肺癌
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47 巻, 7 号
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総説
  • 廣島 健三
    2007 年 47 巻 7 号 p. 837-847
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル オープンアクセス
    近年,肺癌の中で腺癌は増加している.肺癌の術前診断において,細胞診は生検とともに最も簡便で信頼できる有用な手段である.喀痰中に見られる腺癌細胞は,大きく,円形または多角形で,乳頭状あるいは球形のクラスターで,あるいは孤立性に認められる.細胞質は泡沫状であるか,ライトグリーンに淡く染色される.多量の粘液が存在すると,核を一方に圧排する.腺癌細胞の核は大きく,核のクロマチンは細顆粒状である.核小体は1個で大型,円形で,核の中央に認められる.核縁は肥厚している.気管支擦過標本や経皮的肺生検で得られる標本は,喀痰に比べて出現する腺癌細胞が多く,乳頭状のクラスターを形成するか,シート状に配列する.核のクロマチンは微細顆粒状で均等に分布し,増量している.核縁の肥厚は見られない.腺癌細胞と鑑別する必要があるものとして,異型腺腫様過形成,II型肺胞上皮細胞の過形成,マクロファージなどがあげられる.これらは核異型が軽度であること,出現する細胞数が少ないことなどで鑑別できるが,鑑別が困難なこともある.他臓器の腺癌の肺転移と原発性肺腺癌の鑑別は難しいことが多いが,大腸癌の肺転移など,鑑別ができることもある.
原著
  • 磯部 和順, 秦 美暢, 杉野 圭史, 佐野 剛, 高井 雄二郎, 木村 一博, 長谷川 千花子, 笹本 修一, 高木 啓吾, 本間 栄
    2007 年 47 巻 7 号 p. 849-854
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル オープンアクセス
    目的.間質性肺炎(interstitial pneumonia:IP)合併肺癌における治療後のIP急性増悪の臨床像を明らかにする.方法.1999年6月~2007年4月までに加療した肺癌776例を対象とし,IP合併肺癌の治療後急性増悪について臨床病理学的にretrospectiveに検討した.結果.IP合併肺癌は39例(5%)に認めた.治療後IP急性増悪は39例中6例(15%)に認め,うち4例(10%)が呼吸不全で死亡した.急性増悪群と非急性増悪群の2群間では肺癌治療前のLDH,KL-6,SP-D,PaO2,%VC,%DLcoの値には統計学的有意差は認めなかった.治療法別では化学療法24例中5例(21%),手術療法6例中1例(17%)に治療後急性増悪を認めた.IP分類では,特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias(IIPs):idiopathic pulmonary fibrosis(IPF)29例,nonspecific interstitial pneumonia(NSIP)1例)の30例中4例(13%),膠原病随伴性間質性肺炎(collagen vascular disease-IP:CVD-IP)の9例中2例(22%)に急性増悪を認め,死亡した4例中2例はCVD-IPであった.結語.IIPsのみならずCVD-IPも急性増悪を念頭に置き肺癌治療にあたることが重要である.
  • 岸 一馬, 岡崎 篤, 高谷 久史, 宮本 篤, 吉村 邦彦
    2007 年 47 巻 7 号 p. 855-859
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル オープンアクセス
    目的.局所進行非小細胞肺癌に対するパクリタクセル+カルボプラチン併用同時胸部放射線療法の効果と副作用を検討する.方法.2001年12月~2005年3月までにカルボプラチン+パクリタクセル併用同時胸部放射線療法を施行した切除不能III期非小細胞肺癌患者15例を対象とした.治療は,パクリタクセル40 mg/m2とカルボプラチンAUC 2(カルバートの式より算出)を第1,8,15,22,29,36,43日に投与し,放射線照射を第1日より2.0 Gy/日×5回/週×6.5週(計66 Gy)で施行した.結果.性別は男性12例,女性3例,年齢中央値は67歳であった.放射線療法は,13例に予定線量が照射された.抗癌剤の投与回数は4~7回,中央値6回であった.治療効果は,PR 13例,SD 1例,PD 1例で,奏功率は86.7%であった.副作用は全体に軽度で,grade 3の食道炎は1例のみで,grade 3/4の肺臓炎は認めなかった.生存期間中央値は37.7ヵ月,5年生存率は40.0%であった.結語.局所進行非小細胞肺癌に対してパクリタクセル+カルボプラチン併用同時胸部放射線療法は有効な治療法で安全に実施することができる.
