宝石学会(日本)講演会要旨
平成29年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
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平成29年度 宝石学会(日本) 特別講演要旨
  • 小松 博
    p. 4-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
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    真珠の品質は、テリ、キズ、面、かたち、まき、色などの品質要素から成っており、それぞれの評価と要素間の按分比を考慮し、品質評価されている。

    養殖真珠を誕生させた日本では、 1952 年(昭和 27 年)に発布された真珠養殖事業法によって、真珠検査所が設立され、真珠の検査が行われていた。しかし、発足時には真珠及びその関連分野についての科学的解析はほとんどなされておらず、テリと艶を同じものとし、艶はまきを表現するといった間違った見解を示していた。また、真珠に於ける光の干渉現象であるテリの説明では、真珠の特殊性が考慮されておらず、不十分であった。これらの見解はその後の真珠の宝石学的知見に影響を与え、今日に至っている。

    真珠が最古の宝石なりえた最大の理由は、キズやかたちなどの品質要素ではなく、「テリ」があったからである。品質要素の中で、真珠の「テリ」は最も重要視されなければならない。

    真珠に於ける光の干渉色の現れ方

    前面が開いている黒いボックスにアコヤ真珠を入れ、下方に置いた拡散光源に接触させ、観察すると、真珠の上半球に透過の干渉色、下半球に反射の干渉色の色模様が発現する(図1)。真珠は球体であるため、観察方向と球体の表面の垂線との角度によって見える干渉色の色が変わり、同心円状の色模様となる。また、透過と反射の干渉色は補色となっている。

    テリの計測法

    テリの強弱は、透過・反射の干渉色の現れる色(色相)と、その彩度、明度の強弱に一定の相関がある。したがって、透過・反射の干渉色を写真撮影し、その画像をマンセルカラーシステムでの色相、彩度、明度の三属性に分類(図2)、色立体化し数値化することによって、テリを計測することができる。

    真珠に於ける光学的3つの知見

    「テリ」の光学的分析を進める中で、以下の3つの点について従来の定説とは異なる知見が得られた。

    ①光の干渉は、反射と透過で起こる(図3)

    ②真珠は球体である(図4)

    ③真珠表面のアラゴナイト結晶のc軸はすべて表面に垂直に配位している(図5)

    これらのことより、テリの強い真珠には干渉色の鮮やかな色模様が発現し、真珠が宝石たる所以となっている。

  • ―真珠がダイヤモンドより高価だった時代
    山田 篤美
    p. 6
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
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    今日、宝石の王者はダイヤモンドである。しかし、人類 5000 年の歴史を俯瞰すると、長い間、宝石の世界に君臨してきたのはダイヤモンドではなく、真珠であったことが明らかになる。本講演では最上の宝石だった真珠の歴史をダイヤモンドと比較しながら解説する。

    正確を期すると真珠は鉱物ではなく、有機物の一種である。しかし、真珠は伝統的に宝石と見なされてきた。たとえば、 古代ローマのプリニウスは『博物誌』の中で真珠を最高位の宝石のひとつと位置づけている。一方、プリニウスはキュウリの種ほどのダイヤモンドも貴重視していたが、それらは工具としての実用性が評価されたもので、「宝石」としての評価ではなかった。

    古代ローマ人憧れの真珠であったが、その産地は多くはなかった。自然界では海産真珠貝、淡水産真珠貝が多種多様の真珠を生み出してきたが、丸く美しく光沢のある真珠を生み出す貝は、海産のピンクターダ属(genus Pinctada)の真珠貝などに限られていた。ピンクターダ属の真珠貝の中でも、真珠採取産業を成立させるアコヤ系真珠貝(Pinctada fucata/martensii/radiata/imbricata species complex)の生息地は、古代・中世においては、ペルシア湾、インド・スリランカの海域、西日本の海域ぐらいしか知られていなかった。つまり、ヨーロッパ人にとってアコヤ系真珠は、コショウ同様、オリエント世界でしか採れない貴重な特産品だった。

    その状況が一変したのが 16 世紀の大航海時代である。 1492 年、コロンブスはカリブ海諸島に到達し、その 6 年後、南米ベネズエラ沿岸で真珠を発見する。実はベネズエラ沖はもうひとつのアコヤ系真珠貝の産地であった。オリエントに代わる真珠の産地となったベネズエラには征服者、航海者が押し寄せ、略奪と虐殺が繰り広げられた。 16 世紀のヨーロッパは真珠の時代であり、南米の真珠がヨーロッパ王侯貴族のジュエリー、ドレスを飾ったが、その真珠はブラッド・ダイヤモンドならぬブラッド・パールであったのである。

    一方、ダイヤモンドについても、大航海時代になると、インドの王侯の独占が崩れ、流通が増加。 17 世紀以降のヨーロッパではブリリアント・カットが発明され、ダイヤモンドと真珠が二大宝石となっていく。しかし、 19 世紀の南アフリカのダイヤモンドの発見でダイヤの値段が暴落、真珠は再びダイヤモンドよりも希少になった……。 真珠の歴史をダイヤモンドとの関係性の中で考察すると、小さな真珠がもたらした壮大で壮絶な歴史が浮かび上がるのである。

