宝石学会(日本)講演会要旨
平成28年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
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平成28年度 宝石学会(日本) 特別講演要旨
  • 実験天文学から「はやぶさ2」まで
    橘 省吾
    p. 1-
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/31
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    太陽系は今から 45 億 6700 万年前に誕生 した.太陽系のもととなった元素は,ビッ グバンで誕生した水素,ヘリウムを除いて, 恒星内部の核融合反応でつくられる.恒星 内部でつくられた金属元素は,進化末期の 恒星からの質量放出風の中で塵として凝縮 し,星間空間へと放出される.このような 塵が次世代の恒星や惑星の材料となる.
    進化末期の恒星が放出するガスの中や, 誕生直後の恒星の周囲の原始惑星系円盤 (惑星を産む母胎となる)に存在する塵の 正体は赤外線天文観測で調べられている.
    塵による特定波長の赤外線の放射や吸収 の特徴から,かんらん石や輝石,コランダ ムといった鉱物,非晶質ケイ酸塩,非晶質 炭素,芳香族炭化水素などの存在が報告さ れている.ペリドットやルビー,サファイ アが宇宙には塵として存在する.
    このような塵が宇宙を旅し,太陽系に持 ち込まれた証拠が隕石のなかに見つかって いる.隕石の中には,太陽系の平均的同位 体組成とは大きく異なる微粒子が存在する. 同位体組成の大きな違いは太陽系での物理 化学反応では説明できないため,これらの 粒子は太陽系ができる前に銀河系内の恒星 の放出するガスの中でつくられ,その恒星 での元素合成(核融合)を反映した同位体 組成を保っているものと考えられている.
    これらの微粒子は先太陽系(プレソーラー) 粒子とよばれ,太陽系の材料そのものだと 考えられている.最大でも 100 ppm 程度の 量ではあるが,ケイ酸塩,酸化物,炭化物, 窒化物,ダイアモンドなどのプレソーラー 粒子が見つかっている(プレソーラーコラ ンダム粒子(約 1 マイクロメートル)の電 子顕微鏡写真を以下に示す).
    また,隕石には誕生直後の太陽系で高温 のガスからつくられた塵やその集合体も含 まれる.難揮発性包有物とよばれる太陽系 最古の固体物質はカルシウムやアルミニウ ムといった難揮発性元素に富む鉱物の集合 体である.また,鉄に乏しいかんらん石の集合体も存在する.
    我々の研究室では宇宙での塵の形成を実 験室で再現し,塵をつくりだす実験をおこ なっている.進化末期の恒星の周囲や誕生 直後の太陽系の高温・低圧環境を実験室に つくりだし,鉱物の晶出過程を調べている. 実験室でおこなう天文学である.以下に真 空赤外炉の写真およびガスから凝縮したフォルステライト微粒子(スケールバーは 1 マイクロメートル)の電子顕微鏡写真を示 す.
    プレソーラー粒子は太陽系の材料の形成 プロセスを,難揮発性包有物やかんらん石 集合体は太陽系初期の高温鉱物形成プロセ スを知る手がかりとなる.これらの固体物 質は前述のとおり,隕石に含まれる.隕石 は宇宙から来た石であるが,実は隕石が本 当にどこから来たのかについてははっきり とはわかっていなかった.それに決着を付 けたのは,2010 年に小惑星イトカワの表面 粒子を回収し,帰還した探査機「はやぶさ」であった.地球に豊富に存在する普通コン ドライトとよばれる隕石が小惑星を起源と するということが証明されたのだ.
    しかし,炭素質コンドライトとよばれ, 鉱物だけでなく,水(含水鉱物として)や 有機物を含み,海や生命の材料を地球にも たらした可能性のある隕石がどこから来た のかについてはわかっていない.また,水 や有機物が鉱物を主とする天体でどのよう に進化したのかについてもはっきりとした 結論は出ていない.これらの問題は炭素質コンドライトのもととなったと考えられる 天体に行けば,解決の糸口がつかめるはず である.太陽系の起源と進化,海や生命材 料の進化の場をさぐることを目的に,2014 年 12 月に探査機「はやぶさ 2」が小惑星リュウグウへと旅立った.リュウグウは C 型 小惑星に分類され,炭素質コンドライトの 母天体である可能性が高い.2020 年末から 始まるリュウグウサンプルの分析で私たち がなにを解き明かそうとするのかについて もお話ししたい.
