左視床出血に伴い類音的錯読を認めた失語症例を経験した。類音的錯読は,語義失語の特徴として知られており,類音的な誤りに関して本例と語義失語の報告例を比較検討した。症例は75歳,右利き男性。頭部MRIで左視床前方・内側を中心に広がる出血を認め,音読,書字で類音的な誤りがみられた。音読,書字,呼称障害の誤反応を精査した。類音的な誤りは軽度の語の意味理解障害の影響が示唆された。呼称では誤反応に浮動性があり,語頭音ヒントに対する反応が軽度の語義失語に類似していた。
アルツハイマー病(AD)を中心とした認知症診断の歴史と現状を概観し,SNAP(suspected non-Alzheimer’s disease pathophysiology)について解説した。SNAPは認知機能正常例ないし軽度認知機能障害例で,βアミロイド陰性(A-)かつ神経変性,神経損傷を認める(N+),というバイオマーカーに規定された概念である。高齢者全体の20~30%を占め,A+N+の場合よりも認知症に至るリスクが低いとされる。SNAPの病理学的背景はPART(primary age-related tauopathy)をはじめ複数にわたる。タウをはじめとする新たなバイオマーカー開発を反映したためか,National Institute of Alzheimer’s and Ageing Associationによる2024年のADの生物学的診断基準にはSNAPという用語が登場しないが,ADの疾患修飾薬が実用化された現在,臨床現場ではSNAPの概念は有用であると思われる。