人間生活文化研究
Online ISSN : 2187-1930
ISSN-L : 2187-1930
2015 巻, 25 号
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原著論文
  • 西河 正行, 八城 薫, 向井 敦子, 古田 雅明, 香月 菜々子
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 1-14
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/27
    ジャーナル フリー
    心理学教育を通して社会人基礎力を育成するキャリア教育を行うに当たり,社会・臨床心理学専攻に所属する全学生を対象に現行の心理学必修専門科目の教育効果について,学生のスキル習得認知,それに関連する心理学的特質等から,学生評価の学年比較を行った.その結果,本専攻が重視するジェネリック・スキルの認識に学生と教員で違いが見られ,また「前に踏み出す力」の育成に課題が認められた.学年比較からは,3年生に大きな特徴があり,「自尊心」が他学年より有意に低く,キャリア選択の動機づけにおいて「社会的安定希求」が有意に高かった.本結果に加え,他大学の教育実践の視察も踏まえた結果,3年後期に開講する新科目の授業内容は心理学教育を通して「前に踏み出す力」を身につけられるよう,①学生自身のキャリアについて考えさせる,②キャリアモデルを提示する,③内向的で受身的な学生に自信を与えるという3つの柱を導き出した.最後に,具体的な授業運営において,教育方法にPBL型授業を取り入れる可能性ならびにジェネリック・スキルについて学生と教員の間で共通の認識を持つ必要性を示唆した.
  • Experiences form an action research
    Lila Bahadur Vishwakarma
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 25-32
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/30
    ジャーナル フリー
    Being a teacher, I have observed the school environment very closely. In school, there is a mason who works in various segments with the responsibility of sweeping the classrooms. She has multidimensional duty which has reduced their attention towards the waste management of the school. As a result, the waste management of the school has become poor and filthy. Most of the students know about it but nobody has paid any due attention. Since long, I have been seeking for how to change the student's behavior to maintain healthy school environment. I have conducted an action research with the purpose of exploring the ways for changing student's behavior toward HSE through performing waste management activities. Fundamentally, observation of the school surroundings, collection of the waste, segregation, disposal scaling/weighting up, audio-video recording etc. has been done as a part of waste management system and process. Strategically, encouraging students to perform the activities and make them self-motivated and motivating them with some kind of prizes was really difficult. However, objectives were accomplished with 4Ps (participation, practice, prolong-engagement and prize). Hence, 4Ps is the best way of changing student's behavior toward HSE which has been claimed through this research. The 4Ps should be operated in a cyclic way while action research is conducted because there is a link among stage of participation, practice, prolong-engagement and prizes. It is, thus, critically important for waste management in school. The more reduction in the quantity of the waste through the waste management activities and the more it brings the changes in their behavior toward HSE progressively. Hesitation in the part of students is taken as a challenge in their motivation towards waste management. There might be ample opportunities of changing their behavior to HSE who participate, practice, prolong-engaging and keeps prizes in mind while performing the activities. Hence, 4Ps is a way of changing their behavior toward HSE. It is equally important to consider that the intersectional initiatives in the course of maintaining healthy school environment, for example- initiative from the closer households, students, teachers, school administration and so on because such intersectional initiatives play vital role to encourage and increase the confidence of the students while they participate in the waste management activities. Their learning in the family also plays a key role to track down their behaviors towards HSE.
  • 酒本 光子, 池上 幸江
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 142-149
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/27
    ジャーナル フリー