平成28年度 宝石学会(日本) 一般講演要旨
  • 上杉 初, 齊藤 宏, 小滝 達也
    p. 2-
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/31
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    1.はじめに
    照射、焼鈍し処理によるピンクカラーのダイ アモンドは、紫外線検査においてオレンジの 蛍光を示すことは良く知られている。近年、注目されている処理ピンクカラーのCVD合成ダ イアモンドも同様であることが報告されている。 現在流通している天然カラーのピンクダイアモ ンドの多くはブルーの蛍光を示すため、蛍光 性はピンクカラーの処理の検出に有効な検査 の一つとなっている。
    しかし、ごく稀ではあるが、オレンジの蛍光 を示す天然カラーのピンクダイアモンドを検査 する機会がある。そこで、エージーティージェ ムラボラトリー(以下AGT)で、過去10年間に 検査したオレンジの蛍光を示す天然カラーの ピンクダイアモンドの特徴を報告する。
    2.一般的検査結果
    オレンジの蛍光を示す天然カラーピンクダイア モンド(AGT 2006-2015 蛍光ミディアム以上)
    ・検査数 :18 石
    ・Carat : 0.15 - 6.20ct.
    ・Color : Fait - Fancy [Orangy] Pink
    3.分光検査結果
    FTIR測定の結果、タイプは全てⅡa であっ た。紫外可視分光検査は、光ファイバーで測 定光を外部試料室へ導入し、液体窒素を使 用して測定できる紫外可視分光光度計 (日 本分光:Ⅴ‐670)を使用した。室温での検査 では、507nm に幅広のバンドが検出され、さら に、いくつかのサンプルでは 575nm にも吸収 が検出されたが、通常天然ピンクカラーのダイ アモンドに認められる 550nm のバンドは検出 されなかった(図1)。冷却温度では、575nm、 637nm NVセンターが認められたが、処理ピ ンクダイアモンドに認められる 595nm のピーク は検出されなかった。
  • 小川 日出丸, 渥美 郁男
    p. 3-
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/31
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    昨年、無色のメレダイヤモンド 211 個入りのロットを検査する機会を得た。パーセルには、 Size 1.25-1.35mm Color D-E-F Clarity VS-VVS Shape Round Full Cut の表記があった。販売者であるアメリカの R 社 によると内容は CVD Synthetic Diamond で、 価格は600USドル/ctとのことであった。ちなみ に同等の天然メレダイヤモンドとほぼ同じくら いの価格相当と思われる。
    一個の重量は 0.008~0.012ct であるこれら の石について、FT-IR を使用して赤外分光検 査をおこなった。その結果、12 個は明瞭なⅠ 型を示し検査の結果は天然石であった。残り の 199 個はⅡ型に分類されたので、検査を継続した。
    拡大検査では、塊状や棒状の金属と思われるものや、松枝状などの内包物がみられた。 内包物によっては磁石に引き寄せられ、磁性 を示す石もあった。
    フォトルミネッセンス(PL)測定など詳細な検 査をおこなった結果、高温高圧法による合成 ダイヤモンドであることが判明した。またⅡ型 のなかに天然石が1個確認された。
    以上、天然石が混入していることや CVD 法 による合成石が確認できなかったことなど、販売者の言と異なるメレサイズダイヤモンドのロットであった。
    無色系のメレサイズ HPHT 合成ダイヤモンドについてはすでに報告(注 1)があり、分析 結果や特徴などについて紹介されている。 今回検査した石のカラーグレード(注2)は D-E-F となっていたが、D カラーは数個でほと んどが F から H であり、僅かに色を持っていた。 色調ごとに分類したところ、青色・黄色・緑色・ 灰色系になった。赤外分光、PL スペクトルなどに違いがないか調べた。
    クラリティは VS-VVS の表示であったが、内包物は多くみられた。内包物の形態や、未研 磨面に残された結晶面に特徴がないか観察 した。
    (注 1)
    北脇、久永、山本、岡野、江森、2016.1 無色系メレサイズ HPHT 法合成ダイヤモンド CGL 通信 No.30
    古屋正貴 2015.12 合成ダイヤモンド アップデ イト Gem Information W.Soonthorntikul P.Siritheerakul 2015summer Near-Colorless Melee Sized HPHT Synthetic Diamonds Identified in GIA Laboratory Gems&Gemology
    (注 2)