  • 小鹿 雅和, 平野 隆, 松林 純, 果 然, ごん 雲波, 川村 猛, 片場 寛明, 大平 達夫, 向井 清, 加藤 治文
    2007 年 47 巻 7 号 p. 861-869
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル オープンアクセス
    目的.原発性肺癌の生物学的性格を反映するバイオマーカーの探索を目的にEttan-DIGE法による肺癌組織型関連蛋白の検出・同定を試みた.方法.組織型ごとに4~8症例の組織分化が中等度~高分化症例の2次元電気泳動(2-DE)用サンプルを混合し,組織型標準サンプルとして蛍光標識後に2-DEを施行,各組織型で高発現するスポットを検出した.各スポットは質量分析法で蛋白質分子を同定,検証は肺癌腫瘍組織の免疫組織化学染色によって行った.結果.19種類の扁平上皮癌関連蛋白質(eSq),16種類の腺癌関連蛋白質(eAd),17種類の神経内分泌癌関連蛋白質(eNE)を検出,このうち6種類のeSq,8種類のeAdを同定した.同定蛋白質の14種類のうち8種類がサイトケラチン(CK)(eSq:CK5,CK6A,CK6C,CK6D,CK17,eAd:CK8,CK18,CK19)であった.その後の免疫組織染色による検証で各組織型間でのCKの発現に特徴があることを示すことができた.考察.腫瘍関連蛋白質の発現量に基づいて肺癌を評価することで,腫瘍の生物学的性格を反映させることが可能となり,治療法選択に応用できると考える.
症例
  • 森川 洋匡, 田中 亨, 濱路 政嗣, 佐野 公泰, 安田 成雄, 加藤 達雄
    2007 年 47 巻 7 号 p. 871-875
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル オープンアクセス
    背景.Pleomorphic carcinomaは肺原発悪性腫瘍の約0.3%とされている稀な疾患である.今回我々は空洞像を呈したPleomorphic carcinomaの1例を経験したので報告する.症例.62歳,男性.主訴は咳嗽.2ヶ月前より主訴あり,精査することとなった.胸部X線で左上肺野に異常陰影を認め,胸部CTでは左上葉に壁が不整な4 cm大の空洞性病変がみられた.気管支鏡下肺生検で非小細胞肺癌と診断を得たため,左肺上葉切除及び肺門縦隔リンパ節郭清術を施行した.病理組織所見では扁平上皮癌と紡錘細胞,巨細胞が混在して増殖しておりPleomorphic carcinomaと診断された.リンパ節転移は認められず病理病期はpT2N0M0,Stage IBであった.術後8ヶ月再発の兆候はみられていない.結論.本腫瘍は他の組織型と比較して予後不良との報告もあるため厳重な経過観察が必要であると考えられる.
  • 阪本 仁, 小阪 真二, 原 克之, 土屋 恭子
    2007 年 47 巻 7 号 p. 877-882
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル オープンアクセス
    背景.肺癌肉腫は癌腫と真の肉腫成分との混在からなる稀な悪性腫瘍である.症例1.夜間咳嗽を主訴とした67歳男性.胸部CTで右上葉に5.5×2.8×2.3 cmの腫瘍を認めた.気管支検査で右B1入口部に赤色のポリープ状の腫瘍を認めた.右肺上葉切除,リンパ節郭清(ND2a)を行い,肺癌肉腫,pT2N0M0,IB期と診断.術後200日目の頭部CTで脳転移を認め,摘出術を施行.症例2.胸部異常陰影を主訴とした74歳男性.大動脈瘤人工血管置換術後の経過観察中,胸部CTで右下後縦隔から右胸腔内に位置する6.2×4.4×3.7 cmの腫瘍,縦隔リンパ節腫脹,両肺野に多発結節影を認め,骨シンチで多発骨転移を認めた.胸腔鏡下生検で肺癌肉腫と病理診断し,cT2N2M1(PUL,OSS),IV期と診断.シスプラチン,ビノレルビンによる化学療法を施行し原発巣の縮小を認めたが,癌性髄膜炎にてCT発見より約6ヵ月後に死亡.結論.肺癌肉腫の外科的切除による長期生存例の報告も認めるが,肺癌肉腫全体の予後は不良とされる.肺癌肉腫に対する手術適応と抗癌剤治療については,さらなる症例の集積による検討が必要である.
