高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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29 巻, 2 号
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シンポジウム : 臨床の技 (スキル)
  • 岩田 誠, 大東 祥孝
    2009 年 29 巻 2 号 p. 193
    発行日: 2009/06/30
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
  • 大槻 美佳
    2009 年 29 巻 2 号 p. 194-205
    発行日: 2009/06/30
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
      失語症を理解するには,脳を音素・音韻に関する領域 (phonetic & phonemic area) と,内容・語と語の関係に関する領域 (content & context area) の二大機能系に分けて考えるとわかりやすく,この機能系とその解剖学的基盤を基本的視点として提示した。
      また,失語症を分類するには質的な評価が必要であり,これを重症度や経時的変動の評価に適している量的尺度と使い分けることが妥当であること,さらに発語の分類は流暢・非流暢ではなく,失構音の有無で判断するのが有用であること,復唱能力の判断に苦慮した場合には音韻性錯語の有無,言語性短期記憶障害の有無を援用することが有用であることを指摘した。
      次に,言語の要素的症状の局在地図と,古典的失語型との関係を概説し,未解決問題として,超皮質性運動失語の位置づけ,皮質下性失語の特徴,文レベルの障害について考察した。
      最後に,言語機能に影響を与える非言語的背景について検討した。まず,意図性と自動性の解離について,ウェルニッケ失語患者における復唱能力が,あえて復唱を意識しない場合のほうが良好であることを示した。次に,呼称課題について,最初の語が出やすいことも定量的に示した。これは,とくに側頭葉に病巣が及んでいる患者で明らかであり,病巣による違いも考慮すべきことが推測された。最後に,呼称課題を行う際に,右半球に負荷がかかるような課題と交互に施行すると呼称の成績が改善した1 例を報告した。以上より,失語症に対峙する場合,非言語性の要因も考慮することが重要であることを指摘した。
  • ─「みること」「さわること」とのかかわりへ─
    中川 賀嗣
    2009 年 29 巻 2 号 p. 206-215
    発行日: 2009/06/30
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    入力刺激条件と出力対象条件が,行為・動作処理を決定するという観点から,行為・動作の3 つの側面を指摘した。「何を行うか」の側面 (動作内容の選択),「どのように行うか」の側面 (動作駆動・抑制と身体間の調和),動作の「正確さ」の側面 (補正) の3 つである。この各側面ごとに,それぞれ関連する障害を分類した。この分類は,「ある区画 (側面) に分類された障害は,他の区画の動作に影響しない」ことを意図して作成したもので,これは今後この作業を進めることで独立した機能区分が明らかになると考えたためであった。これら3 つの側面は視覚や体性感覚と密接な関係を有する。とくに体性感覚に関して,体性感覚が障害されると,補正の障害が生じる。一方動作内容の選択障害は生じないが,体性感覚は,動作 (内容) の学習と再現に関与している可能性が考えられた。また「動作駆動・抑制と身体間の調和」の一症候である運動無視は,左右四肢の動作役割分担決定に,身体状況に関する体性感覚情報が用いられていて,その感覚情報の離断によって生じている可能性があると考えられた。
  • 鈴木 匡子
    2009 年 29 巻 2 号 p. 216-221
    発行日: 2009/06/30
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    患者の症状をみる臨床の技の基本は,観察から発症機序に関する仮説を立て,それをさらなる観察により検証していくということである。それに加えて,神経機能画像や神経生理学的検査の所見を得て,神経科学的知見を統合することにより,ヒトの高次脳機能の神経基盤について洞察を深めることができる。失認症の場合も系統的な診察を進めることにより,的確な診断に至ることができる。失認症は「1 つの感覚様式を通してのみ対象が認知できない」ことであり,他の感覚様式を使えば対象を容易に認知できる。この定義に基づいて失認症であることの確認をし,次に失認症の特徴を検討する。類似の症候の鑑別をするためには,常に障害の質的な面に注意を払い,一人一人の患者において障害の本質を見極める努力をすることが重要である。
  • 池田 学
    2009 年 29 巻 2 号 p. 222-228
    発行日: 2009/06/30
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    本稿では,比較的初期 (CDR の0.5 ないし1 のレベル) 認知症の診断に必要な症候学を論じた。原因疾患では,頻度の高いアルツハイマー病 (AD) と脳血管性認知症 (VaD),AD とVaD に次ぐ認知症の原因疾患として注目されているレビー小体型認知症,ならびに若年性認知症の原因疾患として重要である前頭側頭葉変性症を対象とした。各疾患に特徴的な認知機能障害のパターン,精神症状と行動特徴を,診察ならびに検査場面から把握することの重要性を強調した。また,特定の認知症性疾患の診断には,認知症類似の症状を呈する,せん妄やうつ病などの精神障害,他の認知症性疾患が正確に診断できることが条件であることを述べた。