    宝石鑑別団体協議会(AGL)の規約により、合成ダイヤモンドのグレーディングはおこなわない
  • 北脇 裕士, 久永 美生, 山本 正博, 江森 健太郎, 岡野 誠
    p. 4-
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/31
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    宝飾用に供される合成ダイヤモンドのサイ ズおよび品質は年々向上しており、HPHT 法 合成ダイヤモンドでは10ct以上、CVD法合成 ダイヤモンドにおいても 3ct 以上のものが報告 されている。いっぽう、メレサイズの無色合成 ダイヤモンドのジュエリーへの混入も宝飾業界 の大きな懸念材料となっている。
    本研究では、中国で製造されインドで研磨 されたと推測される宝飾用のメレサイズの無色 ~ほぼ無色の HPHT 法合成ダイヤモンド45石を研究用に入手し、その宝石学的特性と天然 ダイヤモンドとの重要な識別特徴について検 討を行った。
    これらはすべてラウンドブリリアントカットが施さ れたルースで、重量は0.0075~0.023ct であっ た。検査した多くのものは 10 倍ルーペにおい て特徴的な包有物は認められなかった。およ そ 2 割弱程度のものには棒状や塊状、あるい は樹枝様の金属包有物が認められた。これら の金属包有物を包有するものは、強力なネオ ジム磁石に対しては明瞭な磁性を示した。交 差偏光板を用いた顕微鏡観察において、明 瞭な歪複屈折は認められなかった。ほとんどの検査石は長波紫外線下において明瞭な発 光は認められなかったが、一部に弱い青白色 もしくはオレンジ色の蛍光が観察された。短波 紫外線下ではほとんどのものに強弱の差はあるものの青白色の燐光が観察された。短いも のでは数秒であるが、長いものは 5 分以上発 光が継続した。一部にオレンジ色の燐光を示すものもあった。
    FTIR で測定した 12 個すべての試料はダイヤモンドの窒素領域(1500~1000cm-1)に吸収を示さないⅡ型に分類された。12 個中 9 個 にはホウ素に由来する 4093、2928、2810、 2460cm-1 に吸収が見られ、Ⅱb型であることが 確認された。PL測定を行った12個中10個に Ni(ニッケル)由来の 883.2nm と 884.8nm のダ ブレットが検出された。また 1 個の試料にのみ 737nm(736.4/736.8nm のダブレット)ピーク (SiV-)が検出された。紫外線ルミネッセンス 像およびカソードルミネッセンス像では HPHT 法特有の分域構造と青色の燐光が観察され た。蛍光 X 線分析および LA-ICP-MS 分析で は Co、Fe、Ti、Cu が検出された。
    これまで合成ダイヤモンドの宝飾用への利用 は限定的であった。しかし、最近になってメレサイズの HPHT 法合成ダイヤモンドがセッティングされたジュエリーから発見される事例が急 増している。幸いにも個々の合成石は標準的 な宝石鑑別手法とラボラトリーの分析を組み合 わせることで看破は可能である。ダイヤモンド の出所に関する正確な情報開示と適切なスクリーニングが重要である。
  • 川口 昭夫, 二宮 洋文
    p. 5-
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/31
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    緒言:
    カットデザインされたダイヤモン ドなどを「ファセット平面によって構成 される多面体」とみなせば、その輝きは 多面体による可視光の散乱現象である。 通常の評価は等方的な光源環境の元で行 われるために定量評価は難しい。これに対して入射光として直進光を用いた条件 で入射方位を多く取ることで等方的環境を近似し、間接観測した散乱光を画像解析する測定法をこれまでに報告してきた。 (2015 年・甲府、など)今回は相対的・ 間接的ではあるが散乱光強度との相関、 および「指数則」からの逸脱とダイヤモ ンドのカットグレードとの相関について経過報告する。
    実験:
    直進光源(赤色レーザー光または 白色LED光)、試料(ブリリアントカッ トダイヤモンド)、測定装置(ゴニオメー タ上の球面極座標 ( φ ,θ )を移動する光源、 放物面スクリーン)などはこれまでの報告と同じ装置を用いた。投影された「輝点」のサイズ(散乱光束の立体角)分布 は撮像画像をオリジナルの解析ソフトウェアによって画像処理し計測した。前回 と同じく、強度及び波長分散はカメラ感 度の段階的変化(レーザー光)と RGB 分 解(白色 LED 光のカラー画像)処理によって評価した。
    結果・考察:
    カットデザインされた「多面体」による光学散乱は、ファセット面での反射と屈折を通じた直進光の分割問 題に置き換えて考えることができる。1 本の直進光を試料に入射させた場合には 多数の「輝点」として散乱放射されることから、このときの「輝点」の分布状況 が散乱光観測(観測者による輝きの認知) の光路条件であり、光路分割の実測ということになる。ただし変換曲面に投影された「輝点」計測は間接的測定なので、強度についての議論は定性的として今後の検討課題と考える。
