高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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40 巻, 3 号
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会長講演 2
  • 松田 実
    2020 年 40 巻 3 号 p. 239-249
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

      本報告で検討対象とする認知症の人物誤認症状は, 全般性の認知障害は強くはない段階で, 「当然分かるはず」である特定の人物を妄想的に誤認する症状である。自験症例の言動や「語り」から見えてくる患者の体験を推測し, 人物誤認の成立機序について, 以下のような推論を行った。人物誤認の起こる頻度はアルツハイマー型認知症 (AD) よりもレビー小体型認知症 (DLB) に高く, そこには生物学的機序が働いている。DLB の人物誤認では重複現象を伴っていることが特徴的であり, その要因として空想と現実の区別がつきにくくなるような注意覚醒レベルの変動が関与していると考えられる。AD における人物誤認の成立には生物学的機序よりも心理的機転の方が重要であり, 患者にとって辛く耐え難い現実を否定したいという潜在的欲求が働いている場合が多い。ADでも DLB の場合と同様の生物学的機序が, 逆に DLB でも AD の場合のような心理的要因が重なっていることが推測される。

教育講演
  • 松本 理器, 下竹 昭寛, 山尾 幸広, 菊池 隆幸, 國枝 武治, 池田 昭夫
    2020 年 40 巻 3 号 p. 250-260
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

      てんかん患者の約 3 割は薬剤に抵抗性であり, 治療の選択枝としててんかん焦点の切除術が根治療法として知られている。てんかんの焦点と焦点周囲の機能野の同定を行ったうえで, 言語機能など重要な脳機能野の温存を図りつつ, 焦点を症例ごとにテーラーメードに切除する。従来から電気生理学を中心とした神経生理学的手法で術前脳機能マッピングが行われてきたが, 高次脳機能の探索には認知神経科学と神経生理学の融合 (Cognitive Neurophysiology) がかかせない。本稿では言語機能の中で特に意味記憶に焦点をあてて, 低侵襲の高頻度皮質電気刺激変法, 皮質脳波信号解析・デコーディング, 電気的線維追跡法 (皮質・皮質間誘発電位計測) といった新たなシステム神経科学的手法を複合的に用いた言語二重経路の同定と温存の試みについて紹介する。意味記憶関連領域の切除では術後回復する症例が経験され, 学際的な縦断研究から術後の代償機転の解明が望まれる。

特別企画 2 : とっておきの蔵出し症例
  • 福武 敏夫, 船山 道隆
    2020 年 40 巻 3 号 p. 261-263
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー
  • 藤田 邦子, 柴田 千穂
    2020 年 40 巻 3 号 p. 264-271
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

      左半球損傷に伴う身体パラフレニアの 1 例を報告した。患者は60 代の右利き男性で, 左基底核, 視床, 島, 前頭葉, 頭頂葉前部の出血後に重度右片麻痺および感覚障害, 中等度失語症を伴ったが, 明らかな病態失認, 半側空間無視, 身体無視は認められなかった。本例の身体パラフレニアの症状は, 右上肢から右半身へと変化している点, 症状が長期持続している点が特徴的であった。また本例は, 自画像描画課題において半身を描かなかった。その他の人物画や静物画でも半側しか描かないことがあった。自身の持つ身体イメージを他者や物にも投影したためと考えられた。本例の身体パラフレニアの発生機序として, 麻痺や障害を否定する一種の抑圧反応である可能性が考えられた。本例は, 発話能力の低下のために身体パラフレニアが露見されにくく, またその後の訂正や批判を受けにくいため, 妄想的解釈がより長期に, 深く定着した可能性が考えられた。

  • 小森 憲治郎, 武田 直也, 森 崇明, 吉田 卓, 豊田 泰孝, 谷向 知
    2020 年 40 巻 3 号 p. 272-279
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

      変性疾患以外の語義失語症例 3 例について, 語義失語の典型例である意味性認知症 (SD) の言語症状と比較した。3 症例はそれぞれ, 病因も損傷部位も異なった。脳外傷により, 左側頭葉前方部を著しく損傷した 1 例では, 複合語や慣用句を字義通りに解した。ヘルペス脳炎後遺症による両側海馬と左優位の側頭葉前方部損傷の 1 例では, 軽度の語想起障害と漢字の読み書き障害が現れた。また左側頭葉内側部から後頭葉に及ぶ脳梗塞が生じた 1 例では, 喚語できない語を聞いて違和感を感じ, また漢字の著しい読み書き障害が生じた。言語症状のプロフィール上は, SD に比べいずれの症例も障害は軽度で, 語義失語の部分的症状にとどまった。しかし, 合併する他の症状と併せて, 意味記憶障害による日常生活への影響は大きかった。

