高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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32 巻, 2 号
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教育講演
  • 原 寛美
    2012 年 32 巻 2 号 p. 185-193
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2013/07/01
    ジャーナル フリー
    遂行機能障害とは,前頭前野の障害により,後部脳における認知機能は保たれているものの,それらを動員して課題の解決にあたることが困難な病態であると理解される。それによりプランニングの障害,戦略の適用ができない,自己制御の障害,抑制が利かない,ゴール志向的行動が困難,行動の開始が困難,さらに自己洞察ができない,という一連の行動の障害が生じる。認知リハビリテーションの理論的枠組みとして,Normann と Shallice による情報処理モデルにより,不適切なスキーマを抑制し最適なスキーマが選択される思考・行動スキーマの変更の手法が支持されている。さらに Cicerone によるsystematic review では問題解決訓練が推奨されており,同様にゴールマネジメント訓練の有用性が支持されている。
  • 大槻 美佳
    2012 年 32 巻 2 号 p. 194-203
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2013/07/01
    ジャーナル フリー
    前頭葉および基底核に関連する高次脳機能障害を概説した。前頭葉損傷による障害には様々なものがあるが, 症候が明確に定義され, かつ責任病巣が明らかで, 局在徴候として確立しているものを取り上げた。中心回領域損傷では拙劣症, 失構音など運動や発語の要素的なレベルでの実現に関与する障害が出現し, 背外側領域損傷では作動記憶の中央実行系の障害やセット変換の障害など動作・行為の遂行に大きく関与する障害の他, 書字障害, 失タイプ, 喚語困難, 前部弁蓋部症候群など多彩な症状が出現し, 内側領域損傷では把握反射・本能性把握反応・行為の解放現象, 動作の駆動に関する障害が出現する。基底核に関連する障害としては, パーキンソン病患者を対象に取り上げ, 特にセット変換を評価する課題における問題, 中央実行系の問題と視空間認知の問題を検討した。その結果, 基底核損傷では, セットや動作・行為が変換された後に, それを維持することに障害が出現すること, また, 中央実行系に負荷がかかる条件下で, 視空間認知が大きく低下することが明らかになった。
  • 緒方 敦子, 川平 和美
    2012 年 32 巻 2 号 p. 204-211
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2013/07/01
    ジャーナル フリー
    観念失行の定義, 発生メカニズムについての議論は続いている。一方, 道具使用や随意運動にいたるメカニズムが解明されつつある。我々は, 観念失行を有する失語症患者を対象に道具の認知や使用法と手順の知識について, 道具の写真の並び替えなど非言語的課題を用いて検討したところ, 単一物品の使用法理解は全例で保たれていたが, 複数物品の使用については誤りがあった。ADL への影響では観念失行例は観念失行のない例に比べて入院時, 退院時とも ADL は低かったが, その向上の程度は差が無かった。失語と観念失行を有する右片麻痺例への調理訓練も検討し, 頻回に調理実習を繰り返すと, 多くの例が調理可能となった。観念失行の効果的なリハビリテーションは確立されていないが, 観念失行を道具使用の運動プログラムの立ち上げに至る神経回路の障害と考えると, 誤りのない道具使用を実現する神経回路の興奮水準を高める刺激の多い環境で, 繰り返して行うことが必要である。
  • ─動機的セイリアンス障害─
    大東 祥孝
    2012 年 32 巻 2 号 p. 212-217
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2013/07/01
    ジャーナル フリー