    その理解の上で前回までに報告した「指数則」(散乱光の立体角Ωのヒストグラム 分布 N(Ω)=A0exp(-λΩ), λ>0 )が検出感度・カットグレードを変えた条件でも共 通して認められること、また立体角Ωの大 きい領域で「指数則」からの逸脱傾向が 認められ、高グレード(EX, 3EX,,,)では逸 脱が昂じて離散的分布になること、などから、光路分割の回数がグレード評価との相関を持つ可能性が示唆された。
    具体的には光路分割の回数が少ない光路 (が得られるデザイン)が高グレードと される可能性が高く、その上で高強度(理想的には全反射条件)の散乱光束が視覚 の点で効果的と考えられる。ただし強度のみの議論では低グレードの「立体角Ωの小さい」成分との峻別が難しくなる可能性もあり、定性・定量の両面の検討が 求められる。
  • 李 宝炫, 李 盈周
    p. 6-
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/31
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    2015 年の 6 月にソウル市の支援で設立され たソウルジュエリーセンターはジュエリー産 業の活性化及びジュエリー産業の集積地で ある鍾路地域の育成や発展を目指し、総合 支援施設として様々な事業を行っている。セ ンター内にあるラボでは宝石や貴金属の分 析を行う装置を揃え、業界への分析サポートや流通されているジュエリー完成品及び原 材料に関するモニタリング事業を行っている。 そのため、ジュエリー分野に適した分析方法 の提案が必要である。
    LIBS(Laser- induced breakdown spectroscopy)分析はレーザー源を利用して 材料表面の一部をプラズマ化し、プラズマか らの発光を分光分析する方法である。特に 軽元素を含むすべての元素測定が可能で あることからこれまで主にコランダムのベリリウム検出に行われてきた。さらに 破壊面積 が極狭小な範囲(直径約40µm程度)での あることと迅速な測定が可能であるためジュエ リー分野の様々な材料への応用分析が期待される。
    ソウルジュエリーセンターでは応用分析法の一つとして保有している LIBS 装置(J200, ASI)を用いて鑑別に必要な宝石材料を含め、 貴金属として韓国で主に使われている金の合金材料の定性·定量分析を行っている。韓国では金合金の定量分析を行うため一般的に国際認定規格の検査法である ICPMS 及び Cupellation 法を採用している。しかし、これらの方法は破壊分析であり、分析に必要 な試料量も最小 1g 以上となる。したがって、 金合金の定量分析の応用として LIBS 分析 を試してみた。金の含有量による標準試料 を用いてジュエリー製品の含有量やろう付け 部分の元素ごとの比較分析を行った。まだ 認定規格の結果との充分な比較や検証過 程は必要であるが、このような LIBS による貴 金属の分析はジュエリー製品の破壊を最小 化できる応用分析の一つとして考えられる。 それで、現在までの貴金属の分析方法の紹 介と共に新しく試した LIBS による金合金の 分析法を紹介する予定である。さらに、宝石材料であるダイヤモンド及び色石の幾つか の鑑別特徴を LIBS 結果で紹介する。
  • 福田 千紘
    p. 7-
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/31
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    LIBS(レーザー誘導ブレークダウン分光法)は 試料の下処理が不要で迅速な分析が出来, ほぼすべての元素を検出することが可能なことから探鉱やライン設備だけでなく惑星探査 にまで採用されている。2006 年に全国宝石学 協会が導入したLIBS2000+システムでは主に 拡散加熱処理コランダムの識別に使用されて いたが定性分析が主であった。近年精度や安 定性と操作性が大きく向上しており金属・鉄鋼 業界や犯罪捜査では各種元素の定量分析も行われている。そこで Applied Spectra 製の LA-LIBS システムを導入し旧来の用途以外に 宝石鑑別の現場でどこまで応用が可能かを検 証した。不活性ガスの導入も旧機種はアルゴ ンガスのみ使用可能だったがヘリウムガスも使 用可能になりパージするガスの種類と結果の 関係についても検討した。
    旧来から行われていた拡散加熱処理が施されたコランダムの分析では旧機種に比較して Beの信号強度は大幅に向上していた。また旧 機種では不明瞭なピークしか認められなかった微量の Cr,V,Fe 起源のピークは明瞭になり近接するピークとも容易に分離可能である。 またコランダムに微量含有される Mg は蛍光X 線分析では検出限界を下回っていたがLIBS分析では強いピークが確認された。Be に関し ては 1ppm を下回るものまで検出可能なことが 知られており拡散加熱処理の施されたコラン ダムの鑑別には有効である。