  • 田村 至, 濱田 晋輔, 相馬 広之, 武井 麻子, 森若 文雄
    2020 年 40 巻 3 号 p. 280-287
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

      身体部位の呼称および他者身体部位の定位は良好だが, 自己身体部位の定位に障害がみられる自己身体部位失認および着衣障害を呈した症例 N.A. を報告した。身体部位失認は, 出現率が低く, その検査法も様々である。本論は, 自己および他者身体部位の定位にかかわる検査法について報告例と自験例を比較検討し, 身体部位失認のメカニズムを明らかにするための有効な検査法について検討した。さらに N.A. における着衣障害と自己身体部位失認を呈することなく着衣障害がみられた対照症例 Y.O. を比較した結果, メンタルローテーションの障害に起因する Y.O. の着衣障害と異なり, N.A. の特異的着衣障害として, 自己身体の形態認知障害に起因する上着の形態認知障害の可能性が考えられた。N.A. の自己身体部位失認と着衣障害の主な原因は, 自己身体の形態やサイズにかかわる身体表象の障害と推測され, 障害の核心を評価できる新しい検査法の必要性が考えられた。

シンポジウム 1 : 高次脳機能障害者・認知症者の自動車運転を考える
  • 蜂須賀 研二, 三村 將
    2020 年 40 巻 3 号 p. 288-290
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー
  • 2020 年 6 月 1 日版
    日本高次脳機能障害学会 Brain Function Test 委員会 , 運転に関する神経心理学的評価法検討小委員会
    2020 年 40 巻 3 号 p. 291-296
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー
  • 加藤 徳明
    2020 年 40 巻 3 号 p. 297-303
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

      脳疾患・脳外傷者の自動車運転再開・中止の判断には, 神経心理学的検査等の院内検査だけでなく, 運転シミュレーター, 実車教習を含めた包括的運転評価が勧められる。運転免許適性検査基準を満たしていることは大前提だが, 基準を満たしても同名半盲や半側空間無視, 重度の感覚障害の場合は個別の医学的判断が必要である。免許取り消し又は停止となる病気・病態の確認も重要であり, 認知症は免許取り消しになる。症候性てんかん, 低血糖症, 抑うつ状態, 睡眠時無呼吸症候群は症状の確認が必要である。失語症者は机上検査の解釈が難しく, Trail Making Test-A, Rey-Osterrieth の複雑図形, Tapping span, Vi sual Cancellation 図形「A」・「B」, Continuous Performance Test 等の利用が有効な可能性がある。包括的な評価で「運転適性あり」と判定すれば, 警察の安全運転相談 (全国統一相談ダイヤル : #8080) に連絡するように指導する。不安要素がある場合は「運転再開保留」とし, 3~6 ヵ月程度期間をあけて, 回復を待って再評価を実施する。

  • 佐藤 卓也
    2020 年 40 巻 3 号 p. 304-309
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

      失語症者の疫学的検討は, 筆者の概算では脳血管疾患に限ったうえで 25 万 4,220 人ほどとなる。 筆者が行った検討 (佐藤 2018) では, 非失語群に比して失語群では MMSE, WAIS-III の記号探し, 数唱, 語音整列で有意に低い成績が認められた。失語群は仮名や漢字などの文字そのものではないが記号といったシンボルを短時間に処理していく作業や, 数字や言語音の音韻表象の操作や処理には不利になる可能性が示唆された。これらの失語群の不得手となる文字・音韻の操作処理といった側面は, 運転場面にもその影響があると思われる。言語は運転過程のあらゆるところにかかわってくるものであり, 運転中まさに刻々と変わる運転状況に応じて道路標識, 目的地の目印などを理解し, 時には音声の指示なども利用し判断・操作を短時間の中で連続的に行っていくという, 高度なレベルで要求される認知処理は失語症者にとって大きな負荷となっている可能性が示唆される。また, 他の高次脳機能障害を合併することもありそれに対しても精査が必要である。失語症者はしばしば麻痺を伴うが, 対応した補助装置を装備した車を運転することは慣れるまでに時間を要する。習熟するまでは認知的負荷量も高いことが推測され, 注意が必要である。

  • 上村 直人, 藤戸 良子, 樫林 哲雄
    2020 年 40 巻 3 号 p. 310-316
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

      近年, 高齢者と自動車運転の問題, 特に認知症と自動車運転は社会的にも問題化し, 臨床現場でも様々な対応や試みが行われている。さらに 2017 年 3 月 12 日からは 75 歳以上の高齢ドライバーは 3 年ごとの免許更新時と基準行為と呼ばれる特定の交通違反を犯すと, 更新を待たずに認知機能検査を受検することが必要となった。その結果, 認知症が疑われる第一分類に判定されれば, 医師の診断を受けることが義務化された。現在, わが国では認知症と判定されれば, 現行法でも既に自動車運転が禁止されているが, どのような状態であれば運転を中断すべきか, という医学的基準や評価方法は確立されていない。認知症といっても軽度から重度まで, また認知症の原因疾患によっても事故の危険性には差異がある可能性があり, 今後さらなる医学的検討が必要である。そこで今回, 臨床現場における認知症と運転行動の関連性のほか, 現時点での課題について解説した。