    【目的および方法】有機塩素系環境汚染物質は母乳を介して乳児に移行し,ダイオキシンでは現在も1日摂取許容量を超えている事例が報告されている.本研究ではダイオキシンと体内動態が類似するヘキサクロロベンゼン(HCB)をモデル化合物とし,その母体から胎児への移行に対する食餌脂質レベルの影響をラットで検討した.実験には妊娠期のSprague Dawley系ラットを用い,脂質レベルの異なる飼料にHCBを100μg/kgの濃度で混合して妊娠期から授乳期まで与え,母親ラットの体内へのHCBの蓄積量および乳児への移行量を測定した.飼料脂質レベルはコントロール食群(脂質レベル15.3%),低脂肪食群(5%),高脂肪食群(50%)とした.【結果】妊娠期では,飼料脂質レベルの体重や脂肪組織,肝臓重量への影響はなかった.授乳期ではコントロール食群に比べて,高脂肪食群で体重や脂肪組織重量が有意に高かった.母親の脂肪組織へのHCB蓄積総量は,妊娠期から授乳期で低下し,高脂肪食群では有意差はないが蓄積総量に高い傾向がみられた. 他方,乳児の後腹壁脂肪と皮下脂肪中のHCB濃度は,高脂肪食群では有意に低いが,後腹壁脂肪全体での蓄積総量は3群間に差がなかった.乳児の胃内容物中のHCB全量は,コントロール食群に比べて,出生後2日,5日目の高脂肪食群で有意に低く,10日目でも低い傾向であったが,低脂肪食群では差異はなかった.【考察】母親ラットの脂肪組織は高脂肪食群で大きく,とくに授乳期ではコントロール食群や低脂肪食群に比べて有意に大きかった.HCBは脂肪組織に蓄積しやすく,脂肪組織が大きくなると体内からのHCBの移動が抑制され,その結果として,高脂肪食群の母親ラットの乳児の胃内容物中のHCBも低くなったものと考えられる.本実験の高脂肪食群ではエネルギー値が高いために飼料摂取量が低くなり,飼料からのHCB摂取量も低くなったために,高脂肪食の影響は充分に明らかにできなかった.
  • Preliminary research for environmental mercury contamination
    Takahito Osawa, Yuichi Hatsukawa
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 221-230
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/27
    ジャーナル フリー
    This study investigates artisanal and small-scale gold mining in Myanmar and presents analytical data on mercury pollution for the first time. The way of gold mining in Myanmar is detailed. The sampling and investigation areas were Kyaikhto in Mon State, Shwekyin in Bago Region, the middle reaches of the Ayeyarwaddy River in Mandalay and Sagaing regions, and north of Kalewa in Sagaing Region. The total mercury concentrations of river sediments and human hair samples were determined by cold vapor atomic absorption spectrometry. Some river sediments were contaminated and the highest mercury concentration of 81 μg/g was found in a sample from Ayeyarwaddy River. The total mercury concentrations in the hair of mineworkers ranged from 0.6 to 6.9 μg/g and the average value was 2.9 μg/g, which is 2.4 times higher than the value of non-mineworkers. Although the data obtained in this study was not sufficient, the results indicated that the environment of Myanmar may be contaminated with mercury that originated from artisanal and small-scale gold mining. Large-scale environmental investigation is required in the near future to determine the detailed situation for water quality and human health.
  • ―カヤン人女性の高径データの分析から―
    下田 敦子, Than Naing, 大澤 清二
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 272-286
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/27
    ジャーナル フリー
    カヤン社会(カヤン人ラフィグループ)の女性は,児童期から長大な真鍮製の首輪(成人女性用の首輪の重さは約3kg)を装着する,という習慣(身体変工)を今なお保持している.こうした身体変工は身体形質(形態),体構(プロポーション)に,どのような影響を及ぼすのであろうか―これを解明するために筆者らは,カヤン人ラフィグループの人々が多く居住するとされるミャンマー連邦共和国カヤー州ディモソー地区のS村,R村,P村を調査地として,人類学的計測を主とした現地調査を2012年より継続して行っている.そこで本論文では,児童期から首輪を装着しているカヤン女性(76人)と,装着していない(装着した経験がない)カヤン女性(52人)を対象として行った人類学的計測のデータから,首輪の装着が身体に及ぼす影響について検討した.その結果,形態の主要な11個の高径項目,および同項目により定義したプロポーションを表現する10個のプロポーション項目を取り上げて,装着群と非装着群との2群間の較差をt値により評価したところ,11個の高径項目のうち,装着群が有意に大きいt値を示したのは,頸長(t0=9.507)と頭頸長(t0=8.161)であった.10個のプロポーション項目による比較でも,装着群が有意に大きなt値を示したのは頸長(t0=9.508),頭頸長(t0=9.003)であった.この結果を基にさらに考察したところ,首輪を装着している女性は,首輪を装着していない女性に比べて,形態,プロポーションに大きな変容をきたすことが明らかであり,特に,頸部を中心として胸骨上縁より上部における影響は著しく,肩の位置,上肢(中指端高)へも影響が大きいことが明らかになった.
短報
  • 渡邊 万里子
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 361-374
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/12
    ジャーナル フリー
    本研究は,児童英語教育において児童が課題を自律的に達成できるようになるまでの過程を調査したものである.教師学習者間のインタラクションの効果を明らかにする訂正フィードバック研究と,ヴィゴツキーの発達の最近接領域(ZPD)の概念を核としたスキャフォールディング研究を応用し,児童英語教育の文脈に合わせた新たな分析の枠組みを設定した.その利点は,児童の学習活動を言語面に限定せずより包括的に捉えられること,スキャフォールディングを学習者の自律性をもたらす特別な支援として扱い,児童が自律的に課題達成するまでの過程を捉えられることにある.この枠組みに基づき,実際の児童の英語学習活動の記録をデータ化したものを分析し,児童が指導者とのインタラクションを媒介して自律的に課題を達成するまでの過程を記述した.分析の結果,その過程に4つの特徴があること,そして特定の種類の支援が機能しスキャフォールディングになるには,前提条件として児童に活動目的の理解が必要であることが明らかになった.
報告
  • ―ハワイ語ラジオ番組カ・レオ・ハワイはどのような番組だったのか―
    古川 敏明
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 16-24
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     本稿はアメリカ合衆国ハワイ州におけるラジオ番組カ・レオ・ハワイを分析対象としている.1970〜80年代に放送された400を越える番組の録音に基づき,番組の全体像を描き出すことを目指した.カ・レオ・ハワイは,ハワイ先住民の言語文化の記録を通じてコミュニティの形成と維持を行うメディア実践であった.番組の特徴の1つはゲストであり,多くが年配のネイティブスピーカーであった.番組終了後は膨大な録音がデジタル化され,教育機関における電子メディア実践を通じて,現在でも引き続き言語の再活性化に貢献している.番組の録音が再活性化運動において貴重なのは,ハワイ語には組織的に収集され,これほどまとまった量の自然発話による音声資料がほとんど存在しないからである.また,年配の第一言語話者は高齢化が進み,現在の話者数はおそらく100人を切っており,新たに音声資料を生み出すことも容易ではない.

