肺癌
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61 巻, 1 号
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追悼文
総説
  • 菱田 智之
    2021 年 61 巻 1 号 p. 3-11
    発行日: 2021/02/20
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル オープンアクセス

    1960年,Cahanが“radical lobectomy”を提唱して以来,肺癌に対する標準手術は肺葉切除以上の肺切除と所属リンパ節の郭清である.所属リンパ節とは,原発巣が存在する肺葉内および葉間/肺門リンパ節と,縦隔リンパ節を指し,縦隔リンパ節郭清の範囲は,原発巣の局在,術中所見によらず,一律に上縦隔から下縦隔までの範囲を郭清する系統的リンパ節郭清が国際的な標準とされている.一方,リンパ節転移様式が解明されるにつれ,1990年代後半以降,本邦では一定の条件の元,腫瘍の局在に応じて郭清効果の高い領域のみを郭清する選択的リンパ節郭清が導入されるようになった.選択的リンパ節郭清の適応,実施条件は施設によって異なるものの,今日の本邦におけるリンパ節郭清の主流となっており,現在,その科学的妥当性を検証する大規模ランダム化比較試験が進行中である.近年では,リンパ節転移の可能性がほとんどないすりガラス成分を主体とする早期肺腺癌も増加しており,このような対象にはリンパ節郭清の省略を伴った縮小手術が選択されるようになっている.今後は画像診断技術のさらなる向上やradiomics,深層学習などを活用したリンパ節転移予測アルゴリズムの開発などにより,リンパ節転移有無の事前予測がより正確に可能となることが期待される.その結果,将来的には,症例ごとに個別化,最適化されたリンパ節郭清が実施されるようになることが考えられる.

  • 滝口 裕一
    2021 年 61 巻 1 号 p. 12-16
    発行日: 2021/02/20
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル オープンアクセス

    目的.COVID-19感染蔓延が肺癌診療に及ぼす影響を明らかにし,日本において今後のCOVID-19感染拡大に備えた肺癌診療に役立てる.方法.COVID-19感染蔓延が肺癌診療に及ぼす影響についてこれまでの主な報告をレビューし,内外のガイドラインと日本肺癌学会によるExpert opinionなどの意義,特徴を論じた.結果.肺癌患者のCOVID-19罹患リスクは不明ながら,罹患した場合には一般人口に比べ,重症化リスク,死亡リスクが高い可能性があるが,いずれも外国における後方視的観察研究結果に基づくものであり,交絡因子による影響を否定できない.また,日本にも当てはまるかどうかの検証はされていない.肺癌治療によるCOVID-19の重症化・死亡リスクへの影響についても不明確である.結論.日本および地域におけるCOVID-19感染拡大を防ぐことが重要であることは論を待たないが,感染蔓延下では,患者および医療機関の要因による受診・診療抑制が生じる可能性があり,日本肺癌学会によるExpert opinionなどを参考に準備を行っておくことも重要である.

原著
  • 野口 哲男, 中川 雅登, 高木 順平, 上林 憲司, 奥野 翔子, 三由 僚, 田久保 康隆
    2021 年 61 巻 1 号 p. 17-23
    発行日: 2021/02/20
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル オープンアクセス

    目的.免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による免疫システムの過剰活性化は,免疫関連有害事象(irAE)を起こす.標準のirAEマニュアルは病名,検査,治療という流れである.我々はirAEの症状から病名を推定するirAE逆引きマニュアルを作成した.方法.irAEの重要度の高い症状を8つ選択した(発熱,吐き気,意識レベル低下,倦怠感,呼吸困難,腹痛,頭痛,手足の脱力).当該症状があれば追加質問して疑わしい病名を推定する.それ以後は標準のirAEマニュアルを使用することができる.8つの仮想症状,正解病名を準備して,4名の研修医でirAE逆引きマニュアルの有用性を検証した.彼らにirAE逆引きマニュアルありとなしで仮想症状に追加質問して病名を答えるように求めた.結果.irAE逆引きマニュアルなしの場合,4名とも正答率は低く(0~25%),解答までの時間は長かった(6~12分).一方irAE逆引きマニュアルありの場合,4名とも正答率は高く(75~100%),解答までの時間は短かった(2~3分).結論.irAE逆引きマニュアルはirAE病名を短時間で推定するのに有用なツールである.

