高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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41 巻, 3 号
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特別講演
  • 大槻 美佳
    2021 年 41 巻 3 号 p. 253-259
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー

      失語をみる視点は, 画像診断の発達, 認知神経心理学の発展, 脳血管障害の治療法の進歩, 患者の高齢化などにより, 古典的失語症候群の考え方から, 要素的言語症候の視点でみるように変化してきた。 そして, 進行性失語の概念がコンセンサスを得るようになり, 脳血管障害による失語症候群との相違も注目されるようになった。また, 「診断基準」が提起されたことにより, その妥当性の検証や適切な検査は何かという議論まで展開するようになった。今日, エラータイプで評価する, 新しい言語検査も考案されている。

教育講演
  • 宇野 彰, 猪俣 朋恵, 小出 芽以, 太田 静佳
    2021 年 41 巻 3 号 p. 260-264
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー

      本研究では, ひらがな音読に焦点を当て, ひらがな習得困難児の出現頻度, 年長児の習得度, 年長児への指導の効果, 年長時に習得が困難だった幼児の追跡調査結果を報告する。その結果, ひらがな音読困難な小学生児童は 0.2% ( ひらがな書字に関しては 1.4% ) であった。年長児では, 70% 以上の幼児が拗音以外の 71 文字のうち 1 文字読めないだけか, 全て読むことができた。年長児を対象に, ひらがな音読成績を従属変数とした重回帰分析の結果, 認知能力のみが有意な予測変数であり, 環境要因は有意な貢献を示さなかった。別な集団でも同様の結果であった。また, 介入研究として統制した指導をしても, 指導群と非指導群との成績間に有意な差が認められなかったことから, 年長児へのひらがな指導は効果的ではないと思われた。この結果も別の集団にて再現性が認められた。しかし, ひらがな習得度の低い年長児の 90% は小学1 年時の夏休み直後に追いついていたことから, ひらがな習得に関するレディネスはそのころに完成するのではないかと思われた。

  • 坂爪 一幸
    2021 年 41 巻 3 号 p. 265-272
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー

      前頭前野機能の中核は制御にあり, 高次に担うのが遂行機能になる。遂行機能はヒトが高い水準で環境に適応するために欠かせない。前頭前野は成熟が遅く, 遂行機能の発達は時間を要する。Tinkertoy Test で, 小児の遂行機能の年齢や性別の違い, 言語や視覚構成能力との関係, 神経発達要因との関連, 発達障害の影響と特徴を検討した。結果は, (1) 4 歳代から 6 歳代はほぼ同得点, (2) 男児で高得点, (3) 言語や視覚構成能力の得点とは低相関, (4) 低年齢・ID・左手利き・ASD・女児の各要因で得点低下, (5) 発達障害で誤りが多発。以上から, 小児の遂行機能は, (1) 4 歳以降の神経発達が必要, (2) 性差が存在, (3) 言語や視覚構成能力と独立して発達, (4) 神経発達上の問題で遅滞や偏向, (5) 発達障害では目標設定・複雑さの構築・自己修正・抑制の各困難さが特徴。対応には制御の意識化と客観化と賦活化が基本になる。

  • 福澤 一𠮷
    2021 年 41 巻 3 号 p. 273-279
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー

      人間の認知的バイアスは神経神学的症状である書字障害を捉える場合にも必ず伴うものである。本稿ではそのバイアスを計算論的神経科学においている。計算論的神経科学では事象理解にあたり不良設定問題を設定し, 脳がそれを解いていると仮定する。例えば, まず, 複雑な書字運動を単純な到達運動の組み合わせとして捉えてみる。到達運動の起点から終点までの軌道は無数に存在する。したがって, その無数の軌道から 1 つを選択するという不良設定問題を解かなくてはならない。つまり, 書字運動は到達運動における不良設定問題を解くことに置き換えられる。本稿ではその不良設定問題を解くためのモデルとしてトルク変化最小規範 (Uno ら 1989) に言及する。そして, 運動における経由点表現の障害を仮定して書字運動障害について考察する。

  • 品川 俊一郎
    2021 年 41 巻 3 号 p. 280-285
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー

      認知症患者に出現する食の問題は, 在宅介護に破綻をもたらし, 病院や施設におけるケアでも身体合併症の原因となる重要な問題である。食の問題には原因疾患や認知機能障害や身体機能, 介護環境, 社会文化的側面など多くの要素が関与する。食の問題の病態は多彩であるが, 筆者らの調査では因子分析によって「食べ過ぎ」「嚥下」「食欲低下」「こだわり」の 4 因子に類型化することが可能であった。原因疾患をみてもアルツハイマー病, 血管性認知症, 前頭側頭型認知症, レビー小体型認知症各々の食の問題は異なり, それによって当然ながら対応も異なる。原因疾患や病態を正確に評価し, それに沿ったマネージメントをする視点が求められる。

シンポジウム : 多様な臨床現場での社会的行動障害への支援
  • 村井 俊哉
    2021 年 41 巻 3 号 p. 286-287
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー
  • 上田 敬太
    2021 年 41 巻 3 号 p. 288-293
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー

