肺癌
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63 巻, 7 号
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総説
  • 中村 廣繁, 春木 朋広, 窪内 康晃, 松居 真司, 大野 貴志
    2023 年 63 巻 7 号 p. 929-938
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/27
    ジャーナル オープンアクセス

    肺癌に対するロボット支援下手術(以下,ロボット手術)は,2018年度に肺葉切除,2020年度に区域切除が保険適応となった後から急速に普及している.近年は多数のシステマティックレビューやメタアナリシス,前向き無作為比較試験の結果も報告され,ロボット手術は胸腔鏡手術と比較して同等かそれ以上の成績が示されており,2022年度の肺癌診療ガイドラインでもロボット手術は推奨グレード2Bとなり,低侵襲手術のオプションの一つとして,選択可能な位置付けとなった.ロボット手術は特に肺門部などへの操作性が良好で,血管・気管支の剥離操作,肺門・縦隔のリンパ節郭清を高い精度で行うことが可能であるし,進行癌や術前治療後の手術,区域切除など難易度の高い手術であるほど,その威力を発揮してくれる.本邦ではいまだ有用性を示すエビデンスは証明されていないが,新たなデバイスや新型手術支援ロボットの登場でさらなる発展に期待がかかっている.

  • 原田 大二郎
    2023 年 63 巻 7 号 p. 939-945
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/27
    ジャーナル オープンアクセス

    1995年にHellmanらが提唱した少数転移は,早期と進行期がんの中間状態と考えられ,2020年に欧州放射線腫瘍学会等で提唱された分類が一般的となっている.近年,非小細胞肺がんの少数転移への治療エビデンスは蓄積され,肺癌診療ガイドラインにも記載されている.本稿で取り上げる非小細胞肺がんにおけるoligoprogression治療としての局所制御療法は,病勢進行の遅延と薬物療法の効果の最大化が目的であり外科切除や放射線治療が主な介入方法として採用されている.近年,体幹部定位放射線治療のエビデンスが蓄積され,ドライバー変異陽性の非小細胞肺がんでの有効性は明らかとなり米国のガイドラインでは,局所制御療法後の分子標的治療薬の継続が推奨されている.また免疫チェックポイント阻害薬と放射線治療の有効性を示すエビデンスが蓄積されつつあるが,アブスコパル効果は軽度である事が示されている.oligoprogressionと局所制御療法の臨床的有効性と安全性について理解を深め,その介入方法を最適化する事でより多くの症例で長期の病勢制御を実現出来る可能性がある.

原著
  • 田口 禎浩, 平山 龍太郎, 片山 一成, 山本 遥加, 長井 敦, 上田 創, 廣瀬 未優, 杉本 英司, 中村 行宏, 山口 修
    2023 年 63 巻 7 号 p. 946-952
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/27
    ジャーナル オープンアクセス

    目的.間質性肺炎合併肺癌に対する化学療法は確立しておらず,経験的治療が行われていることが多い.二次治療以降においては一次治療以上に報告が少なく,当院において二次治療以降でドセタキセル+ラムシルマブを用いた症例群を報告する.また,間質性肺炎増悪と血管内皮増殖因子の関連が示唆されており,血管新生阻害薬であるラムシルマブを併用することとドセタキセル単剤の安全性を比較・検討する.方法.2017年4月から2021年4月の期間で間質性肺炎合併非小細胞肺癌に対して,二次治療以降でドセタキセル+ラムシルマブを投与した症例群を後方視的に解析した.結果.全7症例.年齢中央値は66歳,男性が6例,腺癌が5例・扁平上皮癌が1例・not otherwise specifiedが1例,特発性間質性肺炎が4例,うち特発性肺線維症が1例であった.間質性肺炎増悪を来したのは特発性肺線維症の1例のみで,増悪による死亡はなかった.生存期間中央値は274日,無増悪生存期間中央値は186日であった.結論.間質性肺炎合併非小細胞肺癌の二次治療以降においてドセタキセル+ラムシルマブは今後も症例集積を行っていくレジメンの一つであると考えられる.

症例
  • 高橋 桂, 高階 太一, 渡辺 雅弘, 上村 明, 小倉 滋明
    2023 年 63 巻 7 号 p. 953-958
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/27
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.自己免疫疾患を有する患者に対する免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)の有効性・安全性の報告は少ない.また,強皮症患者への放射線照射も晩期有害事象が多いとの報告があり,積極的な適応とはならない.今回,我々は強皮症を合併した肺腺癌に対してICI併用の化学療法が奏効し,放射線照射を回避できた症例を経験したので報告する.症例.67歳,男性.55歳時に強皮症と診断され他院で加療中であった.背部痛を契機に前医でCTを撮像したところ,右肺上葉の結節影と縦隔リンパ節腫大を認めたため,当科紹介となった.精査の結果,肺腺癌,胸椎転移と診断.胸椎転移が脊柱管内に進展していたが,強皮症を合併しており放射線照射は高リスクであった.腫瘍はPD-L1高発現であったため,最終的にICI併用の化学療法を選択し,重篤な有害事象なく原発巣,椎体転移ともに著明に縮小した.結論.強皮症患者に対するICI投与は既存の疾患の増悪や免疫関連有害事象の頻度を高める可能性はあるが,治療選択肢の一つとなり得る.

