肺癌
Online ISSN : 1348-9992
Print ISSN : 0386-9628
ISSN-L : 0386-9628
52 巻, 2 号
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
総説
  • 宗 淳一, 豊岡 伸一, 上野 剛, 三好 新一郎
    2012 年 52 巻 2 号 p. 131-135
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/12
    ジャーナル オープンアクセス
    本邦の肺腺癌の約40%に認められるepidermal growth factor receptor(EGFR)変異肺癌に対する有効な治療法の開発は,肺癌治療成績の向上において重要である.EGFR変異肺癌にはEGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)が高い感受性を示すが,遺伝子変異がもたらすEGFR変異蛋白に対するEGFR-TKIとアデノシン3リン酸(ATP)の親和性の関係を知ることは感受性・耐性の原因を理解する上で大切である.また,薬剤に対する獲得耐性の機構としては,T790M変異に代表されるEGFR遺伝子の2次変異とMET遺伝子増幅などのキナーゼ乗り換え耐性の2つに大別される.EGFR-TKI耐性肺癌の克服には,これら耐性化機構の理解に基づいた新規薬剤および治療法の開発が不可欠である.多くの薬剤が開発されているが,heat shock protein 90(Hsp90)阻害剤は,変異型EGFR・MET・AKTなどの複数のクライアント蛋白の安定化を阻害することで抗腫瘍効果を示すため,様々な機構を持つEGFR-TKI耐性肺癌への治療効果が期待され,現在臨床試験が行われている.
  • 曽田 学, 間野 博行
    2012 年 52 巻 2 号 p. 136-141
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/12
    ジャーナル オープンアクセス
    我々はcDNA発現レトロウイルスライブラリーの技術を用いて,微小管会合タンパクEML4と,受容体型チロシンキナーゼALKのチロシンキナーゼ領域を含む細胞内領域とが融合した新規融合型癌遺伝子EML4-ALKが約4~5%の非小細胞肺癌症例で発現していることを発見した.EML4内の二量体化領域によりEML4-ALKは恒常的に二量体化され活性化されることで,EML4-ALKは非常に強い癌化能を有している.EML4-ALKを導入したトランスジェニックマウスは生後数週で肺癌を形成し,同マウスにALK阻害剤を投与したところ,肺癌は速やかに消失したことから肺癌の新しい分子標的療法になることが期待され,既に本融合型遺伝子陽性肺癌患者を対象としたALK阻害剤であるcrizotinibによる第I/II相臨床試験も終了し,その著しい効果が報告された.また我々は本薬剤に耐性となった症例を経験し,薬剤耐性の原因となる遺伝子変異も発見した.今後ますますALK融合型肺癌とその治療薬が注目されると予想される.
  • 里内 美弥子
    2012 年 52 巻 2 号 p. 142-152
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/12
    ジャーナル オープンアクセス
    現在本邦で非小細胞肺癌に使用可能な分子標的薬には上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)と抗血管内皮増殖因子(VEGF)抗体があり,早期に臨床導入が期待される薬剤にはanaplastic lymphoma kinase(ALK)阻害剤がある.EGFR-TKIは2002年に臨床導入され10年近い年月を経て,日常診療としてEGFR遺伝子変異の検索を行うことが浸透し,「効果をもたらす真の標的を理解して適切に使用する」ことが可能になってきた印象がある.臨床導入2年目のベバシズマブについては「毒性の回避」と「いつまで使うのか」が盛んに議論されているが,「どの症例に・いつまで使用すべきか」の理論的根拠になるようなバイオマーカーについてはほとんどエビデンスがない状況であり,他の血管新生因子の関与など新たなバイオマーカーの探索が期待される.ALK阻害剤では今後承認されるまでにEML4-ALK融合遺伝子の診断法がどこまで確立・一般化され,validationされるのかが重要で,広く日常診療で患者選択ができ適切に広く臨床に導入できるようになることが望まれる.
  • 里内 美弥子, 一瀬 幸人, 西脇 裕, 大江 裕一郎, 山本 信之, 片上 信之, 中川 和彦, 木浦 勝行, Jiang Haiyi, ...
