高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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27 巻, 3 号
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教育講演
  • 梅崎 俊郎
    2007 年 27 巻 3 号 p. 215-221
    発行日: 2007/09/30
    公開日: 2008/10/01
    ジャーナル フリー
    嚥下は口腔期,咽頭期,食道期よりなるが,とくに気道と食塊通路の共通路で惹起される咽頭期嚥下は,咽頭および喉頭を取りまく多数の筋群による高い再現性をもったもっとも精緻な運動の一つである。このようなステレオタイプの運動様式を示す咽頭期嚥下は,延髄に存在する嚥下のパターン形成器 (CPG) によってプログラムされた運動であると考えられている。随意的に開始される口腔期の嚥下からパターン出力である咽頭期嚥下への移行は,上位の中枢神経系の働きにより円滑に行われている。また,大脳基底核は嚥下の随意期の運動の制御のみならずサブスタンスP を介して嚥下の惹起性をコントロールしている可能性も示唆されている。
  • —神経内科の立場から—
    山口 修平
    2007 年 27 巻 3 号 p. 222-230
    発行日: 2007/09/30
    公開日: 2008/10/01
    ジャーナル フリー
    エピソード記憶の記銘と想起,意味記憶の想起,そして作業記憶における前頭葉の役割を神経機能画像研究の成果を中心に概説した。エピソード記憶の記銘の際には左の前頭前野が関与し,想起に際しては両側の前頭前野が関与している。記憶内容の言語化の程度も半球差に影響している。新奇な刺激の自動的な記銘には後方連合野の関与が強いが,前頭葉の情動(前頭眼窩面)や注意のネットワーク(前帯状回)も関与している。意味記憶そのものは側頭葉を主体とするネットワークに存在するが,その随意的な想起には左腹外側前頭前野の役割が重要である。作業記憶は前頭葉の実行機能の中で中心的な役割を果たしており,その際に主に活動する前頭葉内部位は中および下前頭回であり,頭頂葉とのネットワークが重要である。
  • 大槻 美佳
    2007 年 27 巻 3 号 p. 231-243
    発行日: 2007/09/30
    公開日: 2008/10/01
    ジャーナル フリー
    要素的症状と責任病巣の関係は以下に集約される。(1)アナルトリー:左中心前回中下部およびその皮質下,(2)(アナルトリーを伴わない)音韻性錯語:左上側頭回~縁上回~中心後回およびそれらの皮質下,(3)単語理解障害:左中前頭回,左上·中側頭回後部,およびそれらの皮質下,(4)喚語困難:左下前頭回,左角回,左側頭葉後下部およびそれらの皮質下。責任病巣が複数ある(3)や(4)は,同じ要素的症状でも,前頭葉損傷と後方領域損傷で,その障害内容が異なり,検査の工夫で相違を明らかにできた。その結果,前頭葉は理解や喚語に関して,おおまかなカテゴリーなどを指南する役割をもち,後方領域はその指南を受け,さらに厳密な情報へアクセスする役割を持つことが推測された。また,左側頭葉前方部損傷患者の特異な語想起障害のパターンから,左側頭葉前方部は意味を手がかりにした語想起に関与することが示唆された。側頭葉の損傷では,さらに,カテゴリー特異性のある障害が認められた。また,機能画像における知見は,タスク施行時のストラテジーを統制することで,臨床知見と整合することが示唆された。
原著
  • 山田 裕子, 前島 伸一郎, 片田 真紀, 阿部 泰昌, 爲季 周平
    2007 年 27 巻 3 号 p. 244-250
    発行日: 2007/09/30
    公開日: 2008/10/01
    ジャーナル フリー
    脳梗塞による右大脳半球損傷で失語症を伴わない口腔顔面失行を呈した症例を報告した。症例は64 歳の右手利きの男性で,左手利きの家族性素因はなかった。神経学的には顔面を含む左片麻痺と左半身の感覚障害を認めた。神経心理学的には,口腔顔面失行,左半側空間無視,注意障害,構成障害を認めた。失語症や観念失行,観念運動失行はなかった。頭部MRI では右中大脳動脈領域の広汎な梗塞巣が認められた。本症例の言語機能は左半球優位に,口腔顔面の随意運動に関する機能は右半球優位に側性化されている可能性が示唆された。一般的に口腔顔面失行は失語症に伴うことが多く,発語に関する半球に密接に関連すると考えられているが,言語と口腔顔面の随意運動に関する神経機構は互いに独立して存在しうるものであると考えられた。また失行の中でも口腔顔面と上肢の行為の神経機構は異なる半球間に側性化されていると考えられた。
  • 酒野 直樹, 能登谷 晶子, 駒井 清暢
    2007 年 27 巻 3 号 p. 251-258
    発行日: 2007/09/30
    公開日: 2008/10/01
    ジャーナル フリー
    パーキンソン病患者とパーキンソン症候群の患者42人(P 群)と,健常者群21人を対象に文字の大きさを比較した。対象者はひらがなの「た」の連続10回書字と,10文字からなる文の書字を行った。2群間で,文字の大きさの変化と,文字縮小率について比較検討した。その結果,「た」を連続10回書字する場合と文レベルの書字の比較では,縦書き,横書き共に,文の書字の方が文字の大きさ,縮小率で,P 群が有意に小さくなった。また,「た」の連続書字と文の書字の縮小率の比較では,文の書字の方が有意に小さい値を示した。今回の結果から,パーキンソン病やパーキンソン症候群の患者においては文字の連続書字よりも文の書字の際に小字傾向が表れやすいと考えた。
短報
  • 高橋 秀典, 濱村 真理, 中谷 謙, 村上 晶子
    2007 年 27 巻 3 号 p. 259-267
    発行日: 2007/09/30
    公開日: 2008/10/01
    ジャーナル フリー
    脳梗塞後,一過性に倒立文字を,右手で書字した症例を報告した。倒立文字とは一般に上下が逆転し,180 度回転させれば重なるものをさし,これを倒像文字または二重鏡映文字ともいう。倒立文字の書字の報告はきわめてまれである。本例においても,このような書字が明らかに判別できるものは1 字のみであったが,後日倒立した物の描画を認めた。本例では正立,倒立の識別が困難であるという徴候があり,このようなものの見方の障害が,書字運動や描画などの出力系にも何らかの影響を及ぼす可能性について若干の検討を加えた。
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