人間生活文化研究
Online ISSN : 2187-1930
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2020 巻, 30 号
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原著論文
  • ―児童の学習過程の分析から―
    大久保 圭子
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 28-39
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/02/16
    ジャーナル フリー

     本研究は,特別支援学級に在籍する特別な支援を必要とする児童が,交流学級の音楽科の授業において,指導内容をどのように学んでいったか,個の学びに注目し学習が成立する過程を明らかにすることを目的とした.知的障害特別支援学級に在籍する小学校3年男児を対象とし,わらべうたを教材として,指導内容「はねるリズム」を扱った.方法は,ビデオの逐語記録より,対象児の言動の中で「はねるリズム」を把握しようとする姿が顕著に現れている場面を抽出し,指導内容をどのように捉えていったかを分析した.分析結果から,対象児は,自身の生活の中で涵養されてきたわらべ歌遊びの経験を支えとし,音楽の授業で何度も歌って遊ぶなかで,身体を媒介として「はねるリズム」について様々な表現を試行錯誤し,リズムのニュアンスや質感を体感し指導内容を学んでいったことが明らかとなった.

     結果より,知的な発達の遅れがあり言語活動等に課題のある子どもが交流学級(音楽)において指導内容の学びを成立させるための手だてとして,①生活文化や生活経験に根ざした教材の提供,②言語による認識を補完する手段としての身体活動の導入,③指導内容の焦点化が有効であることが示唆された.また,特別な支援が必要な子どもが交流学級で学ぶとき,個々の子どもの認知発達や指導内容を学ぶプロセスに着目し,それらに応じた手だてを講じていくことが重要であると考えられる.

  • 河野 武
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 60-80
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/02/16
    ジャーナル フリー

     発話は考えを情報として伝達するのみならず,同時に情動を表情として表出する.感動詞(間投詞,談話標識)は,事態をどのように情動的に包み込むかを表し分ける形式であり,顔の表情やしぐさと同期しつつ,イントネーションや声色・声質によってさらに精緻に言語化される.本論では,感動詞ohとahは,事態が情動的に意義づけられることへの話し手の気づきを伝え,また相手にもその認識に気づかせようとする標識であるとみなす.発話を投げかけたり相手の発話を受け取ったりするときに,発話内容がとりわけ重要で印象的なものであると感じられれば何らかの感情が点火する.止まることのない感情のありかを常に透明にしておくことで会話参加者の親密な心理的つながりが築かれる.ohとahは肌触りの異なる情感を表す.ohは衝動的・即応的な動的感情を表すのに対して,ahは感情に浸り味わう風の均衡のとれた静的感情を表す.ahは,さらに,言語文化的に広く支持されている考えや話し手と聞き手の共有知識などの背景的想定を踏まえている.さらに言えば,oh/ahには発話の述べ方に特徴的な表情・態度が伴う.ohは<生き生きとした>熱意が添えられ,ahは<満足の体>の沈潜が加わる.この発話態度がohとahの<主張>と関わる肌合いの基調を成す.oh/ahはけっして一見した場当たり的な感情表現などではなく,場面や相手の発話によってもたらされた事態が話し手にとって際立って重要で印象深いものであるとき,それに呼応して情動が働くに値するもの,つまりは「情動的関連性」をもつものと判断され,初めてoh/ahが顕現する.oh/ahの誘因は情動的関連性の内発的あるいは誘発的気づき・気づかせである.ohについては,談話の切り出し,強意,相手の発話の情報価の際立ち,自分の認知状態の変移,相手との認知的差異,相手の発話の不適切性などが契機となる.ahについては,事態の出現の気づき(理解の成立や事態との主観的一体化),背景的想定との関連づけが関与する.以上述べた立場を論証すべく,本論では,oh/ahの根幹を成す主観性がどのようにもたらされるかの機序を探求した.先行研究では,ohとahの機能的分化が満足できるほど深く考察されてきたとは言えず,また多かれ少なかれ情報の維持・管理や認知状態の変移のような客観的な機構に焦点が当てられてきたが,本論はそこを一歩踏み超えるよう試みた.

  • 松村 茂樹
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 122-133
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     世界有数の美術館である米国のボストン美術館は,東洋美術の殿堂とも称せられる.その東洋美術コレクションが,1904年から亡くなる1913年まで在籍(1910年からは中国・日本美術部長)した岡倉天心(名は覚三,1862―1913)によって整備され,充実の度を加えたことは有名である.

     岡倉は,卓越した学識を具えていたが,漢学者というわけではなかった.だが,早年からの友人で,当時上海に住んで「中国最後の文人」たる呉昌碩(1844―1927)と深く交わった長尾雨山(1864―1942)に教示を請うなどして,漢学の造詣を深めた.