  • 鈴木 仁之, 河村 一郎, 池ノ内 紀祐, 原 徹, 徳井 俊也
    2007 年 47 巻 7 号 p. 883-886
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル オープンアクセス
    背景.印環細胞癌は胃にしばしば認められるが,肺原発の印環細胞癌はまれである.症例.74歳,男性.発熱と大量の胸水により,当院に入院となった.胸部CT写真では大量の右胸水の貯留と右上葉に腫瘤影を認めた.膿胸治療後にCTガイド下生検を施行したところ腺癌の診断を得たため,右上葉切除術およびリンパ節郭清を施行した.切除標本の病理組織所見では,約80%が印環細胞癌であった.免疫染色ではthyroid transcription factor-1,surfactant apoprotein A,cytokeratin-7が陽性で,cytokeratin-20が陰性であった.全身検索の結果,他臓器には転移および原発巣は認められず,肺原発の印環細胞癌と診断した.病期はpT1N2M0,Stage IIIAであった.結論.印環細胞癌は一般に消化器系臓器に発生することが多いが,まれに肺原発のものがあることを念頭におく必要がある.
  • 河野 朋哉, 寺町 政美, 森 英恵, 遠藤 和夫, 平林 正孝
    2007 年 47 巻 7 号 p. 887-890
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル オープンアクセス
    背景.悪性胸膜中皮腫と気胸の合併は時にみられるが,水気胸を契機に発見された悪性胸膜中皮腫の報告は少ない.今回,検診にて胸水貯留と気胸を指摘され,悪性胸膜中皮腫の診断に至った症例を経験したので報告する.症例.43歳,女性.住民検診で胸水貯留と気胸を指摘され,精査・加療目的で当科へ紹介されてきた.胸腔鏡検査で壁側胸膜に腫瘍を認め,肺の数ヶ所から大量の空気漏出を認めた.腫瘍の生検にて悪性胸膜中皮腫の診断を得たため,右胸膜肺全摘出術を施行した.病理所見で,腫瘍による臓側胸膜の破綻をうかがわせた.術後放射線治療と化学療法を追加したが,25ヶ月後に死亡された.結語.持続する肺瘻を伴った悪性胸膜中皮腫の1例を経験した.40歳以上の気胸では悪性疾患も考慮に入れて精査する必要があると思われた.
  • 徳安 宏和, 渡部 悦子, 唐下 泰一, 河崎 雄司, 前田 亮, 磯和 理貴
    2007 年 47 巻 7 号 p. 891-896
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル オープンアクセス
    背景.肺MALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫に胸水を伴うことは稀である.症例.症例はHTLV-1(human T-cell lymphotropic virus type-1)キャリアーの78歳男性で,1998年の検診で右下肺野に腫瘤影を指摘され気管支鏡検査を施行されたが確定診断が得られず.その後腫瘤影が増大し,右側胸水が出現したため2001年11月当科に入院した.胸水は血性でリンパ球優位な滲出液であった.診断的治療目的で右中下葉切除術を施行し,組織の免疫組織学的および遺伝子解析による検討でMALTリンパ腫と診断した.術後化学療法は施行せず経過観察しているが術後65ヶ月の現在も再発は認められない.結論.MALTリンパ腫の胸水貯留例であっても腫瘍の完全切除例では予後が良好であると考えられた.
  • 濱井 宏介, 江川 博彌, 坂口 文, 金子 真弓
    2007 年 47 巻 7 号 p. 897-902
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル オープンアクセス
    背景.悪性胸膜中皮腫は組織学的に上皮型,肉腫型,二相型に分類されるが,この中には骨への分化を示す症例が稀に報告されている.症例.78歳女性.背部痛,呼吸困難で発症した.胸部CT,胸水細胞診にて悪性胸膜中皮腫と診断した.入院時の骨シンチグラムで腫瘍に一致したRIの取り込みがあった.全身状態を考慮し対症療法を行ったが,入院後約2ヶ月で死亡した.剖検により骨肉腫への分化を伴った肉腫型の悪性胸膜中皮腫と診断した.本邦では,骨への分化を示した悪性胸膜中皮腫の報告は今までに6例あるが,骨肉腫への分化を認めた症例はきわめて少ない.その分化の機序としては中皮細胞の多分化能とする説が有力である.本例ではアスベスト曝露は明らかでなかった.結論.骨肉腫に分化した悪性胸膜中皮腫の1剖検例を報告した.