平成29年度 宝石学会(日本) 一般講演要旨
  • 藤原 知子, 小川 日出丸
    p. 7
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
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    合成ダイヤモンドの製造技術は近年急速に進歩している。一般的にダイヤモンドの合成法には HPHT(高温高圧)法と CVD(化学気相)法の二つがある。 HPHT 合成法で製造されたものは 10ct 以上のものや、 CVD 合成法でも 5ct のものが報告されている。特にHPHT 合成法の生産量には目を見張るものがある。それとともに宝飾業界においてのメレサイズの無色〜ほぼ無色のダイヤモンドを天然石と合成石を選別する重要性が非常に高まっている。

    検査機関は持ち込まれる石をまずはじめに天然石の大半を占めるタイプⅠ からタイプⅡ を分け、分けたタイプⅡ から天然石か合成石かを分析機器を用いて選別していくことになる。

    このような中、ダイヤモンドのペンダントが検査に持ち込まれた。石留めされた 7 石のうち 2 石が赤外分光でタイプⅡ に分類され、紫外可視分光で 737nm が認められた。合成ダイヤモンドの疑いがあったため、石を外しルースの状態にて検証した。

    0.135ct と 0.140ct のラウンドブリリアント石はそれぞれ Very Light Pink の VS1,VVS2(※)のグレードであった。 2 石を顕微鏡検査したところ、ピンポイントと growth planes が認められた。赤外分光の測定ではタイプⅡ a と分類され、 2 石とも紫外可視分光で明瞭な737nm(SiV-)の吸収が見られた。

    PL 測定では 575nm、 637nm の NV センターと 737nm(736.3nm/736.8nm)の SiV-の検出が認められた。これらの赤外分光、紫外可視分光、 PL 分光、紫外線蛍光像の結果から CVD 法合成ダイヤモンドであると結論づけた。また、紫外線照射後にブルーへのカラーチェンジが見られた。色は数分で元に戻った。これは製造過程でシリコンを大量にドープされたことによる SiV-と SiVo の電荷移動によって引き起こされ、青色は強いSiVo センターの吸収によるものとの報告がある。 (D'Haenens-Johansson et al .,2015)今回検査した 2 石でも近赤外分光で SiVo センター946nm が確認された。

    これらの件を詳しく調べるとともに、無色〜ほぼ無色の CVD 法合成ダイヤモンドの他の試料と比較し検討する。

    ※ AGL 規定では合成ダイヤモンドのグレーディングは行わない

  • 上杉 初, 齊藤 宏, 小滝 達也
    p. 8
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
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    <はじめに>

    TypeⅡ a 天然ピンクダイアモンドのフォトルミネッセンス スペクトルにおける H3 半値幅を無色ダイアモンドと比較した。

    H3 は、二つの窒素と一つの空隙からなる天然ダイアモンド中に存在する欠陥であり、またTypeⅡ a HPHT 処理ピンクおよび無色ダイアモンドにおいても検出される可能性の高いフォトルミネッセンス ピークの一つである。

    <結果>

    図1に、 TYPEⅡ a の天然ピンクダイアモンドと無色ダイアモンド各50石のフォトルミネッセンス分析で得られた H3 FWHM(nm) を示す(下 : 無色、上 : ピンク)。

    これらは、 488nm レーザーを用いて、液体窒素温度で測定された結果である。

    ピンクダイアモンドの H3 FWHM は、0.35から0.96nm であった。無色ダイアモンドの0.25から0.63nm と比較すると、ピンクダイアモンドの H3 FWHM は広い領域で得られた。

    そこで、 FWHM が0.70以上のピンクダイアモンド3石の 515nm レーザーでフォトルミネッセンス スペクトルを測定したところ、 535.8nmに顕著なピークが認められた。

    515nmで得られるその他のピークも加えて、TypeⅡ a 天然ピンクダイアモンドのフォトルミネッセンス スペクトル特徴を調査していく予定。

  • 北脇 裕士, 江森 健太郎, 久永 美生, 山本 正博, 岡野 誠
    p. 9
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
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    合成ダイヤモンドの鑑別には、宝石顕微鏡下における拡大検査、紫外線蛍光検査、歪複屈折の観察などの標準的な手法が不可欠であるが、多くの場合フォトルミネッセンス(PL)分析や DiamondViewTM による観察などの先端的なラボの分析が必要である。本報告では、①拡大検査において明瞭な直線性色帯を示す褐色の CVD 合成ダイヤモンドと②FTIR 分析において B2 センタ(プレートレット)と C-H関連ピークを示す黄色 HPHT 合成ダイヤモンドについて紹介する。これらの特徴はこれだけをみると天然と誤認しやすいもので、他の分析を併用した総合的な鑑別が不可欠である。

    ① 拡大検査において明瞭な直線性色帯を示す褐色 CVD 合成ダイヤモンド

    天然の褐色ダイヤモンドの多くは塑性変形に由来して形成されるいわゆる Brown graining を伴っている。これらは{111}面に平行で、たいていカットされたダイヤモンド全体に及んでいる。 Graining は 1 方向の場合もあるが、 2 方向あるいは 3 方向とそれぞれが交差していることも多い。

