目的.肺癌診療ガイドラインをより発展させること.方法.2020年本学会学術集会で開催されたシンポジウムでの議論を中心に,外部評価結果なども参照しながら本ガイドラインのこれまでの経緯,長所,短所を明らかにし,今後の課題と解決策を検討する.結果.2003年に初めて作成され2011年以降は毎年改訂されている本ガイドラインは,新規性・迅速性に定評がある.外部評価でも科学的妥当性に高い評価を得ているが,外形的な表記の欠落も多く改善が必要である.分子標的治療,免疫チェックポイント阻害薬の進歩により臨床試験のあり方,解釈方法に大きな変化があり,同一条件の患者に複数の推奨も行われるようになった.治療法評価の多様化への対応も重要である.結論.課題には臨床試験の多様化,それを解釈する統計学的手法の進歩,異なる立場の価値観の多様性などが含まれる.本ガイドライン作成には広範な医療スタッフ,生物統計学者,患者が関わっているが,さらなる発展には外部評価結果を反映すること,これら多くの立場のstakeholderを交えた議論を広げることが必要である.
背景.縦隔に発生する血管腫は比較的稀であり,全縦隔腫瘍の0.5%以下とされている.症例1.72歳,女性.健診で異常陰影を指摘され,CTで前縦隔左側に27 mmの分葉状腫瘤を認め,造影で強く均一に増強され,傍神経節腫やカルチノイドが疑われた.精査により,傍神経節腫が否定でき,手術を行った.術中所見では腫瘍は易出血性,赤色調で血管腫が疑われた.横隔神経は腫瘍表面付近を貫通していたが,腫瘍・胸膜の一部を切開して,神経を温存し,腫瘍を摘出した.症例2.64歳,男性.検診で左縦隔陰影の拡大を指摘された.CT,MRIにて前縦隔に造影効果に乏しい60 mmの腫瘤性病変を認め,胸腺腫の疑いで,拡大胸腺腫瘍摘出術を行った.左横隔神経は腫瘍の内部を走行しており,温存は困難と判断し,合併切除した.腫瘍は左腕頭静脈と強い癒着を認め,安全な切除のためにtransmanubrial approachが必要であった.結論.縦隔海綿状血管腫は多様な画像所見を呈する.術前診断は困難であり,確実な完全切除が必要である.
背景.Granulocyte colony-stimulating factor(G-CSF)産生腫瘍は,時に非常に強い炎症反応を示し白血球増多を伴う.その臨床経過は急速で予後は不良とされる.症例.55歳の女性.健康診断で胸部異常陰影を指摘された.胸部CTで右肺上葉に胸壁浸潤を伴う5 cm大の腫瘍を認め,白血球増多を伴っていた.右上葉原発性肺癌と考え,右上葉切除,胸壁合併切除,リンパ節郭清を施行した.病理組織学的にG-CSF産生肺多形癌(pT3bN0M0,Stage IIB)と診断した.肺切除後2カ月間,白血球数は軽度高値が遷延していた.その後,白血球数が再上昇したため,胸腹部CTを施行し小腸に新出の壁肥厚を認めた.切除したところ小腸転移であり,白血球数は正常化した.術後にカルボプラチン,パクリタキセル,ベバシズマブを4コース施行した後,ベバシズマブで維持療法を行った.以後50コース施行して,5年間無再発で経過している.結論.G-CSF産生腫瘍は予後不良とされるが,外科的切除後にベバシズマブ併用・維持療法を行い,良好な予後を得た症例を経験した.
背景.胸腺癌は化学療法や放射線治療による治療効果が報告されているが,エビデンスは乏しい.今回我々は術後胸腔内再発に対し,放射線治療・逐次化学療法により長期無増悪生存が得られた症例を経験したので報告する.症例.55歳男性.胸腺癌に対して拡大胸腺摘出術+リンパ節生検を施行した.術後6か月で右前胸部に再発を認めた.放射線治療を施行し,カルボプラチン・パクリタキセルによる化学療法を4コース施行し,完全寛解を得た.逐次放射線化学療法を施行後60か月再発はない.結語.本症例は,胸腺癌の再発症例に対して逐次放射線化学療法により5年無増悪生存が得られている貴重な症例と考えられた.
背景.肺原発の腺様嚢胞癌は稀な腫瘍であり,小細胞肺癌との鑑別を要することがある.今回,小細胞肺癌との鑑別を要した肺腺様嚢胞癌の1例を経験したので報告する.症例.62歳,女性.検診で左下肺野に結節影を指摘.胸部CTで左肺下葉に20 mm大の充実性結節影を認め,気管支鏡下肺生検で小細胞肺癌と診断された(cT1bN0M0,cStage IA2).末梢病変で非喫煙者の小細胞肺癌であったが,集学的治療が必要と判断し手術の方針となった.胸腔鏡下左肺下葉切除術+リンパ節郭清を施行し,病理診断において形態上は小細胞肺癌と診断された.しかし,一部に腺様嚢胞癌の混在も疑われたため,免疫組織化学染色を追加した結果,肺腺様嚢胞癌と最終病理診断された.結論.肺腺様嚢胞癌は小細胞肺癌と形態学的に類似することもあるが,両者の治療法は全く異なる.臨床的には小細胞肺癌が考えにくい場合は,免疫組織化学染色を追加し,鑑別を十分に行う必要があると考えられた.