  • ―「文」の字義からの再確認―
    松村 茂樹
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 33-36
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     「文系不要論」が論議されている.どうしてこういった状況に至ったのであろうか.また,この状況を打開するには,どうしたらいいのであろうか.一度,「文」の字義という原点に立ち戻って考えてみたい.「文系」は役に立たないと言われるが,ビジネスの現場でも,就職でも大いに役に立つ.というより,「文系」の学問なきところ,ビジネスも就職も成功しないのである.こういった「文系」のすばらしさをもっと積極的に喧伝すれば,「文系不要論」を克服できるのではないか.

  • ―国内外の共同研究者との協働の取り組み―
    生田 茂, 根本 文雄, 石飛 了一, 漆畑 千帆, 葛西 美紀子, 小関 貴雅, 山口 京子, 鷹取 哲史, 島田 文江, 金子 千賀子, ...
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 37-64
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     「音声や動画などのマルチメディアをリンクできるドットコード」,「テキストをハイライトし同期をとって読み上げを行う電子書籍 やオーサリング機能を有する電子書籍」,「Augmented Reality (AR) 」などの最新の情報処理技術を用いて教材を制作し,通常学校や特別支援学校,保育園などで教育実践を行い,さまざまな「困難」を抱える児童生徒や園児の学習活動・自立活動の支援を行った.オマーンの Sultan’s School の幼稚部の教員の2日間の研修,また,アメリカの Saint Joseph 大学附属 School for Young Children の教員に,教材作りの最新のノウハウを教授し,教材開発と 教育実践活動の支援を行った.国立特別支援教育総合研究所主催の特別支援教育教材・支援機器等展示会における教材の展示や障害児基礎教育研究会の講演などで大きく広がった共同研究者のネットワークを活用し,教材の開発と教育実践に取り組んだ.「ARとドットコードの技術」を組み合わせて,八王子市の小学校の教員と取り組んだ2年生の国語の単元「さけがおおきくなるまで」の教材化と教育実践は,児童に大好評を博し,教育委員会の知るところとなり,担当課長が学校を訪れ,市の特色ある教育活動として 2015 年度の特別予算が認められた.「50 音と語彙を学ぶ」教材は,筑波大学附属大塚特別支援学校の小学部に納められ,日頃の自立活動の時間に活用されている.大阪府の視覚支援学校では,「ドットコードに音声をリンクさせた音声ペン」や「自動ページめくり機能を活用した読み上げ機能をもつ電子書籍」を用いて,視覚に障害をもつ児童の支援活動が始まった.また,文章を読んで解釈することのできない児童が,音声ペンによる読み上げ機能を活用することで,授業で取り組まれているワークシートに立派に回答できるようになった事例などが生まれた.

  • 霍 耀林, 車 才良
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 65-69
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     一山一寧作為中日交流史上非常有代表性的高僧,他到達日本不僅帶去了元朝的使命,也給日本社會帶來了非常大的影響.他在日本開創了臨濟宗一山派,他的門下高僧輩出,開創了後世禪宗以及儒學的新局面.一山一寧圓寂後,虎關師煉根據其生平寫出《一山國師行狀》,此後,關於其研究從生平到其他各個方面,不斷展開,開拓了中日一山一寧的新研究領域. 在中國,近年來開始連續出現關於其研究的專題性著作,興起了一山一寧的研究熱.

  • 伊藤 美登里
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 112-118
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     1970年代以降,ドイツ社会において価値観が変化し,それまでの「お上から下される課題」を遂行する名誉職活動が停滞し,「自分が楽しいから」行うという個人主義的な参加動機が登場してきた.このような価値観の変化に呼応するかたちで,「個人がやりたいことをやりたい時に行う」市民参加の仕組みが整えられていった.なかでも重要な役割を果たしているのが,市民参加の活動団体と参加希望者とを仲介する仕組みである.そこで,本研究はこの仕組みの一端を明らかにすることを目的とし,ミュンヘン市において現地調査を実施した.その結果,希望者をきめ細かな助言により参加団体へと媒介する仲介所や参加説明会,ボランティア・メッセなど,個人主義的な志向に見合った仲介のさまざまな仕組みが作られていることが明らかとなった.

  • ―金融時系列データのVC相関解析―
    落合 友四郎
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 123-125
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     最近の情報技術の発展にともない,大量の金融・経済関連の時系列データが蓄積されるようになってきた.これら大量の金融・経済関連データから,その背後にあり,直接観測することの難しいメタ情報(因果関係,個人の行動傾向など)を推定することが,重要になってきている.

     一方,金融業界においては,アセットアロケーションをはじめとするリスク管理手法の開発が重要であるが,従来の金融派生商品の設計やリスクマネージメントには,様々な解決すべき問題を抱えている.そこで,本研究では,最近蓄積されてきている膨大な金融時系列データを情報工学的な観点から解析して,これらのリスク管理の問題の解決策を探った.

  • ―日本・日本人・日系人関連記事の分析―
    古川 敏明
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 126-130
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     ハワイ語には先住民語としては例外的に膨大な資料であるハワイ語新聞が存在する.ハワイ語新聞はこれまで主にハワイ先住民に関する研究に利用されてきた.しかし,ハワイ語新聞には先住民の言語文化以外についても多くの情報が含まれている.本稿は日本・日本人・日系人に関する研究にハワイ語新聞を用いる試みである.2014年度中に収集・翻訳した 1904年から 1946年の記事を年代別に示し,記事の中で描かれるハワイの日本人イメージを分析する.

  • 内藤 千珠子
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 131-135
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     検閲制度をジェンダー論的な観点から批評的に考察した研究についての報告である.近代日本においては,表記の一部を○や×に置き換える伏字が検閲の制度として採られていた.占領期にこの制度はGHQ/SCAP(連合軍総司令部)によって禁止されたが,現在の日本語のなかにも伏字的光景は残存している.検閲における二つの柱は,性的禁止と政治的な禁止であるが,そのイメージの構成からは,伏字自体がジェンダー化されていることがわかる.すなわち,検閲制度はマイノリティをジェンダー化する政治学を備えていたのである.