    2012 年 52 巻 2 号 p. 153-160
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/12
    ジャーナル オープンアクセス
    IPASS(Iressa Pan-Asia Study)は東アジアで行われた,化学療法未施行の肺腺癌で非喫煙者・軽喫煙者を対象に,ゲフィチニブとカルボプラチン・パクリタキセルを比較した第III相比較試験である.主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)はゲフィチニブ群で有意に延長したことはすでに報告されている.バイオマーカーでのサブセット解析も報告され,EGFR遺伝子変異のあるサブグループではゲフィチニブ群が有意にPFSを伸ばす一方,遺伝子変異陰性のサブグループではゲフィチニブ群のPFSが有意に劣ることも示されている.全生存期間(OS)に関する最終報告については2010年のESMOですでに報告されており,今回,同内容につき日本肺癌学会で報告した.全体の解析においてOSはゲフィチニブ群18.8ヶ月,化学療法群17.4ヶ月(HR=0.90)と両群で差がないことが示された.サブセット解析ではEGFR遺伝子変異陽性のサブセットでゲフィチニブ群の生存期間中央値が21.6ヶ月・化学療法群で21.9ヶ月,陰性例においてはゲフィチニブ群で11.2ヶ月・化学療法群で12.7ヶ月であり,EGFR遺伝子変異陽性例でいずれの群においても生存期間が長いことが示されたが,EGFR遺伝子変異の有無にかかわらず治療群によるOSの差はないことが示された.今回の発表内容を本稿で解説する.
  • 樋口 徹也, 有坂 有紀子, 中澤 梓, 対馬 義人, 織内 昇, 遠藤 啓吾
    2012 年 52 巻 2 号 p. 161-167
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/12
    ジャーナル オープンアクセス
    目的.肺癌診断におけるPET診断の有用性を検討する.研究計画(方法).肺癌の診断において,18F-FDGを用いるPET/CTは肺結節の良悪性診断や病期診断などの初期診断,治療効果判定,再発診断において日常臨床で頻繁に利用される.また,近年,分子標的治療薬による導入化学療法の早期治療効果判定や治療効果予測や予後予測などへのPET検査の応用が進み,FDGに加え,新しいPET核種による診断の研究も進んでいる.本稿では,FDG-PETを中心に,肺癌診断におけるPET診断の有用性を述べる.結果.肺癌の初期診断においては,SUVを用いて,大まかな良悪性診断は可能であるが,特に小病変では,CTとの併用による診断が重要である.病期診断では,肺門リンパ節への非特異的集積などが診断上問題であるが,CTとの併用などでより正確な診断が可能である.再発診断には,FDG-PETは特に有用である.肺癌の治療効果判定には,RECISTなどを用いた治療効果判定や効果予測が可能である.結論.PET診断は,肺癌診断において非常に有用であり,今後は,早期効果判定への応用,新しい核種での診断などが進むと考えられる.
  • 大西 洋, 荒木 力
    2012 年 52 巻 2 号 p. 168-173
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/12
    ジャーナル オープンアクセス
    I期非小細胞肺癌に対する定位放射線治療は1995年頃から主に手術困難な患者に対して臨床応用が活発となり,さまざまな臨床試験が行われている.初期の報告としては,Uematsuらが2001年に,50~60 Gy/10回法で3年局所制御率が94%,3年粗生存率が66%と報告した.次いでNagataらが2005年に,48 Gy/4回法で3年局所制御率が98%,3年粗生存率がIA期で83%・IB期で72%と報告した.Onishiらは多施設研究でbiological effective dose(BED)が100 Gy以上の群で局所制御率・生存率ともに良好であると報告した.米国ではTimmermanらが第I相(線量増加)試験結果として60 Gy/3回が最大許容線量とした.次にRTOG0236として60 Gy/3回法の第II相試験が行われ,3年局所制御率98%,3年粗生存率56%と報告された.日本ではIA期に対する48 Gy/4回法の第II相試験がJCOG0403として全165症例が登録完了し,そのうち手術可能症例群の3年成績が2010年学会発表された.米国でも手術可能症例に対する第II相試験(RTOG0618)が登録終了している.