     筆者は,2015年4月より1年間,ボストン大学客員研究員としてボストンに滞在し,ボストン美術館で岡倉及び長尾の中国関連事業に関する資料調査をする機会に恵まれた.そして,中国・日本美術部の図書室で,当時購入された関係漢籍類226件を調査し,「ボストン美術館中国・日本美術部図書室所蔵漢籍目録抄」を作成して,その中に,岡倉の歿後,遺族から寄贈された旧蔵漢籍39件が含まれていることを確認した.

     本稿では,これら岡倉天心旧蔵漢籍を中心とするボストン美術館所蔵漢籍を紹介し,その分析を行いたい.このことにより,ボストン美術館を東洋美術の殿堂たらしめた岡倉の漢学造詣の本質を明らかにできると思われる.

  • ―リアル店舗内での情報への満足感と知覚リスク低減効果への満足感との相関性に関する実証研究―
    吉井 健
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 202-232
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/04/09
    ジャーナル フリー

    1. 目的

     近年のインターネット,スマートフォンの発展により,消費者自身の情報探索行動が多様化している.消費者はリアル店舗とネット店舗を含むマルチチャネル環境を垣根もなく往来し,購買意思決定を行えるようになってきた.このようなマルチチャネルショッパーの行動を背景として,アパレル業界においても,自社のリアル店舗とネット店舗等のあらゆるチャネルを連携させたオムニチャネル戦略を推進する小売事業者が増えている.

     このオムニチャネルの背景となる多様な消費者行動の代表格としては,ショールーミングやリバース・ショールーミングが挙げられている.ショールーミングとは,消費者(ショールーマー)がリアル店舗をショールーム代わりにして商品と価格を確認した後で,リアル店舗内もしくはリアル店舗外にて,ネット店舗で購買する行動である.一方,リバース・ショールーミングとは,消費者(リバース・ショールーマー)がリアル店舗への訪問前ならびに店舗内においても外部サイトの情報探索を行うものの,ネット店舗での購買を行わずに,リアル店舗で購買するという行為である.このように,リアル店舗とネット店舗を往来するマルチチャネルショッパーにおいて,そのチャネルの使い分けの背景には,購買に際して認識する知覚リスクを低減する目的があると言われている.

     リアル店舗とネット店舗間を往来するショールーマーとリバース・ショールーマーに関連した消費者行動研究は進んできているものの,アパレル商品を購買する,それらのマルチチャネルショッパーの情報探索と購買プロセスに関しては,研究課題が残されている.特に,それらの消費者が,訪問したリアル店舗内でいかなる情報を収集して満足するのか,そして,いかに知覚リスクの低減を図って満足しているのか,さらには,その2つの要素がいかなる関係性を持つのかについては研究課題になっている.

     そこで,本稿では,リアル店舗とネット店舗間を往来するマルチチャネルショッパー,すなわちショールーマーとリバース・ショールーマーにおける,リアル店舗内で得る情報内容への満足感と知覚リスクを低減することによる満足感との関係性の解明を研究の目的とする.このリアル店舗内で得る情報内容については,スマートフォン等の携帯端末経由で入手するサイト情報と売場で得られる情報に焦点を当てる.

    2. 方法

     本実証研究では,設定した仮説に基づき,インターネット経由にて,アパレル商品の購買をした消費者を対象に,アンケート調査にあたった.全国に居住する20 代から50 代の女性に向けて,2018 年12 月に調査を実施した.分析対象とする消費者は,リアル店舗とネット店舗を往来する,ショールーマーとリバース・ショールーマーの中から,購買タイプによってさらに細分類した,合計628 名の4 タイプの消費者とし(①従来型ショールーマー,②チャネルスイッチ・ショールーマー,③チャネルスイッチ・リバース・ショールーマー,④ウェブルーマー),各々の分析結果を比較することで,検証を進めた.尚,分析手法としては,共分散構造分析を採用した.

    3. 結果・考察

     本実証分析の結果,以下の点を明らかにすることが出来た.

      (1)アパレル商品を購買する4タイプの消費者グループにおける,因子「サイト

       情報への満足感」,因子「売場情報コミュニケーションへの満足感」,そし

       て因子「知覚リスク低減効果への満足感」の3つの因子間相関では,統計的

       に有意な正の相関が認められた.これにより,リアル店舗内で得られる,様

       々なサイト情報や店舗従業員からのサービス・情報,そして売場のディスプ

       レイ等の情報を連携させていくことで満足感を高め,それによって,知覚リ

       スク低減を図って満足をする傾向を見出した.

      (2)購買に際して認識する知覚リスクの内容の中でも,商品の素材・品質・性

       能等の商品パフォーマンス上の知覚リスクを低減することの満足度が,4タ

       イプの消費者グループにおいて,共通して比較的高い傾向にあることが分か

       った.