症例
  • 四十坊 直貴, 角 俊行, 鎌田 弘毅, 山田 裕一, 中田 尚志, 森 裕二, 千葉 弘文
    2021 年 61 巻 1 号 p. 24-29
    発行日: 2021/02/20
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitors:ICI)は非小細胞肺癌の標準治療で,様々な免疫関連有害事象の報告がある.免疫関連神経障害(neurological immune-related adverse event:nAE)は稀で,報告例は少ない.症例.64歳男性.肺腺癌cT3N3M0,Stage IIICと診断し,初回治療でシスプラチン,ペメトレキセドおよびペムブロリズマブを開始した.最良効果は部分奏効で,ペメトレキセドおよびペムブロリズマブで維持療法を継続した.6サイクル施行後,胸部X線写真で左上肺野に浸潤影を認め,免疫関連肺障害を疑った.休薬と対症療法では肺陰影は増悪し,プレドニゾロン(prednisolone:PSL)の加療開始で浸潤影は改善し,PSLを漸減した.PSL漸減中に四肢脱力,感覚障害が出現しnAEを疑った.精査でギランバレー症候群と診断した.ステロイドパルス療法で感覚障害は軽快も,四肢脱力は残存した.大量免疫グロブリン療法施行で四肢脱力も改善した.結論.nAEはICI投与後早期に多いが,投与早期以降も発症の可能性があり注意を要する.

  • 髙橋 智彦, 滝沢 昌也, 小林 弘明, 白崎 浩樹, 村田 亜香里, 鈴木 淳也, 岡藤 和博, 中沼 安二, 須藤 嘉子
    2021 年 61 巻 1 号 p. 30-34
    発行日: 2021/02/20
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.肺を原発とする血管肉腫は非常にまれである.今回我々は,乳癌術後の放射線照射範囲内に発生した肺原発血管肉腫を経験したので報告する.症例.47歳女性.多発乳癌に対して左乳房部分切除術,術後残乳照射および化学療法を施行され,その後ホルモン治療を継続中.手術から8年経過後,職場健診の胸部X線写真で左肺野異常陰影および左胸水を指摘された.鑑別診断として乳癌肺転移,原発性肺癌,炎症性変化などが考えられた.気管支鏡下生検と胸水細胞診では悪性所見が得られず,診断目的に手術を施行した.術中所見では,左肺舌区の結節と血性胸水の貯留,壁側胸膜の多発結節を認めた.肺結節および壁側胸膜の部分切除を施行し,病理組織学的に肺原発血管肉腫および胸膜播種と診断した.術後1か月の胸腹部造影CTで,胸膜播種の増悪,肺門・縦隔および大動脈周囲リンパ節転移,多発肝転移を認めた.化学療法を行ったが奏功せず,手術から約6か月後に死亡した.結論.本症例は乳癌術後の放射線照射範囲内の肺野に発生した血管肉腫であり,放射線誘発肉腫である可能性が考えられた.

  • 上村 豪, 上田 和弘, 丸山 広生, 今村 智美, 柚木 健太朗, 徳田 泰裕, 森園 翔一朗, 今村 信宏, 野中 裕斗, 佐藤 雅美
    2021 年 61 巻 1 号 p. 35-39
    発行日: 2021/02/20
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.原発巣が指摘できず肺門・縦隔リンパ節腫大で発見される小細胞肺癌の報告がある.今回,T0N1M0小細胞肺癌の症例を経験した.症例.61歳の男性で,8年前に中部食道癌に対して内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:endoscopic submucosal dissection),また5年前にも胃癌に対しESDを施行されている.病理結果で胃癌は内視鏡的に完全切除できた.しかし,食道癌は壁深達度から追加切除が望まれたが,経過観察を希望された.その経過中に,左主気管支周囲リンパ節が腫大した.ESDを施行した中部食道癌の近傍であり,当初は食道癌転移が示唆された.中部食道を含め,その他に病変を認めず診断も兼ねて切除の方針とした.手術は,胸腔鏡下に左主気管支周囲リンパ節を摘出した.病理結果は小細胞肺癌のリンパ節転移と診断された.画像上・内視鏡的にも明らかな原発巣はなく,肺原発と仮定すると,T0N1M0小細胞肺癌と判断した.結論.肺門リンパ節腫大で発症した小細胞肺癌の1例を経験した.今後は化学療法を含めた追加治療が必要と考える.

  • 荒木 恒太, 平野 豊, 松本 千晶, 八杉 昌幸, 池田 元洋, 尾形 佳子, 戸田 博子, 玄馬 顕一, 鷲尾 一浩
    2021 年 61 巻 1 号 p. 40-44
    発行日: 2021/02/20
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.肺嚢胞壁は肺癌の発生母地となることが知られており,巨大肺嚢胞でも同様とされる.巨大肺嚢胞の臨床経過は多様であるが増大もしくは不変のことが多く,退縮した報告は稀でありその機序も不明である.今回われわれは巨大肺嚢胞に肺癌を合併し,肺嚢胞の退縮を認めた症例を経験した.症例.72歳男性.主訴は左背部の違和感.胸部CT検査で左肺尖部に壁側胸膜浸潤を疑う4 cm大の腫瘤影を認めた.10年前の胸部CT検査では左上葉に11 cm大の巨大肺嚢胞が存在したが,その巨大肺嚢胞の大部分は腫瘤に置換され,3 cm大の肺嚢胞が残存するのみとなっていた.壁側胸膜合併を伴う左上葉切除+ND2a-2を施行し,病理診断で嚢胞壁と連続性のある腺癌と診断された.CT検査所見の経時的変化・病理所見からは,巨大肺嚢胞の嚢胞壁もしくはその近部に発生した肺癌が巨大肺嚢胞への空気の流入を阻害することで嚢胞が退縮したと考えられた.結論.CT検査の経時的変化と病理所見より,肺癌を合併した巨大肺嚢胞退縮の機序が示唆された1例を経験したので,考察を加えて報告する.