  • 手呂内 伸之, 川村 景子
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 136-138
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     植物ホルモンであるサイトカイニンは植物において細胞増殖の促進に関わることが知られている.最近,マメ科植物において根粒菌感染に伴い生じる根粒構造体の形成にも関与しているとの報告がなされている.本研究ではこのサイトカイニンの関連遺伝子であるIPTおよびLHK1の根粒菌感染による発現の解析を行った.IPTはサイトカイニン合成に関係する酵素であり,合成系の最初期に働くものとして知られている.根粒菌であるミヤコグサ菌をミヤコグサに感染させたところ感染後1分でIPT遺伝子の発現が見られた.また,LHK1はサイトカイニン受容体として知られている.LHK1遺伝子の感染に伴う発現の変化を調べたところ感染後30分が最大であることが示された.これらから根粒形成におけるサイトカイニンの関与が推察される.

  • 高橋 ゆう子
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 150-155
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,保護者が子どもとRDI(Relationship Development Intervention;対人関係発達指導法)に取り組むことによって,親子のやりとりにどのような変化がみられるか,その特徴を保護者の視点から検討することである.2 家族の研究協力のもと,5 歳と7 歳の自閉症スペクトラムと診断された男児の保護者にRDI によるコンサルテーションを行い,日常生活における親子関係に関する報告と,やりとりのペースや視線や感情,経験の共有に焦点をあてたRDI のビデオ・クリップとそれに関するリフレクション・ペーパーを分析の対象とした.

     2家族の保護者ともビデオ・クリップを通して,子どものことだけでなく,自身の関わり方について,言葉による指示や説諭が多いことに気づいた.そこで,非言語的なコミュニケーションを意識することを試みた結果,しだいにかかわり方が少しずつ変化するようになり,子どもも保護者を参照する機会が増えるようになった.以上から,養育支援にあたっては,保護者の振り返りや子どもとやりとりする際の感情に焦点を当てることの重要性が示唆された.

  • 石井 義孝, 國吉 紗由美, 山根 早優子, 石崎 里美, 青柳 大介, 木野 邦器
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 156-159
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     生体適合性や機能性材料への利用可能なポリアミノ酸を見出すことを目指し,新規な構造を有するポリアミノ酸を生産する微生物を探索した.色素排除法を利用した塩基性物質生産菌の探索を通して,Penicillium 属K9A株とPenicillium 属K17G株を取得した.MALDI-TOF-MS分析の結果,K9A株は,分子量は128×n+32で表されるポリマーを生産しており,リジンの繰り返し構造を持つポリマーと予想された.また,K17G株は,分子量が208×n+153で表されるポリマーを生産している.しかし,分子量間隔208に相当する蛋白質性の20種類のアミノ酸はなく,新規な塩基性ポリマーの可能性が示唆された.

  • ―プレイセラピィの過程から―
    九間 早和子
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 160-165
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     困難な状況を経験し,一時的に心理的不健康の状態に陥っても,それを乗り越え,うまく適応していく過程・結果や能力のことをレジリエンスという.レジリエンス研究では,能力に着目することが多く,過程に視点を置いた理論的研究はあるが,実践的研究は少ない.そこで,本研究では,遊戯療法過程を,レジリエンス概念で捉え直すことを目的に行ったレジリエンス過程研究を実施した.分析対象とした臨床実践は,筆者が実習において担当した男児A 君(当時8 歳)とのプレイセラピィ全29 回分である.

     結果,男児の遊びには大きな変化が見られ,日常生活においても良い報告が得られていることから,プレイセラピィの効果が見いだされたと言える.このプレイセラピィにおける言動について,レジリエンス要因を分類し,数値化したところ,当初レジリエンス個人要因としての「自律・自己制御」「感情調整」という機能が負の側面として多くカウントされていた.しかし,徐々に「自律・自己制御」「感情調整」の評定も正の側面としてカウントされていることがわかった.

     臨床心理実践におけるプレイセラピィの過程をレジリエンス要因の視点から分析することで,プレイセラピィの意義が端的に説明できることが明らかになった.また,適応過程に大きく影響するレジリエンス要因を捉える可能性も示された.

  • Daw Khin Thet Maw
    原稿種別: research-article
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 166-173
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

      This research has the following main purposes: to achieve sanitation fosters will take; to raise community awareness of sanitation and hygiene education; to encourage the participation of the entire community (students, teachers, school heads, Parent Teacher Association, School Board of Trustees) in sanitation and hygiene education; to improve unsanitary schools; to encourage the ‘4 cleans’ behaviors through community-planned grassroots projects and improve health and quality of life through these behavior changes; to prevent contamination of water from source to mouth.

  • ―学生への支援策の検討に向けて―
    伊藤 里恵
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 174-177
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     発達障害児支援を行う学生には,学生ボランティアが抱える活動課題や発達障害児支援での課題の他に,地域で活動を行う発達障害児支援携わる学生ボランティアであるからこその困難を抱えているのではないかと考えられる.今回の質問紙調査では,『活動での困難』という点に関し,主に発達障害をもつ子どもに如何に接するか,その知識や技術の無さが背景にあると考えられる困難の回答が得られ,『活動の改善点』については,「情報共有の必要性」や「発達障害知識の必要性」,「技術の引き継ぎの必要性」などといった回答が得られた.また,上級生の個人的達成感の欠如が明らかとなった.これは上級生になるにつれて責任が増し,種々の困難が顕著に感じられたことが理由ではないかと考えられる.それに加え,成員にサポートされているという感覚が得難い状況があることも示唆された.

