原核細胞生物も真核細胞生物も細胞は細胞外環境の変化に際し一連の相同なストレス蛋白あるいは熱ショック蛋白(HSP)を産生する。近年の研究ではHSPの共通抗原エピトープに対する免疫反応が微生物感染と自己免疫の誘導を結びつけるという示唆が得られている。本研究ではらい菌由来の分子量65kDaの熱ショック蛋白(HSP65)に対する抗体価を,種々の皮膚疾患でELISA法を用いて測定した。正常群(n=9)では抗HSP65 IgGはOD492で0.097±0.039 (mean±SD)の値を示し,それに比し,20人の掌蹠膿庖症患者あるいは22人の乾癬患者ではそれぞれ0.170±0.079,0.111±0.053と値の上昇を示し,特にこれらの患者のうちなんらかの病巣感染の認められる患者では病巣感染の無い患者に比し明らかな(p〈0.01)上昇を示した。アナフィラクトイド紫斑(0.125±0.085,n=5), Behcet病(0.178±0.045),アトピー性皮膚炎(0.218±0.096, n=13),蕁麻疹(0.185±0.079, n=30),帯状庖疹(0.185±0.079, n=30)でもそれぞれ上昇がみられた。抗HSP65 IgMのレベルは同じように変動したが,抗HSP65 IgAの変動は明らかでなかった。Western blot法で,抗体価の高く検出された標本中のHSP65に対する特異的免疫反応を確認した。細菌性あるいは宿主由来のストレス蛋白による免疫変調作用が,種々の炎症性皮膚疾患の病態生理,特に病巣感染が掌蹟膿庖症と乾癬の病態成立に関係する機構を考える上で,強く示唆された。
抄録全体を表示