    前頭葉関連症状を, 遂行機能制御系の障害と動機的セイリアンス系の障害とに区別して捉える視点を示し, 後者が社会行動障害としてカテゴリー化される症状を形成していることを指摘した。前頭葉関連症状のうちの動機的セイリアンス系の障害として, (1) 脱抑制, (2) アパシー, (3) 被影響性症状─常同性 (固執) 症状, (4) 障害についての気づきの稀薄化, をあげ, それぞれについて, セイリアンス障害との関連を指摘した。
ワークショップ
  • 田川 皓一
    2012 年 32 巻 2 号 p. 218-219
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2013/07/01
    ジャーナル フリー
  • 田川 皓一
    2012 年 32 巻 2 号 p. 220-226
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2013/07/01
    ジャーナル フリー
       前頭葉損傷における CT や MRI による形態学的診断は, 常に進歩しているものの必ずしも病態のすべてを説明できるものではない。前頭葉損傷として脳梗塞を, その代表的な症候として失語症を取り上げ画像診断の意義と限界について検討した。
       運動性失語はブローカ領域と左中心前回の障害をきたしたとき定型像を呈してくる。なお, 左の中心前回に限局した病巣では, 純粋語唖をみる。ブローカ領域に限局した病巣では, 超皮質性感覚性失語を呈し, 非流暢な失語とはならない。前大脳動脈の梗塞では超皮質性運動性失語を呈することがあるが, 発話の発動性の低下が特徴である。左の内頸動脈や中大脳動脈などの主幹動脈病変による境界域梗塞で超皮質性運動性失語をみることがある。境界域梗塞が表層型であれ深部型であれ, 機能画像による病巣は形態画像でみる梗塞巣よりも広範である。形態画像と機能画像の解離をきたす病態と考えられ, 形態学的診断には限界がある。
  • 佐藤 正之
    2012 年 32 巻 2 号 p. 227-236
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2013/07/01
    ジャーナル フリー
    前頭葉の機能解剖と前頭葉機能障害の自験例を呈示し, 前頭葉機能の測定に用いられる神経心理検査について frontal assessment battery (FAB) を中心に述べた。前頭葉は穹窿部, 眼窩面, 内側面に分けられ, それぞれの部位の障害により特徴的な症状を示す。いわゆる前頭葉機能検査には, Stroop test, 語想起, Trail Making Test, Wisconsin Card Sorting Test (WCST) , FAB などがあり, 脳賦活化実験により各々の検査の施行時に活性化する脳部位が調べられている。FAB は近年臨床場面で頻用されているが, FAB 低得点=前頭葉機能障害では必ずしもないことに注意しなければならない。
  • 丸石 正治
    2012 年 32 巻 2 号 p. 237-243
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2013/07/01
    ジャーナル フリー
    ファンクショナル MRI を用いてびまん性軸索損傷患者の前頭葉機能を検討したところ, (1) paced auditory serial addition test にて両側背外側前頭前野が, (2) errorful 学習にて両側後部頭頂葉が, (3) 自己知識課題にて背内側前頭前野が, 健常者よりも活動増大を示した。これらは, びまん性軸索損傷の機能回復過程における代償的脳活動を意味すると考えられた。パフォーマンスと脳活動の関係は一定でなく, 特に機能回復過程においてはその意味付けに慎重を要する。
失語症のカレントスピーチ
  • 板倉 徹, 種村 純
    2012 年 32 巻 2 号 p. 244-245
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2013/07/01
    ジャーナル フリー
  • 井上 雄吉
    2012 年 32 巻 2 号 p. 246-256
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2013/07/01
    ジャーナル フリー
