • 高 興和, 古屋 正貴, 畠 健一
    p. 9-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    会議録・要旨集 フリー
    紫色の美しい花、ジャマランカが咲き誇るタンザニアの大地の地下1000メートルに美しい紫味を帯びたタンザナイトが眠っている。ジャマランカの花言葉は「栄光」と「名誉」。1960年後半に発見されたタンザニアを代表する新しい宝石タンザナイトにいまだ正式な宝石言葉はない。20世紀を代表する宝石の1つになったタンザナイトの宝石言葉に、「栄光」と「名誉」を贈りたい。タンザナイトの命名通り、現在タンザナイトはタンザニアのみ産出し、詳しくはアルーシャ地方のメラニヒルズのみが確認されている。1971年タンザニア政府によりメラニヒルズ鉱山は一旦国有化されたが、1990年、政府系、民間系の4つのブロックに分けられ、現在各ブロックごとに採掘が稼働している。
     Aブロック) 政府系 Kirimanjaro Mines Limited
     Bブロック) 民間系 小規模業者 オーナー数約200名
     Cブロック) 政府系 Tanzanait one
     Dブロック) 民間系 オーナー数 約300名
     今回、BブロックのELISARIA MSUYA MAININNG社の協力のもと地下500メートルの採掘現場より入手した原石を中心に研磨、インクルージョン観察、その後、3時間ずつ、100°C、200°C、300°C、350°C、400°C、450°C、500°Cの加熱処理を実施、分光スペクトルの処理前、処理後の検査結果を得た。今回の現地調査の目的は、通常低温加熱されているタンザナイトについて、確かなサンプル原石を入手すること。そして、今回はBブロックに絞り、品質をジェム・クオリティ、ジュエリー・クオリティ、アクセサリー・クオリティの3段階に分け、出現率を調査することである。宝石の価格相場は宝石の品質を評価し、その出現率と需要で決まる。
     今回、タンザナイトのBブロックに絞り込み、鉱山の現地調査を実施。その原産地状況を報告する。
  • 上根 学, チャンドラー ラビ, 山内 常代, 古屋 正貴, 畠 健一
    p. 10-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    会議録・要旨集 フリー
    世界経済はG7からG20の時代に突入している。G7で独占されていた宝石市場も、旺盛な購買力を持つ中国を中心にG20の国々が宝石市場に参入することで、宝石の価値が世界的に年々上昇傾向になっている。
    特に処理石よりも天然石のニーズは高く、価格上昇率は目を見張るものがある。一番人気はルビーであるが、ここ一年二年、サファイアも非常に人気がある。特にスリランカ産ブルーサファイアの天然石は人気が高く、以前より処理石との価格差が大きくひらきはじめている。ブルーサファイアの天然石、加工処理石に対しての鑑別技術は、益々重要度を増している。正確な鑑別の第一は、産地特定が明確なサンプル原石の直接入手である。
    今回、昨年度入手し宝石学会(日本)で発表したスリランカを代表する鉱山の原石を、スリランカの現地そして日本の2か所にて加熱処理を実施した。ブルーサファイアの処理前、処理後、色の変化、インクルージョンの変化、さらに紫外可視分光光度計およびFTIRのスペクトルの変化を調べた。
    宝石業界の健全な発展は、消費者の信頼・安心なくしては成り立たない。天然ブルーサファイア、加熱処理ブルーサファイアを判別する正確度度の高い検査結果を得たので報告する。
  • 江森 健太郎, 北脇 裕士
    p. 11-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    会議録・要旨集 フリー
    宝石鉱物は母岩や産出環境といった地質学的な環境情報を保持している。宝石鉱物の構成成分を分析することは、その母結晶の地質環境、産状を特定することに繋がり、原産地鑑別における重要な情報となる。
    宝石鑑別ラボでは通常、元素分析には蛍光X線分析が用いられているが、軽元素の分析や検出限界に問題点があり、状況に応じてさらに高感度な元素分析が必要となる。
     LA-ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)は、軽元素を含む多元素同時分析による高速性とppb∼ppmレベルの分析が可能な高感度性能を持つ質量分析装置である。固体試料の測定にはレーザーアブレーションにより直径数10mm程度の極狭小な範囲を蒸発させる必要があるが、外部起源のBe拡散処理サファイアの鑑別には欠かせない新たな分析手法として宝石分野においても活用されるようになった。
     本研究はLA-ICP-MS分析法の宝石鑑別における応用例の一つとして、宝石コランダム(ブルーサファイア、ルビー)の原産地鑑別の可能性について検討した。また得られた結果への解析法として分析結果を三次元プロットに落とし込むことで産地間の差異がより明白となることが判った。
