人間生活文化研究
Online ISSN : 2187-1930
ISSN-L : 2187-1930
2018 巻, 28 号
選択された号の論文の53件中1~50を表示しています
原著論文
  • -natural discourseのインタラクション分析に基づいて-
    渡邊 万里子
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 20-45
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2018/11/06
    ジャーナル フリー

     外国語学習において,学習者はその目標言語の背景にある異文化に触れることでアイデンティティの拡大,すなわち人間的成長を経験する可能性を持つ.本研究では,英語教育には言語知識の習得とは異なる次元の資質・能力を育む意義と可能性があることを示す.

     研究参加者は児童英語教室に通う3人の子どもたちで,彼らは教師の授業観を変容させ,積極的に伝え合うクラスの文化を築き,その文化の下で主体的にnatural discourse,すなわち言語知識の獲得ではなく仲間や学習内容との関わりに重きを置くインタラクションを展開させた.子どもたちの授業中のインタラクションとインタビューの分析を行った結果,彼らはインタラクションを通して学習内容に没頭して居場所感を得たこと,また,その積み重ねは「英語の場における自分」という アイデンティティの拡大につながったことが明らかになった.

  • Hitomi Imanishi, Tomoka Muramatsu, Yui Morita
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 50-60
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2018/11/06
    ジャーナル フリー

    筆者らは,運動不足と体力向上の維持および自分文化理解の目的のために,現代の幼児・児童に有効な活動として,“低重心の動き”と“言葉と身体の協応”の動きが組み込まれている伝統芸能の動きに着目した.筆者らが作成した”ひふみ体操”は,日本の伝統的芸能の中で行われる特徴的動きを幼児の遊びの中に取り入れることで,現代の幼児期に実施されなくなりがちな下方重心型の活動と“多様な動き”の経験を補うことを目的とする.具体的には,能・狂言,日本舞踊に出てくる,日本古来の動き(例 同側動作,片足で踏ん張る,片足で跳ぶ,ヤットン拍子)を体操の中に設定した.

    次に,身体と精神活動が分離しがちな現代の子どもの傾向を回避するためと,幼児期に必要とされる五感刺激によるボディイメージの獲得をさらに強化するため“ひふみ体操”は歌や言葉に出してその意味や意図を身体で体現する」遊びを組み込んだ.もともと日本の古来の芸能は,舞踊者が歌に合わせて自ら舞うという形式があり,また日本の伝承遊びには,わらべうた,お遊戯など,歌唱とともに身体で表現する遊びが多く見られることから“ひふみ体操”もそこに着目し作成した.  

    今回の報告は,あとで報告する”ひふみ体操“の教育実践効果報告の前段階として,“ひふみ体操”実践時の心拍数とサーモグラフィーの皮膚最高温部位の検出より,体操の運動負荷的特徴と動作特徴を他の体操と比較を用いながら分析することで,“ひふみ体操”自体の客観的特徴を明らかにすることを目的とした.

    心拍の変動は,“ひふみ体操”は開始後1番から4番までの時間経過に伴い徐々に75‐80‐100越えまで緩やかに上昇してゆく傾向になった.ラジオ体操は,後半80過ぎを横ばいで維持する傾向が見られた. また“ひふみ体操”は,下肢部下部の側面と後面が(太ももからふくらはぎにかけての側面と後ろ側,足首にかけて側面と後ろ側)各動きを通じてしっかりと使われる運動であった.一方,下肢の前面部(ひざ下の前面部分)は側面部や後ろ側の部位と比較すると高温度を示さなかったことから,“ひふみ体操”は全体的に下肢の前側よりも側面部や下肢の下部後ろ側をよく使う体操であることが明らかにされた.

    総合すると,ひふみ体操はラジオ体操との比較から身体の多様な部位と動きを用いる体操であることが明示され,子ども向け体操として妥当であるとの判断に至った.

  • Sanae Tokizane
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 116-125
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2018/11/08
    ジャーナル フリー

    Annie Proulx’s first novel Postcards is a saga of the disintegration of a rural New England family, whichis so realistically rendered that any connection with Jacques Derrida’s philosophical theory of the post in The Post Card seems unlikely to exist. At the same time, it is evident that the novel is committed to the quiddity of the postcard as a medium that is simultaneously postal and postmodern. Through the clever use of graphically presented patchwork postcards, the novel epitomizes the economical and cultural transfiguration of the twentieth century America. In Derrida’s postal theory, the postcard marks the end of the age of the postal system that transmits documents. This paper argues that what the postcards in the eponymous novel want to say is how Derridian “postcardization” corresponds to postmodernization at the most basic and personal level. The condition of Postcards may not be manifestly postcolonial, and the epistolary space is only partial, but the idea of the postmodern postal principle prevails in the novel, which registers the diasporic flux of people, place, and time with no destination whatsoever.

  • (From the school health survey, 1900-2017)
    Seiji Ohsawa, Atsuko Shimoda
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 493-498
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2018/12/22
    ジャーナル フリー

    Since the Second World War, the height of Japanese 17 year-olds has increased 10cm for boys and 6cm for girls. This is a well-known fact. This marked increase in height is commonly believed to be a “phenomenon occurring during the school-age period”, and following this reasoning, it is suggested to be a result of an acceleration or advancement of growth during this interval, and especially during puberty.

    However, we reviewed school health statistics surveys since 1900 to 2017 and discovered that the prevailing explanation is incorrect. Furthermore, we found that the increased size of the Japanese people is brought about before children attend school (in early childhood), and that there is a complimentary/negative correlation (boys r=-0.958, girls r=-0.989) between growth during the school-age period and early childhood.

  • ―複数教科連携による漢文教材の多様化―
    戸髙 留美子
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 552-559
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

      中学校漢文の教材は長年刷新が見られないままになっている.しかし平成28年12月に示された答申,「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策について」,では「学習指導要領等の枠組みの見直し」,「アクティブ・ラーニング」と共に「カリキュラム・マネジメント」が新学習指導要領の柱として位置づけられた.この提言は平成29年3月公示の学習指導要領にも反映されている.本論では「カリキュラム・マネジメント」に立脚した教科横断型授業の構成による漢文教材の選択拡大の可能性について考察した.今回は国語科の古典分野・漢文と,社会科の歴史分野との連携のケースを例示したのみだが,地域の文化・歴史や人的資源の有無などを鑑みながら総合的学習との連携も可能である.こうした従来の教科書に依拠した国語科教育の枠を超えた取り組みが,自文化に根付き現代社会ともつながる漢文との出会いを生徒にもたらすものと考える.