      (3)4タイプの消費者グループにおいて,リアル店舗内で得られる情報への満足

       感と知覚リスク低減効果への満足感には,それぞれ,異なる傾向が見られ

       た.

     本実証分析の結果より,リアル店舗とネット店舗を往来するマルチチャネルショッパーに向けた,アパレル小売事業者のマーケティング施策案や今後の研究課題点を提示した.

  • ―第三共和政期のジェルメン・ド・スタールとオルレアニズムの再生―
    武田 千夏
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 245-267
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/04/09
    ジャーナル フリー

    第三共和政以来,フランス政治思想史研究においてジェルメン・ド・スタールには「教条主義の母」「フランス自由主義の母」という二つの呼称があった.ブロワ伯爵らオルレアニストとの関係性を重視した場合「教条主義の母」,Bコンスタンとの政治思想的親和性を重んじた場合「フランス自由主義の母」と呼ばれた.スタールの脇にいた著名な男性の思想家,政治家のうちの誰に焦点を置くかによってスタールの呼び方も異なるという状況は,フランスの男性知識人が政治思想家としてのスタールの独自の立場を軽視した史実を示す.本論文では主に第三共和政期のフランスの男性知識人によるスタール論を取り上げ,自由主義者の一派オルレアニストの「女嫌い」の傾向が「教条主義の母」「フランス自由主義の母」という呼称につながっていったこと,そして「女嫌い」のベールの背後でスタールの政治思想がオルレアニストに対して実質的な影響を及ぼし1930年代の議会主義の危機の時代に「教条オルレアニズム」が再生したこと,その結果第三共和政の時代にフランスで自由主義思想が健在だったことを明らかにする.

  • ―「水品」の歴史的変遷、理論、実践―
    趙 方任
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 268-282
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/04/09
    ジャーナル フリー

     喫茶に水は欠かすことができない.中国の喫茶文化において,茶の味をよりいっそう引き出すために,各地,各種の水を飲み比べてその品質を定め,優れた水を選び,水のランキングをつけるということを行う.そうした行為,およびその鑑定結果,判断基準などを中国茶文化では「水品」と言う.

     「水品」と言った場合,大別すると二つの異なる概念が含まれている.一つは,実際に水の品質を定める行為と,その判断の結果であり,もう一つは,「水の品質の判定基準」,つまり「良い水の基準」である.そこで本稿では,前者を「水品実践」,後者を「水品基準」と呼ぶことにする.

     今までの研究では,古人の「水品」に関する諸説の矛盾について論及したものは見当たらない.また,「水品」に関する理論面での時代変遷に応じた変化,それに伴う各時代の特徴について言及したものは見当たらない.この面で言えば,本稿は中国茶文化研究領域において,「喫茶用水」に関する初の全面的な研究になる.

     本稿は,文献を中心に,そして中国の唐・宋・明・清の四代を中心にして,喫茶文化における「水品実践」及び「水品基準」の時代特徴,そして,それぞれの歴史的な変遷について考察して行く.

     そして,本校は「水品実践」と「水品基準」について,歴代の特徴を述べた上,その時代の変遷の特徴を発見し,まとめた.つまり,「水品実践」の変遷では,(唐)ランク付けをおこない活発な動き→(宋)前時代を踏襲し,地味で新鮮味に欠ける→(明)新しいランク付けが起き,再び活発化→(清)前時代を踏襲し,地味で新鮮味に欠ける,という結果であった.一方,「水品基準」では,(唐)水は「重」を良いとした→(宋)水は「軽」を良いとした→(明)再び「重」に→(清)また「軽」に,という変遷だった.

     本稿は最後で表を作り,その原因について,下記のように分析した.

     唐代と宋代は多少の変化はあるものの,本質的には同じ喫茶法,同じ茶だった.そして明代と清代も同じ喫茶法,同じ茶だったのである.しかし,「水品実践」と「水品基準」になると,唐代と宋代,明代と清代は異なってしまい,唐代と明代,宋代と清代が同じになるのである.唐代と明代が「水品実践」と「水品基準」が同じなのは,喫茶特徴として挙げた「新しい喫茶法の確立時代」で,宋代と清代が同じなのは,「前時代の喫茶法を継承した」からである.

     また,「重」と「軽」という「水品基準」の変遷は喫茶法継承の宋代と清代は「繊細さ」を追求するので,中国茶文化では,「淡」と表現するが,「軽」水を好む結果につながったと分析した.

