高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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42 巻, 2 号
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シンポジウム : 地域における失語症支援の展開
  • 立石 雅子, 長谷川 賢一
    2022 年 42 巻 2 号 p. 143-144
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/08/30
    ジャーナル フリー
  • 阿久津 由紀子
    2022 年 42 巻 2 号 p. 145-149
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/08/30
    ジャーナル フリー

      福島県では, 2019 年より失語症者向け意思疎通支援者養成事業を開始した。この事業の展開状況は地域差が大きいが, 失語症支援充実のためには, 言語聴覚士会, 失語症当事者団体, 行政の三者の協力連携が欠かせない。本稿では, 言語聴覚士会の立場から福島県における失語症支援の実践について紹介した。①支援者養成講習会 : 2019 年度は修了者 22 名,2021 年度は, 感染対策と各地のバランス良い支援者養成を重視し 4 会場で 10 名が修了した。②失語症友の会支援 : 毎年福島県失語症者のつどいを開催しており,コロナ禍では支援者養成外出同行支援実習とつどいを兼ねたコンサートや,オンラインでのつどい開催を試みた。③行政との連携 : 共生社会の実現の枠組みで失語症が広く理解されるよう講演会や説明会を開催した。今後の失語症支援の展開に向けて, 派遣の体制づくり, 支援者フォローアップ, 認知度向上に取り組み, 地域のネットワークを広げていきたい。

  • 沖田 啓子
    2022 年 42 巻 2 号 p. 150-154
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/08/30
    ジャーナル フリー

      広島県では 2018 年度の失語症者向け意思疎通支援者養成研修の終了後, 支援者グループを設立して意思疎通支援者派遣事業を開始した。2019 年度の修了者を含め現在 39 名が広島県の意思疎通支援者に登録している。活動は失語症サロン等での会話支援が中心であるが, 自宅から会場までの移動支援や個別の娯楽施設の利用支援も行っている。支援後の言語聴覚士による個別のフィードバックや, 研修会, 養成研修での研修生の評価などでさらなる育成を進めている。活動人数は, 平均 10.7 人/ 回で登録者全体の 27% であった。今後の活動課題を明らかにする目的で行った支援者へのアンケートでは, 活動している支援者には研修会やグループ内交流, グループ外発信の要望があった。今後に向けて, 意思疎通支援者養成研修から支援活動へのソフトランディングや活動継続が可能となるような取り組みが必要と考えられた。 一方で, 一般市民から誕生した支援者が失語症に対する問題に気づき行動していることに本事業の意義が考えられた。

  • 中村 太一
    2022 年 42 巻 2 号 p. 155-159
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/08/30
    ジャーナル フリー

      失語症デイサービスは, 失語症の地域支援の拠点として大きな役割を担っている。集中的な言語訓練や社会的アプローチを提供する役割のみでなく, 「失語症を持って生きる」こととは何かを皆で考え, 整理していく場でもある。同じ障害をもった仲間が集い, 専門職と共に新たな経験を積み重ねていくなかで, 少しずつ苦しみが和らぎ, 新しい可能性が芽生えていく。また, 友の会や失語症カフェなどの活動を通じて地域社会へ働きかけていく資源でもある。まさに, 失語症の人にやさしい社会の実現に向けて必要不可欠な地域資源の 1 つである。また, 失語症者向け意思疎通支援事業や地域リハビリテーション活動支援事業も失語症支援に欠かせない資源である。そして, 今後はこれらの地域資源が効果的かつ持続的に活用される地域づくりが肝となる。そのためには, 「失語症を持って生きる」ことに真摯に向き合い, 失語症当事者やその家族と共に歩む姿勢と, 地域づくりに結果を出す力が求められている。

  • 森 恩, 桑原 政成, 中谷 祐貴子
    2022 年 42 巻 2 号 p. 160-164
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/08/30
    ジャーナル フリー

      本邦において, 脳卒中や心疾患を含む循環器病は, 悪性新生物に次ぐ死亡原因であり, 介護が必要となる主な原因の 1 つでもある。また, 循環器病は医療費の占める割合も大きく, 社会的な影響が大きい疾患群である。
      循環器病に対する総合的な対策を進めるために, 「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中, 心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」が平成 30 (2018) 年 12 月 14 日に成立し, 令和元 (2019) 年 12 月 1 日施行され, 同法に基づく循環器病対策推進基本計画が令和 2(2020) 年 10 月27 日に策定された。
      本基本計画をもとにして, 都道府県循環器病対策推進計画が策定され, 実行されることによりさまざまな取り組み・対策がさらに進められる。
      国におけるこれまでの循環器病対策について概説しつつ, 現状と今後について解説する。