  • ―バルバドスとトリニダードの比較―
    伊藤 みちる
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 660-695
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     本稿は,旧英領カリブ海諸島におけるヨーロッパ系白人のアイデンティティとしての白人性の多様性に着目し,バルバドスとトリニダードを例に,白人性の違いやその特徴を探るものである.この課題は,フランス系トリニダード人の白人性構築の過程について探った拙稿 “Constructing and Reproducing Whiteness: An oral history of French Creoles in Trinidad” (2016) [1] と“French Creoles in Trinidad: Constructing and Reproducing Whiteness” (2006)[2] において,フランス系トリニダード人が他ヨーロッパ系白人と同一視されることが不本意であると強調していたことに端を発する.本稿では特に「ヨーロッパ系白人とは誰か」という問いを中心に,蓄積が少ないカリブ海地域の白人性に関する実態の一端を明らかにすることを目指した.そのため2016年8月と2017年2月にバルバドスとトリニダードを訪問し,ヨーロッパ系白人であると自己認識し,他者にも認識される者を対象にオーラル・ヒストリーの聞き取りを行った.本稿で引用した各島5名分の語りの分析から明らかになったのは,バルバドスのヨーロッパ系白人は自身の混血の事実を隠そうともせず,身体的特徴が許す限りバルバドス社会ではヨーロッパ系白人として認識され,ヨーロッパ白人として名乗れるということである.他方,白人としての純血性が重視されるトリニダードでは,ヨーロッパ系白人は自身の混血の可能性を否定し,異人種間結婚に嫌悪を示す者が多かった.バルバドス総人口の2.7%,トリニダードの総人口の0.7%しか存在しないヨーロッパ系白人が,今後も「白人」であり続けることは,特にこのグローバル化が進んだカリブ海地域では困難である.そのような状況下においてなぜヨーロッパ系白人としてのアイデンティティを強固に持ち続けるのか.それについては,後続研究としてヨーロッパ系白人と非ヨーロッパ系白人の交流に注視していきたい.

  • 行方 衣由紀, 日色 啓仁, 金江 春奈, 吉野 彩子, 風間 章寛, 濵口 正悟, 田中 直子, 田中 光
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 701-707
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

    野菜や果物に含まれる植物化学物質であるellagic acid(エラグ酸)がマウス摘出心室筋の筋小胞体へのCa2+取込と筋収縮に与える影響を検討した。Ca2+感受性蛍光プローブを取込ませた単離心室筋細胞において、アドレナリンβ 受容体作動薬のisoprenaline は非興奮状態での蛍光強度比を低下させた。この低下はアドレナリンβ受容体遮断薬のpropranolol および筋小胞体Ca2+-ATPase 阻害薬のcyclopiazonic acid により著明に抑制された。Ellagic acid は非興奮状態での蛍光強度比を低下させた。この低下はcyclopiazonic acid により完全に抑制されたが、propranolol によっては影響されなかった。摘出心室筋組織標本において、isoprenaline は収縮力を増大させ、弛緩時間を短縮した。強心配糖体のouabain は、収縮力を増大させたが、弛緩時間に影響を与えなかった。Ellagic acid は、弛緩時間を短縮したが、収縮力は変化させなかった。Cyclopiazonic acid 存在下では、ellagic acid の作用は消失した。摘出右心房標本において、isoprenaline は拍動数を上昇させたが、ellagic acid は拍動数に影響しなかった。Ellagic acid は、心筋の筋小胞体へのCa2+取込や筋弛緩を促進する一方、心筋収縮力や拍動数には影響しないことが判明した。心筋に対して従来の強心薬と異なる作用様式を有するEllagic acid は、心筋の長期的機能維持に有用である可能性がある。

  • ―ブルガリア・ジャマイカ・べトナムの三学習者の事例研究―
    伊藤 みちる, 工藤 理恵, 徳増 紀子
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 752-792
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     1965年の発足以来,日本政府の国際協力事業である青年海外協力隊は「日本語教師」隊員を継続的に世界の様々な国・地域に派遣してきた.2018年9月末までに累計2000人弱の派遣実績があり,公的事業として日本語教育支援を続けてきた.近年,特に隣国の政府主導の言語・文化学習施設の建設が世界中で見られるようになり,国内外の日本語教育に関する成果の数値化が盛んに行われている.本稿は,日本語教育の成果として,それら数値化された成果だけではなく,公的な日本語教育支援に関わった元学習者と元教師である当事者の立場から日本語教育の質的な成果に着目し,その成果を問い直すことを目的としている.

     本稿は,青年海外協力隊の日本語教師として2年間,それぞれブルガリア,ジャマイカ,ベトナムで活動した3名が,その個々の支援の姿に注目し,当事者の観点から,質的な成果を長期的視座に立って記録しようと試みたものである.協力隊活動を終え10年以上が経過した現在,当時の元学習者が,日本語を学習していた当時をどのように捉え,その後の歳月をどのように過ごし,現在を生きているのか.それぞれの国で日本語教育の現場における当事者であった元学習者と元教師という立場で,当時から現在までを振り返り,その成果を記録する.本研究は,長期的視座に立つというこれまでにない新たな視点で,青年海外協力隊に代表される公的な日本語教育支援の質的に示される意義を,海外における日本語教育の成果として示すことを目的とするものである.

     結論としては以下である.ブルガリアは公的支援を一定期間受けた後に,支援が終了し現在は被支援国ではなくなった.また,ジャマイカは公的支援により安定した日本語教育支援体制が整えられ,徐々に規模を広げつつある.そして,ベトナムは当時,公的支援が中心となり日本語教育を支え,現在は世界有数の日本語学習者数を誇る.このような多様な背景を持つ3カ国において,公的支援による日本語教育を長期的に実施する意義が同様に認められた.

  • 藤岡 由美子
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 793-800
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     臨床では一度は治癒したかにみえた腎病変が長い潜伏期間を経た後再発し,腎不全に進展する症例が頻繁に経験される. しかし,その様な病態を再現するモデルはこれまで限られていた. 先行研究において,糸球体上皮細胞傷害が軽症でも後に傷害したメサンギウム細胞病変の増悪により進行性腎炎が惹起されたとの報告を基に,双方の細胞を同時期に傷害した場合どのような病変が起こり得るかを検討した.

     メサンギウム細胞を標的とする抗モノクローナルThy1.1 抗体(1-22-3)と糸球体上皮細胞を標的とする抗nephrin 抗体(5-1-6)を同時に1 回で注入したところ,相乗的な大量の蛋白尿が発現した後,一度は鎮静化したものの,3 ヶ月後に再び出現した後は9 ヶ月まで徐々に増加するという特徴的な蛋白尿の経過を辿る腎病変が惹起された. 9 ヶ月後の光学顕微鏡像では,糸球体硬化,尿細管の萎縮及び細胞浸潤を伴う間質の線維化を確認し,蛍光顕微鏡では糸球体内にI 型collagen の沈着を,電子顕微鏡像では足突起の消失と尿細管間質でのcollagen 線維の沈着を確認した. 蛋白尿が再発する3 ヶ月後では,光学顕微鏡像で、既にメサンギウム細胞の増殖が僅かに観察され,蛍光抗体法では糸球体内I型 collagen が沈着していた. 一方,各々の抗体を単独で投与した群では,何れも一時的な蛋白尿を伴う可逆性の腎病変に過ぎず,光学,蛍光,電子顕微鏡像の何れも特徴的な病変は観察されなかった. これらの結果から,メサンギウム細胞と糸球体上皮細胞には相互的な保護作用がある可能性が示唆された. これまでに抗体を1 回注入しただけで進行性腎病変を惹起させたモデルはなく,今後はこの新規な病態モデルの精度を高め,徐々に進行する腎病変のメカニズムや治療法の解析へ使用されることに期待している.