  • 中川 麻子
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 291-307
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/04/09
    ジャーナル フリー

     大妻コタカは学校教育のみならず,家庭婦人や一般女性に向けた多くの書籍を出版し,大正〜昭和時代における家政系教育の裾野を広げた.現在,大妻コタカの著作のうち,大妻女子大学図書館所蔵の 31冊がデジタルアーカイブ化され「大妻コタカ著作集」として公開されている.大妻コタカの功績や,当時の学校教育の内容を知る重要な資料であるが,知名度は低く,また閲覧方法への配慮に足りないサイトデザインのために,積極的な利用が妨げられていた.本研究では「大妻コタカ著作集」の活用方法を提案することを目的に,新サイトデザインと学生による作品復元を行った.

     方法としては,デジタルアーカイブを活用している既存サイト 5例から検討し,博物館データベース型,SNS型,一般的ホームページ型の 3種類のテスト用サイトを作成した.3種類のサイトについて学生を対象に調査を行った結果,「大妻コタカ著作集」の全体像を把握しやすく,学生が手軽に閲覧するには,画像を多用した一般的ホームページ型が適していることが明らかとなった.また複数のサイトをリンクさせることにより,サイトの認知度を挙げ,閲覧者の増加につながると考えられる.また作品復元等,デジタルアーカイブを積極的に教育現場に取り入れることは,学生の学びを深める手段として有用であると結論づけた.

  • ―ヨーロッパ系トリニダード人の自己認識に関する談話分析―
    伊藤 みちる
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 416-437
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/10/13
    ジャーナル フリー

     本稿は,旧英領カリブ海地域のトリニダード島を例に,ヨーロッパ系白人のアイデンティティとしての白人性構築過程の一端について,いつどのような環境でヨーロッパ系白人として認識し,それがどのように白人性の構築に関係しているのか,オーラル・ヒストリー理論をもとに考察した.2017年8月と2018年2月の現地聞き取り調査で入手した語りの分析から明らかになったのは,①他の社会構成員とは身体的特徴や社会階層が違うという認識,②植民地時代の奴隷貿易・奴隷制の当事者であるとする,他者から強要された「悪者」としての認識,③身体的特徴や「悪者」とされていることを理由とした嫌がらせやいじめ,これらの認識と経験がヨーロッパ系白人の白人としての認

    識を強めているということである.

  • ―「なぜ会田誠の絵をVOCA展に出してはいけないのか」―
    森 功次
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 457-473
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/07/15
    ジャーナル フリー

     2015年のVOCA展に,コンセプチュアル・アーティストの奥村雄樹が作品を提出しようとしたところ,事務局側から出品を拒否された.本論はこの出品拒否事件をめぐってなされた奥村と事務局とのやりとりを読み解きながら,芸術作品のカテゴリーと作者性との関係を考察する試みである.作品の作者はどのようにして特定されるのか,また,作品の見方によって作者が変わることはありうるのか.こうした問いに対して本論は,作者性をめぐる近年の分析美学の議論を援用しながら「意図」や「責任」という観点から答え,最終的に作者の芸術的達成や責任を限定する一つの原理を提案する.それはすなわち,作品制作に複数の者が関わっている場合,あるカテゴリーにおいて一方の者に芸術的達成の責任を認めつつ,同時に同一カテゴリーにおいて別の者のみに作者性を付与することはできない,という原理である.

  • ―RFIDを用いた図書館利用者動線情報の取得を目指して―
    深水 浩司
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 490-499
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/09/15
    ジャーナル フリー

     図書館における利用者行動の調査や,その調査をもとにした利用者行動を分析する研究は少ない.それは,利用者の行動情報を,観察法という手法を用いて取得する困難さがあるからである.本実験の目的は,図書館を移動する利用者が持つカード(ICタグ付き)情報を,無線技術を用いて取得できる可能性があるかを確認することである.使用する機器については,図書館ですでに用いられているRFID機器を用いた.既存の機器が転用できれば利用可能性が高まると判断したからである.今回は,基礎的な実験のため,1)カード情報を受けるアンテナの特性を分析し(受信可能な範囲を特定すること),2)アンテナ特性と共に,アンテナとカードの間で,情報取得が可能な条件(電波の水分による影響を受けない条件)を確定すること,3)利用者が書架間に入る情報を取得するために必要なアンテナ位置等の条件を確認することの3点をまとめた.その結果,1)図書館で利用しているアンテナ(貸出し返却時に机上で使用する平面アンテナの場合)には指向性が高く,狭い範囲でのみカード情報を取得できることが判明した.また,2)今回利用したRFID機器は水分の影響を強く受けるUHF波を使用しており,人体からカードをある程度離すための解決策を講じる必要を確認し,解決策の一つを提示できた.3)の利用者が書架間に入る情報の取得は,アンテナの角度や高さを調整することで検知可能であることが判明した.ただし,比較的狭い範囲での検知なので,複数のアンテナで補完する必要性も感じた.図書館で利用されている機器を使うという条件下ではあったが,移動する利用者の情報を検知することは十分に可能で,アンテナ特性を変更する(アンテナ機種自体の変更も含め)ことで,より精緻な移動情報が取得可能であることも確認できた.