    いっぽう、今回検査を行った 1.027ct, Fancy Dark Brown のダイヤモンドは 1 方向のみに複数の明瞭な褐色の色帯が見られた。各種検査の結果、当該石は CVD 合成ダイヤモンドであり、成長後に HPHT 処理が施されていない As grown と思われる。また、褐色の直線性色帯は天然ダイヤモンドと同様な塑性変形に由来するものではなく、種結晶の方位{100}に平行な成長時の不均一性(非ダイヤモンド状炭素や vacancy clusters の集積の相違)に由来すると考えられる。

    ②FTIR 分析において B2 センタを示す黄色 HPHT 合成ダイヤモンド

    商業的に製造される黄色の HPHT 合成ダイヤモンドはⅠ b 型で置換型単原子窒素を 200ppm 程度含有している。より高温で製造されるか HPHT 処理が施されることでⅠ b+Ⅰ aA 型になることは良く知られている。

    いっぽう、今回検査した 0.066ct, Fancy Vivid Yellow のダイヤモンドは FTIR 分析にて C センタと A センタに加えて B センタと B2 センタ(プレートレット)が検出された。トータルの窒素濃度は 700ppm に及んでいた。また、 3107 cm-1 に C-H 関連ピークが認められた。(PL)分析および DiamondViewTMによる観察などの結果、当該石は Co を溶媒に用いた HPHT 合成ダイヤモンドであり、成長後に放射線照射と HPHT 処理が施された HIH: HPHT growth/ Irradiation/ HPHT treatment と結論付けられる。

  • 林 政彦, 高木 秀雄, 安井 万奈, 山崎 淳司
    p. 10
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
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    はじめに 1962 年に, 東京芝浦電気株式会社 中央研究所(現東芝研究開発センター)で合成ダイヤモンドが製造さ れた.これはスウェーデンのASEAで 1953 年に,米国のGEでは 1954 年に製造されてから僅か数年後の事である.この頃に東芝で造られたとされる合成ダイヤモンドが,早稲田大学の鉱物標本室に収蔵されていたので,その特徴について報告する.

    特 徴 この標本は,ほぼ無色の色調を呈し,表面に見られる成長模様から{100}で囲まれた結晶と見られる(Fig.1).その外観は,コンゴ産の天然ダイヤモンドに似ている.この標本の成長の様子を調べるために RELION Industries 製 RELIOTRON を使いてカソ―ドルミネッセンス(CL)像を観察したところ, 小さなセクターに分かれた組織が認められた(Fig.2).

  • 江森 健太郎, 北脇 裕士
    p. 11
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
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    予測手法としての多変量解析は「重回帰分析」「判別分析」「ロジスティック回帰分析」「数量化 I 類」「数量化 II 類」が一般的に知られている。中でも、「判別分析」「ロジスティック回帰分析」は「量的変数(質量濃度等の量を持った変数)」である説明変数から「質的変数(合成、天然といった量を伴わない変数)」である目的変数を予測する手法なため、宝石鑑別に有効な手段であることが期待される。

    判別分析は事前に与えられているデータが異なるグループに分かれる場合、新しいデータが得られた際に、どちらのグループに入るのかを判別するための基準を得るための正規分布を前提とした分類の手法である。宝石分野ではルビー、サファイア、パライバトルマリンの産地鑑別、 HPHT 処理の看破(Blodgett et al, 2011)やネフライトの産地鑑別(Luo et al, 2015)の他、筆者らによる 2016 年宝石学会(日本)一般講演による「判別分析を用いた天然・合成アメシストの鑑別」といった研究例がある。

    ロジスティック回帰分析はベルヌーイ分布に従う変数の統計的回帰モデルの一種であり、連結関数としてロジットを使用する一般化線形モデル(GLM)の一種でもある。確率の回帰であり、統計学の分類に用いられることが多い。ロジスティック回帰分析を用いると、事前に与えられたデータが A,B 異なる 2 種のグループに分かれる場合、新しいデータが得られた際に A である確率を求めることができる。

    本研究では、「判別分析」「ロジスティック回帰分析」を用いて「アメシストの天然・合成の鑑別」「ルビーの天然・合成の鑑別」「パライバトルマリンの産地鑑別」について研究、検討を行った。

    アメシストの天然・合成の鑑別、ルビーの天然・合成の鑑別は、 LA-ICP-MS 分析結果を使用した。両者とも、判別分析よりロジスティック回帰分析の誤判別率が低く、有効であるという結論を得た。

    パライバトルマリンは、ブラジル産、ナイジェリア産、モザンビーク産の 3 つの産地について、 LA-ICP-MS 分析結果、蛍光 X 線分析結果の 2 種類を用いて判別分析を行った。 LA-ICP-MS、蛍光 X 線ともに誤判別率が 0.2 を超えるため、判別機としての精度は低いが、ブラジル産を判別する精度が高く、 ブラジル産か否かを決める判別としては有効であることが判明した。