     LA-ICP-MS装置は、レーザーアブレーション装置としてNEW WAVE UP-213、ICP-MS装置としてAgilent 7500aを使用した。また、データ解析用の 三次元プロットにはgnuplotを用いた。
     分析にはベトナム、カンボジア、タンザニア、マダガスカル、ミャンマー産のルビー、タイ、カンボジア、ナイジェリア、ラオス、中国、タンザニア、ミャンマー、スリランカ、マダガスカル産のブルーサファイア、総計○○個の原産地が明らかな試料を用いた。
    マーブル起源のルビー(ベトナム、ミャンマー、タンザニア(モロゴロ))の識別には、Mg-V-Feの三次元プロットが有効であることが判った。また、玄武岩起源のブルーサファイア(カンボジア、タイ、中国、ナイジェリア、タンザニア産)をMg、Fe、Gaの三次元プロットが良い指標となることがわかった。
     LA-ICP-MS法を用いた微量元素測定による産地鑑別は一部データがオーバーラップする部分もあるため常に確実な情報をもたらす訳ではない。詳細な内部特徴の観察や標準的な宝石学的特性等を併用して相互補充的に用いられるものである。また、精度向上のためには確実な産地情報を持つサンプルの収集によるさらなるデータベースの充実が必要不可欠である。
  • 渥美 郁男
    p. 12-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    会議録・要旨集 フリー
    和田浩爾著の「真珠の科学」(1999年 真珠新聞社)によればアコヤガイ浜揚げ真珠には分光反射スペクトルにおいて固有の407nm430nmおよび460nmの3つの吸収があることが報告されている。これらの吸収は浜揚げ時点から、加温・前処理・漂白・調色など工程を経て消失してしまうことも述べられている。よって現在流通している大多数のアコヤ養殖真珠は上記の加工処理などが施されているために分光反射スペクトルによるアコヤガイの固有の吸収は確認できない。しかし昨年あたりから極僅かであるがアコヤ養殖真珠の流通にある変化がおきている。それはあえて浜揚げの状態で連組みしネックレスにして販売する試みがなされている。アコヤ養殖真珠本来の自然な色調のままに販売するのが目的であり、また加工処理をしないことで真珠の耐久性が向上するメリットも期待されている。今回、これら特定の浜揚げアコヤ養殖真珠に限られるが分光反射スペクトルの分析を用いて明確にアコヤガイ産であることを同定できるか検証を行った。またアコヤガイ、シロチョウガイなど貝殻および各種真珠との比較も行った。検証の結果、浜揚げアコヤ養殖真珠の分光反射スペクトルはアコヤガイ産の母貝特定に有効であるとの知見を得た。またアコヤガイ固有の3つの吸収が何故出るのかについても言及する。
  • 矢崎 純子, 鈴木 千代子, 小松 博
    p. 13-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    会議録・要旨集 フリー
    真珠のテリの強弱が発現する要因の解明、テリを出す方法の模索は、以前より養殖においての課題である。分泌されるアラゴナイトの結晶は、時期によって結晶面の状態や形に相違があり※1、アコヤ真珠の養殖では、テリの強い真珠を作るため浜揚げは12月~1月に行われている。その他、浜揚げ前に漁場を移動するなどの「化粧まき」と言われる作業や、テリの良いピース貝の育種なども行われている。
    テリは表層部の結晶層の積み重なり方が影響することは報告されているが、表面からどれくらいの結晶層の状態がテリに影響するのか、それがどれくらいの養殖期間に当たるのかについては、諸説あり※2、またどのような事項がテリに影響するのかも報告は少ない。したがって真珠のテリを解明するためには、情報を多角的に集め、様々な実験とその検証をする必要がある。
    当研究所では2011~14年にわたり浜揚げ直前の薬浴などの実験や分析を行ってきた。今回、これらの実験等を通してのテリの強弱など真珠への影響を分析し、考察したので発表する。なお、テリ測定は輝度と干渉色※3から行った。
    ※1:和田浩爾「真珠袋のCa代謝機構と真珠の品質形成」国立真珠研究所報告16,1949‐2027,1972
    ※2:和田浩爾「真珠形成機構の生鉱物学的研究」国立真珠研究所報告8,948‐1059,1962 内田洋一、上田正康「真珠の層状構造とiridescenceに就いて」生理生態1-3,171‐177、1947
    ※3:「表面に現れる干渉色の色彩分析による新たなテリの強度測定についてのアコヤ真珠での試み」小松 博 2014宝石学会
  • 南条 沙也薫, 庄司 文香, 小松 博
    p. 14-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    会議録・要旨集 フリー