  • 堀 安由美
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 178-181
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     本研究は,他者との対立を避ける傾向にありながらも親密な関係を求めているとされている現代青年を対象に,円滑なコミュニケーションに有効なアサーションを獲得するためのアサーション・トレーニングにおけるアサーション・スキルの獲得過程と,トレーニングの中のロール・プレイングの効果を明らかにすることを目的とした.今回は試行カウンセリングを通して,ロール・プレイングとそれに対するスーパービジョン指導がアサーション・スキルの獲得に及ぼす効果について検討した.その結果,ロール・プレイングには,事前に学ぶアサーション・スキルを実際の場面でも使うことができるように学習する役割があることが示唆された.そしてその学習効果を発揮するためにはロール・プレイングだけではなく,スーパービジョンのように,ロール・プレイング中のコミュニケーションについて俯瞰した視点からフィードバックする役割が必要であることが示唆された.次年度は本研究を踏まえ院生が自主的にグループを作り,トレーニングすることが,いかに専門スキルの獲得に寄与するかについて検討していくこととする.

  • 渡部 栞
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 182-185
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     浴衣の製作において初心者が特に苦労する事として,縫いに入る前段階の「柄合わせや裁断」が挙げられる.布の裁断が速やかにできるように支援するための方法はこれまでにもいくつか研究されている.しかし,いずれの方法も実際に講義で使う際などには課題を抱えている点も多く,一般化されていないのが現状である.

     そこで本研究では浴衣地として代表的な注染染めの浴衣の反物を取り上げ,初心者が浴衣の柄合わせを行う際の手法を考察する.和裁初心者でも着装時に柄行きの見栄えがよい浴衣を製作することが可能な裁断法を考察することを目的としている.

     平成26年度は,先行研究によって明らかになった柄合わせの課題を分析した.そしてその課題を解決するための方法を考察すべく,注染浴衣地の現状調査を行い,加えて反物の状態のビジュアルから着装姿の状態での柄行きをシミュレーションする方法を見出した.

  • ―鳥取県の事例を中心として―
    小谷 敏
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 194-211
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     アメリカの政治学者,ジョセフ・ナイはソフトパワーを,他の国々に対して強制力を用いることなく,自発的な支持を調達することのできる力と定義している.ソフトパワーとはその国がもつ魅力に他ならない.

     アメリカ人エコノミスト,ダグラス・マックグレイが,2002年に『フォーリンポリシー』誌上に発表した,Japan’s Gross National Cool によって,ソフトパワーということばは,日本社会でも知られるようになった.マンガやアニメ,J-pop にテレビドラマ,さらにはファッション,建築,料理といった日本のポピュラー文化は,1990年代以降,世界で熱狂的な支持を受けている.経済が停滞し,日本が「国内総生産」(GDP)を減退させる一方で,日本の国民総クール(GNC)は目覚ましく上昇していった.80年代の日本が経済におけるスーパーパワーであったように,新しい世紀を迎えた時点の日本は,ソフトパワーの面におけるスーパーパワーとなったとマックグレイは言う.

     ソフトパワーとは国際政治学上の概念であった.それをドメスチックな事象に適応することに対してはあるいは違和感を覚える向きもあるかもしれない.しかし,今日の日本の地方自治体は激烈な地域間競争に晒されている.経済のソフト化,サービス化が進み,生産拠点の海外への移転が進む現在,かつてのような工場誘致ではなく,第一次産品の地域ブランド化と観光の振興が,どの地域にとっても重要な課題となってきている.その土地のもつ魅力を誇示しなければ自治体の生き残りが不可能な状況が生じている.日本の地域間競争は,ローカル・ソフトパワーの競争であるといえる.

     「クールジャパン」の中核をなすものは日本のポピュラー文化であり,とりわけマンガである.地元と縁のアニメやマンガの作品を地域起こしの起爆剤として活用する試みは,全国各地でなされている.そのなかでもっとも目覚ましい成功を収めたのが鳥取県境港市の水木しげるロードである.境港市民と外部の様々な関係者が一体となった努力によって,境港市は妖怪のテーマパークの様相を呈していった.水木しげるロードには現在,年間300万人を超える観光客が訪れている.同ロードはいまや,鳥取砂丘と並ぶ鳥取県を代表する観光地となっている.

     鳥取県は2012年に「まんが王国とっとり」の建国を宣言.同県出身の3人の著名マンガ家(水木しげる,谷口ジロー,青山剛昌)を前面に押し立てて,国際マンガ博等,様々なイベントを展開している.しかし「まんが王国とっとり」は現在のところ,鳥取県民のなかに十分な理解を得ているとはいえない.

     鳥取県と同じように著名マンガ家を多数輩出し,「まんが王国・土佐」を標榜する高知県は,マンガを描く文化の長い伝統をもっている.そして20年以上のながきにわたって同県で開かれている「マンガ甲子園」においては,社会批判の視点をもつ一コママンガを描く課題が参加者たちに課せられている.「まんが王国・土佐」は,「反骨」・「自由」を貴ぶ同県の精神風土とマンガ文化の伝統との結びつきを強調している.「マンガ甲子園」は,その課題を通して,「反骨」・「自由」の気概を若者たちに吹き込もうとしているかにみえる.

     他方,鳥取県には普通の人々がマンガを描く文化の伝統もなければ,高知県のように「反骨」・「自由」ということばであらわされるような明確なアイデンティティもない.三人の偉大なマンガ家は有力なメディアではあるが,遺憾ながら「まんが王国とっとり」にそこに託すべきメッセージが存在しない.それが「まんが王国とっとり」の建国に際して,県民の多くが当惑を示した理由のように思われる.

  • ―軽動詞 have / give の事例―
    勝部 愛美
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 212-220
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     これまで,英語における文構造の記述には主に,語からのアプローチと型からのアプローチが用いられてきた.本稿で提唱するハイブリッド文法は,語と型からのアプローチの利点を組み合わせ,さらにコーパスのデータと母語話者の直観を採用した文法の枠組みである.ハイブリッド文法を利用することで,軽動詞have / giveが目的語にとる事象名詞の特性を明らかにする.