  • ―「ラ・サアルのニンフ(妖精)」との関連性からー
    武田 千夏
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 500-510
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/10/03
    ジャーナル フリー

    スタールの小説『コリンヌもしくはイタリア』(Corinne ou de l’Italie, 1807)が今日欧米を中心に再評価される理由は何か.本論文ではこの小説に登場する神話的要素に着目しつつこの問いに答える.先行研究は主にコリンヌを「古代ローマのシュビラ」と結びつけて解釈するがそれはあくまでも女主人公のキャラクター構成に関するものであり,この神話的要素によってこの小説の現代性について読み取ることはできなことを指摘する.本論文はスタール自身が『ドイツについて』(De l’Allemagne, 1813)で分析の対象としたドイツ・オペラの『ラ・サアルのニンフ』をあらためて取り上げ,スタールが中世ドイツに由来する「ローレライ」を19世紀初頭に流行したこのドイツ・オペラの内容に準拠して近代的に解釈し自身の小説に取り入れた具体的経緯について明らかにする.その結果「コリンヌ 」は「特別な才能を持った女性の自由と結婚の間のジレンマ」という極めて近代的な内容を持つ神話の女主人公となり,今日ジェンダーの視点からこの小説が再び注目される直接的理由となった.

  • 石井 雅幸
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 836-844
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/10/13
    ジャーナル フリー

     科学の本質を理解する上では,科学の暫定性を理解することが求められ,その指導法を明らかにするためには,科学の暫定性に関する理解の実態を把握する必要がある.我が国における科学の暫定性の理解の実態に関しては,科学の創造性の理解が難しいことが既に報告されている.探究的な学習を行うだけでは難しいということも報告されている.G3段階から知識の単純記憶型の理科授業を行っているネパールのG11(11年生)の科学の暫定性に関する理解の実態を知ることは,我が国の理科授業を考える上で有益であると考えられる.そこで,我が国で行われている科学の暫定性に関する理解の調査問題として使われ報告されている変形NSKSテストの問題をネパール共和国の11年生を対象に行った結果,我が国の大学生,中学生,小学生と同様に科学の暫定性の理解はされておらず,特に科学の創造性は理解されていないことがわかった.

  • 吉井 健
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 978-996
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/11/14
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,リアル店舗とネット店舗を往来してアパレル商品を購買するマルチチャネルショッパー,すなわちショールーマーとリバース・ショールーマーにおいて,いかなるリアル店舗のビジュアル・マーチャンダイジング(以下,VMD と記述する)の構成要素に満足感が高まるのか,そして,VMD への満足感が知覚リスクの低減効果への満足感にいかに影響を与えるのかを明らかにすることとする.

     本分析では,設定仮説に基づき,インターネットリサーチ方法にて,アパレル商品を購買したショールーマーとリバース・ショールーマーを対象に,情報探索と購買に関するアンケート調査を行った.分析手法としては,共分散構造分析を採用し,検証を進めた.

     本分析結果より,ショールーマーとリバース・ショールーマーは,VMD への満足感を高め,知覚リスク低減を図ることが分かった.これにより,アパレル小売事業者として取り組むべき,VMD施策案と課題を提示した.

短報
  • ―レコード鑑賞会の参加者への聞き取り調査から―
    小泉 恭子
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 233-244
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/04/09
    ジャーナル フリー

     小論は,日本各地で近年増え続ける地方自治体や音楽ホールによるレコード鑑賞会が,地域の高齢者による,音楽という趣味を介したコミュニティとして創生されている状況に注目した.社会学のライフヒストリーの研究手法を用いながら,レコード鑑賞会の参加者の音楽聴取経験を解明して,歴史的・身体的な経験が公共圏でどう共有されていくかを論じた.レコード鑑賞会の参加者のタイプを3つに分け,そのうち第一のオーディオマニアへの聞き取り調査により,音楽でつながる趣味縁において,参加者同士が互いに承認関係を結んだり,地域貢献といった参加動機から社会関係資本の獲得へと活動を発展させたりする社会化の過程を明らかにした.

  • ―医薬品製造工場にて―
    数土 武一郎, 清原 康介
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 438-443
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/07/21
    ジャーナル フリー

     指差呼称は安全確認やヒューマンエラー防止を目的として,指差しを行い,その名称や状態を声に出して確認することである.我が国では,指差呼称は有効な安全対策として各業界で推奨され,医療現場や製造業等で幅広く実施されている.本研究では,医薬品製造の実生産ラインにおいて,指差呼称の実施回数を増やした際の作業員の肉体的・精神的疲労度およびヒューマンエラーの発生回数の変化について検討した.D製薬会社福島工場の製造作業員30名を対象に,1日の作業終了後に腕,口,目,足,精神の疲労度をVisual Analog Scaleにより10日間測定した.その後,作業中の指差呼称実施回数を通常の3倍として10日間勤務してもらい,同様に疲労度を測定して従前と比較した.