  • 木村 智樹, 西淵 いくの, 村上 祐司, 権丈 雅浩, 兼安 祐子, 永田 靖
    2012 年 52 巻 2 号 p. 174-181
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/12
    ジャーナル オープンアクセス
    4次元照射とは従来の3次元照射に呼吸性移動などの時間的要素を加味したものと定義できる.当科では4次元CT(4D-CT)と呼吸同期システム(RPM;Real-time Position Management System)を導入し,2009年より呼吸同期照射を開始した.これにより呼吸性移動の大きな患者において,有意に肺線量を軽減することが可能となった.一方で,本システムによる呼吸同期照射には呼吸の再現性や標的の輪郭描画といった不確定要素を内包するだけでなく,4D-CTによる被曝の増大,治療計画の煩雑さ,そしてエビデンスの構築といった問題が存在しており,呼吸同期照射の普及にはこれらの課題の解決が必要である.
  • 鈴木 健司
    2012 年 52 巻 2 号 p. 182-189
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/12
    ジャーナル オープンアクセス
    当時世界を席巻していた瘢痕癌という概念をShimosatoらが「革命的に」覆してすでに30年が経過した.この間,小型肺癌に関する研究は世界中から報告されるが,その量,質ともに日本の研究者が他を圧倒している.またその研究者の多くがShimosatoらの報告に大きな影響を受けていることは論を待たない.そして小型肺癌の領域において世界で最も有名な所謂"Noguchi分類"は1995年に報告されたのであるが,奇しくも小型肺癌に対する呼吸器外科史上唯一の縮小切除に関する第三相試験が報告されたのも同じこの年であった.一見無関係にみえる二つの報告であるが,この史上まれにみるタイミングをもって,その後の縮小切除の研究は大きく二つに分かれることになる.術前に「早期」肺癌を選択して縮小切除を行うという流れと,小型であることをもって縮小切除を行うという流れの二つである.前者は胃癌に例えるならば内視鏡的粘膜切除を早期胃癌に対して適応するといった考えであり,後者はリンパ節転移を起こす可能性のある肺癌に対しても縮小切除を適応するといった考えである.双方の考え方も利点と欠点があって,現在でもその考え方はお互いに譲らない形となっている.その結果,現在行われている縮小切除に関する臨床試験はまさに二つの臨床試験として行われており,ほぼ同時に米国で行われている試験が一つであることと極めて対照的である.そしてこれは肺癌学において日本の独創力が反映されているよい例であって世界に誇る研究であるといえる.そしてそのすべてはShimosatoらの報告に始まったのである.
  • 野守 裕明, 堀之内 宏久, 泉 陽太郎, 河野 光智, 大塚 崇, 安樂 真樹, 朝倉 啓介, 橋本 浩平, 中山 敬史, 奥井 将之
    2012 年 52 巻 2 号 p. 190-195
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/12
    ジャーナル オープンアクセス
    cT1aN0M0非小細胞肺癌において,肺区域切除を肺葉切除と同等の根治性のある手術とするための要点は,十分な切離断端の確保と肺門リンパ節の郭清であることは容易に想像がつく.しかしこの2点は意外と容易ではない.ここに我々が日常心がけている切離断端確保と肺門縦隔リンパ節郭清の方法および手技を紹介する.切離断端の確保のためには腫瘍をリング状の鉗子で掴み込み,リング状鉗子よりさらに離して肺を切離する.肺門リンパ節郭清のためには肺門の血管・気管支にそれぞれテーピングして,肺門を展開しリンパ節を切除する.これらの重要性を症例提示しながら紹介する.