背景.胸腔頂部に発生した縦隔腫瘍に対する手術では鎖骨下の脈管や神経の展開,肩関節機能温存および神経機能温存が重要となる.症例.25歳女性.幼少期より神経線維腫症1型と診断されていた.1年前より左肩痛が悪化し,胸部CT検査で左胸腔頂部51×42 mmの腫瘍を認め,1年前に比較し増大傾向であった.Transmanubrial approachにて手術を施行,術中運動神経誘発電位測定検査で神経温存に留意した.病理学的診断は悪性末梢神経鞘腫であった.術後は神経障害なく,無再発外来通院中である.結論.Transmanubrial approachにより摘出した左胸腔頂部悪性末梢神経鞘腫の1例を経験した.また術中運動神経誘発電位測定検査は摘出する神経腫瘍の神経機能温存確認のために有用であった.
背景.免疫チェックポイント阻害薬の主たる有害事象として肺障害(checkpoint inhibitor pneumonitis:CIP)が報告されている.CIPにより免疫チェックポイント阻害薬を中止した後の再投与の有効性と安全性に関する報告は限定的である.症例.70歳男性.肺腺癌cStage IVBに対して,ペムブロリズマブを開始した.部分奏効を得たが,10コース終了後にGrade 2のCIPおよび副腎不全の合併を認めた.ペムブロリズマブの休薬,プレドニゾロンの投与によりCIPは改善したが,休薬中に左肺門リンパ節の腫大を認めた.化学療法の説明を行ったが,患者は免疫チェックポイント阻害薬を希望した.また,PD-L1 TPSが75%陽性でかつペムブロリズマブが奏効していたことから,同薬剤の持続的な効果を期待した.CIPの再燃のリスクを考慮してアテゾリズマブを開始した.6コース終了後に再度CIPを認めたが,Grade 1であり投与を継続した.CIPは増悪せずに18コース投与中である.結論.肺腺癌に対して,CIPを反復しながらも異なる免疫チェックポイント阻害薬を投与継続し得た1例を経験した.
背景.関節リウマチ患者に免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)を投与すると,関節症状が悪化する報告がある.関節リウマチではなく腫瘍随伴症候群として発症した関節痛(carcinomatous polyarthritis:CP)が,ICI投与で再燃した報告はない.症例.50歳男性,X年8月から関節痛が出現した.X年10月関節リウマチの疑いで当院へ紹介となった.多発関節痛を訴えていたが,関節腫脹や熱感は認めなかった.精査の結果左上葉肺腺癌と診断し,X年12月に左上葉切除およびリンパ節郭清を施行した.術後に関節痛症状は軽快したため,腫瘍随伴症候群であったと診断した.X+1年11月肺癌の再発と診断して化学放射線療法を施行し,その後X+2年1月よりDurvalumab投与を行った.2回投与後より関節痛の再燃があり,CPの再燃と考えた.ステロイド内服で症状は軽快し,以降は投与可能であった.結論.関節痛の腫瘍随伴症候群を呈した非リウマチ患者においてDurvalumab投与で症状の再燃を認めたが,ステロイド投与で投薬継続可能であった.
背景.IgG4関連疾患は全身諸臓器に病変をきたす線維性炎症性疾患であり傍椎体のみに病変を有する症例の報告はなく,原発性肺癌との合併例も少ない.症例.67歳男性.6年前に胸部CTで多発すりガラス状結節(ground glass nodules:GGN)を指摘され,経過観察中に右上葉のGGNが増大し2年前に当科紹介となった.また,当院初診時に認められたTh10椎体周囲の軟部腫瘤も増大傾向であった.右上葉切除術,傍椎体腫瘤の生検を行いGGNは肺腺癌であり,傍椎体腫瘤ではIgG4陽性形質細胞が認められ血清IgG4上昇と合わせてIgG4関連疾患の診断となった.結論.肺癌に併発し傍椎体腫瘤以外に病変を認めなかったIgG4関連疾患の貴重な1例である.
背景.Ciliated muconodular papillary tumor(CMPT)は線毛細胞と杯細胞が乳頭状増殖を示す稀な腫瘍で,原発性肺腺癌との鑑別が困難なことがある.症例.60歳代,男性.腎癌術前の腹部CTで左肺S9に1.3 cm(充実成分径0.9 cm)大の部分充実型結節影を指摘.3年後の胸部CTで充実径の増大を認めた.18F-FDG-PET/CTではSUVmax 1.1と低値であった.原発性肺癌cT2a(PL1)N0M0 stage IBもしくは腎癌からの転移性肺腫瘍を疑い,手術の方針とした.手術は部分切除を先行し,術中迅速組織診で原発性肺腺癌と診断されたため,胸腔鏡下左肺下葉切除術を施行した.永久標本では,病巣は既存の肺胞上皮を置換するように立方~円柱状の上皮細胞が単層に分布し,気腔側に線毛を認めた.気腔に該当する部分には粘液の貯留が顕著であり,CMPTと診断された.また,術後標本で切除肺のS6に3 mm大の小結節を認め,同様の組織像を示しCMPTの多発病変と診断された.結語.術中に確定診断が困難であった,同一葉内の同時性多発CMPTの1例を報告する.
背景.混合型小細胞癌は,腺癌や扁平上皮癌などの非小細胞癌成分を含む小細胞癌である.症例.61歳,男性.慢性B型肝炎および肝細胞癌で当院消化器内科に通院中であった.定期検査の胸腹部CTにて右下葉に結節を指摘され,当科に紹介となった.採血上はCEAの軽度上昇を認め,診断目的に気管支鏡検査を施行したところ悪性所見は得られなかったが,辺縁不整な結節の緩徐な増大から肺癌が疑われ,術中肺癌の確定診断後に胸腔鏡下右肺下葉切除兼縦隔肺門リンパ節郭清術を施行した.切除検体では小細胞癌細胞,腺癌細胞,扁平上皮癌細胞が均等に混在し合っている所見が認められた.結語.混合型小細胞癌のほとんどは1成分の非小細胞癌の混合であるが,本症例は小細胞癌と腺癌,扁平上皮癌が均等に含まれた極めて稀な症例であった.