  • 児玉 秀治, 吉田 正道, 三木 寛登, 後藤 広樹, 増田 和記, 藤原 篤司, 南平 結衣, 佐貫 直子, 後藤 大基, 鶴賀 龍樹
    2023 年 63 巻 7 号 p. 959-964
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/27
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.肝転移は小細胞肺癌で発生頻度が高く予後不良因子である.近年,海外を中心に肝臓への緩和照射の有用性が報告されているが,国内で報告例は少なく普及していない.症例.76歳男性.進展型小細胞肺癌に対し20XX-1年6月下旬からカルボプラチン+エトポシド+デュルバルマブ療法を開始,6コース完遂後にデュルバルマブ維持療法中だった.原発巣,肝転移,傍大動脈リンパ節転移の増大のため20XX年2月下旬に治療変更目的に入院した.Sensitive relapseと考えカルボプラチン+エトポシド療法を行ったが,背部痛と黄疸が出現し増強,オピオイドを開始した.多発肝転移増大に伴う被膜伸展症状であり疼痛緩和目的の全肝照射(21 Gy/7 fr)を行った.フレア現象で一過性疼痛増強がありオピオイドやステロイドを一時増量したが速やかに症状は軽快し独歩退院した.再入院しアムルビシン療法へ変更,全肝照射終了から約1か月時点で症状は軽快し多発肝転移も縮小している.結論.小細胞肺癌は放射線感受性が高く,低線量照射で効果が得られた.低線量では放射線肝障害が起こりにくく全肝照射は治療抵抗性の小細胞肺癌でも有用と考える.

  • 小林 由佳, 山根 真由香, 鈴木 太郎, 中村 優美, 安田 早耶香, 穴吹 和貴, 大西 広志, 横山 彰仁
    2023 年 63 巻 7 号 p. 965-970
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/27
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.放射線脳壊死は脳腫瘍に対する放射線治療後に浮腫を伴い発症し,しばしば腫瘍増悪と鑑別が困難な場合がある.症例.50歳,男性.肺腺癌の脳転移に対して外科的切除後,定位放射線治療を施行してから13か月後に意識障害をきたした.頭部造影magnetic resonance imaging(MRI)では摘出腔の内側に不整形腫瘤を認め,周囲の浮腫の著明な増悪を認めた.脳浮腫は12 Gy以上の放射線照射部位に一致していたが,脳転移の再発か放射線脳壊死か鑑別は困難であった.脳浮腫の治療としてステロイド治療を施行し,意識障害は改善し脳浮腫も軽減した.11C-methionine positron emission tomographyで不整形腫瘤に集積を認めなかったため,放射線脳壊死と診断した.結論.放射線脳壊死と脳腫瘍再発の鑑別には頭部MRI,核医学検査の画像検査とともに注意深い経過観察が必要である.

  • 角 俊行, 十良澤 太門, 鈴木 敬仁, 越野 友太, 池田 拓海, 渡辺 裕樹, 山田 裕一, 千葉 弘文
    2023 年 63 巻 7 号 p. 971-976
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/27
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor;ICI)と化学療法の併用において,最も重篤な免疫関連有害事象(immune related adverse event;irAE)の一つにサイトカイン放出症候群(cytokine releasing syndrome;CRS)がある.CRSは生命を脅かす高炎症病態で発熱や多臓器不全を呈する.重症化を防ぐためにも早期治療介入が重要である.症例.72歳 男性.右下葉肺腺癌に対して手術が施行された.術後経過観察中に胸膜播種,癌性胸膜炎で再発したため,ニボルマブ+イピリムマブ+化学療法で治療を開始した.大きな有害事象はなく経過したが,day 27に胸水貯留による呼吸困難のため入院した.胸腔ドレナージ後,day 35に胸膜癒着術を施行した.Day 38より高熱が持続し,day 45に意識障害と多臓器不全を呈した.CRSが疑われたため,ステロイドパルス,トシリズマブで治療し症状は改善した.一時病態は安定したが,ニューモシスチス肺炎で死亡した.結論.ICIと化学療法の併用療法中は,CRSのような重篤なirAEの発症に対する留意と,迅速な対応と適切なマネージメントが必要である.