ワークショップ :「失書」の症候論とリハビリテーション
原著
  • 用稲 丈人, 狩長 弘親, 山本 陽子, 八木 真美, 種村 純
    2009 年 29 巻 2 号 p. 247-255
    発行日: 2009/06/30
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    脳損傷者65 名の遂行機能障害症候群の行動評価日本版 (BADS) 成績について因子分析を行い,Wechsler Adult Intelligence Scale-Revised,Wechsler Memory Scale-Revised,Trail MakingTest,Paced Auditory Serial Addition Test 成績との関係を検討した。BADS 下位検査成績の因子分析から,(1)行動計画能力,(2)推定能力,の2 因子が抽出された。2 因子の因子得点を軸とする対象者の因子負荷プロットは,BADS 全般的区分と一致した。BADS 全般的区分と社会的行動障害の臨床評価との比較では,両者に乖離を認め BADS 下位検査だけでは評価できない問題が示された。2 因子の下位尺度得点と知能,記憶,注意検査成績との関係では,行動計画能力が知能,記憶,注意検査など認知機能全般と関連を示し,推定能力はワーキングメモリや認知的な判断能力との関連が示唆された。BADS は社会的行動障害の評価には適していないが,遂行機能障害の行動計画能力と推定能力の評価に有用であると結論づけられる。
  • ─Computer-assisted Attention Training の試み─
    窪田 正大
    2009 年 29 巻 2 号 p. 256-267
    発行日: 2009/06/30
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    注意障害を伴った脳血管障害患者10 例に対して,独自に作成したパーソナルコンピュータ用プログラムを用いた認知リハビリテーション Computer-assisted Attention Training (CAT) をABA' に準じた研究デザインで試み,注意検査 (AMM,TMT,PASAT) と注意の行動評価尺度 (Ponsford スケール) ,ADL 検査 (FIM) を各々4 回行って,その結果を比較検討した。それによれば CAT を4 週間実施した前後において,注意検査,Ponsford スケールとFIM の検査結果が有意な改善 (p<0.01 または0.05) を示した。ただ一部の注意検査 (AMM 的中率,TMT-Part B,PASAT-2 秒用) 結果は,A 期も改善 (p<0.01 または0.05) を示した。さらに A’期においては,注意検査結果は維持され,Ponsford スケールとFIM の結果は有意な改善 (p<0.01) を示した。以上の検査結果を総合的に考えると,対象者が回復期であり自然回復の要因も一部含んでいると思われるが,CAT のある程度の効果もあったと推測される。以上から CAT は注意障害に有用な訓練方法である可能性が示唆された。
  • 近藤 正樹, 望月 聡, 小早川 睦貴, 鶴谷 奈津子, 河村 満
    2009 年 29 巻 2 号 p. 268-276
    発行日: 2009/06/30
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    語の意味記憶障害を呈した側頭葉型 Pick 病2 例 (60 歳右利き女性, 79 歳右利き男性)を対象とし,行為表出および行為理解能力の関連を検討した。行為表出検査 (自動詞的行為では聴覚的提示,模倣,他動詞的行為では聴覚的提示,視覚的提示,実使用,模倣 )および行為理解検査 (自動詞的行為ではジェスチャーの説明,他動詞的行為では物品使用時のパントマイムの説明,視覚提示した物品の説明,聴覚提示した物品名の説明,呼称 )を実施した。自動詞的行為の模倣を除き,行為表出検査,行為理解検査に全般的な障害を呈した。また,行為表出得点と行為理解得点に有意な相関が認められ,共通の要因が存在する可能性が示唆された。他動詞的行為や自動詞的行為の説明にも困難を呈したことから,語義,物品の意味記憶のみならず,行為の意味記憶に関する障害の存在が示唆された。
  • 佐野 (江口) 香織, 鈴木 則夫, 松田 実
    2009 年 29 巻 2 号 p. 277-285
    発行日: 2009/06/30
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    発話開始困難と中断が目立つ非流暢性失語症を呈したが,その他の言語症状は軽微であった症例について,その非流暢性の原因を検討した。症例は83 歳,右利きの女性。左中前頭回後部から中心前回前部にかけての脳梗塞を発症,第1病日はごく軽度の失構音があり,非流暢性が著明であった。語列挙や文の構成障害がなく,発話衝動は保たれ,失構音は速やかに改善したにも関わらず,自由発話における発話開始困難と中断が遷延した。非流暢性発話の二大要因である失構音と言語発動性の低下を欠き,本症例における非流暢性の原因として,前頭葉由来の思考障害,思考の言語化の障害,選択肢が多い場合の語句の選択の困難さが考えられた。本症例の病巣は,多くの典型的 Broca 失語の病巣に含まれることから,本症例の非流暢性発話の原因が,典型的 Broca 失語の非流暢性発話の一因となっていることが予想される。
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