高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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29 巻, 1 号
選択された号の論文の35件中1~35を表示しています
特別講演
  • 小阪 憲司
    2009 年 29 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2010/06/02
    ジャーナル フリー
      亡き田邉敬貴教授と筆者の対談集「トーク認知症」のなかから,筆者の自験剖検例のうち特に興味深い非定型アルツハイマー病,特異なレビー小体型認知症,石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病,辺縁系神経原線維変化認知症,ピック小体病,非定型ピック病の症例をピックアップして提示しながら田邉教授と筆者の対話を中心に紹介した。
  • 山鳥 重
    2009 年 29 巻 1 号 p. 9-15
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2010/06/02
    ジャーナル フリー
      脳損傷が引き起こす認知・行動障害は単一認知能力の単純な欠損(陰性症状)として出現することは少なく,多くの場合,行動・認知能力の変容(陰性症状と陽性症状の複合)として出現する。超複雑構造である大脳が,ある程度自律性を持つ複数の機能系から成っているため,これら複数の機能系の間に損傷機能系の活動低下と非損傷機能系の相対的な活動亢進という,複雑な力動関係が発生するためである。このような力動関係の破綻を表していると考えられるさまざまな症候群のうち,筆者が個人的に経験し,論文として発表したことのあるものを 4 種に大別し,その病態メカニズムをまとめた。
      すなわち,(1) 上位神経水準と下位神経水準の統合・拮抗関係の破綻を示す症状,(2) 左右大脳半球の統合・均衡関係の破綻を示す症状,(3) 前頭葉機能と頭頂葉機能の統合・均衡関係の破綻を示す症状,そして (4) 言語機能における情報統合能力の破綻を示す症状である。
カレントスピーチ
  • 種村 留美
    2009 年 29 巻 1 号 p. 16-17
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2010/06/02
    ジャーナル フリー
  • 村井 俊哉
    2009 年 29 巻 1 号 p. 18-25
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2010/06/02
    ジャーナル フリー
      脳損傷後には,依存性,感情コントロール低下,対人技能拙劣,固執性,引きこもり,など,社会的場面・対人場面での行動にさまざまな問題が生じてくる。これらの問題は,脳損傷に伴う身体障害や社会的困難に対する心理的反応などとして理解できる場合もあるが,脳損傷の直接の結果として理解するほうが妥当と考えられる場合もある。前頭葉は社会的行動と関連する重要な脳領域であるが,その損傷によって生じる行動障害は,アパシー,脱抑制,遂行機能障害という3 つの軸で大別することも可能である。この 3 症候群が内側前頭前皮質,眼窩前頭皮質,背外側前頭前皮質の損傷とそれぞれ特異的に関連しているとの主張もみられるが,病変と症候の対応関係はそれほど明解ではない。社会的行動障害の基盤となる情報処理の障害が何であるのかは十分には明らかにされていないが,たとえばアパシーについては,目標へと方向づけられた行動(goal-directed behavior)の量的減少として理解できるのではないかとの考えが提案されている。
  • 三村 將
    2009 年 29 巻 1 号 p. 26-33
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2010/06/02
    ジャーナル フリー
      脳損傷,特に前頭葉損傷患者が示す社会的能力の障害には,自分の言動を相手がどう思うかを理解できない「心の理論」(心的推測)の問題と,衝動コントロールの問題とが複合的に関与している。本稿では,衝動コントロールの問題への介入技法について,精神科的観点から整理を試みた。衝動コントロールが悪いと,脱抑制行動や対人関係トラブルが目立ったり,一方で思うようにいかないと激しい怒りの爆発( anger burst )が生じたりする。脱抑制に対しては,種々の向精神薬が奏効することがあるが,薬物療法の効果はまだ十分なエビデンスが得られていない。心理的介入については,精神科領域で広く用いられている認知行動療法は,前頭葉損傷患者が示す anger burst に対してもしばしば有用なアプローチとなる。原則として,患者の機能や気づきのレベルが低いほど行動的アプローチが中心となり,反対に機能や気づきのレベルが高いほど認知的アプローチの導入が可能となる。これらの具体的アプローチについて概説した。衝動の背景には動機を形成する快(報酬)─不快(罰)体験がある。本稿では,前頭葉損傷例に試みた予備的な長期報酬学習訓練について紹介した。衝動コントロール不良な前頭葉損傷患者がいかにして即時的報酬を抑えて,将来的・長期的な報酬を学習・強化できるかが今後の重要な研究ターゲットであろう。
