高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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34 巻, 3 号
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教育講演
  • 石合 純夫
    2014 年 34 巻 3 号 p. 273-280
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2015/10/01
    ジャーナル フリー
      半側空間無視の発現メカニズムの基本は, 空間性注意が身体から見て右に偏倚していることである。 注意が向かないとどうなるか?―注意が向けられなかった対象物やその部分は意識に上らない。花の絵は右側から半分描いておしまい。水平な線分は右寄りに印をつけて真ん中と判断する。すなわち, 注意が向いた中心から右側の情報で全体の判断が成立し, 花の絵では左の花びらがなく, 線分では左に長く伸びていても, それらは意識に上らず, あってもなくても関係ないのである。無視される左側の空間/対象の左側部分は, 意識から「失われた」空間/部分であり喪失感は生じない。本人にとっては「普通に」見えている, あるいは, 見ているつもりなのであろう。ただし, 言語性の処理が有意な左半球が健在なため, ヒトにおける半側空間無視の発現は結構複雑な様相を呈する。
  • 西条 寿夫, 小野 武年
    2014 年 34 巻 3 号 p. 281-288
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2015/10/01
    ジャーナル フリー
      霊長類を含めて脊椎動物は, 特定の視覚性物体 (天敵, 被捕食動物, 食物), 音 (鳴声), フェロモンなど, 生存に重要な特定刺激を, これまで一回も経験したことが無くても, 生後直後から学習無しに認知できる。これは, これら刺激の認知に関与する神経系が, 本能的認知機構として遺伝的に符号化されているからである。霊長類では, 網膜→上丘→視床枕→扁桃体 (あるいは連合野等) からなる膝状体外視覚系 (皮質下経路) が, 物体の本能的認知に関与し, サル視床枕や上丘には, 顔様パターンや霊長類の天敵であるヘビに応答するニューロンが存在する。これらニューロンの応答特性から, 膝状体外視覚系は顔や天敵の視覚情報を低解像度で処理して素早く検出することに関与していることが示唆された。以上から, 膝状体外視覚系が, 霊長類の脳の進化や乳児における脳発達に関与している可能性について述べる。
ワークショップ I : 失語症の回復メカニズム
  • 種村 純, 松田 実
    2014 年 34 巻 3 号 p. 289-290
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2015/10/01
    ジャーナル フリー
  • 東川 麻里, 波多野 和夫
    2014 年 34 巻 3 号 p. 291-297
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2015/10/01
    ジャーナル フリー
      「失語症の回復メカニズム」を追求する 1 つの方法として, 失語症の言語治療効果に関する因子分析研究を提示した。かつてわれわれは, 267 名の失語症患者の治療後と治療開始時の標準失語症検査得点の差を改善値と定義して因子分析を行った。結果, 一般因子は抽出されず, 固有値 1 以上の因子 6 個が抽出された。第 1 改善因子は, 「非変換的な言語産生と複雑な情報処理の因子」であり, 「失語症の中核的改善因子」と解釈された。第 2 以下の改善因子はそれとは対照的に, 言語様態に則して分化し, 言語様態変換の因子もしくは比較的単純な情報処理の因子であった。失語症の本質的改善には, 第 1 改善因子の改善が重要であり, ロゴジェンモデル上で考えるならば, 認知システムを中核とした人の言語機能において, 言語様態の入出力変換の機能改善にとどまらず, 認知システムからの自発的出力の改善と, 複雑な情報処理の入力に対応できる能力の改善が重要である, という理解が可能であった。
  • 前島 伸一郎, 岡本 さやか, 園田 茂, 大沢 愛子
    2014 年 34 巻 3 号 p. 298-304
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2015/10/01
    ジャーナル フリー
      言語聴覚療法の黎明期を振り返るとともに, 諸外国における失語症非訓練例の自然回復経過や, 我が国における非訓練例すなわち言語聴覚士不在などのために, 十分に言語聴覚療法を受けることができなかった失語症の経過について再検討を行った。失語症の回復には, 発症時の年齢や重症度, 性別, 病態, 脳卒中の既往, 失語症タイプ, 病変の大きさや局在などが関与するが, これらはあくまで訓練例での検討であり, 非訓練例での検討では我が国および諸外国の先行研究からも明確ではない。すなわち, 失語症の自然回復は個人差が大きく, 統一された傾向がない。失語症に対する言語治療のエビデンスを示すことは困難かもしれないが, その効能は言語に対するものだけでなく, コミュニケーション能力向上としての役割が大きいと考える。
  • 中川 良尚
    2014 年 34 巻 3 号 p. 305-314
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2015/10/01
    ジャーナル フリー