  • 辻村 亨, 佐藤 鮎子, 鳥井 郁子, 亀井 敏昭, 長谷川 誠紀, 中野 孝司
    2012 年 52 巻 2 号 p. 196-200
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/12
    ジャーナル オープンアクセス
    目的.悪性胸膜中皮腫(MPM)の胸水細胞診では,細胞質に重厚感がみられ,細胞封入像や多核細胞が高頻度に出現する.細胞質の重厚感には中間径フィラメントが関与し,細胞封入や多核細胞の形成には細胞融合を促す細胞接着分子が重要な役割を果たしている可能性がある.そこで,我々は,MPMと反応性中皮(RM)における中間径フィラメント及び細胞接着分子の発現を比較した.方法.MPMとRMの遺伝子発現プロファイルをAffymetrix Arrayにより取得し,中間径フィラメントの発現を検討した.MPMとRMの細胞診標本を作製して,細胞接着分子CD146に対する抗体(2種類のクローン)を用いて免疫染色を行った.結果.MPMでは,RMに比較して,種々の中間径フィラメントが強く発現していた.CD146免疫染色では,MPMはどちらかのクローンに対して陽性を示したのに対して,RMはいずれのクローンに対しても陰性であった.結論.MPMにおける中間径フィラメントの高発現が,細胞質の重厚感を生み出していると考えられた.CD146などの細胞接着分子の高発現が,細胞封入や多核細胞の形成に関与していることが示唆された.
  • 鍋島 一樹, 松本 慎二, 濱崎 慎, 大神 明子, 亀井 敏昭, 岩崎 昭憲
    2012 年 52 巻 2 号 p. 201-208
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/12
    ジャーナル オープンアクセス
    背景と目的.悪性胸膜中皮腫(MPM)患者の多くは胸水にて発症するので,胸水細胞診による診断は重要である.しかし,MPMに対する免疫細胞化学的マーカーの欠如と細胞診上の確固たる診断基準が未確立であるため,MPMと反応性中皮細胞(RMC)の鑑別を困難にしている.さらに胸水中にMPM細胞もRMCもともに存在することがその鑑別を一層困難にしている.染色体の9p21領域に存在するCDKN2A/p16遺伝子のホモ接合性欠失は,MPMにおいて高頻度に認められるが,RMCにおいてはいまだに報告がない.この研究の目的は,fluorescence in situ hybridization(FISH)を用いて,胸水細胞診標本から,p16のホモ接合性欠失を有するMPM細胞を同定し,その形態学的特徴を明確にすることである.研究計画.上記の目的のため,胸水細胞診標本をバーチャルスライド化して,その形態を保存した後,同標本を用いてFISHを行った.FISHにてp16遺伝子のホモ接合性欠失を示す細胞をバーチャルスライド上より同定し,その形態学的特徴を解析した.結果p16遺伝子のホモ接合性欠失を示すMPM細胞は,p16遺伝子欠失のないRMCと比較して,有意に多くの細胞相互封入所見(ハンプ形成を含む),3核以上の多核細胞,10個以上の細胞より成る大型の細胞集塊を認めた.結論.今回の研究より,上記の細胞の特徴がMPM細胞とRMCの鑑別に有用であることが明確となった.また,バーチャルスライドとFISHの組み合わせが腫瘍細胞の形態学的解析にとって有用であることも示された.
原著
  • 中川 達雄, 齊藤 正男, 徳永 義昌, 近藤 健, 根來 慶春
    2012 年 52 巻 2 号 p. 209-214
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/12
    ジャーナル オープンアクセス
    目的.非小細胞肺癌に対する定位放射線治療(stereotactic body radiotherapy;SBRT)と手術治療の治療成績を比較すること.方法.2003年1月から2010年12月までにcN0非小細胞肺癌に対して行われたSBRTおよび手術症例を対象とした.結果.SBRT群30例の組織型は腺癌14例,扁平上皮癌11例,その他5例であった.放射線照射は,10 Gy×5が12例,7.5 Gy×8が3例,12 Gy×4が9例,12.5 Gy×4が6例であった.手術群575例の組織型は腺癌417例,扁平上皮癌124例,その他34例で,術式は全摘3例,肺葉切除507例,区域切除38例,部分切除27例であった.背景因子は,SBRT群で年齢が高値,PSが不良,%FEV1.0が低値であった.5年生存率は,SBRT群で51.0%,手術群で77.4%と有意差を認めた(p=0.012)が,疾患特異生存率では有意差は認めなかった.多変量解析およびpropensity score matchingを用いた比較では,両群間に有意差を認めなかった.結論.cN0非小細胞肺癌に対してSBRTは手術と同等の治療効果が期待できる.
