高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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24 巻, 4 号
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シンポジウム : 失語の回復プロセス
  • 三村 將
    2004 年 24 巻 4 号 p. 292-302
    発行日: 2004年
    公開日: 2006/03/24
    ジャーナル フリー
    発語の回復過程に関与する脳内基盤を検討するため,健常者6名および非流暢型失語患者5名が語頭音による語想起課題を行っている間の機能的 MRI を撮像した。失語患者のうち1例は2時点で評価を行った。健常者では Broca野にもっとも強い賦活を認めたが,さらに周辺の左前頭前野・島回・前頭葉内側部・上側頭回などに有意な活動を認めた。一方,失語症例では共通して語想起中の Broca野や隣接する左前頭葉内の賦活が乏しかった。ことに経時的変化をみた症例では,発語の改善とともにBroca野とその周辺の賦活が顕在化しており,この領域の機能保持/機能回復が重要と推測された。この領域の機能保持/機能回復が不十分だと,右半球の言語野対応部位が賦活されてくる場合があるが,その代償機構は不完全であると思われた。失語の回復過程における機能的ネットワークの再構築は症例により異なっており,回復の差異に関与する要因を今後,経時的な機能画像で評価していくことが重要である。
  • 宇野 彰, 狐塚 順子, 豊島 義哉, 春原 則子, 金子 真人
    2004 年 24 巻 4 号 p. 303-314
    発行日: 2004年
    公開日: 2006/03/24
    ジャーナル フリー
    本報告の目的は,小児失語症の改善因子,回復の経過,障害構造に関して,限局病巣を有する失語症 18例について客観的評価法を用いて検討することである。間隔尺度化された得点法である標準失語症検査 (SLTA) 総合評価得点を指標とした。また,大脳後方に限局的な病巣を有する 8例については,病巣の大きさと場所が類似している成人失語症例と改善について比較した。その結果,改善因子としての原因疾患を比較すると,脳血管障害や外傷例は改善到達度が高く,感染症例は低かった。回復過程を言語モダリティ別に分析すると理解が先行して改善し,次に発話,書字という順番であった。また,小児失語症例は成人失語症例と比べて改善到達度が高く,早期に改善する傾向が認められた。しかし,その到達度には限界があり,成人失語症例と同様に SLTAの「口頭命令に従う」「文の復唱」や「漢字単語の書字」「漢字単語の書取」などの項目で有意な得点低下が認められた。他の認知検査結果より,音韻処理障害や言語性意味理解障害が関与している可能性が考えられた。
原著
  • 吉村 菜穂子, 河村 満, 佐藤 達矢
    2004 年 24 巻 4 号 p. 315-320
    発行日: 2004年
    公開日: 2006/03/24
    ジャーナル フリー
    われわれは先に,パーキンソン病患者や扁桃体病変を有する患者において恐怖の感情認知障害が存在することを報告した。今回その認知障害が生じる神経機構を明らかにするために同じ課題を用いて事象関連電位を記録し,双極子追跡法で脳電位の発生源を解析した。表情を判別する際に出現する陰性波の発生源は正常者では紡錘状回,海馬傍回,上側頭回,扁桃体などに推定されたが,パーキンソン病患者では縁上回,角回におもな神経活動が推定され,扁桃体には認められなかった。単純ヘルペス脳炎患者では下側頭回や眼窩回など,さらに異なる部位に神経活動が認められた。表情認知課題遂行時に活性化される脳内部位は病態によって異なることが明らかになった。
  • 石原 健司, 河村 満, 柴山 秀博, 日向 礼子, 平野 泉
    2004 年 24 巻 4 号 p. 321-327
    発行日: 2004年
    公開日: 2006/03/24
    ジャーナル フリー
