高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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23 巻, 4 号
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原著
  • 渡辺 佳弘, 筧 一彦, 井口 幸子, 後藤 敦子
    2003 年 23 巻 4 号 p. 252-260
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/04/21
    ジャーナル フリー
       音韻性錯語の発生に対する語彙頻度および音節連鎖頻度(ある言語における前後2音の音節連鎖に関する出現頻度) の影響について検討を行った。音韻性錯語の顕著な1失語症例に,音節連鎖頻度を統制した有意味語・無意味語の復唱課題を実施したところ,無意味語で音韻性錯語が増加,また有意味語・無意味語ともに音節連鎖頻度が低い語で音韻性錯語が増加する傾向が認められたが,語彙頻度別では著明な傾向はみられなかった。
      これらから,本例の音韻性錯語の発生には語彙性と音節連鎖頻度が影響することが示唆された。音節連鎖頻度の高さは構音のプランニングの慣れを引き起こすと考えられ,音節連鎖頻度の高い語での音韻性錯語の減少はその影響によるものと推定された。また有意味語における音韻性錯語の減少は構音のプランニングの慣れと意味による手がかりのためと推定されたが,本例は構音プランニングの慣れの要因がより大きいと考えられた。
  • 中村 やす, 野副 めぐみ, 中尾 貴美子
    2003 年 23 巻 4 号 p. 261-271
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/04/21
    ジャーナル フリー
    慢性期失語症者6例に心理・社会的側面の改善を目的としたグループ訓練を実施した。訓練の特徴は,(1)「失語症グループ訓練における心理・社会的側面の評価表」 (中村ら 1998) により個々人の心理・社会的な課題をとらえて行う,(2)心理・社会的側面の改善を目的とした6つの活動プログラム,「活動を楽しむ」「自己表現」「自己開示」「障害理解」「社会的役割・活動」「主体的参加」による体験を重視して行う,(3)グループ場面が「言語障害に配慮された場」「受容的・共感的な場」「交流・やり取り・会話の場」「社会的な場」となるよう援助する,である。訓練の結果,6例全員に「失語症グループ訓練における心理・社会的側面の評価表」での改善が認められた,評価表での改善は SLTA総合評価法における改善と一致するものではなかった,などが示された。また適切な援助や介入を,適切な時期に行うために,評価表を用いた行動観察が有用である,個人の心理・社会的側面の課題によって効果的な活動プログラムが異なる,症例の心理・社会的側面の改善経過は「グループへの安定した参加」および「コミュニケーションの成立」と,「心理・社会的側面の体験的再統合」の2つの段階に分けられる,ことが示唆された。言語で論理的に再統合することが難しい失語症者にとって,「コミュニケーションの成立」を土台としてグループダイナミックスを活かしながら心理・社会的側面の改善を目的とした諸活動を体験的に行うことが,自己の再建を促すうえで有効であると思われた。
  • 柴切 圭子, 米田 行宏, 山鳥 重
    2003 年 23 巻 4 号 p. 272-280
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/04/21
    ジャーナル フリー
    左中心回の皮質・皮質下領域の脳梗塞により失構音を生じ,その回復過程で母音/i/,/e/の産生が子音獲得後にも困難だった症例を報告する。症例は72歳の右利き男性。神経症状では,右側の軽度の球麻痺と上肢に強い右片麻痺,右側感覚障害を呈した。言語機能では,急性期に発語はなく,口型模倣も困難,聴覚理解は良好で筆談が可能。SLTA (標準失語症検査) の呼称課題が筆談で全問正答し失構音に近い症状だったが,文レベルの書字で助詞などの仮名の誤りを若干認めた。構音機能は言語訓練によって改善し,子音は半母音/j/を除いてすべて産生可能になった。母音は/a/,/u/,/o/が産生可能になったが,/i/,/e/は発症2年後でも産生困難が持続していた。しかし,産生可能な音節を組み合わせると2語文の表出が可能になった。情動的場面では,ごくまれに笑い声や掛け声で母音/i/,/e/を含む音節が産生できることがあった。口部顔面失行も持続していた。脳MRIでは,左中心前回の最下部を除く皮質領域,中心前・後回の皮質下に限局した梗塞巣を認め,放線冠にも及んでいた。本例の言語症状は,従来の失構音症例でみられる非一貫性の構音の誤りに加えて,一貫した構音不可能な音節を持つ点が特徴的だった。皮質性の失構音に加えて,運動障害性の構音障害の関与,球麻痺の意図性・自動性の乖離として知られる前弁蓋部症候群 (anterior operculum syndrome) の関与が考えられた。
  • 東川 麻里, 波多野 和夫
    2003 年 23 巻 4 号 p. 281-288
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/04/21
    ジャーナル フリー
    再帰性発話と反響言語が合併した失語例を報告した。この症例は「ナカナカ」という語を中心とした常同的発話を産生した。この「ナカナカ」には,「ナカナカブイ」,「ナカナカナイト」のように語尾に付加語が付く程度の変形が観察された。われわれはこの現象を再帰性発話の概念で理解し,その経過における「浮動的段階」 (Alajouanine 1956) に相当すると考えた。さらにこの「ナカナカ」は文法的機能語を伴うこともあり,半常同性発話 (Hadanoら 1997) の症状に類似するものと思われた。反響言語は主として会話場面で出現し,形式としては減弱型または完全型であった。本例の失語型は従来の Wernicke (1874) -Lichtheim (1885) から Geschwind (1965) に至る古典論的な失語分類では位置づけが困難であると思われた。とくに,異なる種の反復性言語行動または自動言語が合併した症例として,これまでに報告例の少ない貴重な症例と思われた。
  • 宮崎 泰広, 種村 純, 伊藤 慈秀, 三寳 季実子, 福本 真弓
    2003 年 23 巻 4 号 p. 289-296
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/04/21
    ジャーナル フリー
      失語症患者8人を対象に,呼称課題を施行した。その課題施行時に出現した保続を分析し,保続の出現機序について考察した。
      まず出現した保続を,保続として出現した語彙が表出されてから直後に出現したか否かで直後型・遅延型に分類し,その出現した保続と目標語間での意味的・音韻的類似性について検討した。この結果,出現した保続と目標語との間に意味的または音韻的類似性がある場合の割合が,直後型に比べ遅延型のほうが有意に高かった。
      以上より,遅延型保続の出現には保続した語と目標語との意味的もしくは音韻的類似性が影響していることが示唆された。このことより,遅延型保続の出現には意味・音韻の処理過程における選択性の障害が関与していると考えられた。保続出現機序は一般に経時的な抑制障害である易動性の障害で説明されるが,易動性の障害によってのみでは説明できず,意味もしくは音韻の処理過程における選択性の障害の関与を示唆すると考えられた。
  • 黒田 喜寿, 黒田 理子
    2003 年 23 巻 4 号 p. 297-304
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/04/21
    ジャーナル フリー
    標準失語症検査 (SLTA) のecological validityを検討するために,失語症者の実際的な言語能力を評定する質問紙を作成した。SLTAの総合評価尺度は質問紙の2つの尺度である「話を理解する能力」と「話をする能力」の両方と高い相関を示した。しかし言語様式別の検討を行った場合,SLTAの「話す」と質問紙の「話をする能力」にはある程度の選択的な関係性が認められたが,SLTAの「聴く」と質問紙の「話を理解する能力」にそのような関係はなかった。SLTAの成績から実際的な言語能力を予測する際にはこのような点への注意が必要と考えられた。
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