症例
  • 冨地 信和, 小野 貞英, 小野寺 賢, 石田 格, 大浦 裕之, 半田 政志
    2012 年 52 巻 2 号 p. 215-219
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/12
    ジャーナル オープンアクセス
    背景.縦隔の気管食道嚢胞は極めて稀な疾患で,これまで自験例を含めて6例の報告しかみられない.症例.43歳,女性.胸部X線写真で左下肺野に異常陰影を指摘され,当院を受診.胸部CT画像では,下行大動脈に近接した傍胸椎部に,境界明瞭で楕円形の低吸収を呈する腫瘤陰影が認められた.MRIではT1強調画像で比較的均一な高信号,T2強調画像で著明な高信号を示した.後縦隔腫瘍が疑われ,開胸にて腫瘍摘出術が施行された.腫瘍は6×3×3 cmの単房性嚢胞で,食道や気管支との交通はみられなかった.病理組織学的に,嚢胞内にはゼラチン様物質が充満し,嚢胞壁は連続性に気管支嚢胞(気管支上皮,気管支腺,硝子軟骨など)と食道嚢胞(重層扁平上皮,食道腺,数層の厚い平滑筋など)との両者の組織成分から構成されており,気管食道嚢胞と診断された.結論.胸部異常陰影で発見された極めて稀な気管食道嚢胞の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告した.
  • 岡崎 彰仁, 新屋 智之, 酒井 麻夫, 曽根 崇, 笠原 寿郎, 藤村 政樹
    2012 年 52 巻 2 号 p. 220-225
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/12
    ジャーナル オープンアクセス
    背景.肺癌の初回診断時に胃転移が確認されることは稀である.症例1.74歳,女性.胸部単純X線で左上葉無気肺を認め,気管支鏡で,左上幹を完全に閉塞する腫瘍性病変からの生検にて,小細胞肺癌と診断した.食欲不振の精査目的の胃内視鏡検査で胃前庭部に中心陥凹を伴う隆起性病変を認め,生検にて免疫染色で肺と同一の小細胞癌を認めたため,胃転移と診断した.カルボプラチン+エトポシド併用療法による全身化学療法を行うも無効で,3か月後に死亡した.症例2.76歳,男性.右下葉原発の小細胞肺癌の治療開始前に心窩部痛があり,胃内視鏡検査で胃体部に中心陥凹を伴う隆起性病変を認め,生検により小細胞肺癌の胃転移と診断した.原疾患の増悪により1か月後に死亡した.結語.食欲不振や心窩部痛のような消化器症状は化学療法の副作用と捉えられがちだが,初回診断時でも,有症状時には上部消化管の評価のため胃内視鏡検査を行うことは有用と考えられた.
  • 有村 隆明, 境澤 隆夫, 小沢 恵介, 西村 秀紀
    2012 年 52 巻 2 号 p. 226-231
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/12
    ジャーナル オープンアクセス
    背景.粘表皮癌は唾液腺に好発する腫瘍であり,胸腺原発は稀でありその報告は少ない.症例.52歳の男性,2004年7月にCT検診で前縦隔腫瘍を指摘されMRIを行ったが,放置していた.2009年1月に慢性副鼻腔炎の術前検査で,増大した縦隔腫瘍を認めた.経皮針生検で粘表皮癌と診断し縦隔腫瘍摘出術を行った.病理組織診断で低分化型高悪性群の粘表皮癌と診断し補助放射線療法を行った.術後15ヶ月で再発し放射線療法や全身化学療法を行ったが術後29ヶ月に癌死した.結論.今回,比較的稀な胸腺粘表皮癌の1例を経験した.
  • 竹内 裕, 菊地 英毅, 小倉 粋, 大泉 聡史, 西村 正治
    2012 年 52 巻 2 号 p. 232-237
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/12
    ジャーナル オープンアクセス
    背景.転移性肺カルチノイド腫瘍は化学療法に抵抗性であり,治療に難渋することが多い.症例.69歳,男性.2001年(63歳)に他院で肺腫瘍に対して右下葉切除術を施行され,IA期肺非定型カルチノイドと診断された.2006年11月に多発肝腫瘍を指摘され,経皮的肝生検にて肺カルチノイド腫瘍の肝転移再発と診断された.肝以外には転移再発所見を認めなかった.化学療法を行ったが奏効せず,肝腫瘍の増大を認めた.2009年1月より多孔性ゼラチン粒およびシスプラチンを用いた肝動脈化学塞栓療法(TACE)を計7回施行し,PR相当の縮小および約1年間の病勢制御が得られた.結論.肺カルチノイドの肝転移に対する治療戦略として,TACEは選択肢の一つとなりうる可能性が示唆された.