     その結果,指差呼称実施回数を3倍とした期間は,通常回数の期間と比較して,腕,目,精神の疲労度が有意に上昇した(p<0.05).口と足の疲労度には有意な変化は見られなかった.一方,ヒューマンエラーは全研究期間をとおして一度も発生しなかった.

     以上の結果より,指差呼称実施回数を増やすことは作業員の疲労度を増大させる一方で,短期的にはヒューマンエラーの発生回数に影響しない可能性が示唆された.ただし,本研究の調査期間は計20日間と短く,ヒューマンエラー発生回数の差を把握するには十分な観察期間ではなかった可能性がある.今後はより長期的なモニタリングを行い,指差呼称の実施回数とヒューマンエラーの発生との関係を評価していく必要がある.

  • 山岸 あづみ, 青江 誠一郎
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 943-951
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/11/03
    ジャーナル フリー

     本実験は野菜に含まれる有機酸による昆布の軟化および,軟化機構について明らかにすることを目的とした.野菜に含まれる有機酸としてシュウ酸,クエン酸,リンゴ酸,コハク酸,乳酸を用いた.昆布は10 mmol/Lの各有機酸溶液で煮沸した後,破断応力を測定した.各有機酸溶液中のウロン酸骨格を有する多糖類およびカルシウム(Ca)の測定を行った.その結果,シュウ酸溶液で煮沸した昆布は,他の有機酸溶液と煮沸した昆布に比べて有意に軟化した.昆布がもっとも軟化したシュウ酸溶液には,他の有機酸溶液に比べてウロン酸骨格を有する多糖類は多かったが,Caはコントロールと同程度であった.

     昆布の軟化とCa流出量との関係および,シュウ酸溶液で煮沸した時のCaの挙動について検証するため,濃度が異なるシュウ酸溶液とEDTA・2Na(EDTA)溶液を用いて確認実験を行った.その結果,EDTA溶液では濃度が濃くなるにつれてCaの流出量は増加したが,シュウ酸溶液では見られなかった.

     実験結果から,野菜中の有機酸による昆布の軟化度合の違いは,各有機酸の酸解離定数と溶液のpHが関係していることが推察された.また,有機酸溶液による昆布の軟化は,アルギン酸CaからのCaの離脱によって生じていることが明らかであった.シュウ酸溶液で煮沸すると昆布のCaはシュウ酸と塩を形成し,昆布に残存することが示唆された.

  • 石井 千麻
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 1008-1018
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/12/18
    ジャーナル フリー

     社会福祉事業に従事する者の確保を図るため,従事者の余暇活動や日常生活に対する支援が注目されている.しかし,介護労働安定センターの調査における,福利厚生についての施設長の回答の優先順位は下位となっており,余暇活動の費用はバブル崩壊以降減少している.一方,日本経済団体連合会の調査によると,福利厚生のニーズは高まっているが,実際の福利厚生についての考え方は施設長と一般職員の間でも開きが見られる.そこで本研究では,福利厚生として,従事者によるサークル活動を推奨する福祉施設の管理職職員6名を対象に,サークル活動の推奨の目的や,人材育成,離職予防の効果を明らかにするために,半構造化面接によるインタビューを実施しM-GTAによる分析を行った.その結果,A福祉施設では,人材育成において,管理職職員は職員の些細な変化を見逃さず,職員が自発的に行動できるように側面的に支援し見守っていたり,時間をかけてサークル活動を通じ後進を育てたりしていた.しかし,A福祉施設の管理職職員は,サークル活動による離職予防を意識してはいなかった.A福祉施設のサークル活動では職員が対等な立場で参加でき,しかも個々の職員が好む活動内容であるために,職員間のコミュニケーションも増加していた.これらの要因が職員間の凝集性を高め,継続勤務につながり,結果的に離職率が低下したのではないかと考えられる.今後の課題として,他施設の福利厚生のニーズや離職予防の対策を明らかにすることが残された.