第21回日本肺癌学会肺癌ワークショップ
  • William D. Travis
    2007 年 47 巻 7 号 p. 903
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル オープンアクセス
  • 柴田 龍弘
    2007 年 47 巻 7 号 p. 905-908
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル オープンアクセス
    目的,研究方法.肺がんは未だに予後不良な腫瘍の一つであり,しかもその発生は本邦を含め世界的に増加傾向にある.肺がんは病理組織学的に多彩な組織像を呈することが知られているが,その本態であるゲノム異常については未だ全貌は明らかではない.肺腺がん切除標本における染色体構造異常をゲノム全体に亘って網羅的に解析するために,臨床検体からマイクロダイセクションによりがん細胞のみを選別し,800個のがん関連遺伝子を搭載したアレイを用いたアレイCGH解析を行った.結果.肺腺がん55症例を解析し,高頻度増幅やホモ欠失領域を含め,多数のゲノム異常を検出した.ゲノム異常の組み合わせにより肺腺がんを3つに分類したところ,喫煙歴,性別,EGFR(上皮増殖因子受容体)遺伝子異常の頻度と相関した.またEGFR遺伝子異常の有無と相関するようなゲノム異常を同定できた.結論.肺腺がんには,性別や喫煙歴と相関するような複数の分子発がん過程が並列して存在していることが示唆された.がんのゲノムプロファイリングにより,新しい発がん過程の多様性が明らかになり,新しい予後マーカーや治療標的の同定に有用であると考えられた.
  • 谷田部 恭
    2007 年 47 巻 7 号 p. 909-913
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル オープンアクセス
    目的.腫瘍の発現プロファイルの比較に基づいた階層的クラスタリングは,全遺伝子の発現パターンを比較した分子生物学的分類ととらえることも可能である.そこで,肺癌における発現プロファイルをもとに,肺癌の分子生物学的分類について考察した.研究計画(方法).これまでに発表された肺癌における階層的クラスタリングを比較検討した.結果.肺癌はまず2つのグループに大別化され,その後に4大組織型に基づいたクラスターに分かれる.そのクラスター間の関係から見ると,小細胞肺癌と扁平上皮癌の違いは,腺癌クラスターの違いよりはるかに小さいことがわかった.また,発現分子の詳細な検討を行うと,この2つのグループは,その由来となる細胞型に大きく依存しているのではないかと考えられた.それは,少なくとも2つのうちの1つのグループは,末梢肺細胞から由来したと考えられる腺癌であったからである.そしてこの末梢肺細胞型腺癌にはEGFR遺伝子変異が特異的に観察され,臨床病理学的にも女性・非喫煙者に多いことから,特徴ある腫瘍グループであると推測された.結論.肺癌の分子生物学的分類から,細胞系の違いによる分子発がん機序の理解も重要ではないかと思われた.
  • 福岡 順也, 北野 晴久
    2007 年 47 巻 7 号 p. 915-919
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル オープンアクセス
    分子標的治療の登場により,肺がん治療は新たな局面を迎えている.今日の医療を「オーダーメード医療」へ近づけるためには,まず,遺伝子や蛋白の情報を収集し,網羅的解析によって膨大なデータを蓄積する必要がある.最大1500コアを有することができる「組織アレイ」は網羅的解析に欠かすことができない技法であり,基礎研究と臨床をつなぐトランスレーショナルな研究ツールといえる.ここでは,我々が主に使用している高集積組織アレイを中心に述べる.
  • 野口 雅之
    2007 年 47 巻 7 号 p. 921-925
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル オープンアクセス
    肺末梢に発生する腺癌の多くは肺胞上皮置換性に増殖する細気管支肺胞上皮癌(bronchioloalveolar carcinoma,BAC)を介して浸潤癌に進展すると考えられる.BACを含む小型肺腺癌を病理形態学的に分類する場合,置換性増殖群と非置換性増殖群に分けるのが合理的である.後者はどんなに小さくとも浸潤癌であるが,前者のうちBACは上皮内癌で予後が良いが,これに線維芽細胞の増殖巣が加わると予後が悪くなることがわかっている.この点についての研究は多数報告がある.たとえば形態学的検討では腫瘍内の線維化部分における線維芽細胞の増生巣の割合は予後と良く相関する.分子病理学的にはBACでは特徴的にBax inhibitor-1の発現が高く,epidermal growth factor receptor(EGFR)の変異率も高いが逆にp16遺伝子のプロモーター領域の過剰メチル化は認めない.これらの違いはBACを構成する腫瘍細胞が浸潤癌のそれと明らかに性質の異なる腫瘍細胞であることを示している.