ワークショップ : 若きセラピスト大いに語る
  • 小嶋 知幸, 椿原 彰夫
    2020 年 40 巻 3 号 p. 317-318
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー
  • 内山 良則, 水田 秀子, 松井 理直
    2020 年 40 巻 3 号 p. 319-327
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

      後方病変でForeign Accent Syndrome (FAS) を呈した 1 例を経験した。症例は 60 代の右利き女性で, 左上側頭回の皮質下出血を発症した。言語所見では, 流暢性失語に加えてピッチアクセントの異常, 音の伸長などのプロソディー障害を認め, 周囲に「英語なまりの日本語」と感じさせる発話であった。特徴的であった点は, アクセントの誤りがおおむね規則的で語末から 3 モーラ目にアクセント核を置いたこと, 語末モーラを伸長させて発音したことなどであった。これらのプロソディー障害について, 発現機序や FAS との関連性を言語学的, 神経心理学的観点から考察した。また FAS には, 左前頭葉病変で音声実現レベルの障害に由来するタイプのほかにも, 左側頭葉病変でアクセント型の想起障害に由来するタイプが存在する可能性について言及した。

  • 中島 明日佳, 船山 道隆, 中村 智之, 稲葉 貴恵
    2020 年 40 巻 3 号 p. 328-337
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

      過去における左視床損傷後の失語の症例報告では, 理解の障害は軽度で失構音はなく復唱は良好であるが, 発話では喚語困難や語性錯語を認める例が多く, なかでも無関連錯語の出現が特徴的であるとされている。しかし, 実際に無関連錯語の出現が多いか否かは明らかではなく, その出現機序も調べられていない。今回われわれは, 無関連錯語を手がかかりとして視床失語の背景に迫ることを試みた。その結果, 全誤答数に占める無関連錯語の割合および有関連錯語と無関連錯語との比は, 視床失語群が非視床失語群に比べていずれも高い結果となった。われわれが過去に報告した視床失語の 1 例からは, 無関連錯語と選択性注意機能の関連性が示唆された。
      過去に提唱された視床失語の機序も考慮すると, 左視床損傷によって目的の語と関連する意味野を活性化できず, 関連しない語彙を不活性化できないことで目的の語彙が選択できず, 視床失語に特徴的な発話に至る可能性が考えられた。

  • 花田 恵介
    2020 年 40 巻 3 号 p. 338-347
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

      頭頂弁蓋部を含む病巣に伴い体性感覚障害を呈した, 2 症例を報告した。2 例とも基本的体性感覚が重度に障害されていたが, 皮質性体性感覚のうち立体幾何図形, 手触り素材, 日用物品の同定についてチャンスレベル以上に正しく反応し, 体性感覚の階層的なモデルに合致しなかった。また, 日常生活で不便を感じないほどに巧緻動作が行え, 体性感覚障害が運動制御を障害するという考え方に反していた。うち 1 例では, 皮質性の体性感覚の実感が全くないのにもかかわらず, これらの課題に正しく反応していることがうかがわれた。これらの現象の機序を, 触覚情報処理の 2 つの流れや第二体性感覚皮質の機能に関する理論に基づいて考察した。

  • 木村 大輔
    2020 年 40 巻 3 号 p. 348-353
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

      本稿ではパーキンソン病 (PD) 患者のすくみ足に対する cue technique の適用について検討する。 運動には外部刺激をトリガーに運動を開始する外発性随意運動の系と自発的に運動を発動する内発性随意運動の系がある。それぞれの系に対し運動のきっかけを与える外的キューと内的キューという介入方法が存在する。聴覚などの外的キューを利用した介入にエビデンスがあることは広く知られている。しかし, 外的キューも有効である場合とそうでない場合がある。理由の一つとして遂行機能障害との関連が挙げられる。一方, 自発的に運動するタッピングのような, 内的リズム運動は PD 患者で成績が低下している。 内的リズム形成障害に対し, 近年では内的キューの有効性も報告されている。なぜこのような複雑な現象が起きるのか, PD 患者特有の脳のネットワークの代償に基づき考察する。さらに内的キューアプローチに関する我々の研究の一部を紹介する。

神経心理学入門 教育セミナー 4
認知症セミナー 1
原著
  • 田村 正樹, 白川 真, 羅 志偉, 種村 留美
    2020 年 40 巻 3 号 p. 369-376
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