    レーザーエネルギーの精密なコントロールとスポットサイズの変更が不可能だった旧機種ではコランダム以外には応用されていなかった が本研究ではコランダム以外の宝石種についても試行した。その結果,スポットサイズの拡 大やレーザーエネルギーの低減により試料に 与えるダメージや分析痕の調整が可能となり コランダムよりも硬度の低いより脆い素材でも 安定した結果が得られた。
    定量分析はNISTやUSGSの標準試料を用いて検量線を作成する手法が公表されている。 本研究では拡散加熱処理が施されたコランダ ム中の Be の定量分析を試行した。比較的濃 度の近い NIST-610 と 612 を用いて検量線を作成し得られたデータを評価した。
    PCA 分析と呼ばれる手法がLIBSシステムで 使用されており既に紛争地域で産出した希少金属資源や金属材料の産地判別などで実績 が報告されている。この手法を用いた各種宝 石の原産地鑑別の可能性について報告する。
  • 江森 健太郎, 北脇 裕士
    p. 8-
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/31
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    判別分析は事前に与えられているデータが異 なるグループに分かれる場合、新しいデータ が得られた際に、どちらのグループに入るの かを判別するための基準を得るための正規分 布を前提とした分類の手法である。応用範囲は幅広く、病気の診断、スパムメールフィルター等にも応用されている。宝石分野では、ルビー、サファイア、パライバトルマリンの産地鑑別、HPHT 処理の看破(Blodgett et al, 2011)や ネフライトの産地鑑別(Luo et al, 2015)といった 研究例がある。
    本研究では、LA-ICP-MS によるアメシストの 微量元素分析データを用いた判別分析を行い、天然・合成の鑑別の可能性について検討 を行った。
    アメシストの天然・合成を鑑別する手法としては、内包物およびカラー・ゾーニングの観察、 双晶の有無、赤外分光分析等が伝統的に利用されてきたが、今なお判別の困難な合成石 の流通が多く、より精度の高い鑑別法の確立 が求められている。
    宝石鉱物は天然の場合、母岩や産出状況と いった地質的な環境情報を保持するのに対し、合成宝石はその製造方法に関する微量元素 に特徴を持っている。そのため、高精度の微 量元素の分析とデータ解析は宝石の天然・合 成の鑑別にきわめて有効である。
    分析に用いた試料は、天然アメシストとして、ザンビア、ブラジル、ニュージーランド、日本産を含む計 50 個と、合成アメシストとして 49 個である。 LA-ICP-MS 装置はレーザーアブ レーション装置として NEW WAVE UP-213、 ICP-MS装置としてAgilent 7500aを使用した。 分析の結果、7Li, 9Be, 11B, 23Na, 27Al, 39K, 45Sc, 47Ti, 66Zn, 69Ga, 72Ge, 90Zr and 208Pb を用いた判別分析は天然、合成アメシストの鑑別によい指標となることがわかった。
    また、天然・合成の鑑別とは異なるが、ザン ビア産とブラジル産のエメラルドに対し、同じ 元素の組み合わせで判別分析を用いたところ、両者を明確に区別することができた。
    宝石鉱物は産地や製法を反映した複数の 微量元素を含む。判別分析はそれら複数の 微量元素濃度を一度に取り扱うことができる手法であり、今後も宝石分野でも様々な応用が 期待できる。
  • 荻原 成騎
    p. 9-
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/31
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    ミネラライトを用いて、世界各地の両錐 水晶の蛍光性を確認した。一部試料につい て蛍光特性を測定し、GC/MS 分析により蛍 光起源化合物を特定した。
    (1)パキスタン・アフガニスタン産含石油 両錐水晶の蛍光性は、よく知られている。 石油状物質のみならず黒色炭質物を包有する透明度の高い麗しい水晶である。
    これに対して、中国四川産水晶(シチェア ンクォーツ)は、包有物としての炭質物が 多く、水晶としての品質は低く、弱い蛍光 性を示す。四川産水晶には、高温水晶と認定される試料が含まれるが、高温水晶にも 蛍光性を示す試料がある。蛍光を示す高温 水晶は、ほとんど知られていない。蛍光起源化合物が高温(573℃以上)で 酸化分解せずに、包有物として取り込まれている可能 性は、驚きである。
    このタイプの両錐水晶で最も有名な水晶 は、Herkimer Diamond である。調査を行っている NY 州 Herkimer, Ace of Diamond 鉱 山では、明瞭な蛍光を示す試料の産出は、 ここ 12 年で僅かに 1 個であったという。一 般的な Herkimer Diamond の産状を紹介し、蛍光性を示す試料、母岩である苦灰岩、晶 洞を被覆する炭質物について報告する。