    失語症 (主に非流暢性失語症) に対する反復経頭蓋磁気刺激 (rTMS) 治療について自験例を含めて review を行い, その有用性や問題点, 今後の課題について報告した。両側大脳半球は健常では互いに抑制・拮抗し合って均衡した状態にあるが, 一側 (失語症では主に左) 半球に傷害が生じると, 脱抑制状態となった対側 (主に右) 半球の相同部位から過剰な抑制を受け, さらに機能障害が増強する。この過活動状態となった右半球を低頻度 rTMS で抑制し, 不均衡状態を是正しようというのが rTMS 治療の原理であり, paradoxical functional facilitation (PFF) の一つと考えられる。右半球の失語症の回復に対する作用は病巣の分布や部位による影響を受けるが, 失語症の回復に抑制的 (maladaptive) に働くこともある。半球間の不均衡は失語症の回復に大きく関係しており, その是正のための右半球の Broca 野相同部位 (BA 45) に対する低頻度 rTMS は失語症の安全で有用な補助療法の一つと考えられ, 今後の臨床応用が期待される。
  • 中川 良尚, 小嶋 知幸
    2012 年 32 巻 2 号 p. 257-268
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2013/07/01
    ジャーナル フリー
    失語症状の長期経過を明らかにする研究の一環として, 右手利き左大脳半球一側損傷後に失語症を呈した 270 例の病巣別回復経過を検討した。また言語機能に低下を示した 37 症例の SLTA 総合評価法得点各因子の機能変遷を検討した。その結果, 1) 失語症状の回復は損傷部位や発症年齢によって経過は大きく異なるが, 少なくとも 6 ヵ月以上の長期にわたって回復を認める症例が多いこと, 2) SLTA 総合評価法得点上回復しやすい機能は, 比較的簡単な言語情報処理である理解項目および漢字・仮名単語文字からの音韻想起能力であること, 3) 回復後維持されやすい機能は, 理解項目および漢字・仮名単語文字からの音韻想起能力であること, 4) 構文の処理や書字能力などより複雑な言語情報処理を必要とする機能は低下しやすいこと, 5) 言語訓練後に回復を示した機能は脆弱である可能性が高いこと, 6) 各症例に応じてメンテナンスが必要な言語症状に対しては長期的な言語訓練の継続が必要であること, などが考えられた。以上の結果に基づき, 失語症にとっての慢性期について再考した。
原著
  • 田村 至, 武井 麻子, 濱田 晋輔, 本間 早苗, 田代 邦雄
    2012 年 32 巻 2 号 p. 269-277
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2013/07/01
    ジャーナル フリー
    Machado-Joseph 病 (MJD) における注意機能障害を検討した。認知症の認められない MJD 群 15 例および年齢, 教育年数を統制した対照群 15 例を対象に Frontal Assessment Battery (FAB) , 語想起 (カテゴリー・語頭音) , 仮名拾いテスト, Trail Making Test (TMT) -A, B, 数唱, 逆唱と視覚性記憶範囲 (同順・逆順) を施行した。MJD 群では, FAB 合計, 語想起 (語頭音) , 逆唱, 仮名拾いテストに有意な低下がみられた。一方, 語想起 (カテゴリー) , FAB の「類似, 把握反応, 系列動作, 葛藤指示, Go-NoGo 課題」および数唱, 視覚性記憶範囲 (同順・逆順) , TMT-A, B, B/A には両群間で有意差は認められなかった。MJD 群では, 注意の変換, 選択的注意に有意な低下はみられず, 分配性注意に選択的障害が認められ, MJD による小脳-前頭葉機能系の障害との関連が推測された。
  • 上間 洋平, 村田 翔太郎, 水上 匡人, 佐藤 卓也, 今村 徹
    2012 年 32 巻 2 号 p. 278-285
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2013/07/01