    脳梁の限局性梗塞後に,拮抗性失行および両手の病的把握を呈した53歳,右利きの男性例を報告した。神経心理学的所見として,各種脳梁離断症候・右半球症候を認めた。拮抗性失行は,一側手の合目的的運動に反する反対側手の異常運動,身体全体で目的に反する異常行動がみられた。頭部MRIでは脳梁膝から膨大にかけて脳梁全域の急性期梗塞所見を,脳血流SPECTでは右内頸動脈支配域の広範な取り込み低下を認めた。本例では,脳梁病変に右半球の広範な機能低下が加わったことにより,両手の病的把握が出現したものと考えられた。拮抗性失行と病的把握が合併した症例の報告はないが,病変の分布によっては両者が合併する場合もありうることが示唆された。
  • 中川 良尚, 小嶋 知幸, 佐野 洋子, 加藤 正弘
    2004 年 24 巻 4 号 p. 328-334
    発行日: 2004年
    公開日: 2006/03/24
    ジャーナル フリー
    失語症状の長期経過を明らかにする研究の一環として,2年以上経過を追跡できたアナルトリーを伴わない失語症例の回復レベルと病巣との関係について検討した。対象は,左大脳半球損傷後に上記失語を呈した25例である。全例利き手は右であり,原因疾患は脳梗塞である。 SLTA総合評価法にもとづき,各症例とも最高到達時の成績別に高得点群 (9~10点) ,中間群 (4~8点) ,低得点群 (0~3点) の3群に分け,大脳の12の関心領域における病巣の有無および,大脳皮質の萎縮,散在性のラクナ梗塞,脳室拡大の有無の,計15項目について群間で比較した。結果,(1) ブローカ領野と下側頭回を病巣に含む症例の比率,(2) ラクナ梗塞と脳室拡大を伴う症例の比率が,中・低得点群において有意に高かった。以上より,(1) 病巣の前方および後下方への伸展,(2) 皮質下病変に起因する残存脳の機能低下が,失語症状の機能回復における阻害要因になっていることが示唆された。
  • 宮崎 泰広, 伊藤 慈秀, 種村 純
    2004 年 24 巻 4 号 p. 335-342
    発行日: 2004年
    公開日: 2006/03/24
    ジャーナル フリー
    ガソリン嗅覚刺激が言語課題遂行にどのような影響を与えるかについて検討した。
      健常日本人22名 (男性10名,女性12名)にガソリン嗅覚刺激あり・なしの状態で各種の語彙処理課題を施行した。この課題には, 1 )語彙判断, 2 )意味的連合, 3 )押韻判定, 4 )音韻の配列による単語合成,の計4種類の課題を作成して用いた。実験直前から実験中に与えたガソリン嗅覚刺激の有無につき,これら各言語課題に対する正答率と音声反応時間を測定した。
      結果は,ガソリン嗅覚刺激によりこれら言語課題に対する音声反応時間は,ほとんど全課題の処理で促進された。
      本研究結果から,ガソリン嗅覚刺激により,言語課題の遂行に促進的な影響を与えうる可能性を示唆すると考えた。
  • 谷 哲夫
    2004 年 24 巻 4 号 p. 343-352
    発行日: 2004年
    公開日: 2006/03/24
    ジャーナル フリー
      73歳,右利き男性。高校卒。左側頭葉後下部の梗塞後に漢字の失読と失書を呈した。急性期には漢字と仮名の失読と失書を呈していたが,1ヵ月後には仮名の読み書きは可能になった。発症2ヵ月後に,失語症語彙検査と小学2年までに習得する漢字の読み書き検査を実施した。
      本例の失読失書の特徴は次のようにまとめられた。すなわち,音読に関しては,2文字漢字で音読みすべきところを訓読みに誤った。書字に関しては,無反応がもっとも多く,複雑な構造をしていて学習時期が遅い漢字ほど失書が重度になった。単語属性の面から検討すると,本例の書字障害は学習容易性,複雑性,および教育学年との関連が示された。心像性や具体性などとの関連はなかった。一方,仮名については読み書きともにごくわずかな誤りが観察されただけであった。
      失書は失読に比して非常に重症であることから,本例の失書には漢字の純粋失書の特徴が加わっていると考えられた。
  • 五十嵐 浩子, 小嶋 知幸, 佐野 洋子, 加藤 正弘
    2004 年 24 巻 4 号 p. 353-359