    (2)多量の蛍光物質を含むパキスタン・ア フガニスタン産含石油水晶について石油状 物質を抽出し、蛍光分光分析により蛍光の 特徴付けを行い、さらに地球化学的手法で 蛍光物質を分析した。その結果、水晶に包 有される有機物は、CPI 値 1.0 程度の直鎖ア ルカンの存在、hopanoid や suteroid などの 環状バイオマーカーの欠如などで特徴付け られた。蛍光起源物質は種々のアルキルベ ンゼン類であり、通常石油に含まれる蛍光 物質であるPAH(多環芳香族炭化水素)は、 微量であった。
    Herkimer Diamond の母岩である苦灰岩の 有機地球化学分析結果は、驚くべきことにパ キスタン・アフガニスタン産含石油水晶の 包有物の分析結果とよく一致した。すなわ ち、Herkimer Diamond の母岩は、アルキルベ ンゼン類で特徴付けられた。
    まとめ 蛍光性を示す包有物の有機地球化学 組成は、Herkimer Diamond で代表される clean clear な水晶の起源について、有益な情 報を含んでいる可能性がある。
  • 林 政彦, 坂巻 邦彦, 安井 万奈, 山崎 淳司
    p. 10-
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/31
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    はじめに
    1980 年代には,我が国の京セラや 諏訪精工社(当時)などで製造された合成エメ ラルドが流通し,それぞれクレサンベールやビ ジョレーブという商品名を使っていたが,本発 表では,商品名を持たない合成エメラルドに ついて報告する.
    特 徴
    今回発表する合成エメラルドは,綺 麗な緑色を呈し,原石は六角柱状で ある.屈折率は,1.562-1.558.カラー・ フィルターで鮮赤色を示す.出願されている 特許によるとフラックス法で造られている.内部には Phenakite と思われる結晶を含む.この合成エメラルドのラマンスペクトルを測定したので紹介する.その他,鉱物学的な特性を報告する.
    宝石鑑別にあたり
    このエメラルドを鑑別する場合,屈折率の測定を行えば,天然エメラル ドと間違えることはないであろう.
  • 高 興和, 古屋 正貴
    p. 11-
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/31
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    タンザナイトの色の評価については、タンザ ナイトファウンデーションが提唱する"Tanzanite Quality Scale"などが知られている。青系、紫 系と分けているところにタンザナイトならではの 特徴があるが、他の色石同様色の強さ(彩度)が高いものが良いとされている。
    この研究ではタンザナイトの色の評価となる 青、紫の強さがどのような要因で決定されるか考察し、色に影響をするものとしては、1)色の 原因であるVの含有量、2)加熱の有無、3)結 晶の方向(オリエンテーション)が考えられた。
    実験の結果、非加熱のものでは V の含有量 と色の間に相関関係は見られず、加熱のものでは図1のように V の含有量と色の強さに相 関関係が見られた。また、結晶の方向は色の 強さには関係せず、青か紫かを決定するよう に考えられた。この結果は加熱によって含有 される V による色が十分に発現したことによる と考えられる。また、逆にその V が含有量から 推測されるほどに発現していないことは、非加熱であることを示唆するとも考えられた。
    また、市場で"ファンシーカラー・タンザナイト"とも呼ばれるピンクやオレンジ、また緑色のも のについてもその色の原因を調べた。 ピンクやオレンジのものからは青、紫系のもの には見られない高い Mn の含有が確認された。 また同時に V の含有も確認され、加熱によってはより紫になったものも確認された。また、緑のものからは比較的高い濃度の Cr が検出 された。またサンプルの多くは加熱されており、 V の含有量が少ないこともあって加熱後も緑 色のままだった。
    このように青、紫系のタンザナイトは加熱の有 無と V の含有量によって、ピンク系のゾイサイ トは Mn、緑系のゾイサイトは Cr による着色であり、それらが複雑に影響し合い、色が発現していることが確認された。
    また、今年5月にブロック D の鉱山を視察し た。ブロック D では 100 人規模の大規模な採 掘が行われていたが、機械化はされておらず、 手作業による採掘によってすでに坑道が長さ 800m、深さ 450m に達するまで採掘が進められている。前年に報告を行った、ブロック B で はその半分程であったことから、ブロック D の 採掘の活発さが分かる。
    ブロック D から産出するタンザナイトはブロック Bのものに比べ色が強く、また透明度の高いものも多く、その高い品質から上記のような活発 な採掘が行われているものと考えられる。