  • 内山 量史
    2022 年 42 巻 2 号 p. 165-169
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/08/30
    ジャーナル フリー

      2018 年 12 月, 「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中, 心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」が成立され, 脳卒中や心筋梗塞などの循環器病の予防推進などが図られることとなった。同法の施行により都道府県では循環器病対策推進協議会 (以下, 協議会) が設置され, 現状に応じて循環器病対策推進計画が立案される。山梨県言語聴覚士会 (以下, 当会) としては脳卒中・循環器病による心身機能の障害により活動や社会参加が制限されている方々へのリハビリテーション (以下, リハ) に従事している言語聴覚士などリハ専門職 (理学療法士・作業療法士) の協議会への配置を求める活動を 2019 年より行ってきた。2021 年度より開催されている協議会にリハ専門職 1 名の配置が決まり, 意見の提出が可能となった。当会から山梨県に提出した意見の内容をふまえ, 協議会にリハ専門職が配置される意義について考える。

シンポジウム : 臨床神経心理士─学会認定資格取得のお勧め─
  • 緑川 晶, 森 悦朗
    2022 年 42 巻 2 号 p. 170-171
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/08/30
    ジャーナル フリー
  • 佐藤 厚
    2022 年 42 巻 2 号 p. 172-176
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/08/30
    ジャーナル フリー

      臨床神経心理士資格が 2019 年度に創設された。神経心理学研究の歴史のなかで, 言語機能は, 古来その主たる関心領域であった。言語機能のリハビリテーションを業務とする言語聴覚士は, 当然神経心理学に習熟している必要がある。失語症のリハビリテーションを考えるうえで, 重要と思われる神経心理学的概念を挙げた。1 つは, 縦としての神経心理学的階層構造と, 横としての言語機能の構造モデルである。 もう 1 つは, 陰性症候と陽性症候の概念である。また, 症例を通して, 言語症状の背景にある神経心理学的障害を想定して治療戦略を立てることの重要性を述べた。脳損傷の治療に携わる者にとって, 神経心理学は患者の生活の質向上のために必要な学問領域である。この資格を取得することで, より分析的・戦略的な治療過程の構築に取り組んでもらいたい。

  • 前島 伸一郎, 大沢 愛子
    2022 年 42 巻 2 号 p. 177-181
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/08/30
    ジャーナル フリー

      日本高次脳機能障害学会と日本神経心理学会が共同で創設した学会認定資格である「臨床神経心理士®」の必要性について, リハビリテーション科医の立場から論じた。リハビリテーション医療においては, チームで適切な評価を実施し, 診断・評価・治療の計画を立てる。臨床神経心理士は, 効率的に神経心理学的検査を実施し, 単に点数だけで判別するのではなく, 患者の有する社会的背景や疾患を理解しながら, 病状や病態を考え, 生活指導や社会活動に活かす技術が求められる。

  • 長谷川 千洋
    2022 年 42 巻 2 号 p. 182-186
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/08/30
    ジャーナル フリー

      臨床神経心理士は, 神経心理学に関連する専門的知識と技能, および対人援助職としての能力と倫理観を備えた専門家であり, 公認心理師の上位に位置する専門資格と考えられる。臨床神経心理士の資格を取得することは, 神経心理学の知識と高次脳機能障害への介入技術を学ぶ良い機会になる。医療分野で活動する公認心理師は, 専門家として期待される支援・活動として心理検査を用いた専門的アセスメントが重要であると考え, 高次脳機能障害や認知症に関する知識とスキルを向上させたいと報告している。また, 臨床神経心理士は公認心理師養成教育においても, 臨床実務経験に基づく神経心理学の知識と技能を提供できる教員として適任である。神経心理学の知識と技能はアセスメント能力を向上させるだけでなく, 多職種連携を通してチーム医療への貢献も可能にする。臨床神経心理士の専門性によって, 公認心理師の社会的地位向上と神経心理学の発展が今後期待される。

  • 長濱 康弘
    2022 年 42 巻 2 号 p. 187-191
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/08/30
    ジャーナル フリー

      脳神経内科領域の疾患で, 神経心理学的障害を生じる疾患は多数みられる。脳出血・脳梗塞などの脳血管障害や認知症疾患はもちろんのこと, 辺縁系脳炎やてんかんなど, さまざまな疾患で高次脳機能障害が生じる。さらに中枢神経疾患に留まらず, 運動ニューロン病や遺伝性筋疾患においても, 知的発達障害や認知機能障害を伴うことが知られてきている。したがって神経心理学的知識は神経疾患の症状評価に欠かせないのだが, 多くの脳神経内科医は運動障害, 感覚障害の評価は得意でも失行や失認など, 詳細な神経心理症状については詳しくなく, また学ぶ機会も少ないのが実情である。そういう意味では臨床神経心理士の資格取得は, 若い脳神経内科医にとって効率よく神経心理学的評価を学ぶ絶好の機会であろう。 また, 公認心理師や作業療法士などのコメディカルは神経心理学的症状の知識と評価法を学ぶことで, 患者の症状に気づき, 医師や患者にフィードバックする能力を獲得できるであろう。