短報
報告
  • 手呂内 伸之
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 1-3
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

    根粒菌は宿主マメ科植物に感染し根粒を形成し,窒素固定を行う.この根粒形成には植物ホルモンが関与することが近年,研究されてきている.特にその中でサイトカイニンの情報伝達系が根粒形成機構に関係していることが示されている.本研究はサイトカイニン情報伝達系遺伝子の根粒菌の感染に伴うマメ科植物における組織特異的な発現の研究のための最適な組織固定法の探究することが目的である.

  • ―物語とは言えないテキストの場合―
    大喜多 紀明
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 4-13
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     従来,裏返し構造は,異郷訪問譚にみとめられる構造上の特徴とされてきた.本稿では,異郷訪問譚ではなく,そもそも物語とは言えないテキストである,「お悔やみの手紙」をテキストに,裏返し構造がみとめられるかの調査を行った結果,当該テキストが裏返し構造により構成されていることが明らかになった.併せて,本稿では,手紙という形式に異郷訪問譚的な性質があることにより,裏返し構造が発現するという仮説を提示した.

  • ―テキストにおける記載内容に注目して―
    杉山 実加
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 14-19
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     これまでの研究において,保育者養成段階の「保育・教育課程論」で使用されているテキストにおいて,計画の連続性への意識がほとんど見られないことなどが指摘されてきた.2018年4月には,新たな幼稚園教育要領・保育所保育指針が施行され,保育者には「カリキュラム・マネジメント」が求められていく中で,養成段階においても,教育課程や指導計画について十分な知識や技術を身に着けることが求められる.そこで,本論文では,2015年から2017年の間に出版されたテキストの記載内容を分析し,編成の目的や意義,各指導計画の連続性に即した作成方法について,どのように解説が行われているのかを検討した.結果,計画の必要性において,保育者間の連携や省察の手がかりとなる記録という部分をきちんと明記していた書籍は一部であること,長期的計画と短期的計画の関連性については全てのテキストで解説が行われていたが,その実際について,資料をもとに具体的に解説したテキストは少なく,解説されている場合も特定の記載内容のみを扱っている場合が多いことを明らかにした.

  • 井上 美沙子, 守田 美子, 池頭 純子, 広瀬 友久, Gordon Liversidge, Oliver Bigland, 榮 光子, ...
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 46-49
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     本プロジェクトでは,社会に求められるグローバル人材を養成するための英語教授法として,英国オックスフォード大学で開発されたEnglish as the Medium of Instruction (EMI)の導入の可能性を模索した.具体的には,オックスフォード大学で行われた教員研修プログラムに,大妻中学・高等学校の英語教員を派遣し,教授法を習得する試みとともに,EMIの提唱者の一人である,ジュリー・ディアデン氏を招聘し,大妻中学・高等学校の教員で,英語に限らずEMIに関心のある教員および大学の教員に対しての講習を実施し,今後のEMIプログラムの日本での導入の可能性を探った.

     EMIの導入については,複数の教員による総合的な取り組みが必要と考えられ,今後日本の教育事情に合ったEMIの導入については,さらに継続的に研究が必要であることが明らかとなった.

  • 森岡 修一
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 61-74
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     これまで継続して,ロシアの民族文化および教育政策の分析に取り組み,教育改革と教師教育の現代化に焦点を当てた海外学術調査の研究過程で,「補充教育」と「教師教育」との関連性,ならびに学校教育の枠内でのみとらえられることの多かったヴィゴツキーの心理学・教育学理論が,「補充教育」に対しても重要な理論的視点を提供していることが明らかになった.今年度は,数年間にわたる学術成果を集大成するとともに,当研究グループメンバー(NIKORS)と懇意である著名なロシア人研究者,スクボルツォフ教授(ウリヤノフスク国立教育大学)とコサレツキー教授(高等経済大学教育研究所学校社会経済発展センター長)両氏による招待講演とシンポジウム(筑波大学茗荷谷キャンパス)を開催した.

     とりわけ,2014 年のロシア連邦政府政令『子どもの補充教育の発展構想』(岩﨑正吾・早稲田大学大学院教授,森岡共訳)は,昨年に構想案2014~2017 年の第一段階が終了し,18 年から2018~2020 年の第二段階に突入するタイムリーな時期ということもあって,補充教育の今後の展望と実現の予測等について両教授との白熱した議論を展開できたことは大きな成果であった.計4 日間にわたるシンポジウムおよび長時間にわたる質疑応答によって,補充教育の具体的な問題点を解明することができ,さらにヴィゴツキー学派に対する高い評価と補充教育の今後の課題が明らかになった.われわれが,長い年月をかけて準備してきた日ロの学術交流も軌道に乗り,ヴィゴツキーと補充教育との関連性,ならびにヴィゴツキーの理論的貢献等に関しても新たなデータや知見を得ることができ,今後もさらに研究を深化させていきたい.

  • ―パール・バック『大津波』と戦後冷戦期日米文化関係―
    鈴木 紀子
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 82-96
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     本報告は,アメリカ人作家パール・バック(Pearl S. Buck)原作の短編小説,『大津波』(The Big Wave, 1948)と日米両国の戦後の関係を追究する研究の初期報告である.『大津波』は,1962年,日本とアメリカの合同製作により映画公開されている.ノーベル賞受賞作家で世界的知名度を誇るバックが日本を描いた作品として,その映画化は当時日米両国で話題となった.だが,残念ながら現在日本ではこの映画は視聴可能なフィルムが残っておらず,今や一部の人に「幻の映画」として知られるのみで,人々の記憶から消滅しようとしている.本稿は,筆者のアメリカでの調査を基に,この「幻の映画」の製作過程と内容に係る詳細を記録することを主眼とする.

     本研究の最終目的は,原作および映画,そしてテレビドラマとしての『大津波』の,第二次世界大戦後アメリカの対日民主化政策および冷戦文化外交政策との関係性を明らかにすることである.この作品は,戦後占領下日本およびドイツで民主化政策のための教育材料に選ばれていた.また,戦後1950年代終わりまで,アメリカではアジアを主題とする文学や映画などのアジア表象が多数創作され「冷戦期オリエンタリズム」を形成していたが,1956年にテレビドラマ化,そして1962年に映画公開されたこの『大津波』は,同時代アメリカの冷戦文化を形成する一役割を持っていたと考えられる.一方日本でも,この作品は津波が戦後の日本人にとって敗戦と占領の象徴となり,日本人読者に特殊な受容と解釈をもたらす.

     このように,『大津波』は日本とアメリカの「戦後」に密接な関係性を持つと考えられる.本稿は,その研究の初期段階報告として,現在までに明らかとなった情報の記録と考察を行い,最後に今後の課題と研究の展望を示す.

  • ―大妻マネジメントアカデミーにおける実践―
    井上 俊也
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 97-105
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     正課外のキャリア教育プログラムである大妻マネジメントアカデミーは,学生への教育機会の増加を目的に2016年度に学生がスマートフォンやパソコンを使用するeラーニングによる講座を開始した.その後,eラーニングによる講座を増加させ,2017年度には「時事問題・一般常識対策講座」「英単語クイーン」「英単語テスト」という3つのプログラムを実施した.eラーニングがシステムとして備えているLMS(Learning Management System)により学習状況が可視化されることになった.定時に問題が送られてくるプログラムでは学習の習慣化が定着する一方,主体的に取り組まなくてはならないプログラムでは学生の離脱が起こり,学習の可視化がネガティブに作用するケースも見られた.今後は学生の意欲に応じたeラーニングシステムの機能改善が必要である.