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病 (Alzheimer's disease : AD) 患者に施行したAlzheimer's DiseaseAssessment Scale (ADAS) の 10 単語即時再生課題における虚再生を記録し, 他の認知機能課題の成績との関係を検討した。対象としたAD 77 症例中の24 症例で虚再生が認められ, 対象全体の平均虚再生個数は1.1±2.6 であった。虚再生された単語のうち68 % ( 13 語) は target 語のいずれかと同一のカテゴリーに属していた。各症例の虚再生の有無を従属変数, 患者属性, 疾患属性, 認知機能属性のいずれかを独立変数とする logistic 回帰分析を施行し, ADAS の単語再認課題の成績が良いほど虚再生が出現しやすいという結果を得た。この結果は, 再認課題が障害されているほど虚再生が生じにくい, と解するのが正しいと考えられる。すなわち, target 語の符号化の過程に主たる障害がある患者では, target 語と同時に賦活・符号化され虚再生の基盤となるはずの意味的関連語もまた符号化されにくいため, 再生すべき語の検索過程で虚再生されることも少なかったと考えられる。健常者では target 語が符号化される際に同時に賦活され符号化される意味的関連語が多くの虚再生語の基盤となっているとされている。本研究の結果は, AD 患者に施行した一般的な単語列再生課題でみられる虚再生にも, この図式が当てはまることを示唆している。
  • 宮崎 泰広, 種村 純
    2012 年 32 巻 2 号 p. 286-293
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2013/07/01
    ジャーナル フリー
    漢字単語の音読課題において錯読後の次課題で前課題の正答 (目標語) を表出した症例を報告した。症例は左前頭葉, 島に梗塞巣を認め, 混合型超皮質性失語を呈した 82 歳の右利き, 女性であった。漢字単語の音読課題において, 語性錯語および新造語様の錯読後の次課題で前課題の目標語を表出した反応が 4 回出現した。この時の前課題と次課題の目標語は音韻, 意味的にもまったく無関係であった。これは前課題で賦活された言語処理過程の概念─辞書レベルの抑制障害により生じる意味性保続の変形型として説明が可能であった。
  • 粟屋 徳子, 春原 則子, 宇野 彰, 金子 真人, 後藤 多可志, 狐塚 順子, 孫入 里英
    2012 年 32 巻 2 号 p. 294-301
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2013/07/01
    ジャーナル フリー
    発達性読み書き障害児に対し, 春原ら (2005) の方法に従って漢字の成り立ちを音声言語化して覚える学習方法 (聴覚法) と書き写しながら覚える従来の学習方法 (視覚法) の 2 種の漢字書字訓練を行い聴覚法の適用を検討した。対象は発達性読み書き障害の小学 3 年生から中学 2 年生の 14 名で, 全例, 全般的知的機能, 音声言語の発達, 音声言語の長期記憶に問題はなかったが, 音韻認識や視覚的認知機能, 視覚的記憶に問題があると考えられた。症例ごとに未習得の漢字を選択し, 視覚法と聴覚法の 2 通りの方法で訓練を行い, 単一事例実験研究法を用いて効果を比較した。その結果, 2 例では両方法の間の成績に差を認めなかったが, 12 例では聴覚法が視覚法よりも有効であった。この 12 例はいずれも, 視覚的認知機能または視覚的記憶に問題を認めた。この結果は, 聴覚法による漢字書字訓練の適用に関する示唆を与えるものと思われた。
  • 岡橋 さやか, 関 啓子, 長野 明紀, 種村 留美, 小嶌 麻木, 羅 志偉
    2012 年 32 巻 2 号 p. 302-311
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2013/07/01
    ジャーナル フリー
    我々は高次脳機能評価のためのバーチャルリアリティシステム (VR 検査) を開発した。仮想の商店街における買い物遂行過程から, 正答数, 買い物リストや鞄の使用回数, 移動回数, 所要時間を評価する。本研究の目的は, VR 検査が脳損傷者に適用可能かを調べ, 本検査と既存の神経心理学的検査との関連を検討することである。対象は脳損傷者 10 名, 健常者 10 名であり, 脳損傷者には VR 検査, MMSE, 星印抹消・文字抹消試験, SDMT, CPT の反応時間課題, RBMT, BADS の動物園地図検査, 質問紙を実施し, 健常者にはVR 検査と MMSE を行った。その結果, 脳損傷者は健常者より VR 検査成績が有意に悪く, 本検査は MMSE, SDMT, 反応時間課題, RBMT, 日常生活健忘チェックリストとの間に有意な相関を認めた。以上より, VR 検査は脳損傷者の高次脳機能評価に適用でき, その所見は展望記憶や全般性注意と関連があることが示唆された。
  • 矢野 啓明, 高橋 伸佳, 斯波 純子, 旭 俊臣