    多変量解析による予測手法は、ブラックボックスを扱うことに非常に近いため、それだけで結果を出すということは危険であるが、鑑別の補助としては非常に有効である。

  • 清岡 洋紀, 小笠原 一禎
    p. 12
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
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    緒言: Cr3+イオンを不純物とした Beryl の結晶は、美しい緑色に発色しており、エメラルドとして広く知られている。このエメラルドの緑色は、 Beryl 中の Cr3+における多重項エネルギーによる可視光の吸収が起因して、発色している。分子軌道計算プログラムである DV-Xα 法と DVME 法[1]を用いて、エメラルドの吸収スペクトルを非経験的に求めることができるが、実際にどのような色に再現されているのか定量的な評価はこれまで行なわれていない。そこで、本研究では非経験的に予測したエメラルドの吸収スペクトルから、標準光源下(D65)での色度座標を計算することによって予測されるエメラルドの色を評価した。

    計算手法: Beryl の結晶構造データ[2]から Al3+を Cr3+に置換した 7 原子クラスターおよび、 40 原子クラスターを用いて多重項エネルギーの第一原理計算を行い、吸収スペクトルを求めた。モデルクラスターの周囲の原子位置には点電荷を配置し、有効マーデルングポテンシャルを考慮した。さらに、各クラスターに Shannon の結晶半径に基づいた格子緩和を考慮した場合と、配置依存補正及び電子相関補正である CDC-CC の考慮をした場合、格子緩和と CDC-CC の両方を考慮した場合のそれぞれについて DVME 法により計算を行った。 7 原子クラスターに関しては、 O2-の 2p 主成分軌道を具体的に配置間相互作用(CI)計算に含めた計算と EXAFS で得られた Cr-O の結合距離に基づいた格子緩和を考慮した計算も行った。さらに、これらの計算で得られた吸収スペクトルから色度座標を計算し、実験吸収スペクトルから計算した色度座標との色差 ΔE00 を求めて定量的に評価した。

    結果・考察: 計算により求めた(a)7 原子クラスター(格子緩和、 CDC-CC ともに考慮せず)と、 (b)O2-の 2p 主成分軌道を具体的に CI 計算に含めて計算した 7 原子クラスター(EXAFS データに基づく格子緩和、 CDC-CC ともに考慮した)の吸収スペクトルから得られた色度座標及び、実験吸収スペクトルから得られた色度座標を図 1 に示す。複数のデータ点は Cr3+の濃度の違いに対応している。 (a)の結果では、濃度が高くなるにつれて青色に近づき、実験データとの色差 ΔE00 は 55.5 であった。 また、 (b)の結果では、濃度が高くなるにつれて緑色に近づき、 実験データとの色差 ΔE00は 8.69 であった。これらの結果より、 O2-の 2p 主成分軌道を具体的に CI 計算に含めて計算し、 EXAFS データに基づく格子緩和を行なった場合に最も実験値に近づくことがわかった。

  • 竹村 翔太, 小笠原 一禎
    p. 13
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
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    緒言: MgAl2O4 は Mg2+の 4 配位サイトと Al3+の 6 配位サイトを有しており、種々の遷移金属イオンが不純物として置換することで様々な色に発色する。中でも Co2+が不純物として Mg サイトを置換した場合、美しい青色に発色する。その発色原因は、吸収スペクトルの 15,000cm-1 から 20,000cm-1 にかけて現れる強い吸収であるとされており、発色と遷移金属イオンの吸収スペクトルの間には密接な関係がある。そのため、宝石の性質の調査において吸収スペクトルの理論的な解析は非常に重要であるといえる。しかし、 Co2+のような系では多電子系の取り扱いが必要となるため、第一原理による理論的なアプローチはほとんどなされていない。本研究では、 MgAl2O4 中の Co2+において、吸収スペクトルの再現および解析を目的として、多電子系の扱いが可能な、配置間相互作用法に基づく DVME 法[1]によって多重項エネルギーおよび振動子強度を計算し、理論吸収スペクトルを求めた。

    計算手法: MgAl2O4 の結晶構造データ[2]から4 配位サイトの Mg2+に置換した Co2+と第一近接酸素からなる 5 原子モデルクラスターを構築し、 DVME 法によって、 Co2+の多重項エネルギーの第一原理計算を行い、吸収スペクトルを求めた。計算の際には、モデルクラスターの周囲の原子位置には点電荷を配置し、有効マーデルングポテンシャルを考慮した。配置依存補正及び電子相関補正である CDC-CC を考慮した場合、していない場合について計算を行った。

    また、相対論 DVME 法を用いて、相対論効果を考慮した計算も行った。

    結果: 計算によって得られた理論吸収スペクトルと報告されている吸収スペクトル[3]を Fig. 1 に示す。 4A2(e4,t23)→4T1(e2,t25) と 4A2(e4,t23)→4T1(e3,t24) に帰属される 2 つのピーク及びその強度比を再現することに成功した。 4T1(e3,t24) の多重項エネルギーの過大評価については、今回の計算において、結晶場の強さが過大評価されているためと考えられる。

  • 福田 千紘
    p. 14
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
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    ジェイダイトやトルコ石は AGL の宝石もしくは装飾用に供される物質の定義および命名法に関する規定でコメントが定められている。この中で樹脂含浸の痕跡が認められない物に対しては”通常、 光沢の改善を目的としたワックス加工が行われています”というコメントを付記することになっている。またジェイダイトに関しては特殊検査を行った上で分析報告書にてワックス加工の痕跡が認められない旨の記載も可能となっている。半透明~不透明な宝石は光沢の改善のため普遍的にワックスによる艶出しを施されている可能性があるが一部の宝石種を除いては直接的に加工の痕跡を検出することは困難である。