  • ―子どもが主体的に学ぶ授業づくりを目指して―
    藤澤 憲
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 106-115
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー
  • 本田 周二
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 126-130
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     本研究は,世代間比較によって友人関係の特徴について明らかにすることを目的とする.友人関係は日々の生活を営む中で重要な関係性の一つとして考えられており,心理学の分野においてこれまで数多くの研究が蓄積されている.しかし,友人関係研究には「友人」の定義が不一致のまま研究が蓄積されているという批判や,友人関係研究のほとんどが,児童期,青年期を対象に行われており,知見の一般化可能性に問題があると指摘されている.そこで,本研究では,ウェブ調査を用い,20代~60代までの多世代を対象とし,世代間による友人関係の概念整理および特徴について検討することとした.200名を対象としてウェブ調査を行った結果,学生時代から付き合っている友人の数と携帯電話に登録している友人の数は,前成人期(23歳~34歳)が多いという結果など世代間による違いがいくつか見られた.一方,異性の友人の数,学生時代以降から付き合い始めた友人の数,そこまで仲良くないけれども付き合っている人の割合は発達段階による違いは見られないなど,世代間で共通している特徴も明らかとなった.今後は,質問紙調査やインタビュー調査など他の調査手法を用いて同様の結果が得られるのかについて検討することや青年期のデータとの比較を行うことによって世代間の友人関係の特徴をさらに整理していくことが重要であろう.

  • 学年差および理想とするライフコース別の検討
    戸田 里和, 岩瀬 靖彦
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 131-136
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     本研究は,女子大学生のキャリア意識をCAVT(キャリア・アクション・ビジョン・テスト)を用いて解析し,学年差ならびに理想とするライフコース別のキャリア意識を明らかにすることを目的とした.女子大学1年から4年生の307名を対象とし,理想とするライフコースと厚生労働省「第15回出生動向基本調査」を比較した.その結果,本対象者は代表サンプルと分布がほぼ一致していた.学年差の分析結果は,「1・4年」は「2・3年」よりビジョン得点が高値を示し,アクション得点では,「4年」は「3年」より,「1年」は「2・3年」より高値を示した.「1・4年」は「2・3年」に比べ,キャリア意識が高いことが示唆された.理想とするライフコース別の分析結果は,アクション得点では有意差がみられない一方で,ビジョン得点では,「両立・非婚就業」は「わからない・専業主婦」より高値を示した.「両立・非婚就業」を選択した女子大学生は,「わからない・専業主婦」の女子大学生に比べて,将来設計に対する意識が高いことが示唆された.

  • 生田 茂, 遠藤 貴裕, 富山 仁子, 石飛 了一, 坂井 直樹, 板倉 恭子, 藤枝 沙織, 中富 玲, 五月女 智子, 大島 真理子, ...
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 137-178
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     児童生徒の「困り感」の軽減を目指して,「マルチメディアを扱えるドットコード」と「Media Overlays 機能を付加した電子書籍」の手作り教材を制作し,教育実践を行う取り組みは,平成 28年度の府中けやきの森学園と筑波大学附属大塚特別支援学校の公開研究大会で「一緒に取り組みたい」と手の上がった 50 名近くの特別支援学校の先生を加えて,全国の 180 名近くの先生とともに,平成 29 年度も大きく展開された.新しく開発された iOS 用のソフトウエアや Bluetooth 機能を有するスキャナーペンも含めて,それぞれの学校の自分の担当するクラスの児童生徒一人ひとりの困り感の軽減を目指して,オリジナルの手作り教材を制作し,教育実践が取り組まれた.平成29 年の8 月より取り組まれた IGI-Global 社の Handmade Teaching Materials for Students With Disabilities の本作りは,審査済みの 15 報の Chapter paper を集めることができ,印刷の工程に進めることができた.この本には,日本国内から8報の研究論文が掲載されており,日本の特別支援教育の取り組みを世界に発信する貴重な機会を作り出すことができた.また,平成 30 年4月には,サウジアラビアの教育省より招待を受け,6th International Education and Forum (Teaching and Learning for Early Childhood Education 2018) で2回に渡ってワークショプ(Let’s Create Hand-crafted Contents for Children Together)を行う機会を得るとともに,ひと回り大きな国際的な取り組みを生み出すことができた.本報では,平成 29 年度に全国の学校で取り組まれた「手作り教材の制作と教育実践」について報告する.

  • 武藤 哲郎
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 180-188
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     ひと昔前,日本の大学の英語教育は原典講読(英文学作品を日本語に正確に訳す)によって行われてきた.ところが,英語を「聞いて話す」日常会話に重点が置かれなかったため,この教育方法は「大学を出てもろくに英語が話せないのではないか」と当時参議院議員であった平泉渉氏によって批判を浴びた.この教育方法の擁護に回ったのが上智大学英文科教授の渡部昇一氏で,彼は重要なのは「顕在性」ではなく「潜在性」で,目に見える効果は上がっていないが日本語と格闘する知的訓練を教えてくれたと述べている.この論争は二人の思惑に反して「実用」か「教養」かに簡略化され,平泉氏には企業そして中学・高校のPTA関係者が賛成にまわり,渡部氏には現職の英語教育関係者が応援にまわって,まさに平泉=渡部論争として日本をそして世界を巻き込んだ大論争に発展していった.

     以来,日本の英語教育は「コミュニケーション力」に重点を置いた「実用」に定着して久しい.ところが2021年度からの入試改革では「センター試験」が「大学入試共通テスト」として学力の3要素「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を多面的・総合的に評価するものへと転換することが目指されている.「思考力」と「判断力」の見直しについては,国語において論述式の問題が課せられることからもいかに文科省が力を注いでいることが窺える.裏を返せば,「実用」に走って英語の「読み」をおろそかにしてきた付けが回ってきているのである.今の若者は自分の言葉で考えようとしないし,言葉の大切さを意識することもない.日本の古くからの英語教育,それは英語を正確な日本語に置き換えることによって言葉の大切さを認識する訓練であった.何故なら言葉が人間の思考を可能にする唯一の手段であるから.考えてみると日本の英語教育は数奇な運命をたどってきたことになる.英語を「読む」ことによって英語力を,そして正確な日本語を,最終的には思考力を培ってきたのである.

     ところが,日本の大学における英文学系授業は今や敬遠され,そのコマ数も激減の一途をたどっている.授業で英文の訳読をするのを学生は一様に嫌がる.教員はそれに敏感に反応して大意を捉えることでお茶を濁し,学生に言葉の訓練をさせることを省略してしまった.それに拍車をかけるのが,英文学をやっても「役に立たない」という日本の企業を中心とした社会通念である.こうした議論は不思議とイギリスやヨーロッパの国々では起こらない.自国の文学を大事にしてきた国柄の違いなのかもしれない.オックスフォード大学英語コースのエマ・スミス教授にこのことを話すと,‘Very interesting!’という言葉が返ってきた.彼女の言葉には日本の風潮を肯定する意味はもちろん含まれてはいない.