    2012 年 32 巻 2 号 p. 312-319
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2013/07/01
    ジャーナル フリー
    FAST (Functional Assessment Staging) 6 および 7 に相当する重度認知症患者を対象とした, 新たな簡易心理評価スケール (Psychological Assessment Scale by Facial Expression for DementedPeople-Interview version : PAFED-I) を作成し, その信頼性と妥当性について検討した。PAFED─I は, 視線の変化に関する 18 項目 (視線得点) と表情の変化に関する 12 項目 (表情得点) から成り, 検者が個別に面接を行い, 各項目を評価した。FAST 6 の患者群では, 視線得点, 表情得点ともに高い内的整合性と評定者間一致率を示し, 信頼性は十分と考えられた。また, 標準意欲評価法 (CAS) との有意な相関がみられた。FAST 7 の患者群では, 視線得点で十分な信頼性と CAS との有意な相関がみられた。PAFED-I は, 重度認知症患者の意欲・自発性を評価する簡易スケールとして有用と考えられた。
  • 吉村 政樹, 内山 良則, 岩井 謙育
    2012 年 32 巻 2 号 p. 320-327
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2013/07/01
    ジャーナル フリー
       脳器質性病変によって生じた盲視野内幻視症例は, 開眼時に幻視を見ることが多い。われわれは髄膜腫術後に閉眼時にのみ幻視を見た 2 例を経験したので報告する。
       症例 1 : 64 歳女性, 5 年前から特定の頭位によって生じる複視を自覚していた。左側頭頭頂部円蓋部髄膜腫を摘出してから, さまざまな有形性幻視が閉眼時にのみ見えるようになった。症状は術後 3 日間のみで消失した。複視は術後消失した。術後 MRI で脳損傷を認めず, 術 1 ヵ月後の 99mTc-ECD SPECT では腫瘍摘出部に血流低下のみ認めた。症例 2 : 66 歳女性, 無症候性の右頭頂部傍矢状洞部髄膜腫に対する摘出術が行われ, 術後から辺縁部分が点滅し内部が緑色のL 字のような形状の物体が閉眼時に無数に見えるようになり, 徐々に黒く, 丸くなって術 4 日目に消失した。術後 MRI で脳損傷なく, 術後 9 日目の 123I-IMP SPECT では両側楔部に血流増加を認めた。2 症例ともに意識清明で視野欠損はなく, せん妄や痙攣発作も認めず, 神経心理学的所見に異常を認めなかった。
       幻視の発生機序に関して, 文献上脳血流変化が関与していることが示唆されている。腫瘍摘出後には時にぜいたく灌流が生じるため, これがいずれかの視覚関連領域に生じた場合に幻視が出現する可能性がある。盲視野内幻視と異なり, 閉眼時に幻視として現れる機序としては, 閉眼による外的刺激入力の遮断が関与している可能性がある。
  • 森岡 悦子, 金井 孝典, 山田 真梨絵
    2012 年 32 巻 2 号 p. 328-336
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2013/07/01
    ジャーナル フリー
    左一側性病変により連合型視覚失認を生じ, 経過中に視覚失語に移行した例について検討した。症例は, 65 歳の右利き男性で, 頭部 MRI で, 脳梁膨大部を含む左後頭側頭葉内側部に病変を認めた。初回評価時, 触覚性呼称, 聴覚性呼称, 言語性定義による呼称は良好であったが, 視覚性呼称は不良であった。また, 形態知覚は保たれていたが意味に関する課題は不良であったことから, 連合型視覚失認と考えられた。初回評価 2 ヵ月後, 視覚性呼称は不良であったが, 意味に関連する課題は改善し, 視覚失語に移行したと判断した。視覚失語への移行は, 右半球の意味記憶の機能の活性によると考えられたが, 右半球処理による視覚性認知は, 左半球で処理される言語性認知ほど詳細ではなく単純である可能性が示唆された。視覚失語において, 視覚性呈示により物品の概念が想起されても視覚性呼称に至らないのは, 右半球処理によって想起される概念が浅く脆弱なためではないかと考えられた。
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