      厚生労働省の定める「高次脳機能障害」の定義の中の「社会的行動障害」とは, 原因を問わず社会的場面で生じる行動の障害全般を指す雑多な概念である。社会的行動障害を生じる主な 3 つの原因として, (1) 社会的認知そのものの障害, (2) 他の認知機能障害, (3) 心理社会的因子が挙げられ, 原因が何かによって対策は異なる。本発表では, 臨床で困る場面が多い「怒り情動の表出」に話題を絞り, どのような理由で「怒り情動の表出」が行われるのかを解説し, その対処法についても, 薬剤による治療や, そもそも怒り情動を生じる場面をいかに少なくするか, という観点から解説を行った。基本的考えとしては, 脳損傷者の生活がうまくいくことが大切であり, それを支援するという視点での対処が重要であることを解説した。

  • 温井 めぐみ
    2021 年 41 巻 3 号 p. 294-300
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー

      小児脳腫瘍経験者は, 腫瘍自体, 放射線などの治療, 水頭症, 晩期合併症, 患者素因など様々な要因が重なり, 高次脳機能障害を発症するリスクが高くなる。また, 学習・就労・社会的自立などの面で不遇な社会的状況となる割合が高く, うつ症状を呈しやすい。
      治療の遠隔期に, 原病の再発・進行や二次がんが起こったり, 放射線治療による高次脳機能障害, てんかん・脳血管障害などの晩期合併症による高次脳機能障害が生じたりすることは, 他疾患との相違点である。治療直後に明らかな症状を認めない症例にも, 息の長い支援が求められる。
      小児脳腫瘍の生命予後の改善に伴い, 高次脳機能障害の予防に焦点を当てた治療法が検討されるようになってきた。すでに治療を受けた患者が QOL の高い生活を送るためにも, 今後治療を受ける患者の QOL 低下を予防するためにも, 小児脳腫瘍治療医と高次脳機能障害に精通した医療者が連携できるネットワーク作りが急務である。

  • 吉橋 学
    2021 年 41 巻 3 号 p. 301-305
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー

      小児後天性脳損傷の中では脳外傷, 脳炎・脳症・髄膜炎で社会的行動障害, 特に感情コントロール低下が生じやすい。成長・発達とともに社会的行動障害の頻度は低下するが, 問題行動の質が変化し発達段階特有の課題が生じる。社会的行動障害は脳損傷により直接的に出現する場合もあるが, 認知機能障害により二次的に, あるいは環境との相互作用により出現し, 増悪する場合もある。また, 脳損傷によって社会生活の機会が損なわれ続けると, 暦年齢相応の社会的行動が身につきにくくなると考えられている。 そのため社会, 特に学齢児では学校への適応が大切になる。しかし, 学齢児では脳損傷後比較的早期に認知機能の回復過程で復学する場合が多いため, 学校への適応が難しくなる場合もみられる。そのためうまく適応できるよう継続的に学校と連携して支援を行う必要がある。適応が難しい場合には環境の調整や, 休息や適応のための時間をとることが有効かもしれない。

  • 草野 佑介, 舟木 健史, 西田 野百合, 田中 かなで, 上田 敬太
    2021 年 41 巻 3 号 p. 306-310
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー

      もやもや病は厚生労働省の定める指定難病であり, わが国における若年者脳卒中の原因として上位を占める。京都大学医学部附属病院では, 2016 年にもやもや病支援センターを設置し, 筆者らは特に小児もやもや病患者の高次脳機能評価およびリハビリテーションや復学支援を積極的に実施している。小児では標準化された神経心理学的検査が成人と比較して少ないことから, 小児もやもや病患者の高次脳機能障害の特徴は明らかになっていない。本稿では, 当院の小児もやもや病患者の高次脳機能の特徴に関する予備的研究および事例を紹介し, 臨床適用の提言をする。

  • 小西川 梨紗
    2021 年 41 巻 3 号 p. 311-316
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー

      2001 ( 平成 13 ) 年度から始まったモデル事業により, 生活介護事業所や就労継続B 型事業所・A 型事業所や入所施設における受け入れも段々と広がってきていると思われる。しかし, 重症例では地域の受け入れが困難である場合が多いのが現状である。その理由として社会的行動障害により集団での活動が難しくなり利用が困難となりやすいことがあげられる。また, 一見すると症状として軽度だが, 実際の活動やコミュニケーションの中では多くの課題を抱え, 失敗体験を繰り返している当事者も少なからず存在し, 周囲の理解を得られず福祉サービスの利用が困難となりやすい。その結果, 支援そのものから離れてしまっている可能性が高いと推察される。
      滋賀県高次脳機能障害支援センターでは支援手法としてアウトリーチを活用し, 前述した当事者の支援を行っている。事業所に訪問し当事者の活動場面を見たうえで, 事業所職員と意見交換をしながら対応方法や環境調整を検討している。事例を通して, 日中活動事業所や入所施設における重症例への対応を考察したい。