  • Noto Misato, Ito Michiru
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 1020-1030
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2021/02/02
    ジャーナル フリー

     日本語学習を進める上で,読解力は欠かせない.学習者の読解意欲を高めるために,学習記録を用いた多読の効果が過去の研究で報告されている.本稿では,読書日記と読解意欲の関係性について,5週間のプロジェクトを通して明らかにするものである.プロジェクト参加者は,日本語学習者向けの短い本を複数読み,本を読んで学んだことを詳細に記録するという課題を与えられた.プロジェクト前後に行ったアンケートと,日記の記録内容を分析して,読解意欲の変化があったかどうか分析を行った.プロジェクト前のアンケートでは,参加者の大半が日本語での読解に前向きな感情を抱いているものの,読解に対する自信はあまり高くなかった.漢字や文法の知識の不足を自信の低さと結び付けるものが多かった.5週間のプロジェクトでは,イラストや文脈をヒントにしながら日本語の本を読み進めたという記録が多く観察された.大半の参加者はプロジェクトに楽しんで取り組めたこと,漢字の知識不足は解消されなかったものの,引き続き日本語の読解を進めることに意欲を持ったことを報告した.読解に対する自信も,全体的に向上が見られた.

報告
  • ――AIおよびIoTの社会哲学的研究に向けて――
    正村 俊之
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 1-20
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/02/16
    ジャーナル フリー

     情報化が新たな段階を迎えつつある今日,AIやIoTに代表される最新の情報技術が人間の自由の実現に繋がるか否かが問われている.この問題を考察するための予備的作業として,近代的自由の成り立ちについて検討する.最初に,自由論の論点を整理し,自由論の「分析論的モデル」「生命論的モデルⅠ(主客合一論)」「生命論的モデルⅡ(主客分離=結合論)」という三つのモデルを提示する.次に,古代ギリシャから西欧近代に至るまでの過程を辿りながら,近代的自由が「因果的必然性」「国家権力」「市場メカニズム」「近代法」という四つの構造的条件に支えられた「自由の生命論的モデルⅡ」として成立したことを述べる.そして最後に,従来のメディア概念を拡張したうえで,近代的自由を規定する構造的条件とメディアとの関係について言及する.

  • 杉本 亜由美
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 21-27
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/02/16
    ジャーナル フリー

     本研究は,効果的なピア・レビュー(学生同士の相互評価)実施法を探求すべく,筆者が担当したキャリア教育科目「秘書実務演習」の授業内で行った,人前での電話応対実践における学生同士の相互評価,すなわち,学生のピア・レビューについての調査報告である.

     人前での電話応対実践を,評価基準を明らかにした上で,教員と学生が評価することとし,学生同士で評価するにあたっては,学生同士で誰が誰を評価するのか明らかにした記名式ピア・レビュー(記名式学生相互評価)と,誰が誰を評価したのかが分からない無記名式ピア・レビュー(無記名式学生相互評価)を実施し,どちらがより教員の評価に近いのかを調査した.

     調査の結果,わずかな差ではあるが,無記名式ピア・レビュー(無記名式学生相互評価)平均値の方が,記名式ピア・レビュー(記名式学生相互評価)平均値に比べて教員評価値に近く,記名式ピア・レビュー(記名式学生相互評価)は相手に遠慮をして評価が甘くなる傾向にあることがわかった.

     ゆえに,より公正な学生同士の評価(教員の評価値に近い評価結果を導き出す学生同士の評価)を導くためには,無記名式ピア・レビュー(無記名式学生相互評価)の実践が求められることが示唆された.

  • Hiromitsu Muta
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 40-59
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/02/16
    ジャーナル フリー

     国立基礎教育学校では,留年率,進級率,退学率から就学状況を見ると,2016 年度からの現政権下では,軍事政権下と比較してはもちろん,2011 年度からの民主化政権と比較しても高校課程を除き,すべての学年で就学状況の明確な改善があった.特にKG では義務教育ではなくなったこともあり,従来の高い退学率はほとんど0%になった.

     退学者はその時期によって,年度の変わり目に進級や留年なしで退学する者,進級はするが次の年度末までに退学する者,留年をして次の年度末までに退学する者に分けられる.Grade4 以上では,退学者の半数以上は年度の変わり目に発生する.Grade3 以下では従来は各学年で留年する者がある程度いて,それらのものが退学する傾向も強かったが,特に小学校課程低学年では留年する者が減少し,進学する者が増えたが,進学をした後,学年末までに退学する者の割合が増えている.

     モナスティック学校や私立学校の留年率はどの学年でも極めて低い.退学率という観点からは,特に私立学校では計算上の退学率が各学年大きな負値を示す.これは,各学年で私立学校システム外からのインフローが大きいことを示している.そのインフローの主な源泉は国立基礎教育学校からのアウトフローで,教育統計上ではこれまで退学として分類されていた部分である.特に,中学校課程,高校課程に進学する際に国立基礎教育学校から私立学校に進学移動する者が多い.さらに,モナスティック学校においても,Grade10 からGrade11 にかけて,多くの進級移動がみられる.しかも,これらインフローの大きな学校は市部に偏在している.学寮を持っている事も進級移動を助けている.一部のモナスティック学校や多くの私立学校の高校課程は特にGrade11 で大学受験準備課程化し,その規模を拡大している.

