高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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26 巻, 2 号
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特別講演
  • Barbara A. Wilson
    2006 年 26 巻 2 号 p. 121-127
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/07/25
    ジャーナル フリー
      Since I started working in the field of brain injury rehabilitation twenty seven years ago I have noticed several developments and these are almost certainly for the better. Not all are new developments as Poppelreuter was describing some of them as long ago as 1917. Indeed, the rehabilitation programmes set up for the German soldiers who survived gun shot wounds to the head in the first world war are better than many rehabilitation programmes in existence today. Nevertheless, the early twenty first century is an exciting time to be working in rehabilitation and the future looks promising. To my mind, the most important and influential developments in the past decade are those I list below.
         1. Rehabilitation is now seen as a partnership between people with brain injury, their families and health service staff.
         2. Goal planning is becoming increasingly established as one of the major methods for designing rehabilitation programmes.
         3. Cognitive, emotional and psychosocial deficits are interlinked and all should be addressed in neuropsychological treatment programmes.
         4. Technology is playing (and will continue to play) an increasing part in the understanding of brain injury and in enabling brain injured people to compensate for their difficulties.
         5. Rehabilitation is beginning to take place in intensive care, it is not solely for those people who are medically stable.
         6. There is a growing belief that neuropsychological rehabilitation is a field that needs a broad theoretical base incorporating frameworks, models and methodologies from a number of different fields.
シンポジウム:失語症への認知神経心理学的アプローチ
  • 種村 純, 辰巳 格
    2006 年 26 巻 2 号 p. 128
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/07/25
    ジャーナル フリー
  • 辰巳 格
    2006 年 26 巻 2 号 p. 129-140
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/07/25
    ジャーナル フリー
    伝統的な言語観では,言語には文法ないし規則があるとする。英語の動詞活用たとえば過去形生成を例にとると,動詞の語幹末音素に応じて形態素⁄-t⁄, ⁄-d⁄, ⁄Id⁄を付加する (例:⁄luk⁄→⁄lukt⁄)。日本語の動詞活用は数十あるが,やはり規則がある。しかし,英語でも日本語でも規則の適用ができない例外的な動詞がある (例: ⁄giv⁄→⁄geiv⁄)。この場合には,頭の中の辞書が参照され,辞書からその動詞の過去形が引き出される。単語の読みも同様である。綴り→読みの規則があり,それに従って読みが出力される規則読み(“mint”→⁄mint⁄)がある。その一方で例外的な読みもあり,辞書を参照して読みが出力される ( “pint”→⁄paint⁄)。これらの機構のいずれが損傷されたかにより,規則動詞⁄規則綴りの障害,あるいは例外活用⁄例外綴りの障害が出現すると考える。
      言語には規則も辞書もない,とする別の言語観もある。コネクショニストは,単語の音韻,意味,文字表象の 3層からなるニューラル·ネットワークを構築し,シミュレーション研究を行っている。この見方では,一見,規則と見えるものは,規則動詞の語尾のように同一パタンをくり返し学習することによって生じる般化である。例外活用では,単語の意味情報から単語の特定が行われ,その過去形が計算される。読みについても同じネットワークを用いる。動詞活用と読みの障害パタンは音韻表象,意味表象の障害により説明できるとする。
      本稿では,言語に関する認知神経心理学の主要な 2つの説を紹介し,日本語の動詞活用と読みについて考え,こうした考えが発達性失読や特異的言語発達障害にも適用できることを示す。
  • 松田 実, 鈴木 則夫, 長濱 康弘, 翁 朋子, 平川 圭子
    2006 年 26 巻 2 号 p. 141-155
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/07/25
    ジャーナル フリー