      失語症状の長期経過を明らかにする研究の一環として, 右手利き左大脳半球一側損傷後に失語症を呈した 270 例の病巣別回復経過と, その中で言語機能に低下を示した 37 例 (機能低下群) の SLTA 総合評価法得点各因子の機能変遷の既報告を俯瞰した。次に機能低下群と長期経過上言語機能に低下を示していない 36 例 (機能維持群) における, SLTA 総合評価法得点に反映されない下位項目の経過について検討した。さらに失語症 248 例について, 機能回復の指標である SLTA 総合評価法得点に影響を及ぼす要因を調査した。その結果, 1) 失語症状の回復は損傷部位や発症年齢によって経過は大きく異なるが, 少なくとも 6 ヵ月以上の長期にわたって回復を認める症例が多いこと, 2) 言語治療後に回復を示した機能は脆弱である可能性が高いこと, 3) SLTA 総合評価法得点に反映されていない SLTA 下位項目「口頭命令に従う」, 「文の復唱」, 「語の列挙」, 「漢字単語の書字」は, SLTA 総合評価法得点を補足する形で失語症状の変遷を鋭敏にとらえる指標と考えられること, 4) 病巣においては, いわゆる言語野と呼ばれる領域以外に, 島, 中心後回, 中側頭回, 下側頭回の損傷の存在や, 皮質萎縮, ラクナ梗塞などのびまん性病変の有無が予後に影響が大きいこと, が示唆された。
  • 飯干 紀代子
    2014 年 34 巻 3 号 p. 315-323
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2015/10/01
    ジャーナル フリー
      失語症の回復と知的機能の関係について, 平均効果サイズ (以下, d ) を用いた基礎資料の提供を試みた。発症後 3 ヵ月以内に失語症訓練を開始し, 4~6 ヵ月間経過した 196 例について, Ravenʼs Colored Picture Matrices (以下, RCPM) と失語指数との関係を検討した。RCPM 得点別d は 0.3 以上であり, 知的機能低下があっても訓練効果ありという見解を支持した一方で, RCPM 得点が低くなるにつれ到達度に限界のあることも示された。次に, 知的機能低下のある失語症患者 4 例に対する PACE, 認知症のある失語症患者 18 例に対するグループ訓練により, 軽度認知症例は d = 0.5 の改善を認めたが, 中・重度認知症例には認めなかった。ただしコミュニケーションの基盤となる側面に全群とも改善を認めた。 これらはエビデンスとしては脆弱であるが, 我々言語聴覚士が知的機能低下のある失語症患者に行っている, 低めの目標設定, 感情への働きかけといった臨床上の工夫の意義と有効性を間接的に支持すると思われた。
ワークショップ II : 神経心理学における IT 活用
  • 福井 俊哉, 藤井 俊勝
    2014 年 34 巻 3 号 p. 324-325
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2015/10/01
    ジャーナル フリー
  • 畑中 洋亮
    2014 年 34 巻 3 号 p. 326-330
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2015/10/01
    ジャーナル フリー
      2000 年以降, iPhone や iPad などのモバイルと, 膨大なコンピューティングパワーが電力のように汎用的に利用できるようになり, ウェラブルやセンサーなどのハードウェアも平行して進化を遂げ, 我々人類は情報との付き合い方を大きく変えつつある。それら新しいテクノロジーが, どこからなぜ来て, 我々人間の認知に対してどのような影響を与え始めているのか, その文脈を明らかにしてみたい。
  • 小野田 慶一, 山口 修平
    2014 年 34 巻 3 号 p. 331-334
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2015/10/01
    ジャーナル フリー
      本論文では, 我々が開発した認知症マススクリーニング検査アプリケーション Cognitive Assessment for Dementia, iPad version (CADi) の集団健診での運用結果に関して報告する。我々は島根県内の 4 市町 10 地区の健診においてCADi を運用し, 2437 名に対して認知症スクリーニングを行った。iPad の並列運用により一日平均で 74 名, 最大 104 名のスクリーニング検査を行うことができた。CADi 10 点満点中 5 点以下, もしくは総反応時間 300 秒以上を基準として二次検査 (n = 91) を行ったところ, そのうち20 名 (22%) が加療の必要ありと判定され, 軽度の認知機能低下あるいは認知症高リスクのため 38 名 (42%) が経過観察とされた。これらの結果は, CADi が集団健診における全数検査も可能であり, マススクリーニングに有用であることを示唆している。一方, 検出精度的の向上を図る必要があることも示された。
  • 野内 類, 川島 隆太
    2014 年 34 巻 3 号 p. 335-341
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2015/10/01
    ジャーナル フリー
      認知機能は, 私たちの日常生活や社会的な活動に重要な役割を担っている。しかしながら, 多くの認知機能は加齢とともに低下する。認知機能の低下は, 高齢者の様々な活動を困難にする原因となっている。そのため, 高齢者の認知機能を向上させる方法の一つである認知トレーニング研究に多くの注目が集まっている。本論文では, 認知トレーニングの中でも簡便に実施することのできる音読・計算トレーニングと脳トレゲームを用いた研究の成果を紹介した。脳トレゲームを用いた認知トレーニングは, 短期間で高齢者の実行機能と処理速度を向上させることが報告されている。そのため, 脳トレゲームは, 高齢者の認知機能の維持・向上に効果的なツールの一つであることを指摘した。最後に, 脳トレゲームを用いた認知トレーニングの今後の課題について検討した。