    ジェイダイトに関しては 2800-3000cm-1 付近にワックス類を起源とする C-H 振動の吸収が現れることが知られている。 LIBS は先行研究により C や H 等の感度が良好なことが報告されており(Anzano et al.,2014) 本研究では LIBS を用いて前述の宝石種に施されたワックス加工の痕跡が検出されるかを検討した。

    宝石試料を分析する前に純物質でこれらの有機物が検出可能であり種類ごとに差が出るかを検証した。含浸やワックス加工に使用されたり、表面のコーティングに使用される樹脂としてポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ロジン(松脂)を ワックスとして蜜蝋、パラフィンを準備した。先行研究とはレーザーの波長や細かなパラメーターが異なるが C, H 共に検出可能でそれぞれの素材毎に区別が可能であった。

    ジェイダイトは無処理、ワックス加工、樹脂含浸の試料を、トルコ石も同様の試料を準備した。トルコ石は樹脂含浸に関して程度の異なる試料も測定を試み差が認められるか検証した。その結果、ワックス加工、樹脂含浸共に高濃度の C と H が検出されそれぞれ区別が可能であった。またトルコ石はワックス加工、樹脂含浸の試料に含有される有機物の量に比例して発光強度の増加が認められ C, H 共に相関性が認められた。

    応用としてワックス加工されたジェイダイトと樹脂含浸されたジェイダイトの区別は赤外分光により可能だが枠に多量の接着剤で固定された状態では判別することが困難であった。完全な非破壊検査ではないが LIBS による有機物の検出は従来の手法で対応できない条件下での樹脂含浸の検出方法の一つとして有効と思われる。

  • 岩松 利香, 藤原 知子, 難波 里恵
    p. 15
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
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    最近、鑑別作業で出会ったコモンオパールの中で、同じような外観をしているにもかかわらず、屈折率が異なったり、分光波形が異なった石があった。

    最近は、オパールとカルセドニーが隣接する石の鑑別依頼も多くある。

    屈折率などの基本検査で鑑別できない石について、どの範囲に属するものとすれば良いかについて疑問を持った。

    オパールとカルセドニーが隣接する社内のサンプルについて詳しく検査してみると、屈折率などの差異以外に、赤外分光検査で1157cm-1 付近の吸収に違いが現れた。

    そこで当該資料についてより詳しい検査(顕微IRによる赤外分光、ラマン分光、ビッカーズ硬度、X線回折など)をすると共に、その他のオパール、カルセドニーのサンプルについても、赤外分光、ラマン分光、ビッカーズ硬度、などの検査行い、オパールとカルセドニーの違いを赤外分光の吸収によって明瞭に区別できるかについて研究をしてみた。

  • 中嶋 彩乃, 古屋 正貴
    p. 16
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
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    2016 年7月に開催された中国国内最大の中国人バイヤー向け石の博覧会「中国昆明泛亜石博覧会」に招待され出展し、雲南省昆明近郊から産出する宝石・鉱物及び石材に触れる機会を得た。雲南省ではルビー・サファイア・エメラルドをはじめとし、多数の宝石や鉱物が産出されており、大理石等の石材も数多く産出されている。

    会場では日本ではあまりなじみのない中国産の宝石・鉱物・石材が多数出展され、その中に石林彩玉や黄龍玉と呼ばれていた宝石があった。石林彩玉は産地を訪れる機会も得られ、調査を行った。

    石林彩玉と呼ばれる宝石は、中国雲南省昆明市石林県イ族自治県から産出する赤、橙、黄色、暗緑色で不透明のアゲートである。特徴的なのはその名前の通り、色鮮やかなスポットが複雑に入り組んだ外観をしていることである。(図1)その天然の模様を活かしたカットが施され、流通している。その色の原因となっているのはニッケル、コバルト、クロム、マンガン、銅、鉄などの微量元素で、赤色や黄色が強い部位では鉄が微量元素として検出され、また、暗緑色の部位ではクロムが検出され、それらが色の原因となっていることが考えられる。

    黄龍玉と呼ばれる宝石も、めのうであるがこちらは半透明黄色のカルセドニーである。雲南省保山市龍陵県小黒山を代表的な産地とするこの宝石は、石林彩玉のようなカラフルなものとは違い、黄色の濃淡の模様がたまに見られるだけである。こちらは彫刻に用いられたり、半透明の風合いや模様を生かしてカットされる(図 2)。微量元素としては鉄が検出されるのみでそれが黄色の原因となっていることが推測される。