     オックスフォード大学のエマ・スミス教授とのインタビューでは大きな収穫を得ることができた.一つはオックスフォード大学の成績評価の方法である.試験問題の作成から,評価に到るまでの過程の説明を聞くといかにオックスフォード大学が世界第一のレベルを維持しているのかが理解できた.さらに,入手困難な実際の試験問題の提供を受けていかに学生たちが高いレベルの評価基準をクリアしているのが確認できた.「単位の実質化」あるいは「学習成果の可視化」という言葉はもちろん日本の第三者評価においてのみ使われる言葉で,オックスフォード大学の成績評価にはそう行った類の言葉は存在しない.言葉として存在していないが,「単位の実質化」「学修成果の可視化」という言葉こそないが,それに相当する手段あるいはそれを担保する行為が遠い昔から行われ続けていることが確認できた.「顕在性」と「潜在性」という言葉で置き換えるのなら,「顕在性」は言うに及ばず「潜在性」をしっかりと持った学生をオックスフォード大学は育成しているのである.

  • 田中 優
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 428-434
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     本研究では,スカウト教育法の効果測定の可能性を確認することを主眼とし,ボーイスカウトの年間活動のメインイベントである夏季キャンプについて,11都県のボーイスカウト124名(男子:101名,女子:23名)を調査対象として,①生きる力,②リーダーシップ,③自尊感情,それぞれの変化について,キャンプの事前事後での比較を行った.その結果,夏季キャンプへの参加により,①生きる力,生きる力を構成する「心理的社会的能力」,「心理的社会的能力」を構成する「積極性」「視野・判断」が,また,②リーダーシップ,リーダーシップを構成する課題遂行機能と集団維持機能が,そして,③自尊心のそれぞれが向上していた.これらから,ボーイスカウト教育の2大教育制度である「班制度」と「進歩制度」は,生きる力やリーダーシップを高めることに寄与していることが示唆された.

  • 榎本 恵子
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 435-439
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     王太子グラン・ドーファン(ルイ14世の長男)が古典ラテン喜劇作家プラウトゥスとテレンティウスを読んでいたという事実に多くの研究者たちは驚きと不可解さを提示している.事実,「喜劇の父」であり「ラテン語日常会話の師」と称され評価されているにもかかわらず,古典ラテン喜劇作家の扱いは当時の教育機関によって異なっていた.本稿では,文学,芸術,演劇,建築等の様々な分野でのメセナとして君臨した「偉大なる世紀」17世紀フランスを統治したルイ14世の王太子教育において古典ラテン喜劇作家が重要な位置を占めていたことを調査確認した報告である.

  • ―情報活用能力と自立・共生・社会参加に視点を当てて―
    藤澤 憲
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 440-445
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     知的特別支援学校における絵本活用(絵本の読み聞かせ)の取組の主な様子と教員のアンケート調査結果から絵本の読み聞かせが情報教育の取組として十分成立するのかについて情報活用能力の3つの観点から考察し,さらに和歌山県教育委員会(2011)の『市民性を育てる教育』の「市民性」を構成する3つの要素(自立,共生,社会参加)から成果や課題を考察した.その結果,絵本の読み聞かせでは,必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し,受け手の状況などを踏まえて発信・伝達できる能力が求められるなど効果的な情報教育の取組となることが示唆された.また,子ども自ら絵本の読み聞かせをしたり,友だちから褒めてもらうことにより自尊感情を高めることができたり,読み手の問いかけに応答したり,質問したりするなど読み手の友だちとのやりとりを深めたりすることにより,自立や共生の要素にも十分寄与することが示唆された.一方で,社会参加の観点から地域に参画する視点が取組の中では弱いことが示唆された.

  • ―平成29年度の「灰干しがつなぐ地域再生ネットワーク」の展開―
    干川 剛史
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 446-478
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     本稿では,熊本地震を契機にして「灰干しフォーラム」を中心に展開して行く「灰干しがつなぐ地域再生ネットワーク」を対象にして,東日本大震災被災地の南三陸町や気仙沼市及び熊本地震被災地の南阿蘇村などの地域で参与観察を中心とした現地調査を行い,その実態と課題を明らかにする.                そこで,まず,1.東日本大震災被災地の南三陸町「福興市」での「桜島灰干し」と「熟成たかはる灰干し」の宣伝販売による参与観察に基づいて被災地復興の現状を把握する.次に,2.参与観察と聞き取り調査によって「気仙沼灰干しの会」による「気仙沼フカの灰干し」(仮称)の商品化・事業化の進展と今後の課題を明らかにする.他方で,3.「平成28年 熊本地震」被災地の阿蘇地域における灰干しづくりによる地域再生の可能性について参与観察を通じて考察する.そして,4.震災被災地(気仙沼市・阿蘇地域)と火山災害被災地(高原町・都城市等)が連携して展開する「灰干しがつなぐ地域再生ネットワーク」の関係構造を「デジタル・ネットワーキング・モデル」によって描き出した上で,「地域連携デジタル・ネットワーキング」の有効性を検証し,被災地復興を含めた地域再生のためのよりよい地域連携の課題を提案する.

  • 山蔦 圭輔
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 479-487
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     本研究では,男子大学生を対象に,身体像不満足感が食行動異常に与えるプロセスについて,男性の女性性を鍵に検討を行うことを目的とした。ここでは,まず,女性性の高さにより男性(n= 184)を女性性高群(n= 97)・女性性低群(n= 87)に群分けを行った。つぎに,女性を対象として実施された先行研究で示されている,身体像不満足感が食行動異常に与える影響性と同様のプロセスを想定したモデルについて,群ごとに,適合度を確認した。構造方程式モデリングによるパス解析を実施した結果,女性性高群においてモデルの適合度が高いことが確認された。一方,女性性低群では,モデルの適合度が低いことが確認された。身体に関する他者評価不満足感から食物摂取コントロール不能との関連はなく先行研究ならびに女性性高群とは別のプロセスが想定された。以上のことから,男性では,女性性が高い場合に,女性の食行動異常が発現する心理的プロセスと同様のプロセスが想定できる可能性が推測された。

  • 加藤 淳
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 504-507
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     わが国では,18 歳人口の減少により,大学経営がますます厳しくなることが見込まれている.そのため,大学は自らのイメージアップを企てたり,その独自性をPR するなど,自らの生き残りをかけて,学生募集に尽力しなければならない.逆を言うならば,大学の社会的評価を下げるような問題が起きることは,すなわち,学生募集に大きく影響を与える.本稿では,組織不祥事を大学経営に関わる問題として捉え,大学とその内部の組織成員について取り上げながら,「道徳」と「道徳的リーダーシップ」について論考した.しかしながら,現在わが国で社会問題となっている,日本大学アメリカンフットボール部フェニックス反則タックル問題を見る限りにおいて,筆者の言うところの「都市圏の大規模な大学であるならばともかく」という言葉すらも虚しく聞こえるかもしれない.しかるに,組織不祥事を防止するために,組織内部の組織成員の「道徳」と学園組織の上位層の「道徳的リーダーシップ」に期待したい,という筆者の考えは性善説に過ぎるだろうか.

