癩病巣のphosphataseの組織化学的研究は既にGault等によつて発表されたのであるが,細胞が如何なる状態に於て,phosphatase活性を示すかという問題を解析するには,生きた細胞の機能を知らねばならない。著者は癩病巣のphosphataseを研究するに当り,その一助として組織培養を利用して,培養細胞のphosphatase分布を組織化学的に検討した。
材料としては癩腫結節真皮,結核様斑紋真皮,類結核大耳神経,及び対照として,鼠坐骨神経,並びにlem-mocyteを得る目的でv. Recklinghausen氏病皮膚結節を選び,ローラーチユーブ法により試験管内で培養し,第二代以後のものを組織化学的実験に用いた。
方法としては,基質にα-グリセロ燐酸,ATP, ADP DNA, RNA,を選び,培養細胞を載せたスライドグラスを生塩水で洗滌後,Gomori氏法に準じて発色させた。
増殖細胞の性格は,どの母組織から増殖した細胞も,皆,線維芽細胞の諸変形と考えられる。v. Reckling-hausen氏病結節から増殖した細胞も線維芽細胞であつて,lemmocyteではない様に思われる。尚,鼠坐骨神経の培養に於て,神経線維断端からSchwann細胞の増殖が見られた。
組織化学的には,増殖細胞内phosphatase分布は,母組織の性格が異るのにも拘らず同様である。之は培養中に細胞が原始形に戻つた事を意味している。又,細胞をアセトン固定した後,組織化学的操作を行うと,未固定の場合よりも活性度が高い事が認められた。
次に各種其質液に於ける細胞内phosphatase分布を比較すると,幾分差異が認められる。即ち,DNA-phos-phataseは核のみに活性を示し,RNA-phosphataseは核,核小体,細胞質にも活性を示し,これ等の事実は核酸の細胞内分布とよく一致している様に思われる。ATPase, ADPaseは細胞構成要素のすべてに活性を示し,これ等が特異性を示すとすれば,代謝のエネルギー論的立場から興味のある事実である。グリセロ燐酸phosphataseは主として細胞質に分布しているが,退行変性途上にある細胞では核も強い活性を示す様になり,小円形化すると細胞全体が強い活性を示す。一方,分裂期にある細胞も細胞構成要素のすべてに強い活性を認める。
以上の結果から,組織化学的には,phosphataseは退行変性という生化学的分解過程のみならず,分裂増殖と云う生化学的合成過程にも関係していると考えられる。
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