    黄龍玉は黄色を貴ぶ中国の玉文化の中で、現在翡翠に次ぐ石とされ、黄龍玉専門のオークションも開催され、多数のコレクターを有する。

    また石林彩玉は、雲南省が積極的なプロモーションを行っており、全国で展開されている。

    そのため、これらについて知識を持っておくことも必要と考えられる。

  • 荻原 成騎
    p. 17
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
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    【緒言】 Herkimer Diamond は、 約 5 億年前に堆積した炭酸塩岩(苦灰岩)に形成された空洞中から産出する。空洞の内壁は黒色の炭質物(anthraxolite)によって coating されており、 Herkimer Diamond は、炭質物上に成長している。炭質物は Herkimer Diamond に包有物としても含まれる。

    【疑問点】独特の産状形態を示す Herkimer Diamond の成因、形成メカニズムを明らかにするためには、解明されなければならない疑問点が複数ある。

    (1)鉱床は特別な地層にのみ分布するのか、(2)ハーキマー鉱区における各鉱山の産状の多様性、 (3)鉛直方向に延びる鉱化作用、 (4)炭質物と Herkimer Diamond の関係、 (5)炭質物の起源と鉱化作用に及ぼした役割、 (6)シリカの起源、 (7)形成(沈殿)のタイミング、 (8)温度環境、さらに(9) Herkimer における産状は、他の世界中に分布する水晶鉱床にもあてはまることなのか、などである。

    本発表では、現在進行中の現地調査と化学分析の結果を報告する。

    【結果】炭酸塩岩(苦灰岩)にあいた空隙は、ストロマトライト化石が抜け落ちて形成されたように見える。空隙の形は、柏餅型から円柱状で、空隙底面の中央部は盛り上がっている。盛り上がった底面は珪化されており、非常に硬い。 Ace of Diamond 鉱山では、 Herkimer Diamond 胚胎層準が 5 層準あり、 5 層のストロマトライト化石層に対応している。

    黒質物質の粉末X線回折の結果、グラファイトの反射のみが認められ、石英や炭酸塩の反射は認められなかった。黒色物質は炭化水素ではない。本研究では、黒色物質(グラファイト)について、ラマン分光法による温度推定を行った。晶洞を coating している黒色物質、および Herkimer Diamond 中に包有物として取り込まれている黒色物質の経験した最大温度は、どちらも約 200℃であった。

    その他、苦灰岩および黒色物質に含まれる抽出性有機物、特に環境指標となる biomarker の分析結果と総合して、生成環境について議論を行う。

  • 桂田 祐介, 孙 子因
    p. 18
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
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    「ネオンブルー」と呼ばれる鮮やかな青〜緑色を呈する、銅を含有するトルマリンは、 パライバ・トルマリンとして現在の宝石業界において極めて人気の高い色石の一つに数えられる。パライバ・トルマリンは、 1980 年代後半にブラジル北東部のパライバ州で発見されて以来、他の多くの宝石質のトルマリンと同様にナトリウムを主成分に持つエルバイト(リチア電気石)であると考えられてきたが、 2010 年後半にカルシウムを主成分に持つリディコータイト(リディコート電気石)の存在が報告された(Karampelas and Klemm, 2010)。しかしその後、銅を含有するリディコータイトについての詳細に関する報告はほとんどなく、現在のパライバ・トルマリン市場における状況も明らかになっていない。

    2016 年に GIA の東京ラボに持ち込まれた 13 石の銅含有リディコータイトについて、通常の宝石学的検査に加えてレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析(LA-ICP-MS)による主要元素および微量元素の分析を行った。その結果、これらの試料はカルシウムとリチウムを主成分にもつリディコータイトに分類されることが確認できた。これらの試料はいずれも高濃度の鉛とガリウムを含んでおり、ブラジル、ナイジェリアおよびモザンビーク産の銅含有エルバイトとの比較において、これらの特徴は銅含有リディコータイトに顕著であることが明らかになった。また、高濃度の希土類元素を含むことから長波紫外線照射下で比較的強い蛍光を示すことも特徴である。

    GIA が準拠している LMHC のガイドラインでは、「パライバ・トルマリン」の呼称を用いることについて、トルマリンの鉱物種による限定はされていない。そのため、銅含有リディコータイトは、 GIA の鑑別レポートではエルバイトと同様にパライバ・トルマリンとして表記される。しかしながら、微量元素の特徴が GIA の産地鑑別のデータベースと一致しないため、現段階では産地の同定は不可能である。今後、まだ明らかになっていないその成因および産状の研究とともに産地鑑別のための試料収集が喫緊の課題である。

  • 橘 信
    p. 19
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
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    はじめに ルビーやサファイアの結晶育成法にはいろいろあるが、合成宝石として一番価値がでるのはフラックス法であろう。フラックス法でつくられた結晶は表面が鏡のように平らになるので、カットや研磨をしなくても芸術的な作品になることがある。事実、みごとな Ramaura ルビーや Knischka ルビーの写真は宝石学のいろいろな本や雑誌で使われており[1,2]、これらの結晶の特徴はこまかく調べられている。ただし、育成方法や育成条件の詳細は公開されていない。

    本講演者の専門は物性物理であり、測定試料を得るためにこれまでいろいろな結晶をフラックス法によって育成してきた。ある時、何かのきっかけで宝石学の本を読み、はたして自分も Ramaura ルビーや Knischka ルビーのような芸術作品がつくれるのか、という疑問が沸いてきた。そこで、物性研究用の酸化物結晶をつくるのと同じ要領で、 ルビーやサファイアのフラックス結晶育成を始めた。