  • 武島 幸男, 井内 康輝, 風呂中 修, 西阪 隆
    2007 年 47 巻 7 号 p. 927-933
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル オープンアクセス
    目的.肺扁平上皮癌の組織発生を中枢型および末梢型扁平上皮癌のそれぞれについて,種々の遺伝子異常や蛋白発現の異常の面から検討する.方法.中枢型扁平上皮癌の多段階発癌に関するモデルとして,中枢気道の種々の過形成,化生,上皮内癌を蒐集し,これらの病変のp53遺伝子を中心とする異常を明らかにする.また,末梢型扁平上皮癌については,p14,p15,p16遺伝子のメチル化やp16の発現,また,Maspin,p63,TTF-1などの分化抗原の発現を検討した.結果.中枢気道の前がん性病変として指摘されている異形成,上皮内癌では,その異型度が増すにつれ遺伝子異常の蓄積がみられた.また,中枢型と末梢型の扁平上皮癌を比較した検討では,中枢型で遺伝子の異常なメチル化の頻度が高い傾向があった.末梢型ではp16遺伝子のメチル化と喫煙指数に関連がみられた.さらに,末梢型では通常発現のみられないTTF-1の発現を示す例が少数ながら存在した.結語.異形成,中枢型・末梢型扁平上皮癌のそれぞれの遺伝子異常や蛋白発現のプロファイルの差異の検討は,それらの組織発生を推論する上で有用である可能性がある.
  • 石川 雄一
    2007 年 47 巻 7 号 p. 935-939
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル オープンアクセス
    肺の神経内分泌性腫瘍の分類は,この数年の間に大きく変化した.大細胞神経内分泌癌(LCNEC)が導入され,小細胞癌(SCLC)の亜型である中間細胞型が廃止された.カルチノイドも定型カルチノイド(TC)と異型カルチノイド(AC)とに分けられ,予後の差も確認された.これにより肺の神経内分泌性腫瘍は,TC-AC-LCNEC-SCLCというスペクトルが確立したかに見える.しかし,このように異なる種類の腫瘍を横に並べると誤解を招きやすい.カルチノイドはカルシノーマとは疫学的,病理学的,遺伝子学的,治療論からも大きく異なる腫瘍である.我々はカルチノイドと神経内分泌癌とに二分し,その中で亜分類すべきと考える.LCNECとSCLCとは形態的に異なるが,遺伝子発現プロファイリングでは差がほとんどない.むしろ,神経内分泌癌の中に予後良好群と不良群とが区別された.これらの群では,神経内分泌性関連遺伝子も使い分けが行われているようである.また,SCLCは肺前駆細胞の腫瘍としての性質を有することが示されている.今後は,これらの腫瘍の性質がさらに解明されると同時に,治療感受性に焦点が移っていくであろう.
  • 中山 富雄, 竹中 明美, 内田 純二, 今村 文生, 東山 聖彦, 児玉 憲
    2007 年 47 巻 7 号 p. 941-943
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル オープンアクセス
    目的.末梢性小型肺野病変は,画像診断の進歩により病理細胞学的な診断を得ずに切除されることが多くなってきた.我々は迅速細胞診のテクニックを用い,術前診断能の向上と術中予後情報の提供を行っている.方法と結果.気管支鏡検査の際には,検査場で1分間で染色できる迅速ショール染色変法を行い,陰性であれば極細径気管支鏡下の4回生検を行っている.このことにより2 cm以下肺癌例の診断率は64%から92%に向上した.また2 cm以下腺癌の術中捺印細胞診を5型に分類し,予後との関連性を明らかにした.今後術中に迅速報告することにより,縮小手術の術中適応の補助診断に応用可能か検討中である.結論.呼吸器細胞診は,適切な標本作製さえ行えば,様々な情報を速やかに提供することが可能である.
  • 井内 康輝
    2007 年 47 巻 7 号 p. 945-950
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル オープンアクセス
    本邦では近年,1960~1990年代における膨大な量のアスベストの使用の結果として,中皮腫の増加が著しい.従来からの労災補償に加えて,石綿救済新法の成立によって,労災補償の対象とならない中皮腫患者の補償・救済が広く行われるようになったが,これらの制度においては中皮腫の診断が補償・救済の是非を決めることになり,特に病理診断の精度向上が求められている.中皮腫が従来まれな腫瘍であることに加え,その組織像が多彩であることから,現状の中皮腫の病理診断の精度には問題があるといわざるをえない.中皮細胞の陽性マーカー,陰性マーカーとなる多種類の抗体を用いた免疫組織化学的染色が大変有用であることが判明してきたので,今後は中皮腫の組織型別に適切な抗体の選択をして診断を行うことが奨められる.
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