  • ―ベトナム語母語話者の観点から―
    グエン ティー ホア ミー
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 231-235
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     日本語の「謝罪表現」については,これまでに様々な研究がなされてきた.本研究では,伊偉芳(2009)「ホスピタリティ産業における謝罪表現―テレビドラマ「ホテリアー」をめぐって―」(『観光学論集』第4巻・長崎国際大学国際観光学会)を踏まえつつ,謝罪表現の使用対象をさらに広げて考察を深めることとする.具体的には,1990 年から2014 年までに日本のテレビ放送で放映された8 本のドラマを対象に謝罪表現を収集し,そこに見られる表現を3 つの類型に分けて捉えることによって,それぞれの表現の使用の目的と相手,場面を捉えながら分析を試みるものである.

     筆者は日本語を学び,日本に生活しているベトナム人の立場から,自分自身の知識,経験を生かし,複雑な日本語の謝罪表現の分析を試みたいと考えている.

  • 樽澤 百合
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 236-240
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     心理臨床場面においては「共感」することの重要性や,「共感」が治療効果に良い影響を与えることが明らかにされている.しかし,カウンセラーが全てのクライエントの全ての内容に共感できるとは限らない.そこで,角田(1998)は共有不全経験と共有経験の2つを提唱し,この2つを伴うことで他者理解に至る成熟した共感となるとした.そのため,共有不全経験を経験した際にどのように対処するのかということが重要となってくるであろう.しかし,共有不全経験の対処法として特にスーパービジョンに焦点を当てた具体的な知見は少ない.また,カウンセラーの感情が治療に対して有効ではあるものの,初心者カウンセラーのクライエントに対する感情や混乱の生じ方に違いがみられると指摘されている.このことから,初心者と熟練者の両者において共有経験や共有不全経験を経験するであろうが,その際,セッション中に生じる感情や共有不全経験に向きあうに至るまでのプロセスには違いがあると考えられる.

     よって本研究では,カウンセラーの臨床場面における共有不全経験に焦点を当て,カウンセラーの共有不全経験への対処法を明らかにすることを目的とし,それらの検討の為に予備調査を実施した.

  • 堀江 智美
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 241-244
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     対人関係に不安を持つ人の特徴として自尊心の低さが挙げられる.自尊心が低いことの原因として,過去のネガティブ体験,すなわち「被拒絶体験」を持つことが推測される.本研究では臨床心理学の事例論文33本を調べた.その結果,クライエントは「被拒絶体験」を直接語っていなかった.しかし,彼らは対人場面において,他者に「見せている自分」,「見せていない自分」,「見られていると感じる自分」を強く意識していた.この3つの自分の存在によって生じる苦悩が,対人関係への不安に大きく関与することが推測された.

  • 大嶋 千尋
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 245-248
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     「いじめの4類型」(公の場でのいじめ,物理的ないじめ,関係を利用したいじめ,陰でのいじめ)をもとに,いじめ加害者の特徴についての実証的研究を試みた.その結果,「公の場でのいじめ」を行ういじめ加害者は,親の養育態度の偏りがみられない家庭で育ち,問題行動を起こしがちで,生徒たちからも距離を取られてしまうような生徒ということがわかった.「陰でのいじめ」を行ういじめ加害者は,子どもに対して親からの関心が高いか低いかの二極性があり,周囲からの評価が低くて問題行動を起こすような子も,友人が多くて人気者で弱い子を助けるような良い子も存在することが明らかになった.「関係を利用したいじめ」を行ういじめ加害者の特徴は,大人の目に映るいじめ加害者の認識は様々だが,生徒からは近寄り難く,距離を置きたがるような認識であったことが分かった.本研究では,いじめ加害経験者に調査できず,心理的要因は検証できなかった.

  • ―11年後の追跡調査―
    香月 菜々子
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 249-261
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     星と波描画テストの投映法としての性質をより明らかにするため,本研究は基礎的研究の一環として,先行研究(香月,1999)の調査協力者6名を対象に,星と波描画テストおよびロールシャッハ・テストの再施行を実施し,主に指標レベルで,過去データとの比較検討を行った.その結果,星と波描画テストは,描き手の流動的な状態像を映し出すばかりでなく,描き手における比較的安定性の高いパーソナリティ要素についても映し出す可能性が示唆された.また両テストの結果を照合したところ,パーソナリティ要素の変化についての見解が一部共有されていることが分かった.詳細を明らかにするための研究が今後期待される.

  • 小川 響
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 262-267
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     本研究は,学習習熟度別学級編成における高校生の自己受容感と学級適応感の関連性を検証し,従来学力の変遷ばかりに注目がおかれてきた学習習熟度別学級であるが,本研究において生徒の心理的側面にも着目し現代青年期を生きる高校生の適応傾向を探ることで教育現場における適応支援に役立てることを目的とした.学校コミュニティにおける心理職の役割としては,生徒と環境の適合性を最大にする努力をすることが大きなテーマであり,教育現場における教育相談の推進にとっては個人を取り巻く学校コミュニティを重視した取り組みが欠かせない(樺沢, 2014).このため,近年広がりつつあるこの教育形態を鑑みた研究がなされることは,教育現場における臨床活動にとって意義のあることと思われた.

     調査対象者は,学習習熟度の程度により高組・中組・低組の3 群に振り分けられた進学高校に在籍する2012 年度の入学生260 名(男子153 名,女子107 名)であった.なお,発達的な視点も取り入れ,高校生活3 年間に渡り同集団を調査対象とし,縦断的・横断的に研究した.質問紙法による調査を行い,使用尺度は,宮沢(1987)の「自己受容測定スケール(SAI)」,大久保(2005)の「青年用適応感尺度」を用いた.