    実験結果 実験を始めた当初は薄い板状の結晶ばかりが得られ、結晶を厚くしようとすると表面が粗い結晶やフラックスの内包が顕著な結晶ばかりが成長した。いろいろな試行錯誤の末、 Ramaura ルビー[1]と同じ晶癖をもつ結晶の育成に成功した(Fig.1)。ただし、結晶の完全性という点では Ramaura ルビーにまだ遠く及ばない。この他にもサファイアや他の晶相をもったルビーについても育成実験を行ったので、本講演では結晶成長論に基づいて実験結果を議論する。

  • 勝亦 徹, 見富 大真, 宮島 貴子, 高橋 希緒, 福島 瞳, 相沢 宏明, 小室 修二
    p. 20
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
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    はじめに

    スピネル(MgAl2O4)は、立方晶の無色透明な結晶である。この結晶に不純物として Mn を少量添加したものは、様々な色を呈し、緑色の蛍光を発するなどの特徴を持つことがわかっている。また、スピネル結晶は、融点付近に広い固溶領域を持つ固溶体であり、 Mg 不足組成のスピネルでは、光吸収スペクトルや発光スペクトルが組成によって変化することが知られている。今回は、 Mg 不足組成から Mg 過剰組成までの広い範囲で組成を変えて育成した Mn 添加スピネル結晶について、光学特性評価を行い組成の影響を検討した。

    実験

    純度 99.99 %の MgO、 Al2O3 および、 99.9 %の MnO を原料試薬として用いて、組成式(MgxAl2O3+x)で、 x=0.2~ 1.7 になるように混合し、 FZ 法(浮遊帯域溶融法)を用いて結晶を育成した。育成した結晶を切断加工し、 X 線粉末回折パターン、光吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを測定した。

    結果

    育成した Mn 添加スピネル結晶の光吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルには、原料組成の影響による変化がみられた。特に、酸素を含む雰囲気ガス中で結晶を育成した場合に組成の影響が強く観察できた。光学特性の原料組成による変化は、 Mg 過剰組成と Mg 不足組成の場合では少し異なっていた。

    Mg 不足組成の原料から育成した結晶では、 x=0.3 までは、スピネル結晶の回折ピークのみが観察され、スピネル相の結晶が育成できていることがわかった。一方、図1に示したように、 Mg 過剰組成の原料から育成した結晶の X 線回折パターンには、 MgO 結晶の回折ピークが見られ、組成xの増加とともに回折ピーク強度が増加した。 Mg 過剰組成から育成した結晶では、結晶育成後に MgO 結晶が析出するため、原料組成の影響が現れにくいのではないかと予想される。

  • Hyunmin Choi, Sunki Kim, Youngchool Kim
    p. 21
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
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    A Korean company developed a new enhancement method of changing color of blue sapphire using an apparatus to produce synthetic diamond which is modified for mold press machine. They use the temperature of the treatment is to be in the range of not much higher than synthetic diamond product processing and applied low mechanical pressure.

    In this study, we conducted an experiment with pressure and temperature variable in order to analyze the gemological and spectroscopic properties of before and after enhanced sapphire. Changes of some inclusions and UV-Vis spectra observed after the enhancement are similar to these changes found in conventional heated corundum. However, a strong absorption band related to a structural OH group that did not exist in the infrared region of all samples was formed.

    Conclusive identification of these treated sapphires requires infrared spectroscopy and sometimes accompanied by some indication of standard heat treatment. Moreover, some fissures and fractures developed from their internal inclusions such as crystal and negative crystal. In addition, a definite color band and zoning usually became less prominent after enhanced by this method.

    For this study, also, we examined more than 20 sapphires, rough and polished. All of the samples were experimented with their general appearance, basic gemological properties, microscopic features, trace element chemistry, visible and infrared spectroscopy. We have described the properties of before and after new enhancement of blue sapphire in this study.

  • 猿渡 和子, 鈴木 道生, Chunhui Zhou, Promlikit Kessrapong, Nicholas Sturman
    p. 22
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
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    DNA 法は真珠の種同定に有用な方法であるが、ごく少量の真珠固体試料からの DNA の抽出が求められる。 Meyer et al. (2013)では、 13-100 ミリグラムの粉末試料から DNA を抽出し、 P. margaritifera, P. maxima, P. radiata の種同定を報告した。この手法の汎用性を広げるために、 P. fucata 真珠母貝と真珠から DNA を抽出することが本研究の目的である。試料は、 2016 年の愛媛県宇和島市浜上げにて、 28 養殖真珠貝と 9 供与貝を採集し、真珠 13 粒、ケシ真珠 2 粒が取り出された。本実験では、16S rRNA の抽出とその塩基配列から種同定を行った。養殖貝と供与貝の外套膜からの16S rRNA の抽出方法としてはフェノールクロロホルム法を、真珠試料 5.27-9.33 ミリグラムには Meyer et al. (2013)の方法を用いた。結果:養殖貝・供与貝の外套膜16S rRNA は、どちらも P. fucata 種と 100%一致した。真珠に関しては、 4 試料中 1 試料だけ 350bpの塩基配列しか増幅できなかったが、全ての試料の塩基配列は P. fucata の配列と一致した。以上より、 2016 年宇和島産アコヤ真珠 5-10 ミリグラムから、16S rRNA の抽出・増幅に成功し、 P. fucata 種と同定した。