    文字の読み書きは後天的な能力であるから,その障害機序を考える際には,文化によって異なる文字の特性をふまえた検討が必要であり,欧米語の認知心理学的研究の成果をそのままの形で日本語に持ち込むことは危険である。欧米語と日本語の違いとして,欧米語では読み書きの単位が単語であるのに対して日本語では文字レベルにあること,欧米語は音声言語が中心であるが日本語は文字中心の文化であり,日本人は漢字だけでなく仮名をも話す (聞く) こと,の 2点が重要である。音韻失読の自験 4例と文献例の検討から,仮名文字列音読の処理過程を考察し,仮名非語音読障害の機序として音韻表象の障害以外に,仮名 1文字レベルにおける文字音韻変換の脆弱性や系列的処理の困難さが存在する可能性を指摘した。また語義聾自験例の観察から,語義聾では低次の音韻表象から高次の音韻表象に到達する段階に障害があり,音韻表象が文字によって安定化するという仮説を述べた。
  • 小嶋 知幸
    2006 年 26 巻 2 号 p. 156-168
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/07/25
    ジャーナル フリー
    復唱という言語モダリティについて,とくに言語情報入力の処理と,入力された言語情報の把持という処理に焦点を当て,生理心理学的立場から論じた。復唱における入力の処理過程を認知神経心理学的観点から分析したモデルに基づき,音響処理·音韻処理·語彙処理·意味処理の 4水準に,一時的な音響⁄音韻情報把持に必要な残響記憶を加えた計 5つの水準について,それぞれの水準の障害で生じる臨床像と推定される障害メカニズムについて,症例に基づいて報告した。また,臨床症状から推定した各処理水準における障害メカニズムの妥当性を,電気生理学的に検証する方法について探った。
原著
  • 柏木 あさ子, 柏木 敏宏, 西川 隆
    2006 年 26 巻 2 号 p. 169-179
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/07/25
    ジャーナル フリー
    音韻処理を介さない仮名書字とワープロ·ローマ字入力が行われていると推測される失語症の一例を報告した。症例は 57 歳,右利き男性,脳梗塞によって発症した。漢字書字は比較的保たれていた。仮名においては 1拍の書き取りや 2拍非実在語の書き取りにかなりの低下が見られた。しかし単語の自発書字や書き取りで多くの仮名単語が表出され,漢字の仮名振りで多くの漢字音価が仮名で表出された。誤答として,漢字単語,仮名単語の書き取りで意味性錯書が観察され,また漢字の仮名振りで,その漢字の持つ音価のうちの 1つが,選択は不適切であるが仮名には誤りなく表出されるのが観察された。こうした有意味仮名連鎖の表出について,意味が,文字の視覚心像を介して,あるいは介さずに直接,書字運動覚心像に連合する経路が関与したものと推測した。また,平仮名とローマ字間の書字による変換が容易であった。この変換は文字の視覚形態どうしの対応によるものと推測した。いずれも意味,視覚形態および運筆の各処理過程が音韻処理過程に比して優勢であったことを背景に,音韻処理によらない仮名書字が出現したものと考えた。ワープロ·ローマ字入力にもこの音韻処理によらない機能が用いられていると推測した。
  • 小薗 真知子
    2006 年 26 巻 2 号 p. 180-188
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/07/25
    ジャーナル フリー
    糖尿病を持つ高次脳機能障害者のインスリン自己注射の習得上の問題点について報告した。症例は発病時 74歳の右利き女性。10年以上放置していた糖尿病を基礎疾患として急性大動脈乖離を起こし,その緊急手術後に脳梗塞を発症した。右不全片麻痺,ウェルニッケ失語,失行,注意障害,記憶障害を認めたが,発症 3ヵ月目の時点から自宅復帰へ向けて糖尿病自己管理のための指導を実施した。注射導入の最大の問題点は,ウェルニッケ失語による言語理解の障害であり,患者の同意を得るために自己注射の意味を理解させる丁寧な説明が必要であった。また,記憶障害のために通常以上の反復練習が必要であったが,1ヵ月ほどで習得可能であった。見守りの結果,その後のリスクは通常の患者と大差ないことが分かった。高次脳機能障害を持つ患者がインスリン自己注射の自立に至るまでには,医師,看護師,言語聴覚士がそれぞれの立場で評価し指導法を検討することが不可欠であった。
  • 加藤 あすか, 伏見 貴夫, 新貝 尚子, 辰巳 格, 山本 満
    2006 年 26 巻 2 号 p. 189-199
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/07/25
    ジャーナル フリー
    日本語話者における音韻失読は,仮名非語の音読に選択的な障害であると言われることが多い。本研究では,音韻失読と思われる1 症例に対して,(1)仮名非語,漢字非語の音読,(2)文字を用いない音韻課題,(3)語彙判断,(4)意味理解など音読以外の課題についても精査を行い,その障害基盤について考察した。精査の結果,(1)では仮名非語のみならず漢字非語の音読成績も著明に低下していた。仮名非語の音読では同音擬似語効果が認められた。(2)では拍削除,逆唱課題で成績低下が著明であった。また,(3)語彙判断課題では,非語が単語に類似している条件で音声提示に比べ仮名提示の成績が低下する傾向があり,(4)意味理解課題では,音声提示,漢字提示条件に比べて仮名提示条件で有意な成績低下が認められた。以上の結果から,音韻失読を仮名非語音読の選択的な障害として説明できないことが示された。本例の症状は,二重経路モデルにおける音素システムの障害,トライアングル·モデルにおける音韻層の障害としての解釈が妥当であると考えられた。
  • 山里 道彦, 佐藤 晋爾, 池嶋 千秋, 朝田 隆
    2006 年 26 巻 2 号 p. 200-208
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/07/25
    ジャーナル フリー
      Ponsford の提唱した「談話障害」に該当する症例を経験した。
      症例は 37 歳男性で,脳外傷慢性期に,注意障害と記憶障害,遂行機能障害がみられた。脳外傷の部位は,両側前頭前野背内側部,右側頭葉外側部および右扁桃体であった。当症例の発言の特徴は a) 話がまわりくどい,b) 場にそぐわない話題を選ぶ,c) 自分のことを一方的に延々と話し続ける,d) 聞き手の不快感を考慮しないことの 4 点であった。これに起因して,対人関係の面で支障をきたしてきたものと思われた。こうした問題は,遂行機能障害,情動の認知障害,それに言動の自制困難の要素が合わさって生じる特有の臨床像と考察された。
高次脳機能障害全国実態調査報告
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