40 歳代, 左利き男性。先天性聴覚障害のため聾学校で 12 年間の口話教育を受けた。今回, もやもや病による右被殻から前頭頭頂葉白質に及ぶ脳出血と右側頭葉の虚血性病変を発症した。入棟時, 中等度の左片麻痺, 左半側空間無視, 注意障害を認めたが, 手指肢位模倣は良好だった。言語機能を標準失語症検査に準じて評価したところ, 手話, 口話, 書字いずれも障害を認めた。手話表出での手の形や構動の誤り, 指文字表出や模倣での音韻性錯語が認められた。構成失書を認めたが, 図形や数字, 氏名の書字は可能であった。手話通訳士の資格を有する言語聴覚士が担当し, 手話や文字と絵カードのマッチング課題, 手話や文字を用いた会話訓練等を行った。その結果, 単語の呼称は指文字, 音声言語ともに改善し, 携帯電話でメールによる意思疎通も可能となった。もやもや病による左利き右脳損傷者の希有な治療経過を報告し, 手話失語症例への対応における現状と問題点を考察する。
抄録全体を表示