     各尺度の因子分析,相関分析を行った結果,高組では,友人同士の繋がりを大切にするというよりは個人の生き方を大切にし,自分の良い面を最大限に活かせるような生き方を試みることが示唆された.中組では,3 年間を通して他2 クラスよりも自分に対して自己分析的であり,分相応の生活を試みることが示唆された.最後に低組では,自分にとって誇れるものがある現実に自己価値を置き,その面を打ち出してゆくことを積極的に試みることが示唆された.また,3 クラスに共通する発達的な視点として,3 年間を通してMaslow の自己実現理論に従って徐々に自己実現に向かってゆくことがクラスでの適応の要因となっていることが示された.加えて,自己受容に関しては,発達と共に自己に対して目を向けられる面が徐々に増えてゆくことが分かり,自己受容できる側面が徐々に増えてゆくことで自己と環境とのズレを適応的に処理しやすくなることが推察された.

     生徒の所属環境により適応傾向に特徴があることが明らかにされたことで,適応支援の際の一つの知見として教員へのコンサルテーションやケースマネジメント等に応用できる可能性が示唆されることとなったが,類似研究の少なさから本研究結果の一貫性・信頼性については疑問の余地が残った.このため,他の学校においても研究を実施する等,今後繰り返し研究が重ねられることが期待された.

  • ―脂肪滴とミトコンドリアの可視化―
    長谷川 千織, 伊香賀 玲奈, 行方 衣由紀, 田中 光, 田中 直子
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 268-271
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     【目的】一般的に白色脂肪細胞にはミトコンドリアが少ないと言われている.しかし,アディポネクチンなどを分泌し代謝にも積極的に関わることが近年わかってきており,白色脂肪細胞とエネルギー代謝の要であるミトコンドリアの間には密接な関係があるのではないかと考えられる.そこで本研究では,脂肪細胞の成熟過程とミトコンドリアの関連性を,脂肪滴とミトコンドリアの簡易的な蛍光染色方法を用いて可視化することを目的とした.【方法】マウス線維芽細胞3T3-L1を脂肪細胞に分化させ,分化誘導後8日目と32日目の脂肪滴とミトコンドリアを蛍光染色し,共焦点レーザー顕微鏡で観察した.また,それぞれのミトコンドリアの蛍光強度を解析した.【結果及び考察】分化誘導後8日目と32日目で蛍光強度に有意差はなかったが,32日目のほうが増加傾向にあり,ミトコンドリアの機能は保たれていることが示唆された.また,分化誘導後8日目も32日目もミトコンドリアが脂肪滴を囲むように存在する様子が観察された.

  • 五味渕 典嗣, 木戸 雄一, 倉住 薫, 小井土 守敏
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 287-313
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     日本文学科では,2014 年度から始まった新しいカリキュラムにおいて,初年次セミナー科目「基礎ゼミⅠ」を導入した.この科目では,学生に大学教育への適応を促すとともに,調査と口頭発表のスキルを中心に,日本文学科での学習の基礎を着実に定着させることを目指した.その目標を達成するために,授業担当者は授業期間内に6 つの課題を設定,共同して教材開発を行った.

     現在の日本において,大学教育の意義や有効性に対する社会の視線は厳しさを増している.だが,今回の日本文学科の試みは,いたずらに新自由主義的な経済界からの要求に迎合するのではない人文学のあるべき教育の姿について,教員が自らを問い直すきっかけともなった.

  • ―男性着用について―
    鹿野 美由紀
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 314-318
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     平安貴族女性の正装である裳唐衣装束は袴,単,袿,表着,唐衣,裳などから構成されている.その中で今回は,袿と衵の着用について着用実態の若干の整理と用例の分析を行った.

     袿と衵を辞書で確認すると区別は,袿は裾の長いもので女性用のものとし,衵は裾の短いもので男性や幼童用のものとされている.しかし王朝物語を確認すると,袿の着用者にも男性はおり,同様に衵の着用者にも女性は見られる.また被物として使われることが多く,これは男女ともに贈られていた.また有職故実書で書かれていた説明も矛盾しているものも多く,実際の形状・着用について不明なことが多い.そのことを受けてか,現代の辞典類や注釈書類類の説明も曖昧なところが多くなっている.この研究の目的は,文学作品と古記録における用例の分析を行って,「衵」の着用実態の若干の整理と検討をしていくことである.

     なお,今回は特に男性の着用について検討を行う.そのため,童と僧侶の着用の用例は除いた.

  • ―『続詞花和歌集』についての考察―
    君嶋 亜紀
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 319-323
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     哀傷歌は人の死を悼む歌である.報告者は中世和歌のうち,院政期から南北朝期にかけて詠まれた哀傷歌を対象として,『源氏物語』摂取がみられる歌を収集し,その表現意識や方法の分析を行ってきた.そのなかから本報告では,院政期に成立した『続詞花和歌集』哀傷部の『源氏物語』摂取を取り上げ,摂取方法や対象,配列や撰集意図について検討した結果を報告する.

     哀傷歌における『源氏物語』摂取が最も盛んに行われ,研究史上最も注目されてきたのは新古今時代である.本報告では『続詞花和歌集』を,哀傷部に『源氏物語』摂取の歌が意図的に配された先駆例と位置づけ,新古今前夜の様相の一端を明らかにしたい.