  • 奥田 薫, 工藤 英一, 林 栄里, 水野 拓也, 永井 美智子
    p. 12-
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/31
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    一般的に、宝石鑑別機関では、①ダイヤモ ンドのグレーディング(4C)と②宝石の鑑 別の 2 種類において、それぞれに証書の発 行およびソーティングを行っている。これ らの証書およびソーティングの依頼は、そ の石の取引を円滑にすることを目的として 行われることが多い。 特に、①のダイヤ モンドのグレーディングに対し、②の宝石 鑑別では、全ての天然石および人工石が対 象となるため、その依頼内容には、実際に、 その時にどのような宝石が市場に流通して いたのかが、反映されていると考えられる。
    今回、中央宝石研究所(以下、CGL)が過 去 5 年間に受けた宝石鑑別依頼の内容から、 そこに反映されている市場動向について調 査を行ったので、その結果について報告する。
    CGLの過去5年の宝石鑑別の実績を調査し たところ、毎年、天然石として約 400 種類、 人工石として約 30 種類の鑑別が行われて いた。 しかし、それぞれの宝石種の鑑別依頼個数 を比較すると、上位 5 種類の宝石種で全体 の約 50%を占める結果となっていた。
    年度によって順位は変動していたが、常に上位を占めていたのは、「ルビー」、「ブルー サファイア」、「ダイヤモンド」および「エ メラルドで、特に、「ルビー」および「ブル ーサファイア」を含む「コランダム」は、 調査期間中を通じて、常に全体の約 30%を 占めていた。
    鑑別依頼個数の変化では、大部分の宝石種 において、大きな変動は認められなかった が、「さんご」、「エメラルド」および「ブラ ックオパール」において、明らかな増加傾 向が認められた。また、「ジェダイト」、「クリソベリルキャッツアイ」および「こはく」 にも同様の傾向がみられた。 反対に、減少傾向を示した宝石種は少なく、「ダイヤモンド」および「ロッククリスタル」において認められたのみであった。
    日本から国内外で消費された宝石に関する 正確なデータを知ることは難しいが、近年、 日本の宝飾業界に「中国市場」と「再流通 市場」が、大きな影響を及ぼしていること は周知の事実である。また、単価が低いな がらも、「パワーストーン市場」の影響も無 視することはできない。今回得られたデー タは、それらの動向を十分に裏付けるものであった。
  • 中嶋 彩乃, 古屋 正貴
    p. 13-
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/31
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    日本のオパールの産地には、北海道鹿追 町然別湖、福島県西会津町宝坂、石川県珠 洲市、富山県立山市新湯温泉、鹿児島県牧 園町などが知られているが、総じて白色~黄 色のオパールであるのに対して、石川県小松市の赤瀬から産出オパールには、青色のものが多くみられるのが特徴である。
    この産地は小規模ではあるが、50 年程前まで商業採掘が行われていた。今回、著者が 2015 年 10 月に採集に行き、採取したサンプルを元に分析を行なった。
    オパールは流紋岩の割れ目に産出し、崖 崩れなどで露出した面や、そこから流出した 土砂の中から発見された。またオパールを含む母岩の外側に球顆が見られることも多く、指示鉱物ともされるほどだが、その理由は明らかではない。
    採取したオパールは報告されていたように青いものもあったが、乳白色~黄色のものが 主であった。石川縣地質鑛産誌(1953)やインターネットの採集家の記載では遊色効果を示すものもあるということだが、採取したものには 見られなかった。
    このオパールの青色は遷移元素などによる 吸収によるものではない。同じ白色の LED 光 を透過させると黄色に見えるが、上から当てると青色に見える。(図1、2)また、図1のように 吸収スペクトルを計測すると黄色の分光スペクトルが得られるが、図2のように反射のスペクトルを計測すると青色の分光スペクトルが得られた。これはムーンストーンと同じようにレイリー散乱の効果によるものと考えられる。
    同様のオパールはアメリカ・オレゴン州やブラジルからも産出している。また、ブルーオパールとしてより広く流通しているペルー産のものは、銅を含むことによって特定波長の吸収が起こることによるものであり、また色もより緑 がかったもので、色の原因が異なる。
    今回採取した中には一部に宝石用にカットできたものもあり、日本から産出する宝石の一つとして広まることを願っている。
  • 山本 亮, 小松 博
    p. 14-
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/31
