高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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39 巻, 4 号
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原著
  • 阪下 英代, 近藤 正樹, 松井 善也, 水野 敏樹, 三上 靖夫
    2019 年 39 巻 4 号 p. 394-403
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2021/01/04
    ジャーナル フリー

      大脳白質の多発性梗塞後に自発話が停滞した失語症例を報告した。症例は 69 歳, 右利き女性であった。言い直しや語の繰り返し, 間投詞が多く自発話が停滞した。MRI では, 左中大脳動脈 (MCA) 起始部の狭窄と大脳白質の多発性梗塞を認めた。発話障害の機序を調べるため, 喚語能力と文構成能力, 発話に影響し得る前頭葉症状や注意機能, 思考過程の障害を評価した。視覚性・聴覚性呼称, 語想起の障害は軽度であった。一方で「自発話における」喚語困難を認めた。文の産生能力は, 表出性失文法の障害は明らかではなかったが, 文の構成能力の低下があり, 自発話の停滞に関与した可能性が考えられた。ほかに, 本例の思考の固着性や柔軟性の乏しさといった前頭葉症状の関与が示唆された。本例の梗塞巣は白質に限局していたが, 血流低下域は左前頭葉から頭頂葉, 側頭葉の広範に及んでおり, 左 MCA 領域広範な虚血による機能障害, あるいは白質梗塞による皮質間線維連絡障害の関与が考えられた。

  • 吉田 朋会, 阿部 晶子, 橋本 律夫, 川田 竜也, 上地 桃子
    2019 年 39 巻 4 号 p. 404-411
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2021/01/04
    ジャーナル フリー

      左半側空間無視患者を対象に, 日本語の横書き文章を用いて, 行頭を読み落とすと文が意味的・文法的に損なわれる文と損なわれない文では, 無視性失読の出現しやすさが異なるかを検討した。対象は左半側空間無視患者 10 例と対照群の健常成人 10 名であった。方法は, 2 種類の横書き文章の音読課題 (語中課題 : 語中で改行, 語末課題: 語末で改行) を実施した。2 種類のうち, 語中課題が行頭の文字を読み落とすと文中の語が成立しなくなる課題である。結果は, 左半側空間無視患者 10 例中 7 例に行頭の読み落とし (左無視性失読) が認められた。7 例中 3 例において, 語中課題において行頭を読み落とした行の割合が, 語末課題におけるそれよりも有意に低かった。これらの例は, 改行時に語を認識できるところまで左方を探索していた可能性がある。本研究により, 左無視性失読の症例の一部で, 語彙 / 非語彙の知識が無視性失読の現れ方に影響を及ぼす可能性が示唆された。

  • 上地 桃子, 阿部 晶子
    2019 年 39 巻 4 号 p. 412-420
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2021/01/04
    ジャーナル フリー

      左半側空間無視患者は, alertness を含む空間的方向性を持たない注意機能の障害も合併していることが多い。聴覚刺激は, 空間性注意以外の認知的側面に働きかけ, 課題成績を向上させる可能性がある。 本研究の目的は, 音声刺激の内容による抹消課題の成績の差を検討することである。対象は右半球の脳血管障害による左半側空間無視患者 7 例である。赤丸抹消課題を (1) 音なし条件, (2) 無関連語条件, (3) 標的語条件, (4) 方向語条件の 4 条件で行った。その結果, 方向語条件と標的語条件の抹消率が, 音なし条件のそれよりも有意に高かった。すなわち, 課題に関係する有意味な音声が成績の向上をもたらした。また, 音声刺激を提示した条件 (方向語条件, 標的語条件, 無関連語条件) の抹消率と改訂長谷川式簡易知能評価スケール (HDS-R) 得点の相関が, 音なし条件の抹消率と HDS-R 得点の相関に比べて高かった。

  • 唐澤 健太, 春原 則子
    2019 年 39 巻 4 号 p. 421-428
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2021/01/04
    ジャーナル フリー

       視床出血後にタイピング困難を主訴とした 1 例を経験した。失語, 失行, 失認は認めなかった。知的機能は良好だが, 処理速度に低下があると考えられた。発症 2 ヵ月後に, 音韻操作, 書字, タイピング能力の評価を実施した。結果, 音韻操作, 仮名書取, 仮名のローマ字への変換書字は良好だが, ローマ字書取で誤りを認めた。また, ローマ字音読においても誤りが認められた。本例は音韻表象とローマ字表象の双方向の情報処理過程が障害され, この影響により本例が訴えていたタイピングの困難さに繋がっていたのではないかと考える。また, 書字に比しタイピングが有意に保たれていた点は, 障害された音韻表象から文字表象への変換過程を, 音韻表象から直接運動エングラムへ変換する, いわゆる手続き記憶による処理過程が補うことでキー操作が行われていたためではないかと考える。

  • 江尻 知穂, 俵 あゆみ, 塚越 千尋, 蜂谷 敦子, 納谷 敦夫
    2019 年 39 巻 4 号 p. 429-435
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2021/01/04
    ジャーナル フリー

      脳損傷者が自己の脳損傷について理解することは, アウェアネスや自尊心の向上につながるとされる。少人数の学習グループである脳損傷理解 ( understanding brain injury : UBI ) に参加した頭部外傷による高次脳機能障害の一症例の経過より, UBI を経験したことで意識や行動がどのように変化したかを検討した。結果, 症例の脳損傷に対する理解が進み, 認知障害に対する不安や孤立感が減少した。また, UBI がきっかけとなり, 易怒性を理解し, 場の雰囲気に配慮する言動が増えた。UBI の中で自己の障害を他者に開示し, 他者と共有し肯定される機会を持ったことで, 障害認識が向上し, リハビリテーションに対する動機付けを得られ, またグループへの帰属感が高まったと推察された。UBI は安心できる環境を保障し, 障害認識を高め, 社会復帰に向けた効果的なリハビリテーションを進める上で有用であると考えられた。

  • 板口 典弘, 森 真由子, 内山 由美子, 吉澤 浩志, 小池 康晴, 福澤 一吉
    2019 年 39 巻 4 号 p. 436-443
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2021/01/04
    ジャーナル フリー

      本研究は, 日常的に利用できるタブレットから取得できる情報を用いて, 書字運動および書字障害を定量的に評価する手法を提案することを目的とした。頭頂葉を含む病変を有する症例 5 名 (以下, 患者群) と高齢健常者 5 名 (以下, 統制群) が参加した。提案手法によって, (1) 書字障害を呈する症例のみにおいて, 字画間にかかる時間が長かったこと, (2) 症状にかかわらず, 患者群の速度極小点の数が統制群の範囲を越えて大きかったこと, (3) 複数症例で, 字画間の時間と距離の関係が統制群と異なっていたこと, (4) 統制群の字画間の時間と距離の相関係数は, 比較的安定であったことが明らかとなった。この知見に基づき, タブレットによる書字運動評価の有用性について議論した。

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