  • 太田 久晶
    2022 年 42 巻 2 号 p. 192-196
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/08/30
    ジャーナル フリー

      作業療法士は, 患者の生活を支援するリハビリテーション専門職である。高次脳機能障害を呈する患者に対しては, 個々の患者の症状を評価し, 結果を解釈したうえで, 適切な治療介入プログラムや支援方法の選定・提供を行うことが求められる。しかしながら, 若手の作業療法士は, 作業療法の場面でこうしたプロセスに難渋することが少なくない。臨床神経心理士は, 神経心理学に関連する専門的知識および技能ならびに対人援助職としての能力と倫理観を備えた専門家と位置付けられており, 高次脳機能障害を呈する患者への作業療法の実践に役立つ資格である。そのため, 本稿では, 作業療法士の養成プログラムや若手の作業療法士が抱える問題点を紹介したうえで, 作業療法士が臨床神経心理士の資格を取得することの利点についての私見を述べた。

ミニセミナー
  • 櫻井 靖久
    2022 年 42 巻 2 号 p. 197-201
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/08/30
    ジャーナル フリー

      後天性読み書き障害について, 認知心理学的な分類と病巣研究に基づいた神経解剖学的な分類を整理して紹介した。認知心理学では, 失読を中心性 (視覚認知から意味, 音声にアクセスする段階での障害) と周辺性 (単語の視覚認知レベルの障害) に分け, 中心性失読はさらに音韻性失読, 表層性失読, 深層性失読に分けられる。失書も同様に, 中心性 (語彙, 音韻処理にかかわる過程での障害) と周辺性 (視覚・運動覚イメージを書字運動に変換する段階での障害) に分けられ, 中心性 (言語性ともいわれる) 失書は音韻性失書, 語彙性失書, 深層性失書に, 周辺性 (運動性ともいわれる) 失書は失行性失書, 異書性失書にそれぞれ分けられる。神経解剖学的分類では, まず純粋失読, 失読失書, 純粋失書に分け, それぞれが細分類されている。
      さらに選択的音読み障害と意味性認知症にみられる訓読みに顕著な読み障害に関する筆者らの最近の研究を紹介した。これらの事実は, 音読みにかかわる経路と訓読みにかかわる経路が独立した二重回路をなすことを示唆している。

  • 中川 賀嗣
    2022 年 42 巻 2 号 p. 202-206
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/08/30
    ジャーナル フリー

      道具使用動作が特異的に障害される病態として 2 つの失行型が知られている。「使用の失行」と「パントマイムの失行」である。「使用の失行」と「パントマイムの失行」は, 道具の使用動作を表出する際の障害である点で共通するが, 前者は道具を把持した状態での動作時にみられる障害, 後者は道具を把持しない, パントマイムでの動作時にみられる障害である。つまりこの 2 つの失行は, 道具を把持する, しないという, 課題遂行時の, 外界の条件の違いによって区別される。パントマイムや, 道具の使用を支える神経機構がそれぞれに存在すると仮定すると, こうした外界の条件の違いが, 神経機構を起動, 調整, 停止する「スイッチ」となっている可能性がある。本稿では道具の使用動作を取り巻く 2 つの失行症状が出現するそれぞれの状況を確認した。

  • 管 るみ
    2022 年 42 巻 2 号 p. 207-211
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/08/30
    ジャーナル フリー

      私は 2015 年 61 歳時に左視床出血のため倒れ, 失語症と右半身麻痺となった。約 1 ヵ月間意識のなかった時期を経てわずかに反応がみられるようになった。その後は経口摂取の訓練や端座位などからはじまるリハビリが毎日の主な治療となった。徐々に言葉が出るようになり, 装具を使用して歩行距離も徐々に伸びていった。発症後 7 ヵ月で自宅にもどり, 勤務していた病院で患者さんのインタビューと脳波の判読を行った。同じ頃, 筋肉の拘縮改善目的で A 型ボツリヌス毒素製剤療法と, 運動機能回復のため経頭蓋磁気刺激療法も開始された。勤務していた病院を退職し発症から 1 年 5 ヵ月後, 南東北医療クリニックで週に 1 回心療内科の外来を担当させていただいている。右半身麻痺と言葉の出にくさはあるものの日常会話では不自由はない。
      ここまでこられたのは支えて頂いた医師, 看護師, 言語聴覚士, 理学療法士, 作業療法士, ケアマネジャーの皆様のお陰と感謝している。