  • ―言語聴覚分野での検討―
    七條 文雄
    2014 年 34 巻 3 号 p. 342-349
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2015/10/01
    ジャーナル フリー
      2010 年の iPad の登場以来, たくさんの App が開発されている。著者は, iPad を利用して, 高次脳機能障害の分野への様々な臨床応用を試みてきた。この論文では, 著者の経験から様々な iPad の活用法を紹介した。
      1. 病状説明にiPad を利用すると, 互いの顔を見ながらの会話が可能となる。
      2. 様々な動画の保存媒体として iPad を利用すると, モバイル型のビデオモニターとして, ベッドサイドで動画をみることが可能となる。
      3. データベース App として, FileMaker Go 13 を利用すると iPad でデータベースの操作が可能となる。
      4. その他の活用法の紹介。iPad は, Talking Aid, 失語症のスクリーニング器具, 失語症の訓練器具, 嚥下障害の説明器具, 角度測定器具, 半側空間無視のチェック器具などにも利用可能である。
      5. iTunes Store や Yahoo! JAPAN を利用した App の探索方法を紹介した。
原著
  • ―SLTA「口頭命令に従う」の分析を通して―
    山﨑 勝也, 関野 とも子, 古木 忍
    2014 年 34 巻 3 号 p. 350-362
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2015/10/01
    ジャーナル フリー
      失語症者の聴覚的文理解に影響を及ぼす因子を明らかにするため, 聴覚的文理解検査である標準失語症検査の「口頭命令に従う (以下, 口頭命令検査) 」を例に取り, この検査を遂行する上で必要となる能力の検討を行った。実験的検査を 4 種設定し, 口頭命令検査文に含まれる内容語の理解がすべて可能である失語症者と健常者, 各々10 名を対象として実施した。その結果, 1. 従来より重要視されている auditory pointing span は口頭命令検査成績と相関しないこと, 2.単語を一定以上の速度で連続して正しく処理する能力 (「聴覚性連続的単語処理能」と呼ぶ) が口頭命令検査成績と高い相関を認めること, 3. 口頭命令検査では, 「で」を除き, 助詞解読能力はほぼ必要としないことが明らかとなった。以上より聴覚的文理解障害への訓練として, 聴覚性連続的単語処理能の改善という観点からの働きかけが重要である可能性が示唆された。
  • ―左右両半球のWorking Memory サブシステムの関与から―
    山下 円香, 田原 旭, 武内 康浩, 片倉 律子, 種村 留美
    2014 年 34 巻 3 号 p. 363-371
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2015/10/01
    ジャーナル フリー
      左角回の陳旧性梗塞に加え新たに生じた右中心後回から上頭頂小葉の一部に及ぶ梗塞により失計算を呈した 1 症例を報告した。患者は当初 Gerstmann 症候群を呈したが, 構成失書と失計算以外の症状は早期に消褪した。Calculation process は発症後1 ヵ月, arithmetical fact の再生は 4 ヵ月までに回復したが, transcoding の障害のうちsyntactic error としての「0」の位どりの障害は 22 ヵ月後も残存した。構成失書は発症後 4 ヵ月までに大幅に回復した。本例の失計算の病態とその回復過程を working memory のサブシステムの観点から検討し, 右中心後回の損傷に関連したvisuo-spatial sketch pad の機能低下による心内表象の形成・操作障害, および, 同損傷による対側の機能解離 (diaschisis) と陳旧性の左角回損傷に関連した一過性の phonological loop の機能低下による音韻処理障害や言語性短期記憶障害が失計算をもたらしたものと考察した。
  • 森 志乃, 大沢 愛子, 前島 伸一郎, 尾崎 健一, 近藤 和泉, 才藤 栄一
    2014 年 34 巻 3 号 p. 372-380
    発行日: 2014/09/30
    公開日: 2015/10/01
    ジャーナル フリー
      矯正歴のある両手利きの左視床出血患者において, 身体パラフレニアや病態失認を含む, 多彩な劣位半球症状を認め, かつ脳卒中後では極めて報告の少ない余剰幻肢も合併した症例を経験した。患者は 83 歳女性で, 左視床出血後に, 重度の右片麻痺と感覚の脱失を認めた。覚醒は良好で全般的認知機能の低下はほとんどなく, 失語はごく軽度であった。一方, 右半側空間無視や病態失認などの劣位半球症状に加え, 身体パラフレニアと余剰幻肢を認めた。身体パラフレニアと余剰幻肢は発症後約 2 ヵ月で消失したが, 病態失認は残存した。このような症状が認められた機序として, 両手利きという背景から推測される, 右半球機能の大半と書字を中心とした言語野の一部が左半球に偏在するという脳機能側性化の変化が示唆された。また, 病巣は, 視床~内包後脚に限局していたにもかかわらず, SPECT にて広範な左大脳半球の血流低下を認めたことから, 視床から側頭葉・頭頂葉などに投射する線維を介した diaschisis が症状発現に寄与している可能性も考えられた。
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