    発行日: 2004年
    公開日: 2006/03/24
    ジャーナル フリー
    大脳左半球損傷により失語症を発症し,約8年間にわたる機能回復の後,再発による右半球損傷を機に,失語症状の著しい悪化を示した男性の症例を経験した。臨床症状の長期経過および,画像所見の比較検討から,本症例における初発から再発時点までの失語症の長期にわたる機能回復には,大脳における非損傷側である対側半球(右半球)が関与していたのではないかと考えた。本症例の経過は,機能画像を用いた慢性期の失語症の機能回復に関する研究結果を支持する貴重な臨床データであると考えられた。
  • 赤沼 恭子, 目黒 謙一, 橋本 竜作, 石井 洋, 森 悦朗
    2004 年 24 巻 4 号 p. 360-367
    発行日: 2004年
    公開日: 2006/03/24
    ジャーナル フリー
    地域在住高齢者 160名を対象に, MMSE自由書字を, 文字数, 漢字・仮名における文字形態の誤り, 文字運用に焦点をあて CDR別に分析した。CDR 0 は健常, CDR 0.5は最軽度アルツハイマー病, CDR 1+はアルツハイマー病である。その結果, 文字数は CDRが重症化するにしたがい減少傾向を示し, 文字形態は健常においても 30%に漢字もしくは仮名の誤りを生じていたが, CDR 0.5群もしくは 1+群において仮名を誤る対象者が多かった。文字運用は, 名詞においては CDR 0群と 0.5群では誤りに差はないものの CDR 1+群で誤りが多く, 送り仮名では CDR 0.5群で誤りが多くみられた。文字運用に注目した場合, 漢字と仮名で構成された送り仮名 (綴り) の誤りは最軽度アルツハイマー病という病的過程を反映している可能性が示唆された。
  • 中谷 謙, 松山 真人, 宮崎 眞佐男, 田中 裕
    2004 年 24 巻 4 号 p. 368-376
    発行日: 2004年
    公開日: 2006/03/24
    ジャーナル フリー
    描画における半側空間無視は,軽度の脳損傷患者でも観察される。今回,書字において文字の成分である線分の偏倚が観察されるか否か,コンピューター解析を用いて検討した。対象は明らかな半側空間無視のない脳血管障害群44例を選び,53例の健常群と比較した。書字課題は左右対称で平易な文字である漢字の「田」「木」の自発書字を用い,文字の始点,終点と交点をコードレスタブレットから電子ペンでコンピューターに入力し,その線分比をおのおの計測した。その結果,予想に反して「田」の第3画目にあたる中央の縦線が右半球損傷群では左に,左半球損傷群では右に偏倚した。「木」でも,中央の縦線が左半球損傷群では右に偏倚した。今回の結果が得られた要因としてはさまざまな可能性が考えられるが,われわれは,視空間の刺激面積と入出力される刺激量の相対的な関係について,仮説を中心に検討した。
  • 小野 由紀子, 小嶋 知幸, 加藤 正弘
    2004 年 24 巻 4 号 p. 377-383
    発行日: 2004年
    公開日: 2006/03/24
    ジャーナル フリー
    語新作ジャルゴンを呈した失語症例を報告した。症例は,発症時52歳の右手利き男性。脳梗塞(再発)発症後,発話に語新作の頻出する流暢型失語が出現した。ただし本症例は,呼称課題のような,目標語が限定的で,かつ語彙回収に対する意図が強く顕在化する場面に比し,会話場面のような,語彙の言い換えが可能であり,かつ語彙回収に対する意図が比較的顕在化しないと考えられる場面,言い換えると自動性が高いと考えられる発話場面において,語新作の出現が減少する傾向を示した。この特徴に着目し,本症例に対して PACEの方法論を用いた発話訓練を実施した。その結果,SLTA上,「呼称」や「語の列挙」での成績には著変なかったが,「動作説明」や「まんがの説明」において成績の向上を認めた。本症例の訓練経過を通して,語新作出現と言語表出への意図との関係について言及するとともに, PACEに対する認知神経心理学的な理論づけを試みた。
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