N2陽性の非小細胞肺癌では,局所の制御を目的とした放射線治療や手術と,遠隔転移の制御を目的とした化学療法を組み合わせた集学的治療が行われてきた.N2非小細胞肺癌に対する導入療法後手術の有用性が示唆されていたが,第III相試験では,根治的化学放射線療法と比較した導入療法後手術の優越性は証明されていないのが現状である.しかし,切除可能なN2非小細胞肺癌で,特に肺葉切除術が可能な場合には,導入化学放射線療法後の手術の有用性が示唆されており,治療の選択肢として考慮すべきである.また,最近では新しい治療薬として免疫チェックポイント阻害剤が登場し,切除不能III期非小細胞肺癌に対して,化学放射線療法との逐次併用による有用性が示され,治療の選択肢が増えている.本稿では,N2非小細胞肺癌に対する導入療法後手術の臨床試験を概説し,当院における導入放射線化学療法後手術の周術期管理や手術の工夫を述べるとともに,今後の展望について述べる.
間質性肺炎(Interstitial pneumonia;IP),特に特発性肺線維症(IPF)は,肺発がんにおいて喫煙と並ぶ独立したリスク因子として知られ,IP患者における肺がん検出率は健常人のそれより有意に高い.喫煙が及ぼす肺発がんへの影響は変異原性や標的遺伝子など分子レベルで明らかにされている.しかしながら,IPが及ぼす肺発がんのメカニズムについては,不明な点が多い.本総説では,IP合併肺がんにおける肺発がんの分子生物学的な知見についてこれまでの研究について概説する.また,我々の最近の研究成果として,IP合併肺がんの網羅的な遺伝子解析から本疾患に特徴的な発がん機構を示す遺伝子プロファイルを抽出したので合わせて報告する.
Objectives. The relevance of febrile neutropenia (FN) to patient-reported outcomes (PROs) was examined in Japanese, East Asian (EA), and non-EA patients with stage IV non-small cell lung cancer. Materials and Methods. PROs were assessed with the Lung Cancer Symptom Scale (LCSS) and EuroQoL-5 Dimensions (EQ-5D) at baseline, every cycle, at discontinuation, and at 30-day follow-up. The time to deterioration (TtD) and mean changes (baseline to treatment completion) in the LCSS total score, average symptom burden index (ASBI), and EQ-5D visual analog scale (VAS) scores were analyzed by the FN status, regardless of the assigned treatment. Results. For patients with and without FN, the hazard ratios (HRs; 95% confidence interval [CI]) for TtD of the LCSS total, ASBI, and EQ-5D VAS scores were 0.731 (0.469-1.141), 0.621 (0.399-0.967), and 0.802 (0.537-1.199) in Japanese patients, and 0.572 (0.250-1.313), 0.506 (0.228-1.121), and 0.792 (0.350-1.790) in EA patients, respectively, indicating a longer TtD in PROs for patients without FN than for those with FN, while no marked differences by the FN status were noted in non-EA patients. Across the three populations, the mean change in both the LCSS total and EQ-5D VAS scores demonstrated a greater deterioration at treatment completion for patients with FN than for those without FN. Conclusions. PROs deteriorated more rapidly in patients with FN than in those without FN among Japanese and EA patients but not non-EA patients. Upon treatment completion, PROs were better maintained in patients without FN than in those with FN in all three populations. These findings suggest that active prevention of FN may help maintain PROs during treatment, regardless of ethnic group (ClinicalTrials.gov registration: NCT01703091 and NCT01168973).
背景.縦隔血管腫は稀な疾患で,術前診断が困難である.症例.30歳,女性.38℃の発熱と激しい胸痛があり,胸部X線検査で左下肺野腫瘤影を認め当科紹介となった.胸部CTで左後縦隔に径100×65 mmの低吸収,辺縁整な腫瘍と,左下葉に無気肺を認めた.胸部MRIでT1低信号,T2高信号の左後縦隔腫瘍を認めた.CTガイド下生検を施行し,リンパ管嚢腫疑いで完全胸腔鏡下手術を施行した.永久標本ではdesmin陽性,CD34陽性で血管腫の診断であった.結論.左下葉無気肺を呈する巨大後縦隔血管腫に対して,胸腔鏡下にて摘除した1例を経験した.
背景.免疫チェックポイント阻害剤は非小細胞肺癌に対して有効性が認められているが,大細胞神経内分泌癌に対する有効性は明らかでない.症例.51歳,男性.頭痛,嘔吐,めまいを自覚し脳梗塞疑いで近医搬送となった.右肺腫瘍および小脳と大脳の転移性脳腫瘍を指摘された.切除された小脳病変から大細胞神経内分泌癌と診断され,肺原発として当科紹介となった.進展型小細胞肺癌に準じて,3次治療まで施行したが病勢進行となり,4次治療としてニボルマブを導入した.部分奏効が得られ,21コースまで継続中である.結論.大細胞神経内分泌癌に対して免疫チェックポイント阻害剤が有効な症例が存在する.