  • 渥美 郁男
    p. 23
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
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    貝類は体内に入った異物を貝殻と同じ成分で閉じ込める習性がある。それは貝が自身の貝殻を作る器官として外套膜を持っていることに起因する。外套膜は天然や養殖に関わらず真珠層分泌により様々な形態のブリスター(瘤)を作る場合がある。それらは「真珠の定義および命名法に関する規定」(注1)や「真珠スタンダード」(注2)などで天然ブリスター真珠・天然ブリスターや養殖ブリスター真珠・養殖ブリスターに分類定義されている。今回はそれらのブリスター類を観察しその形成過程の違いを確認した。また資料に対して軟 X 線透過検査や切断面の観察を行ったので報告する。

    (注1)一般社団法人 宝石鑑別団体協議会・一般社団法人 日本ジュエリー協会 2016.1

    (注2)一般社団法人 日本真珠振興会 2014

  • 矢崎 純子, 江森 健太郎, 小松 博
    p. 24
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
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    ゴールド系シロチョウ真珠については、蛍光観察、紫外可視反射分光、顕微ラマン分光など測定分析の報告がある※1,2,3。今回、奄美大島、ミャンマー、フィリピン、インドネシアの産地が明確なゴールド系シロチョウ真珠を観察、分析し、その特徴を分類した。また、最近の着色ゴールド系真珠も観察分析を行った。

    ゴールド系シロチョウ真珠の分光パターンは、 280nm の吸収および 360~430nm の幅広い吸収が特徴として知られているが、干渉の強い真珠の場合は、明確な特徴が確認できない場合もある。表面を削り、干渉色の影響を排除すると、可視光付近は典型的なパターンに近いことが確認でき、干渉が分光パターンに影響することが推定できた。

    今回の試料において産地別にその特徴をみると、分光パターンより算出した色は、ミャンマー産はやや薄く、奄美大島産は緑よりの黄色、インドネシア産は赤よりの黄色という結果であった。また、 LA-ICP-MS による微量元素の統計分析を行った結果、今回の試料において産地別に分類されることが確認できた。

    着色ゴールド系シロチョウ真珠は、紫外線照射や分光パターンから判別が可能であったが、最近は分光パターンや蛍光が未処理の真珠と類似するなど、様々な特徴を持った着色真珠が存在している。未処理のゴールド系シロチョウ真珠の特徴を踏まえ、 複数の検査方法で判別することが必要である。

  • 山本 亮, 小松 博
    p. 25
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
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    真珠養殖において“核”の素材には、 一般にドブガイの貝殻を加工したものが使用される。また近年、資源の減少あるいはあらたな真珠養殖の試みとしてドブガイ以外の素材を核として用いた真珠が極めて少量ではあるが生産、流通している。

    そのような真珠の一つとして、ピンク色のサンゴを核に使用して養殖したアコヤ真珠がある。この真珠はサンゴの色調が真珠層を透かして見えるため赤味を帯びた色調となる。しかし、真珠になった状態では、真珠層で覆われているため核の状態を確認することが難しく、核がサンゴであることを証明することが難しいという問題がある。そこで今回、このような真珠の核がサンゴであることについて証明する手がかりを探った。

    その方法として、まず核として使用したサンゴの特徴を調べるため、分光スペクトル測定、蛍光観察、ラマン分光測定を行なった。次に表面が真珠層に覆われた状態でこれらの特徴を確認し、その違いについて比較検討した。

    また、それ以外の方法として、光透過法による核の色調の確認あるいはオーロラビューアーによる反射・透過干渉色の観察なども行ない、その可能性を調べたので報告する。

  • - タンパク質の劣化から起こる真珠の劣化現象
    南條 沙也香, 矢崎 純子, 松田 泰典, 小松 博
    p. 26
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
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    真珠は、主に炭酸カルシウムとタンパク質からなる多層薄膜構造である。文化財において古墳から出土した真珠は白濁化しており、タンパク質が分解などにより大部分が消失した結果との報告がある(1987 年、「鳥浜貝塚」調査報告)。このことはタンパク質が保存環境により変質する場合があることを示し、タンパク質シートが真珠の結晶層の維持に重要な役割を果たしていると考えられる。現在流通している真珠は加工されているものが多く、その工程の中に行われる溶液に浸漬、加熱乾燥などで真珠層内部の有機物を多く含む稜柱層などの脆弱な箇所から、層われ、ヒビ、剥離などの劣化が起こる場合もある。さらにこれらの劣化現象は保管時の温湿度変化などでさらに顕在化する。これらの真珠の欠陥は真珠の品質に大きく関係しているため、流通の際には注意する必要がある。

    今回はこれらの劣化現象のうち加工キズの劣化現象について、見え方、構造、原因などで体系化することを目的とした。特に加工キズの中のひびについて断面の構造を観察し、その成因について考察した。また、温度サイクルによる加速実験を行い、どのように顕在化するかを検証した。

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