    淡水真珠は無核で養殖を行っていたためさまざまな形の真珠が多い。しかし近年では核を使用して養殖した淡水真珠も流通するようになり、中には非常に大きなラウンド系の真珠もみられる。さらに色調に関しても一般的にホワイト系、オレンジ系、パープル系が知られていたが、同系統の色調でも中には濃い色調を持つ真珠がみられる。真珠の持つ色調は形成時に分泌される色素の量やその種類、分泌リズムによって変化する。色素の変遷に関しては「クロチョウガイ貝殻に見られる分泌色素の変遷についての考察」(吹田ら;2007年宝石学会)や「淡水貝の貝殻及び真珠に見られる色素の分泌リズムについての考察」(仁平ら;2008年宝石学会)が報告されている。
     今回当研究所では、一般的に知られている系統の色調とは少し異なる色調の有核淡水真珠を入手した。そこで本研究では、当該サンプルと共にオレンジ系、パープル系を含めた様々な色調の淡水真珠の特徴について観察、分析を行い、淡水真珠の分泌色素の変遷ついて考察した。
  • 山本 亮, 小松 博
    p. 15-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    会議録・要旨集 フリー
    真珠は市場に流通するまでに、前処理や漂白など様々な加工が行われる。これら加工工程において真珠の表面が荒れてしまい、白く曇ったいわゆる“ボケた”状態になることがある。このボケてしまった真珠の輝きを元に戻すため、桶磨きやバレル研磨と呼ばれる方法で真珠の表面を研磨することが一般に行われてきた。
     近年、研磨技術の発達により真珠同士をこすり合わせても全く引っ掛かりを感じないほど、極めて表面を滑らかに磨かれた真珠が流通するようになった。そのような真珠の中には、養殖過程で形成された突起などを削り落として形状を整えた真珠も見られる。
     この突起などを削り落した真珠(以下“削り珠”と呼ぶ)の特徴と観察方法についてまとめたので報告する。
    “削り珠”の多くは一目見ただけではわからないほど削られた部分が滑らかに磨かれている。しかし、以下の点を観察することで判別することが可能である。
    ① 顕微鏡観察
    削られた部分は、成長模様の幅が極端に狭くなっている
    ② 反射干渉色の観察
    拡散光で観察すると削られた部分は反射干渉色が出現しない
    ③ 目視による観察
    特定の角度から観察すると削られた部分が白く濁ったように見える
    さらに、これらの特徴より③の白濁する理由について、シロチョウガイの貝殻真珠層を用いて削り珠表面の状態を再現し、考察した。
  • 勝亦 徹, 白竹 香純, 相沢 宏明, 小室 修二
    p. 16-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    会議録・要旨集 フリー
    スピネル結晶(MgAl2O4)は、広い固溶領域を持つ立方晶系の結晶である。スピネル結晶は、Mg2+イオンとAl3+イオンの2種類の陽イオンが存在し、様々なイオンを添加することができる。スピネル結晶は可視光領域で無色透明であり、発光不純物の添加で、種々の蛍光材料が開発できる。また、結晶の合成条件によって、さまざまな色のスピネル結晶が育成可能である。
    今回は、フローティングゾーン法(FZ法)を用いて不純物を添加したスピネル結晶を育成し、不純物元素、組成(Mg/Al2O3モル比)、雰囲気ガス中の酸素濃度の影響を検討した。育成したスピネル結晶の色や発光は、添加不純物、結晶組成や雰囲気ガスの酸素濃度によって変化することがわかった。特に、Mnを不純物として添加した結晶の色は、組成や育成雰囲気中の酸素濃度によってうす緑、桃色、黄色などに変化することが確認できた。
  • 川口 昭夫, 二宮 洋文
    p. 17-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    会議録・要旨集 フリー
    緒言:宝石がもたらす輝きを「多面体による光路分割」とみなすことで定量的測定が可能であることを、前回までに報告した。(2014年、愛媛大)これは一般的な鑑定で用いられる等方的な光源ではなく直進光を入射させ、1本の光線が散乱・放射される(光路分割された)散乱光パターンを、入射光の角度を変えながら方位・数・角度分布・投影(反射)強度などに応じた画像から間接的に解析する手法である。試料からの散乱光を、放物面スクリーンなどに投影される「輝点」として観測した結果、サイズ分布(分散角としての立体角のヒストグラム分布)の一部に規則性が認められた。(「指数則」N(ω)=A0exp(-λω),λ›0) 今回はこの「指数則」からの逸脱を議論する。