  • ―D・ケアヴェアマヒと後藤医師親子―
    古川 敏明
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 508-510
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     本報告はハワイ語新聞に関する調査の4年目の研究成果として,19世紀末に日本に滞在していたハワイ先住民,デイヴィッド・ケアヴェアマヒによる旅行記の内容について予備的な分析を行う.ケアヴェアマヒはハンセン病治療のため来日し,日本人の医師である後藤昌文・昌直親子の治療を受けるために日本に滞在していた.滞在中にケアヴェアマヒが当時の日本を観察してハワイ語で記した旅行記は,複数のハワイ語新聞で「日本からの手紙」として掲載された.19世紀末に日本を訪れたハワイ先住民といえば,ハワイ王国のカラーカウア王が知られているが,ケアヴェアマヒのようないわば一般のハワイ先住民の日本滞在は論じられてこなかった.本稿ではこれまで注目されてこなかったハワイから日本への人の移動に光をあてる.

  • ―自尊感情と自己効力感に注目して―
    彦坂 令子, 戸田 里和, 岩瀬 靖彦
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 511-516
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     本研究は,栄養士養成施設卒業生の現状を自尊感情と自己効力感を用いて検討し,女性管理栄養士が有するキャリア発達上の課題を探った.その結果,女性管理栄養士の自己効力感については,一般的な傾向が見られ,自尊感情と自己効力感には正の相関が確認された.得点化された自尊感情と自己効力感がどちらも低い者は,7.6%存在した.自由記述からは,社会復帰への不安や,育児・家族のケアなどの家庭内の課題による個人的な要因,保育園不足による社会的な要因が確認されたが,半数以上は無回答であった.今後の課題としては,継続調査の必要性と,現役・潜在管理栄養士らの自尊感情や自己効力感を向上させるためのリカレント学習や,スキルアップに関連する教育内容を充実させることが重要であると考えられた.

  • 趙 方任
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 525-536
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

      日本茶道在发展的过程中出现了诸多流派,然而,作为日本茶道源头的中国,作为茶及茶文化发祥地的中国,从唐代陆羽撰写出世界第一部茶学专著《茶经》,标志着茶文化体系的诞生开始,经历了唐代团饼茶・煎茶法(亦称煮茶法),宋代团饼茶・点茶法,元代添加茶・煮饮法,明清时代散叶茶・撮泡法(亦称冲泡法),直到二十世纪九十年代兴起于港台,如今已经流行于全国的茶艺,在中国茶文化漫长的历史当中,我们却找不到任何“流派”的踪影.

      其原因在哪里呢?本文从下面四个视角探讨了其原因,同时分析了中日茶文化的异同.

    1)创始人.

    2)作为流派思想根基的理念.

    3)组织构建.

    4)教育体制.

      笔者认为,茶道流派之形成,上述四点是不可或缺的四大要素.而缺乏这四大要素,正是中国茶文化的特色和魅力之所在,从这个角度讲,中国出现真正的茶道流派还需要些时日.

  • 五味渕 典嗣
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 541-548
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故以後,アカデミズムや社会評論の場面で,足尾銅山と鉱毒事件の記憶がしばしば想起されている.稿者は,2016年度~2017年度にかけて何度か足尾地域を訪れ,フィールド調査・聞き取り調査を行った.急激な人口減少に直面している現在の足尾では,銅山関連遺構の「世界文化遺産」登録を目指す動きも見られるが,そこには,「いま・ここ」を起点とし,過去の問題を「解決済み」として取り扱う記憶と記録の選択的な統制が作用している.本稿では,足尾の先行例として長崎県旧端島炭坑(いわゆる「軍艦島」)の観光資源化の問題と照らし合わせながら,現在の日本における「日本近代」の語り方とその問題性について検討し,日本社会における記憶の資本化がナショナリズムと密接に結びついていることを明らかにした.

  • ―短期間で不登校から登校に至った中学生Aの事例を通して―
    森近 利寿
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 560-568
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     これまでの不登校に関する先行研究を見ると,比較的長期間に渡り,支援者が不登校児に関わり,改善した例が多く見受けられる.本稿では,筆者が関わった不登校事例の中から比較的短期間において,不登校から登校へと導くことができた事例を取り上げた.具体的には,中学校へ入学して不登校になり,登校するまでの経過を報告し,不登校指導において大切にしていきたい留意点について言及することを目的とした.一般的に「登校刺激」をすると,さらに状況が悪化して不登校児童生徒は不登校を堅持するとされている.しかし,学校に行かず,慢性化してルーチン化したメリハリのない生活を過ごさせるよりも,不登校になり比較的早い段階で生活を変革する意思をもたせるように,不登校になった課題を早々に聞き取り,丁寧に関わって解決することにより,長期化することを防ぎ,短期間での解決につながっていくものと考えられる.

  • ―東海四県の実践状況に着目して―
    杉山 実加, 塚本 伸一
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 569-577
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,愛知・静岡・三重・岐阜の東海四県で作成されている保幼小接続に関するカリキュラム作成等の手引きにおいて,どの程度,国立教育政策研究所の見解が反映されているのか,さらには,地域の実態が考慮されているのかを明らかにするものである.本研究では,先行研究の知見を踏まえながら,カリキュラムの構成,接続期の時期,カリキュラム内容の一部の検討を行った.

     その結果,国立教育政策研究所が接続期全体を見通したカリキュラムを提示していないことから,各県の動向は,①接続期の子どもの姿や実践具体例のみを提示,②県のスタンダートとして接続期カリキュラムを提示,③参考例として接続期カリキュラムを提示するという違いが見られた.また育てたい資質・能力などの分類は,国立教育政策研究所や文部科学省が示した「三つの自立」を引用する傾向が強いものの,ほとんどの県では再解釈して名称を設定していたが,その理由については明確に述べられていなかった.また,地域の実態を踏まえた施策に関連して,各県内でこれまで進めてきた研究で用いられてきた分類や名称との関連性についても解説がなされているが,複数の分類や名称を用いることで,非常に複雑化している事例も見られた.

  • ―5つの事例を通して―
    森近 利寿
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 578-585
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     これまでの不登校に関する先行研究を見ると,比較的長期間に渡り,支援者が不登校児に関わり,改善した例が多く見受けられる.本稿では,長期化・慢性化して学校に行かないことがルーチン化した不登校児童に対して,過去に筆者が関わり,数多くの不登校経験の施設入所した児童をすべて登校に導きくことができた.その中でも比較的長期化した事例や家庭的に課題を抱えている事例を基に,不登校から登校へと導くことができた事例を取り上げた.具体的には,不登校経験のある児童を登校に導くためにそれぞれの事例を通して,登校するまでに取り組んだ内容を報告し,不登校再発防止に向けた観点から不登校指導において大切にしていきたい留意点について言及することを目的とした.一般的に「登校刺激」をすると,さらに状況が悪化して不登校児童は不登校を堅持するとされている.しかし,学校に行かず,慢性化してルーチン化したメリハリのない生活を過ごさせるよりも,環境を変え,不登校になったという経験を取り除きリセットして,登校させることが大切であると考えられる.