背景.免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブは,非小細胞肺癌に対する有効性が認められているが,免疫関連副作用として肺障害を認めることがある.症例.49歳,男性.右上葉肺化膿症発症時の胸部CTで,左下葉気管支閉塞と縦隔リンパ節腫脹を認めた.精査の結果,左下葉原発肺扁平上皮癌(cT1bN3M0 stage IIIB,tumor proportion score:TPS 90%)と診断し,初回治療でペムブロリズマブを開始した.投与開始後8日目より右上葉に残存していた肺化膿症後の器質化陰影周囲のすりガラス影が出現したため,気管支鏡検査による精査を行い,気管支肺胞洗浄でリンパ球比率の増加,経気管支肺生検でリンパ球主体の炎症細胞浸潤を認め,ペムブロリズマブによる感染後器質化肺炎増悪と診断した.休薬後に陰影が改善したためペムブロリズマブを再投与したが,薬剤性肺障害の再燃はなく,良好な腫瘍抑制効果を得ることができた.結論.ペムブロリズマブ投与により一時的に器質化肺炎の増悪を認めたものの,その後良好に改善し,再投与により原疾患のコントロールを得ることができた.
背景.がん免疫療法では効果に先行し,一時的に腫瘍が増大,もしくは新病変が出現するpseudoprogressionと呼ばれる現象を認めることがある.症例.73歳男性.X年5月に労作時呼吸困難感を自覚し,当院を受診した.左胸水貯留を認め,胸水細胞診から非小細胞肺癌と診断した.X年6月から初回治療としてカルボプラチン+パクリタキセル療法を2コース実施した.X年8月から二次治療としてニボルマブ単剤療法を開始した.1コース終了後に左胸水の一時的な増加を認めた.8コース目に180 mg/body(3 mg/kg)から240 mg/bodyに増量した後に,倦怠感が出現し,心嚢液の増加を認めた.心嚢穿刺を行ったところ,それ以降は心嚢液の再貯留を認めなかった.腫瘍マーカーは一貫して低下傾向を認め,2回目のpseudoprogressionと判断した.結論.免疫チェックポイント阻害薬による治療では,薬剤の増量後に2回目のpseudoprogressionを示し得る.免疫チェックポイント阻害薬を増量した際はpseudoprogressionによる全身状態の変化がないか注意が必要である.
背景.ドライバー遺伝子変異を有する肺原発異型カルチノイドは極めて稀である.症例.61歳の男性.嘔気・全身倦怠感を訴え近医脳神経外科を受診した.画像上多発する脳腫瘍が指摘され,小脳病変による水頭症が認められ当院脳神経外科へ転院となった.開頭脳腫瘍摘出術が施行されanaplastic lymphoma kinase(ALK)融合遺伝子陽性異型カルチノイドの診断となり,原発巣検索のため全身精査したところ,肺に原発巣が認められた.ALK阻害薬による治療により肺病変は縮小を認めた.結論.肺異型カルチノイドにALK阻害薬が奏効した貴重な1例と考えられた.
背景.髄膜癌腫症は悪性腫瘍が髄膜へ播種することにより発症する予後不良な疾患であり,多彩な神経症状を呈する.症例.65歳,男性.肺腺癌cT2aN3M0,stage IIIBに対して化学放射線療法が施行されたが,その後リンパ節転移にて再発したため化学療法を再開された.しかし,治療経過中に右難聴が出現し,頭部造影MRIにて右聴神経腫瘍が疑われた.右難聴出現から5ヶ月後には左聴神経にも腫瘍が疑われ,フォローアップMRIにて両側の聴神経腫瘍は経時的に増大傾向を認めた.肺腺癌に対して化学療法を継続されたが,右難聴出現から12ヶ月後には両側難聴は著しく進行し,同時に左顔面神経麻痺を認めた.髄液検査所見では癌性髄膜炎が示唆された.患者はその3ヶ月後,癌性リンパ管症にて死亡した.病理解剖にて両側聴神経への腺癌細胞の浸潤を認め,髄膜癌腫症による肺腺癌の内耳道内播種と診断された.結論.進行肺癌患者の治療経過中に難聴が出現した場合は,髄膜癌腫症の可能性を考慮する必要がある.
背景.第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬であるオシメルチニブは,EGFR遺伝子変異陽性肺癌に対して高い奏効率,全生存期間の延長効果が示されているが,重篤な有害事象として薬剤性肺障害がある.症例.58歳,女性.検診で胸部異常陰影を指摘され,気管支鏡検査でEGFR遺伝子(exon19欠失)変異陽性肺腺癌と診断され,左上葉切除術+2群リンパ節郭清を施行された.術後3年で多発肺転移が出現し,ゲフィチニブが開始された.3年間内服後に肺転移が増大し,経皮針生検でT790M耐性遺伝子が検出され,オシメルチニブを開始された.1年後に乾性咳嗽が出現し,右中葉にすりガラス影を認めた.薬剤性肺障害と判断し,オシメルチニブを中止し,プレドニゾロンの内服が開始された.陰影は軽快し,プレドニゾロンの内服を中止したが,肺転移が再増大したため殺細胞性抗癌剤が開始された.一時的に奏効したが,再増大したため,プレドニゾロン5 mg/日内服併用でのオシメルチニブの内服が再開された.薬剤性肺障害の再燃なく,現在も治療継続が可能である.結論.ステロイド内服併用で,オシメルチニブ内服再投与後も薬剤性肺障害の再燃なく治療継続が可能であった.
今回我々は胸部単純CT上,縦隔リンパ節の孤立性腫大を指摘され,胸腔鏡下で切除し,縦隔リンパ節癌と診断された症例を経験した.肺には病変を認めなかったが,病理組織学的診断は肺原発の腺癌であった.癌細胞はリンパ節の胚中心を置換するような形態を呈しており,リンパ節内に迷入した上皮細胞を原発とする肺癌の可能性が考えられた.