  • 加藤 雅人, 山田 恭平, 大島 孝一
    2023 年 63 巻 7 号 p. 977-982
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/27
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.肺癌の手術後にgefitinibを長期投与し,術後16年目に気管分岐下リンパ節に単独で再発したepidermal growth factor receptor(EGFR)遺伝子変異陽性肺腺癌の1例を経験した.症例.81歳女性.16年前に呼吸困難感を主訴に近医を受診.胸部X線で右胸水貯留を認め,胸部CTで右肺上葉に3 cm大の腫瘍と胸膜播種を認めた.右肺上葉腺癌,cT3N1M1a,stage IVaと診断し,gefitinibを開始した.治療開始1ヵ月後には胸水の消失と原発巣の縮小を認めたためサルベージ手術を行った.術後もgefitinibを継続したが,再発なく長期経過した.初回手術から16年後に腫瘍マーカーの上昇を認めたため精査を行い,左乳癌と気管分岐下リンパ節腫大を認めた.左乳癌に対して左乳房切除と気管分岐下リンパ節切除を一期的に行い,リンパ節は組織学的に16年前に手術した肺腺癌の転移と診断された.術後はafatinibの投与を行い,手術から1年11ヵ月無再発生存中である.結論.Gefitinibを10年以上の長期投与と肺癌術後16年目に再発した症例は稀であり,長期間服用後の耐性化要因の検索など,さらなる詳細な検討が必要である.

  • 國政 啓, 和田 信, 松島 章晃, 田宮 基裕, 井上 貴子, 川村 卓久, 宮崎 暁人, 西野 和美
    2023 年 63 巻 7 号 p. 983-987
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/27
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.ロルラチニブは優れた抗腫瘍効果と中枢病変への制御能を示すが,特有の毒性として中枢神経障害が報告されている.今回,我々は同薬剤による重篤な精神病症状を呈した1例を経験し,報告する.症例.32歳男性,非喫煙者.精神障害の既往はない.ALK融合遺伝子を有する進行期肺腺癌と診断し,アレクチニブによる治療を5年6ヶ月にわたり受けていた.癌性髄膜炎にて腫瘍の進行を認め,二次治療としてロルラチニブを導入したところ,内服開始後8日目から思考のまとまりのなさと不眠,不安,情緒の不安定が生じ,9日目に幻覚妄想を伴う急性錯乱状態となって,3階の自宅マンションから投身行為に至った.高エネルギー外傷は認めず,休薬と精神科専門病院での抗精神病薬投与を含む入院加療により精神症状の改善を認めた.5年間の通院中も類似した症状は認めなかったため,ロルラチニブにより惹起されたGrade 4精神障害と診断した.結論.極めて稀ではあるが,ロルラチニブにより重篤な精神症状をきたすことがあるため,導入の際には患者と家族に十分説明する必要があり,強度の精神症状を認める場合は精神科医師との連携が必要になる.

  • 西條 天基, 田中 彰彦, 木附 宏, 池田 徳彦
    2023 年 63 巻 7 号 p. 988-994
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/27
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.有症状の単発性脳転移摘出後に薬物療法を行い良好な効果を得られている進行非小細胞肺がん2例を経験した.症例1.50歳 男性,IVA期肺非小細胞癌,PD-L1高発現.脳転移摘出術実施後にペムブロリズマブによる薬物療法を開始,4コース後に免疫関連有害事象出現のためステロイド治療を行った.ペムブロリズマブ最終投与後27か月経過した現在,病勢は制御されており経過観察中である.症例2.60歳 男性,IVB期肺腺癌,PD-L1高発現.脳転移摘出術実施後にカルボプラチン+ペメトレキセド+ペムブロリズマブによる薬物療法を開始した.薬物療法開始後41か月経過した現在,病勢は制御されておりペメトレキセド+ペムブロリズマブによる維持療法を継続中である.結論.いずれの症例も積極的に脳転移摘出術を行うことにより,脳転移による症状と全身状態の改善を得て薬物療法に繋がり,長期生存を得られている.

  • 佐井 那月, 千原 佑介, 髙橋 祐希, 福井 基隆, 齊藤 昌彦
    2023 年 63 巻 7 号 p. 995-999
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/27
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.慢性腎不全や透析を要する重度の腎機能障害を合併している非小細胞肺癌患者は治療選択肢が限られており,標準治療が行えず予後が厳しい事が多い.症例.70歳,男性.慢性腎不全で腎臓内科通院中に肺扁平上皮癌cT2aN1M0 stage IIBの診断となり胸腔鏡下左上葉切除が行われた.1年後に肝転移による再発となり,PD-L1が高発現であった事からペムブロリズマブが導入された.治療中に腎不全が進行したため透析が導入され治療が継続され,部分奏効が得られたが,11コース後に肝転移の増大で進行と判断された.2次治療としてカルボプラチン,ナブパクリタキセルを開始したところ,部分奏効が得られ4コースを施行する事ができた.貧血に対する輸血を必要としたが有害事象は管理可能で3コース目以後は外来で継続が可能であった.結論.カルボプラチン,ナブパクリタキセルは,透析患者を対象としたペムブロリズマブ耐性後の2次治療としても有効で忍容性のある治療法の可能性があると考えられた.

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