  • 田中 雄亮, 松本 勲, 齋藤 大輔, 吉田 周平, 田村 昌也, 池田 博子
    2021 年 61 巻 1 号 p. 45-49
    発行日: 2021/02/20
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.肺類上皮血管内皮腫は血管内皮由来の悪性腫瘍で緩徐進行例が多いとされるが,多様な進行形式が報告されている.また,効果的な治療法がないため治療介入に難渋する.今回我々は急速に進行した肺類上皮血管内皮腫の1例を経験したので,報告する.症例.31歳,女性.健診の胸部単純X線写真で異常陰影を指摘された.全身CTとPETで右肺下葉の2.6 cmの結節影と両側多発肺小結節を認めた.右肺下葉部分切除を行い,胸膜浸潤を伴う類上皮血管内皮腫と診断され,経過観察となった.術後6ヶ月で殿部痛が出現し左右腸骨転移と右肺下葉切除断端近傍の再発を認め,術後10ヶ月で椎骨や左大腿骨への転移を認めた.椎骨や腸骨転移による疼痛が生じたが,緩和的照射によって軽減された.術後13ヶ月で右悪性胸水による呼吸困難症状が出現した.ドレナージと胸膜癒着療法を実施したが胸水制御は不能であり,術後16ヶ月で永眠された.結論.肺類上皮血管内皮腫は緩徐進行例が多いとされるが,本症例のように急激な増悪を認める場合もある.有効な治療法がないため,定期検査を継続しながら,適宜対症療法を行う必要がある.

  • 岡田 春太郎, 郷田 康文, 太田 紗千子, 髙橋 守, 渋谷 信介, 寺田 泰二
    2021 年 61 巻 1 号 p. 50-53
    発行日: 2021/02/20
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.原発性腹膜癌は卵巣癌,卵管癌とともにミュラー管由来腺癌と総称される疾患である.今回,両側の横隔膜上の脂肪組織内に転移が認められた原発性腹膜癌症例を経験したので報告する.症例.78歳女性.皮膚筋炎と診断され,間質性肺炎の評価のためのCTで横隔膜前縁の脂肪組織内に右側34 mm,左側49 mm大の腫瘤と,下大静脈や腸骨動脈周囲に多数の腫瘤が認められ,悪性リンパ腫が疑われた.生検目的で胸腔鏡下に右側の脂肪内の腫瘍を摘出し,病理検査で漿液性癌が認められた.婦人科臓器由来の腫瘍転移が疑われ,婦人科で腹腔鏡下両側付属器摘出と腸間膜腫瘍摘出が施行され,両側付属器には腫瘍は認められなかったが,腸間膜上の腫瘍は横隔膜上脂肪組織内のものと同じ組織像であり,原発性腹膜癌と診断した.卵巣癌は横隔膜直下の腹膜から横隔膜を浸潤して胸腔へのリンパ節へ転移する経路が報告されているが,本症例も同じ転移経路で横隔膜上のリンパ節に転移したと考えられた.結論.原発巣が明らかでない横隔膜上の腫瘍性病変が認められる症例は,炎症性疾患や悪性リンパ腫の他,原発性腹膜癌などの悪性腫瘍のリンパ節転移についても検討する必要がある.

  • 尾下 豪人, 髙橋 達紀, 妹尾 美里, 船石 邦彦, 三玉 康幸, 奥崎 健
    2021 年 61 巻 1 号 p. 54-58
    発行日: 2021/02/20
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.ANCAはANCA関連血管炎に特異性が高く,その診断補助目的に測定される.悪性腫瘍でも陽性となり得るが,肺癌での偽陽性例の報告は少ない.症例.66歳の男性.難治性肺炎の疑いで当院に転院したが,気管支鏡検査で小細胞肺癌と診断された.PR3-ANCAが陽性であったが,血管炎の所見は認めず,偽陽性と考えられた.肺癌に対して化学療法が著効し,完全寛解を得たが,肺癌縮小に伴ってPR3-ANCAも陰性化した.その後も肺癌の再発はなく,PR3-ANCAも陰性を維持している.結論.肺癌では稀にANCAが偽陽性を示して病勢を反映することがある.

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