  • 種村 純
    2009 年 29 巻 1 号 p. 34-39
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2010/06/02
    ジャーナル フリー
      本稿ではリハビリテーションの立場から高次脳機能障害者における社会的行動障害について,個人,集団および家族への介入と,わが国,特に岡山県における現状を紹介し,体系的な介入のあり方について検討した。症状に対する直接的介入としては行動療法および認知療法が適用される。また,認知および行動の障害が社会適応に問題を生ずる媒介機能としてコミュニケーション機能を位置づけることができ,集団療法ではコミュニケーション能力と生活技能を改善することを目標とする。また家族が当事者の社会行動を支えることになり,家族への支援が必要であることを述べた。
原著
  • 船山 道隆, 前田 貴記, 三村 將, 加藤 元一郎
    2009 年 29 巻 1 号 p. 40-48
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2010/06/02
    ジャーナル フリー
      両側前頭葉損傷後,強制的に人物とりわけ人の眼を中心に凝視ないしは注視 (forced gazing) を続ける2 症例を報告した。この2 例では,人が視界に入れば必ず凝視ないしは注視が誘発され,人が視界から消えるまで持続した。すなわち,この行動は,外部環境刺激に対して戸惑うことなく駆動され継続した。
      forced gazing は,能動性がほとんどみられない患者に出現する,外部の環境刺激に対して視線が自動的に反応する被影響性が亢進した現象と考えられ,また前頭葉の損傷による抑制障害のため頭頂葉の機能が解放された結果,これらの行為/行動が出現したと考えた。本2 症例は前頭眼野を含む広範な両側前頭葉損傷であった。本2 症例に随伴した把握現象や道具の強迫的使用から両側前頭葉内側面損傷がforced gazing の責任病巣の中で最も重要と考えられ,前頭眼野も責任病巣の1 つと考えられた。
  • 市川 勝, 前田 眞治
    2009 年 29 巻 1 号 p. 49-59
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2010/06/02
    ジャーナル フリー
      右大脳半球損傷(RHD)患者の談話特徴を明確にするために健常者と比較するとともに,RHD 患者における認知機能障害と談話の関連性について検討した。対象はRHD 患者群51 名(男性28 名,女性23 名,68.2 ± 9.1 歳)と健常群50 名(男性25 名,女性25 名,66.6 ± 4.6 歳)の2 群(全員右手利き)である。SLTA「まんがの説明」口頭表出課題を両群に実施,設定した34 の談話分析項目についての群間比較では,RHD 群において冗長性や命題表出の不足など情報伝達効率の低下を認めた。また,RHD 患者から得られた神経心理学的検査の結果を用いて因子分析を行ったところ,5 因子が抽出された。これらのうち,遂行機能やワーキングメモリ・注意機能,および一般的な知識や語彙の意味処理に関する因子は,情報伝達効率に関する談話分析項目と相関がみられた。RHD に起因するコミュニケーション面の障害像を把握するためには,これらの認知機能障害を詳細に評価することが必須であると考えられた。
  • 東條 秀則, 田島 文博
    2009 年 29 巻 1 号 p. 60-65
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2010/06/02
    ジャーナル フリー
      脳卒中患者に高次脳機能検査と巧緻動作課題を立位と座位で行い,その関連が比較された。右利きの脳卒中後遺症右片麻痺患者8 名(男性6 名・女性2 名,年齢68.6 ± 7.0 歳),発症から4 ヵ月以上経過したものであった。方法は,Trail Making Test part A (TMT),線分抹消,線分二等分,Mini Mental State Examination(MMSE),ペグボードテストを立位と座位で行い,立位先行者4 名,座位先行者4 名とし,1 週間後に前回とは異なる姿勢で計測した。結果,TMT は立位と座位で有意差を認めず,ペグボードテストでは立位の方が有意に速かった。線分抹消,線分二等分,MMSE, 1 ・2 回目の比較では有意差はなかった。今回の結果から,立位姿勢は脳卒中患者の非麻痺側上肢でのペグボードテストの作業効率を高めるが,その機序は注意・半側空間無視・認知面とは異なる因子の改善によるものと推察される。
第32回日本高次脳機能障害学会 (旧 日本失語症学会) 総会講演抄録 一般演題
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