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    クロチョウガイには主に赤系と緑系の色 素が存在し、これらが複雑に関係すること により様々な色調を持つ真珠が産出される と考えられている(※1)。
    この黒蝶真珠が持つ色素は変色や褪色し にくいと言われており、これまでその色調 を改変するような加工はあまり行われていなかった。
    しかし近年、ショコラやピスタチオなど と呼ばれる色調を改変した黒蝶真珠が流通 するようになった(※2)。これらの色調は 主に真珠の表層に染料を浸漬して作られているようであるが、中には漂白により作られるものがあると言われている。
    また最近の事例になるが、漂白により黄 緑がかった色調に改変した言われる黒蝶真 珠が持ち込まれた。この真珠を分析したが、 漂白により色調を改変したことを示す特徴 を確認することはできなかった。
    今回、アコヤ真珠で一般に行われている 方法でクロチョウガイ貝殻と真珠の漂白を 行い、その色調及び特徴の変化について調べたので報告する。
    ※1 「クロチョウガイ貝殻に見られる分 泌色素の変遷についての考察」 吹田ら 2007 年宝石学会
    ※2「真珠及び貝殻を加熱することによる 色調の変化についての考察」 渥美ら 2009 年宝石学会
  • ―主にヤコウガイ、アワビについて
    矢崎 純子, 南條 沙也香, 小林 公治, 松田 泰典, 小松 博
    p. 15-
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/31
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    螺鈿細工に用いられる貝には、ヤコウガイ (Turbo marmaratus)、アワビ(Haliotis (Nordotis))などの巻貝と、シロチョウガイ (Pinctada maxima)、クロチョウガイ(Pinctada margaritifera)などの二枚貝があるが、 螺鈿 材料としての貝殻の判別は、目視などで判断 されている。
    本研究では、判別法確立のため主にヤコウ ガイ、アワビとシロチョウガイについて、その特 徴を分析した。
    まず、各貝殻の構造(※1)の比較分析を行った。 ヤコウガイ、アワビでは巻貝特有の柱状真珠 層構造が、シロチョウガイでは二枚貝の構造 であるシート状真珠構造が確認された。この構造の違いは、研磨された表面の観察からも 確認することができた。
    また、各貝殻の断面数か所を観察すると、ヤ コウガイでは、外面に稜柱層、内部に真珠層があり、内面にも稜柱層が確認された(※2)。また、内面の稜柱層の厚さが貝殻の箇所により異な り、その厚さによって真珠層の干渉色の見え 方に違いが見られた。
    次に各貝殻の真珠層部を水平方向に切り出 し、薄片を作成し観察した。ヤコウガイでは、 薄片はゆるやかに湾曲したように見え、アワビ では波打ったように見える。薄片の断面の真 珠層を観察すると、ヤコウガイの真珠層は研 磨面に対し湾曲しており、アワビは箇所によって角度が変わっている。この真珠層構造が、 薄片の見え方に影響していると推定できた。
    ※1 二枚貝における殻体構造の進化、魚住 悟、鈴木清一、「軟体動物の研究」1981, 63-77,大森昌衛教授還暦記念論文集刊行会
    ※2 動物系統分類学 5(下)軟体動物(Ⅱ)
  • テリ向上へのアプローチ
    南條 沙也香, 室賀 文香, 小松 博
    p. 16-
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/31
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    真珠は「テリ」、「地色(実体色)」「まき」、 「形」、「キズ」、「面」等を構成要素に持ち、 品質が決定される。その中でも「テリ」は 重きを置かれている。
    これまで「テリ」は真珠検査制度設立に 向けての専門家による諸考察(*1)にもある ように「巻き」と相関していると考えられ、 現在でも多くの人にそのように捉えられている。
    また、真珠の「テリ」に関して国立真珠 研究所を中心に幾つかの研究が行われてき た。その中で水温が真珠の結晶の成長に影 響を与えるとし、季節変化との相関性を示 した報告がある(和田:国立真珠研究所報 告:1961)。冬の時期は美しい干渉色を放つ 層を形成すると報告されており、実際の養 殖の「浜揚げ」も 11 月から 2 月にかけて行 われる。
    当研究所の研究において「テリ」は「巻き」との相関性が必ずしも見られず、また 結晶の整然性、厚さの均一さ等様々な要因 が重なってテリの強弱に影響を与えている と考えられた。そのため養殖過程において水温以外の要因も存在すると示唆される。 以上のことを踏まえ、これまでの報告や定説を再検討し養殖過程でのテリの向上について考察したのでこれを報告する。
    参考文献
    (*1) 松井 桂一(真珠の事典;1965)
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