背景と目的.悪性胸膜中皮腫(MPM)患者の多くは胸水にて発症するので,胸水細胞診による診断は重要である.しかし,MPMに対する免疫細胞化学的マーカーの欠如と細胞診上の確固たる診断基準が未確立であるため,MPMと反応性中皮細胞(RMC)の鑑別を困難にしている.さらに胸水中にMPM細胞もRMCもともに存在することがその鑑別を一層困難にしている.染色体の9p21領域に存在する
CDKN2A/
p16遺伝子のホモ接合性欠失は,MPMにおいて高頻度に認められるが,RMCにおいてはいまだに報告がない.この研究の目的は,fluorescence
in situ hybridization(FISH)を用いて,胸水細胞診標本から,
p16のホモ接合性欠失を有するMPM細胞を同定し,その形態学的特徴を明確にすることである.
研究計画.上記の目的のため,胸水細胞診標本をバーチャルスライド化して,その形態を保存した後,同標本を用いてFISHを行った.FISHにて
p16遺伝子のホモ接合性欠失を示す細胞をバーチャルスライド上より同定し,その形態学的特徴を解析した.
結果.
p16遺伝子のホモ接合性欠失を示すMPM細胞は,
p16遺伝子欠失のないRMCと比較して,有意に多くの細胞相互封入所見(ハンプ形成を含む),3核以上の多核細胞,10個以上の細胞より成る大型の細胞集塊を認めた.
結論.今回の研究より,上記の細胞の特徴がMPM細胞とRMCの鑑別に有用であることが明確となった.また,バーチャルスライドとFISHの組み合わせが腫瘍細胞の形態学的解析にとって有用であることも示された.
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