原著
  • 髙木 早希, 大門 正太郎, 冨滿 弘之, 中川 賀嗣, 大槻 美佳
    2022 年 42 巻 2 号 p. 212-219
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/08/30
    ジャーナル フリー

      意味型原発性進行性失語 (semantic variant primary progressive aphasia : svPPA) に対して 2 種類の Cue を用いて呼称訓練を実施した。患者から得られたエピソードを用いた経験的 Cue と定義的な意味を用いた辞書的 Cue を活用した訓練である。どちらの Cue が Self-Cue として活用されやすいか, その持続期間と汎化について検討した。呼称訓練は自宅学習にて 8 週間実施した。訓練後にどちらの Cue においても呼称成績は上昇したが, 非訓練期間の後は成績が低下した。一方, 訓練語, 非訓練語のいずれにおいても評価の際に経験的な迂言を使用するようになった。また, 呼称成績の改善に伴って日常場面での意欲の向上がみられた。経験的 Cue は, Self-Cue として汎化され, 持続的に活用される可能性があるのではないかと考えた。

  • 植谷 利英, 伊澤 幸洋, 種村 純, 宮﨑 彰子, 椿原 彰夫
    2022 年 42 巻 2 号 p. 220-228
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/08/30
    ジャーナル フリー

      右大脳半球損傷 (RHD) 者の言語行動特性を明らかにする目的で, Bryan (1995) の “The Right Hemisphere Language Battery Second Edition” の下位検査である「談話分析評価尺度 (Discourse Analysis Rating Scales : DARS) 」と独自に考案した「脳卒中患者の行動観察リスト (行動観察リスト) 」を用いて, 脳損傷者に対する言語行動の評価を行った。RHD 群の DARS 評価尺度を因子分析した結果, 「対人コミュニケーション」「談話構造」「他者意図推論」の 3 因子が抽出された。さらに, RHD 群は左大脳半球損傷群 (LHD 群) との項目別成績比較において, 「あいさつなどの表現」「ユーモア」など複数の項目で低得点を示した。また, 「行動観察リスト」で設けた表情変化の乏しさに関する所見の有無と DARS の項目別得点との分析から, 行動所見あり群は DARS 全 15 項目中 7 項目で有意な成績低下を示し, 情動や感情にかかわる精神機能の低下が言語コミュニケーション障害に関係していると考えられた。

  • 大石斐子 , 藤田 郁代, 西川 優紀, 徳山 明子, 辻川 将弘, 近藤 国嗣
    2022 年 42 巻 2 号 p. 229-238
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/08/30
    ジャーナル フリー

      左上中側頭回後部領域の脳梗塞後に語義聾が疑われる症状を呈したが, 聴いて理解できない語を仮名で書き取って理解する症例を経験した。症例は 50 歳代の右利き女性。単語の聴覚的理解が低下していたが, 音声提示による語彙判断は良好であり, 語音弁別の障害もごく軽度であったことから, 主な問題は語義の理解であると考えられた。単語の復唱および文字提示による単語の理解は保たれていた。以上の特徴は語義聾の既報告例と一致した。文字言語に関しては漢字の書取のみ低下し, 仮名の書取や読解が良好に保存されていたことから, 聴覚的理解を補うストラテジーとして仮名を使用するようになったと考えられた。本症例が他の語義聾例と異なる点は, 単語のみならず非語や 1 音節も仮名で書き取ることが可能であったことだが, 質的検討より, 既報告例と同様に語彙経路ではなく非意味的語彙経路を主に利用したと推察された。

  • 鎌田 亜希, 伊藤 皇一
    2022 年 42 巻 2 号 p. 239-246
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/08/30
    ジャーナル フリー

      立体感覚における消去現象は能動的接触にかかわる複雑課題を用いて検査されるが, 両側同時刺激時に一側の手への刺激を正答できない場合, それがどんな水準の障害であるかという検討はなされていない。本研究では, 顕著な触覚性消去現象を呈した脳血管障害 2 例につき, 物品同定複雑検査に加え, 触覚性消去現象検査 (単純刺激) と立方体を用いた物品存在有無検査の 2 種類の検査を行い, 立体感覚における消去現象について質的観点から検討した。その結果, 症例 1 と症例 2 では 2 種類の検査で顕著な消去現象を認め, 立体感覚でも顕著な消去現象を認めた。経時的検討を行った症例 2 では, 2 種類の検査成績の改善と立体感覚の消去現象の改善とが並行した。両症例において両側同時複雑刺激の際に「 (一方の) 手には何もない」という内観が患側手に得られた。以上より両症例での立体感覚における消去現象は, 触覚性消去現象と同じ水準で生じている可能性が示唆された。

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