      半側空間無視 (unilateral spatial neglect : USN) の評価では, 手の届く空間範囲内で出現する無視 (peripersonal neglect) に対して, BIT 行動性無視検査日本版 (Behavioural Inattention Test : BIT) を用いることが多い。しかしながら, 無視症状は机上検査と生活場面とで, その発現頻度に乖離が生じる場合があると報告されている (Azouvi ら 2003) 。その要因の一つとして, 身体からの距離または視角の違いが挙げられる。今回, 手の届く空間範囲外で出現する無視 (extrapersonal neglect) に対して, 筆者らは移動場面を模したバーチャルリアリティ (virtual reality : VR) 課題を開発した。VR 課題を用い, 70 歳代右利き女性で右視床出血後の USN 症例 1 名の無視症状について, 健常高齢者 11 名 (平均年齢 71.2 ± 4.0 歳, 男 3 名, 女性 8 名) と比較し, 検討した。USN 症例は BIT 通常検査と行動検査のそれぞれの合計得点が正常範囲内であったが, VR 課題では健常高齢群と比較し, 総得点の低下や見落とし数の増加, 頭頸部の平均回旋角度の右側偏倚等が認められた。

  • 水野 聡美, 前澤 聡
    2020 年 40 巻 3 号 p. 377-384
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

      20~70 歳代の健常者 120 名を対象に, 年齢と高次脳機能の関係を明らかにするため, voxelbased morphometry (VBM) を用いて検討した。高次脳機能評価として ACE-R を施行し下位項目得点を算出した。3T MRI で撮像した解剖画像を使用した。加齢に有意に相関する因子は, 脳形態では灰白質容積 (負相関) と髄液容積 (正相関) , 高次脳機能では遅延再生得点 (負相関) であった。加齢に対する近似直線/ 曲線では 20 歳以降から灰白質の減少がはじまる一方, 遅延再生は緩やかな低下を示した。VBM 解析では, 遅延再生は両側の前頭葉, 側頭葉, 島回, 海馬付近, 楔部など広い領域で灰白質の減少と相関したが, 年齢を共変量とした条件では有意な相関を示す領域はなかった。最も加齢の影響を受けるのは遅延再生であり, 緩やかに低下し, 脳の広範な領域が関与していたが, 年齢の影響を除いた特異領域は本研究では同定できなかった。

  • 佐野 剛雅, 金子 真人, 香月 靜, 立野 麻美, 官澤 紗, 宮城 伊吹, 髙橋 宣成
    2020 年 40 巻 3 号 p. 385-392
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

      小児の視知覚分析の評価には, 立方体透視図模写 (NCC) が使用されるが, 描画特徴を質的側面から検討した報告は少ない。本研究では読み書き習得度の低い児童を対象に NCC の定性的採点による学年到達度と, 最初に面を構成するか否かの描画過程が視知覚分析を測る指標になるのか検討した。学年到達度を基準とした「基準到達群」と「基準未到達群」, 面構成の有無を基準とした「面構成あり群」と「面構成なし群」で線画同定課題の成績を基準ごとに比較した。その結果, 基準到達群と基準未到達群の間で有意差を認めなかったが, 面構成なし群は面構成あり群に比べ初発反応時間が有意に長かった。線画同定課題は視知覚分析を測ると考えられるが, 面構成の有無により線画同定課題で相違を認めたことから, 面構成なし群は視知覚分析の脆弱性を示唆し, NCC は描画過程を考慮することで視知覚分析の指標になると考えられた。

短報
  • 本田 美和, 櫛橋 喜弘, 河野 寛一, 林田 雅子, 下堂薗 恵
    2020 年 40 巻 3 号 p. 393-398
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

      40 歳代, 左利き男性。先天性聴覚障害のため聾学校で 12 年間の口話教育を受けた。今回, もやもや病による右被殻から前頭頭頂葉白質に及ぶ脳出血と右側頭葉の虚血性病変を発症した。入棟時, 中等度の左片麻痺, 左半側空間無視, 注意障害を認めたが, 手指肢位模倣は良好だった。言語機能を標準失語症検査に準じて評価したところ, 手話, 口話, 書字いずれも障害を認めた。手話表出での手の形や構動の誤り, 指文字表出や模倣での音韻性錯語が認められた。構成失書を認めたが, 図形や数字, 氏名の書字は可能であった。手話通訳士の資格を有する言語聴覚士が担当し, 手話や文字と絵カードのマッチング課題, 手話や文字を用いた会話訓練等を行った。その結果, 単語の呼称は指文字, 音声言語ともに改善し, 携帯電話でメールによる意思疎通も可能となった。もやもや病による左利き右脳損傷者の希有な治療経過を報告し, 手話失語症例への対応における現状と問題点を考察する。

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