  • 尾関 直樹, 福井 高幸, 丹羽 由紀子, 吉田 公秀, 谷田部 恭, 光冨 徹哉
    2012 年 52 巻 2 号 p. 238-241
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/12
    ジャーナル オープンアクセス
    背景.肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)は増加傾向であり,それとともに肺癌との合併例の報告も増えている.症例.74歳男性.人間ドックの胸部CTで左肺S4に孤立性の腫瘤影を指摘された.気管支鏡検査では,擦過細胞診にて腺癌の疑いであった.また,気管支洗浄液の培養とPCRにてMycobacterium avium complexが検出された.術中の針生検による迅速病理診断では肉芽腫のみの所見であったため,舌区区域切除を施行して手術を終了した.切除肺の病理診断では,肺NTM症による肉芽腫に隣接して肺腺癌が同一病巣内に認められた.結語.肺癌と肺NTM症が同時に疑われる場合,針生検による術中迅速病理診断は時に困難である.本症例では確定診断に切除肺の病理診断が必要であった.
  • 森 雅秀, 玄山 宗到, 各務 慎一, 松浦 邦臣, 山口 俊彦, 横田 総一郎
    2012 年 52 巻 2 号 p. 242-247
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/12
    ジャーナル オープンアクセス
    背景.echinoderm microtubule-associated protein-like 4(EML4)-anaplastic lymphoma kinase(ALK)肺癌に対し,ALK阻害剤であるcrizotinibが有用である.一方,葉酸代謝拮抗剤であるpemetrexed(PEM)は,肺腺癌に対し1次だけでなく2次以降の治療にも広く用いられている.症例.39歳女性,非喫煙者.右肺下葉原発の肺腺癌で,右肺門・縦隔リンパ節腫大,両側肺内転移,心嚢液貯留,多発肝・骨転移を認めた.erlotinib,carboplatin(CBDCA)+paclitaxel+bevacizumabの治療はともに多発肝転移に対し無効であった.EML4-ALK陽性で,crizotinibの治験に参加しpartial response(PR)となったが,7ヶ月目に多発肝転移の増大および新たに多発脳転移が確認され投与を終了した.4次治療としてCBDCA+PEMの投与を行い,2クール後に肝・脳転移の縮小を認め,5クール目からPEM単剤による維持療法へ移行した.8クール後(26週目)に単発脳転移の再発を認めガンマナイフ照射を施行した.11クール後(35週目)の胸腹部CTでも再増大はなく,PEMの投与は13クール(単剤で9クール)まで行ったが,43週目に癌性髄膜症と判明し投与終了した.結論.EML4-ALK肺腺癌に対し,crizotinibに耐性化した後,4次治療としてのPEMが著効し長期間病勢制御が可能であった症例を経験した.ALK肺癌へのPEMの有効性についてはさらに検討を要する.
  • 日野 佑美, 梶 政洋, 宮原 尚文, 小林 零, 末舛 恵一
    2012 年 52 巻 2 号 p. 248-252
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/12
    ジャーナル オープンアクセス
    背景.肺原発の印環細胞癌はまれで予後不良であり,有効な化学療法も確立されていないのが現状である.症例.66歳,女性.検診で胸部異常影を指摘され前医を受診し,気管支鏡検査で印環細胞癌と診断され加療目的に当院を受診した.縦隔リンパ節腫大を複数箇所認め,まずシスプラチン+S-1による化学療法を施行した.リンパ節の軽度の縮小効果を認め,手術を施行した.病理診断も同様の組織型で治療効果はわずかに認めるのみであった.結論.まれながら肺原発の印環細胞癌も存在することを認知しておく必要があるとともに,今後も症例を蓄積し,最善の治療法の確立が急務である.
feedback
Top