原著
  • 栗原 恵理子, 堀川 楊, 小山 京, 渡部 裕美子
    2021 年 41 巻 3 号 p. 317-324
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー

      症例 1 は 20 歳代, 女性, 右利き。ヘルペス脳炎により両側側頭葉とくに左側頭葉前方部に広範な病変が認められた。重篤な相貌失認のほか, 動植物の認知障害, 健忘失語, 漢字の失読失書などを呈し, このうち相貌失認は 20 年以上にわたり症状を残した。症例 2 は 60 歳代, 男性, 右利き。50 歳代のとき側頭葉後端部に及ぶ右頭頂後頭葉の脳梗塞を発症し, 左同名性半盲, 左半側空間無視, 軽度左片麻痺を呈した。このとき相貌失認はなかった。9 年後, 左側頭葉の周囲に急性硬膜下血腫をきたした。当初は意識清明であったが, 1 週間後に反応が低下し, 皮質盲, 失語症が出現。CT では左側頭葉前方部に低吸収域が認められた。その後, 重篤な相貌失認が 5 年あまり持続した。相貌失認は 2 症例ともに, 既知相貌の認識ができないだけでなく, 既知相貌の視覚的想起も困難なものであり, 顔の視覚性記憶の障害と考えられた。病変部位との関連と発現機序について考察した。

  • 小山 健太, 唐澤 健太, 小山 充道
    2021 年 41 巻 3 号 p. 325-334
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー

      テレビ, 人物, 場所に対する妄想性誤認と行動的自発性作話が出現した 1 例を報告した。本例は転院当初から地理的定位錯誤を呈し, 二重見当識を経て場所の重複記憶錯誤が出現した。それらと同時に行動的自発性作話や人物誤認を認めた。さらに本例はテレビの内容に誘発されて実際に行動化に至った。本例の作話は最も活性化されやすい自伝的記憶のスキーマが文脈と一致しない状況において活性化され, さらにスキーマの活性化がより強力な feeling of rightness を惹起し, モニタリングが機能不全となったために生じた可能性が考えられた。一方, 緩徐に認知機能が回復してくることで, スキーマを基盤とした外界に対する主観的な認識が変化した。結果, 場所の重複記憶錯誤が生じたと考えられた。また本例のテレビ徴候は環境依存症候群との関連が考えられた。妄想性誤認や行動的自発性作話の原因として, 広汎な前頭葉底面および内側面下部の機能低下が重要と考えられた。

  • 宮内 貴之, 佐々木 祥太郎, 佐々木 洋子, 最上谷 拓磨, 白濱 勲二
    2021 年 41 巻 3 号 p. 335-344
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー

      脳卒中後は, 高い頻度で注意障害が生じる。注意障害は Activities of Daily Living (ADL) に影響を与えるが, 机上検査を用いた検討が多く, 行動観察評価である Moss Attention Rating Scale 日本語版 (MARS-J) を用いた検討はされていない。本研究の目的は急性期脳卒中患者における行動観察評価と ADL の関連を明らかにすることとした。対象は急性期脳卒中患者 64 名とし, 行動観察評価と机上検査および ADL を退院前 1 週間以内に評価した。評価指標は, 行動観察評価は MARS-J, 机上検査は Clinical Assessment for Attention (CAT) , ADL は Functional Independence Measure (FIM) を用い, 各指標の関連を検討した。Spearman の順位相関係数の結果, FIM と MARS-J は高い相関関係があった。また, FIM と CAT の Visual Cancellation Task (VCT) の所要時間, Symbol Digit Modalities Test (SDMT) の達成率も相関があった。一方, FIM と VCT の正答率と的中率は低い相関を示した。これらのことから, 急性期脳卒中患者では注意機能の行動観察評価と ADL は関連があり, ADL 上の注意障害を捉える上で MARS-J が有用である可能性が考えられた。

  • 石橋 凜太郎, 花田 恵介, 近藤 正樹, 河野 正志, 平山 和美
    2021 年 41 巻 3 号 p. 345-354
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー

      左の前頭葉と頭頂葉の梗塞後に, 道具使用の障害を呈した症例を報告する。日常生活でも検査場面でも, 主に道具とその対象物品との対応にのみ誤りを示した。道具と対象物品が一対一で与えられれば, 道具を扱う操作自体には問題がなかった。道具の呼称, 道具使用のパントマイムの理解, 道具の構造の知識は保たれていた。しかし, 道具に合う対象物品を選ぶ課題も, 対象物品にあう道具を選ぶ課題も著しく困難だった。反応に際しては, すべての選択肢を点検する, 「わかりません」と述べる, 考え込むなどの行動がみられた。道具と対象物品との対応の誤りは, 実物品, 線画, 文字いずれを用いて検査しても明らかであった。そこから, この障害が意味記憶へのアクセスに関連する可能性を考えた。見出された障害の特徴に基づいて, 家人などに眼前の選択肢を少なくする環境調整を促したところ, 道具使用に際しての問題が減り介護負担感も軽減した。

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