  • 西垣 綾峰, 古田 雅明, 福島 哲夫
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 324-329
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     本研究では, 臨床心理士が喪失体験から回復するプロセスの仮説モデルを生成することを目的とし, 緩和ケア領域で活動する臨床心理士(4名)を対象に半構造化面接を行った.

     修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチに準じた分析の結果,17個のカテゴリーが抽出され,それらは担当患者との「出会いの段階」から「関わりの進展の段階」,「死別前の段階」,「死別後の段階」,「回復の段階」の5段階に沿って布置された.

     喪失体験の初期にあたる「死別後の段階」において,臨床心理士は遺族と同様に【一般にみられる悲嘆反応】を示したが,その期間は短く,すぐに【セルフケア】を行い,職場内外のケース検討会や教育分析などの【サポート資源を活用する】ことによって,モーニングワークを積極的に行っていた.そして「回復の段階」では,【自分自身の未整理な部分を追求し続ける】内省的な姿勢を示し,【自分の関わりに対するリフレーミング】が行われ,亡くなった患者との心理面接に肯定的側面があったことを実感していた.

     臨床心理士は喪失体験をすると,ケース検討と内省を中心とする積極的なモーニングワークを行う特徴があり,この2点が回復プロセスの中核となって職業的成長につながるという仮説モデルが見出された.今後はインタビューイーの数を増やすことでモデルの精緻化を行う必要があろう.

  • 鈴木 理絵, 福島 哲夫
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 330-333
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     セラピスト(以下,TH)の発達過程の中でも,心理療法場面で抱く感情に焦点をあて,感情コンピテンスの視点から,TH の発達過程を明らかにすることを目的とし,臨床心理士16 名にインタビュー調査を行った.逐語記録をグラウンデッド・セオリー・アプローチにて分析した結果,全部で10 カテゴリーが生成された.TH は『不全感』,『上手く頼れない』,『向き合えない』,『クライエント(以下,CL)に巻き込まれそうになる』状態から,『どうにかして対処』し,『救われるスーパーヴィジョン(以下,SV)』を経験してCL およびTH 自身の『感情に触れる』ことができ,CL との『関係の深まり』を得て,『二者関係からの理解』の視点も得られるようになる.そして『感情自己効力感の向上』がなされていくということが明らかとなった.また,TH は初めは感情コンピテンスがインコンピテンスな状態であるが,TH 自身の努力やCL やスーパーヴァイザーとの関わりを繰り返すことで、感情コンピテンスは発達していくことが明らかとなった.

  • ―メディアリテラシー教育プログラムの開発―
    市川 博, 松本 直樹, 中山 愛理, 豊田 雄彦, 竹内 美香
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 334-339
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     今日のインターネットは,ツールの高機能化と利用者の拡大を背景として,参加する人に大きな利便性を提供している.その反面,この仮想空間には新しくて大きなリスクも生じている.インターネットにおけるコミュニケーションのトラブルは,日本のほとんどの学生が体験している.日本の高等教育機関では情報リテラシー科目を設置して基本的なセキュリティの教育を行うなど,ネット上のリスクを軽減する取り組みを続けている.しかしトラブルの件数や内容を見る限り,十分な効果を上げているとは言いがたい.本研究では,大学生など,もっともネット上での多様なリスクに遭遇する危険性に直面する青年層に,より効果的なセキュリティ教育を提供するツールの開発に必要な基本的情報を探索する.中でも,ネット上のトラブルの心理社会的要因について重点的に検討する.本論では,日本の青年期女子が直面する今日的なインターネット利用上のトラブル経験の構造を調べるために実施した自己記入式の調査の結果を報告する.

  • ―教科開設後10年の課題と今後の方向性―
    川合 宏之
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 345-349
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     本論では,教科「情報」の実施方法について,その出発期から指摘されてきた学校教育全体の再検討という問題提起をはじめ,商業科の経営情報分野との競合といった問題提起を軸としながら,教科「情報」実施後の課題として挙がってきた教員の人材育成,小中学校や大学での教育との接続などの問題点をまとめた.また,今後の情報教育のあり方として,先行事例としての武雄市の小学校におけるICT 教育を参照した.そこから,情報社会のインフラ整備には,文部科学省の予算配分などをふくめた社会的合意形成が不可欠であること,社会的課題の解決という視点に立った学校教育全体の再検討が必要であることを指摘した.また,情報社会を担う人材の輩出という視点において,商業高校,工業高校などの専門教育の場が今後ますます社会的な意義をもちうることを指摘し,そうした職業教育の重視,および,高大連携などの方策を通じて,知的基盤としての重点化の必要性を指摘した.

  • ―日本における戦争記憶の現在形―
    五味渕 典嗣
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 2015 巻 25 号 p. 353-360
    発行日: 2015/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     戦後日本の文学,思想,映画,サブカルチャーなどの諸テクストに関心を寄せる者なら,それらのテクストに第二次世界大戦の巨大な影がしばしば見て取れることはすぐにわかる.〈先の大戦〉にかかる言葉やイメージは,日本語の言説の中に巨大なアーカイブを構成してきた.しかし,そのアーカイブは明らかな偏りを抱えている.奇妙なことに〈先の戦争〉をめぐる日本社会の集合的記憶は,アジアで戦われた戦争,とりわけ8年間に及んだ中国大陸での戦争をほとんど欠落させているのである.

     20世紀の日中戦争は,確かに過去の戦争である.だがそれは,敗戦後の日本社会がその記憶を十分に社会化・公共化してこなかった戦争でもある.東アジアの国際的な環境が1990年代以降最悪の状態にあると見える現在,日本語による戦争記憶のアーカイブを振り返り,現在の立場からその経験の語りと表象を問い直すことは,喫緊の重要性をはらんでいる.

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