  • 趙 方任
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 586-594
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

      为了探讨(1)国民性格对素质教育产生了怎样的影响、(2)素质教育对国民性格的继承与延续起到了怎样的作用这两点,笔者于2017 年8 月赴吉林市、以小学教师和学生以及学生家长为对象,作了不记名实地调查。其结论如下:

      1、 国家提出的素质教育大概念,从纯理论上讲,等于是将一部分原本由家庭、社会承担的教育内容划归于学校教育范畴之内了。这是素质教育的一项新挑战,同时也将是最大的难点。

      2、 传统文化思想和国民性格的一部分内容,比如过度强调教育的实用功能和功利性、以致于应试教育热潮越来越热等等,其实已经形成了素质教育改革的抵抗势力,然而,这些传统文化思想和国民性格正是靠素质教育来完成其代代继承和延续的。这就形成了一个悖论,要推行素质教育,就需要改变一些固有的国民意识,而要改变国民意识,往往必须从素质教育抓起。从这个角度讲,素质教育不是单纯的教育改革,而是思想意识的改革。

      3、 素质教育单靠学校是不容易取得全面成功的,家庭教育的重要性绝对不容忽视。这似乎又回到了悖论怪圈――“家庭教育要依赖父母、特别是母亲,然而很多母亲的素质又很低,教育出的孩子就会低质量循环,家庭教育的低下又会反过来给学校素质教育带来负面影响”。

      4、古往今来中国一直实施的是官制教育体系,过于盲信官制的力量必将会失败。要想跳出素质教育的悖论怪圈,提供适应现代社会的、对应多元化价值观的教育模式,提供对应多种就业选择的教育机构,是国家教育体制成功的关键。

  • 杉本 亜由美
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 619-627
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     情報化,グローバル化,少子高齢化,消費社会等などの変革により,学校教育に求められている姿として,「生きる力」の育成という社会人として自立した人間を育てる観点から,文部科学省はキャリア教育を推進するに至った.

     高等教育機関におけるキャリア教育の一環として「初年次教育」が挙げられる.この初年次教育の教育プログラムを研究すべく,本稿では、2017年度の初年次教育科目における筆者の担当授業で実践した能動的学修(アクティブラーニング)の効果を検証した.

     本稿は,社会人基礎力を育成する初年次教育授業科目である「基礎力プログラムⅠ」において筆者が実践した能動的学修(アクティブラーニング)の実践報告であり,グローバルキャンパス内における異文化交流グループワークという,新たな教育プログラムを設計,運用し,その効果を,テストという客観的評価と,授業アンケートや受講生インタビューという主観的評価の両側面から検証することができた.

  • ―接客を主な業務とするアジア人ビジネスパーソンを対象として―
    杉本 亜由美
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 628-634
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     本稿では,キャリア教育の一環として実施される留学生のビジネス日本語教育に有効利用すべく,異文化間コンフリクトに対するアジア人ビジネスパーソンの対応をインタビュー調査し,トーマス&キルマンの5つのコンフリクト対処法(「競争」「協調」「妥協」「順応」「回避」)に振り分けて考察した.日本企業に勤務し,接客を主な業務とするアジア人ビジネスパーソン5名へのインタビュー内容は,これまでの勤務におけるコンフリクト経験の有無,対応方法についてであり,調査の結果,出現していたコンフリクト対処法の8割以上は「競争」「回避」であった.

     今回のインタビュー結果では,アジア人ビジネスパーソンが異文化圏の職場環境の中で,自分の意見を主張しながらも相手の要求を受け入れていることが導き出され,これらの行動は,ビジネスパーソンが日本の企業ルールである,必ずしも利益最優先ではないことや,イレギュラー判断は上司が下し責任も上司が取る,などを自分なりに理解した上でのコンフリクト対応であることに他ならないことが実証された.

  • 谷本 憂太郎, 菅野 友美
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 635-640
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     本研究では,学校教育で実施可能なフォーリン-チオカルト法を用いたポリフェノールの簡易定量法を検討した.簡易定量法には,デジタルカメラとパソコンを用いたデジタル画像解析を利用し,RGB値,L*a*b*を用いて定量の為の検量線を作成した.また,レゴブロックとLED,硫化カドミウム素子を用いたLEGO比色計を作製し,同じく定量が可能かを検討した.実際の分析試料としては紫キャベツを用いた.その結果,検討したどの検量線も良好な直線関係が得られ,紫キャベツのポリフェノール含量は分光光度計での測定値と近い値を示した.このことから,本定量法は学校教育で実施する上で,十分な精度を有していることがわかった.

  • 伊藤 みちる
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 647-659
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     大妻学院創立者である大妻コタカ先生の自叙伝『ごもくめし』は,学院の歴史や「良妻賢母を育てる大妻」という世評を培ってきた女子教育の理念が詳細に記されている.これまで『ごもくめし』は大妻学院傘下の生徒や教職員に読まれてきた他,2016 年度より本学国際センター所属留学生の講読教材として利用され始めた.本稿では,2016 年度に留学生が『ごもくめし』購読によってどのような影響を受けたかという報告[1]に引き続き,2017 年度の留学生が①どのような理由で本学を留学先として選んだか,②どのような留学生活を送っていたか,③『ごもくめし』講読の反応と感想,④本学に留学したことにどのような意義を感じているかについて記録した.結論として,本学の留学プログラムは他大学のものより格段に小規模であり,物足りなさを感じることもあるようであった.しかし全体的に,留学生は明治時代に日本女性が結婚して家庭を築いてから,様々な困難を乗り越えて創立した本学に留学したことに関して,また本学での留学体験に満足していることが明らかになった.

  • ―現代の社会思潮の影響を視野に考察する―
    王 玉輝, 敖 柏
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 696-700
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     中国の現代化社会の大転換に伴い,人々のライフスタイル,言動,価値観,文化的観念に巨大な変革が訪れた.テレビドラマによって,メディアに媒介された社会現実を現れる.文化的意味の構築のための重要なアプローチと見なされる.それは主流文化と大衆文化との言語環境の中で形成され,さらに様々な社会思潮の影響を受け,それぞれ特徴のあるディスコースを形成している.

     また,現代中国のテレビドラマにおける各種のジャンルの批評の文章は,社会思想の傾向,市場の動向,及び関連管理部門からの政策の影響を受け,批評家たちが自分の思想と見方を表明するための重要な手段になっている.

  • ―域内市場統合を事例に―
    井上 淳
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 708-720
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     本論文は,既にEU研究に適用されながらもその問題点が指摘されてきた歴史的制度主義をEU(European Union)研究に活用することができるようにするために,歴史的制度主義アプローチの操作,修正を試みるものである.

     それまで停滞していたEU統合が1980年代半ばの域内市場統合計画によって息を吹き返すと,EUに対する理論的アプローチが発展した.歴史的制度主義はそのうちのひとつであり,EU諸機関が時間の経過とともに加盟国政府に影響を与えて,加盟国政府にさらなる制度化を選択させると主張してきた.しかしながら歴史的制度主義は,政府の国益や選好に関わる前提を競合理論であるリベラル政府間主義と共有したため,議論の上で大きな制約を抱えることになった.本論文はその制約を明らかにしたうえで,EU研究に適合するように歴史的制度主義を操作,修正する.

     新たに操作を加えた歴史的制度主義は,加盟国による制度的選択が自国では解決することができない課題の「欧州的(集合的)解決」であること,それゆえに当該制度選択がゆくゆくは加盟国を拘束することを明らかにする.このような理解は,EU研究における歴史的制度主義に向けられてきた学術的批判にこたえてその問題点を克服するとともに,たとえばユーロ危機の顛末のように一度統合が停滞した後に再統合が進む理由やメカニズムを明らかにする可能性がある.