    実験:光源(赤色レーザー光または白色LED光)、試料(ブリリアントカットダイヤモンド)、測定装置(ゴニオメータ上の球面極座標 (φ,θ)を移動する光源、放物面スクリーン)などは前回と同じものを用いた。投影された「輝点」のサイズ分布は撮像画像をオリジナルの解析ソフトウェアによって画像処理し計測した。前回と同じく、強度及び波長分散はカメラ感度の段階的変化(レーザー光)とRGB分解(白色LED光のカラー画像)処理によって評価した。
    結果・考察: ファセットカットされた「多面体」宝石試料による光路分割は、入射した直進光がファセット面での反射と屈折を通じて分割され、その結果「輝点」として散乱放射される。ここから有限範囲の検出野(たとえば鑑定士の視野範囲)を散乱光が走査し、通過する確率は、「輝点」の分布傾向(方位・数・サイズ・強度など)を通じて議論することができる。
    これは「鑑定士の目に散乱光が入る=輝いて見える)状況」を統計量として評価する考えでもある。「輝点」のサイズが大きい分布状況は、試料や入射光の角度が連続的に変化するときに、一定連続して検出野に信号が入ることを意味する。(ただし「サイズの大きな輝点」は「反射や分割の回数が少ない光路」を示すとも言えるが、全反射などで「分割や反射を経ても光強度の強い輝点」もあり得るので現時点では敢えて「輝点」の光強度の断定的議論はしない。)
    先の「指数則」が「輝点」サイズの小さい領域に認められる、ということは「指数則」から逸脱する成分(立体角が大きい分布)の数的評価が、「見る者の視野」や「見る方向」に輝きとして認識される確率や定性を左右することが考えられる。立体角のヒストグラム分布に最小自乗法を逐次的に用いたところ、回帰直線からの偏差に明確なギャップが認められた。
  • 北脇 裕士, 久永 美生, 岡野 誠, 江森 健太郎
    p. 18-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
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    中央宝石研究所に非開示で持ち込まれた15個のⅠb型黄色系CVD合成ダイヤモンドを検査した。これらはラウンドブリリアントカットされたルースで平均重量が0.25ctであった。カラーはVery Light Yellow∼Light Yellow、一部はBrownish であるが、同系色の天然ダイヤモンドと視覚的には識別ができない。
    FTIR分析ではすべての試料に1130cm-1、1344cm-1および1332cm-1に置換型単原子窒素ピークが検出された。これらのピーク強度から単原子窒素の濃度を見積もると平均3.6ppmであった。また、2875、2908、2948、3032、3107cm-1のピークが検出されており、これらは成長後のHPHT処理(1900∼2100°C程度)により形成されたC-H由来の吸収と考えられる。なお、2875および2908 cm-1のピークはBrownish な3個の試料ではそれぞれ2871および2902cm-1と低波数側にシフトしており、他の Yellowのものよりも熱処理の温度がやや低かったのではないかと推定される。
    633nmレーザーによるPLスペクトルはSi関連の737nmピーク(736.4/736.8nmのダブレット)が15個中13個に検出された。うち5個は非常に弱いピークであった。ほとんどの試料に908.9、876.7、853.4、851.6、850.2、824.6、819.1および795.8nmに帰属不明の小さなピークが認められた。
    514nmレーザーによるPLスペクトルは非常に強い637nm(NV)および 575nm(NV0)がすべてに検出された。630.4および628.6nmの対のピークが15個中9個に見られた。また、ほとんどの試料に565.6、555.6、554、544.4、536.5、534.9、533.0、532.0、529.1、528、524.1および521.4nmに帰属不明の小さなピークが検出された。
    488nmレーザーによるPLスペクトルはすべての試料に637nm(NV)、575nm(NV0)および503.2nm(H3)の強いピークが検出された。H3/NVの強度比は12個のYellowの平均が1.43、3個のBrownishの平均が0.82であった。As-grown のCVD合成ダイヤモンドではH3センタは検出されず、高温での熱処理においてH3/NVの強度比が大きくなることが知られており、このことからもBrownishな試料は熱処理温度がやや低かったと推定できる。
    DiamondViewを用いて検査した試料すべてにH3に因ると思われる緑色が優勢な発光色とCVD合成特有の線模様が観察された。また、同系色の燐光もすべてに観察された。
    このようにⅠb型の黄色系CVD合成ダイヤモンドは、標準的な宝石学的検査だけでは識別が困難であるが、低温下でのPL分光分析やDiamondViewによる紫外線蛍光像の観察によって確実に識別することができる。
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