  • ―トリニダードのカーニバルを事例に―
    伊藤 みちる
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 721-730
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     世界3大カーニバルのうちの一つと謳われ,カリブ海最南端のトリニダード・トバゴ共和国の首都ポート・オブ・スペインで行われるカーニバルのパレードは,近年世界各地から参加者を迎え,国を挙げての一大イベントとなっている.一方で,カーニバル時期には国外からの観光客が激増し,街は賑わいを見せ,経済的には潤うものの,それに起因する交通渋滞や街の混雑はトリニダード・トバゴ国民の日常生活に支障を来している.さらにカーニバルのパレード参加費用高騰や治安悪化も相俟って,トリニダード・トバゴ国民はカーニバルという饗宴の周縁へ追いやられている.他方でトリニダードのカーニバルは,トリニダード・トバゴを含めたカリブ海地域のカーニバルとして,カリブ海市民や欧米に住むディアスポラたちにとっては,自らのルーツやアイデンティティを再認識するための故郷のお祭りとなっている.したがってトリニダードのカーニバルは,開催国であるトリニダード・トバゴからの参加者は減少する一方ではあるが,カリブ海地域全体の文化的な繋がりを強化し再認識させ,カリブ海市民としてのアイデンティティの共有と強化を促進するであろう.

  • ―カリキュラム・マネジメントの視点から―
    高野 成彦
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 731-751
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     平成31年全面実施の中学校における「特別の教科 道徳」の研究の現状を「カリキュラム・マネジメント」の視点から整理・分析し,課題と展望を明らかにした.道徳は「特別の教科」化により,「学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育の要」であり,「カリキュラム・マネジメント」,とりわけ,各教科等の学びとどうつなげるのかが問われている.「考える道徳」「議論する道徳」のコンステレーション(布置)を描き出してみると,「社会に開かれた教育課程」の視点に立った取組は今後の課題ではあるものの,教科横断的な取組や「現代的な課題」の取組は成果を上げつつあり,「カリキュラム・マネジメント」における「レバリッジ・ポイント」の可能性が展望できた.

  • 森近 利寿
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 801-814
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     新指導要領に掲げられてるアクティブ・ラーニングはいつの世にも,自発的学習ということで文部科学省が形を変えて方針を指導要領の中で示したものである. この中で,「主体的な学び」「深い学び」「対話的な学び」ということになるためにアクティブ・ラーニングを用いることはとても大切であると述べられている. そこで,課題解決学習を行うことにより,この3つの条件を満たすような学びを行っていきたいと考えている. 課題解決学習には,「深い学び」と「対話的な学び」はできるが,「主体的な学び」がないと自分自身で課題を見つけていかないと課題解決学習には至らない. そこで,「深い学び」になるようにし,課題解決学習に至らなければならない. 学校では日頃より一斉授業により知識の押し付けになりがちであり,自分たちが課題をもちその課題を解決しようとする主体的な学びにかけたところがあるように思われる. また,主体的な学びを得るような課題解決学習を行えば,アクティブラーニングを行うことができると考えられる. 本稿ではアクティブ・ラーニングを行う上で,「教科理科」の授業を取り上げ,主体的な学びになるように課題解決学習を行い,それらの実践例を報告する.

  • 森近 利寿
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 815-823
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     文部科学省は指導要領の改訂に伴い,道徳が教科となり特別な教科道徳となった.道徳を教科化した目的には生きるための考え方の礎になるべき道徳を教育内容の中心になるように位置づけ,決して軽んじられることなく行われないといけないとして教科化したものである.しかし,学校は,決して軽んじたわけでも,地域性をもって忌避的なイメージをもっていたわけでもない.道徳の教科性として授業を実践するのに,とても困難で,教科担任というわけにはいかず,学級担任になれば,必然的に道徳を担当することになり,学級担任としての業務もあり,道徳の果てしない教材研究が追い付かないのが現状であると考えられる.文部科学省の読書資料は道徳内容の準拠で使いやすいが,生徒の生活実態として理解することが困難なものもあるかもしれないと考えられる.そこで,本稿ではまず,ある図書館の漫画の蔵書の中で道徳の教材資料として採用できそうなものを提示する.次に,道徳内容に従った教材研究の方向性及び生徒により浸透しやすく理解しやすい道徳内容の教材資料を示し,教材資料の選定の一提案とするものである.

資料
  • 大喜多 紀明
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 75-81
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     従来,裏返し構造は,異郷訪問譚にみとめられる構造であるとされてきたのだが,旧約聖書「創世記」におけるいくつかの物語と,新約聖書「マタイによる福音書」におけるいくつかの物語には,異郷訪問譚とは言えないにもかかわらず,裏返し構造が出現する事例が見いだされた.かかる裏返し構造の出現が,聖書全般にみとめられる特徴であるか否かを検証する目的から,本稿では,新約聖書に収納された「ルカによる福音書」をテキストとし,裏返し構造を照合することにより得られた構造的知見を資料として紹介する.

  • 本田 周二
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 488-492
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     本研究では,インターンシップの教育効果にはアクティブラーニングに関連するものが含まれていると位置づけ,参加者の満足度や社会人に求められる資質・能力といった従来の研究で扱われてきた変数だけでなく,多様な側面(アクティブラーニング(外化)尺度,学業と職業の接続に対する意識)からインターンシップの教育効果を明らかにすることを目的とした.大学生を対象としたプレ・ポスト調査を行い,分析を行った.その結果,アクティブラーニング(外化)尺度については,インターンシップの参加前後で有意な変化は見られなかった.一方,学業と職業の接続に対する意識や社会人に求められる資質・能力に関しては,インターンシップの参加前よりも参加後の方が有意に得点が上昇していた.インターンシップへの参加が学業と職業の接続意識を高め,自身の自信を高める可能性が示唆された.今後は,インターンシップのプログラムや参加者の参加動機等によって分類した上で,教育効果を見ていくことにより,学生,大学,企業の三者にとって有益なインターンシップのあり方を考えていくことが重要であろう.

  • 甲野 毅
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 499-503
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,緑地保全活動が市民ボランティア,企業社員,活動を運営するNPO 法人スタッフに与える心理的影響を示すことである.そこで東京都内の2つのフィールドにおいて,上記の3つの研究対象を設定し,6 つの尺度からなるPOMS 短縮版による質問紙調査を保全活動前後に行い,比較検証した。その結果,NPO 法人スタッフの回答値の変化傾向を表すスタッフ型と,企業社員と市民ボランティアの回答値の変化傾向を表す企業市民型の2 つのタイプに分類された。活動後調査の回答値の平均値が活動前調査と比較し,緊張 ‐ 不安において下降し,疲労において上昇していることは共通していたが,それ以外の尺度では異なる結果となった。スタッフ型では,活動後調査の回答値が活動前調査と比較し,抑うつ ‐ 落ち込み,怒り ‐ 敵意,混乱において上昇し,活気において下降したが,企業市民型では,前者の尺度において下降し,後者の尺度において上昇した。企業市民型では,活動したことで身体的に疲労した以外は,森林セラピーと同様に,参加者に心理ストレスの減少や活気をもたらす傾向がある。だが,スタッフ型では,活動を運営などすることで身体的に疲労し,心理的には活気が減少し,心理ストレス度も高くなる傾向が示された.

  • ―重度・重複障害児の主体的な追視や手の動きに着目して―
    藤澤 憲
    2018 年 2018 巻 28 号 p. 517-524
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2019/07/26
    ジャーナル フリー
feedback
Top