  • ―A市における配慮・支援が必要な子どもの移行期の情報引継ぎの手引きの普及のための教員向け説明会の有効性の検討―
    大久保 圭子
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 81-91
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     A市において作成された「特別な支援・配慮を必要とする幼児児童生徒の移行期の支援継続の手引き(第1版)」(以下,手引きと称する)に係る説明会について,説明会に参加したA市立保育所,幼稚園,小学校,中学校の保育士及び教員(以下,教員等と称する)全員に対し質問紙調査を行うことにより,説明会の有用性に関する参加者の意識を明らかにすることを目的とした.

     調査結果より説明会において,参加者は手引きの目的や趣旨,個別の教育支援計画・個別の指導計画の作成の仕方,移行期における支援の引継ぎに関する1年の流れ,支援の引継ぎに関するコーディネーターの仕事について概ね理解できたと捉えていた.しかし,全ての項目において「理解できた」より「ある程度理解できた」が上回っていたことから明確な理解にまで至っておらず,実際の運用に当たり疑問が生じる可能性が考えられた.

     一方で,説明会を実施したことにより,手引きは活用しやすくなったと9割近くが捉えており,手引き活用に関して説明会の有効性が示唆された.また説明会を実施したことによる効果として,手引きを読むだけでは理解しづらかったことが説明会において説明を受けることにより理解が促進されたことや,説明会で教員等が会することにより情報共有と共通理解の場として有用であったとする意見,説明会の場で直接質問や相談すること等により疑問点が解消した等の意見などから説明会を実施したからこその成果が確認された.

     これらのことから,A市における手引きの全教員等への普及のための説明会の取組は支援引継ぎに係る組織的な対応の基盤として一定の有効性を示しながらも,説明会が制約された時間の中で行われたため伝達すべき内容が必要最小限にとどまったことなどから明確な理解に至っておらず,今後,特別支援学校のセンター的機能の一つである研修機能等を活用し,教育委員会等との連携を図りながら,移行期の円滑な引継ぎに係る研修会を企画し,理解や啓発を行っていく必要がある.

  • 中野 英之
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 92-102
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     小学校の児童を対象に行う放射線教育は難しい内容を含んでいる.このため,とりわけ小学校低学年の児童の指導は困難を伴うことが多い.また,小学校低学年を対象にした放射線教育は「管理・防護」に重点が置かれ,放射線に関する広い知識の獲得を目指したり,身近な自然や人とのつながりに立脚した視点が欠けている場合が散見される.本研究ではこうした課題を克服するため,低学年を対象に,生活科の視点に立った放射線の学習展開の構築を試みた.開発した授業プログラムは「放射線の基本の理解」「除染シミュレーションを用いた実験」「霧箱実験」からなり,具体的な活動を通して放射線と児童の生活について学習させる内容となっている.実践を行ったところ,児童は放射線の基本的な性質だけでなく放射線による被ばく低減のための取り組みや防護についての理解を深めることができた.

  • 趙 方任
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 134-145
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

      茶诗是中国茶文化的重要组成部分,同时也是研究茶文化不可或缺的资料。

      本文通过对606 首唐代全部茶诗进行整理与分析,认为唐代茶文化所涵盖的内容是由下述24 类构成的,即「茶之利用法」「茶的饮用样态」「茶人」「饮茶功效」「茶与酒」「茶烟」「饮茶用水」「火及汤侯」「名茶与产地」「贡茶」「茶之流通贸易」「茶税、榷茶制度」「茶点」「历史典故」「关于茶文化新概念的创造与记录」「茶具」「饮茶动作、行为」「茶汤之色、香、味」「饮茶之精神思想以及与宗教之关系」「茶之植物特性与栽培」「茶之生产与包装」「饮茶环境」「特殊饮茶法」「其他」。

      本文还将茶诗中的茶文化内容与《茶经》的内容进行了对比分析,得出了唐代中国茶文化的「思想与精神」这一部分基本上是由茶诗来构建完成的。另外,本文还分析总结出了唐代喝茶人的几个审美取向。

      关于由茶诗构筑的唐代茶文化的精神领域,得出下面三个结论。

      (1)不管从儒、道、释哪个角度来看,茶(饮茶)都是以 “方便品” 的形式与各个宗教或思想体系交融,从而被赋予了各种意识形态的色彩。

      (2)正因为 “茶” 是以 “方便品” 的形态出现的,所以茶文化思想体系成为一个包容性极强的 “受容体”,其内涵是儒、道、释的混合体。

      (3)在唐代茶诗中,尚未见到后世、如宋代 “吃茶去”、“赵州茶” 之类的被 “固化” 了的概念。说明茶与禅(佛教)或其他意识形态的紧密结合在唐代尚未出现。

  • 趙 方任
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 151-168
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

      “茶粥” 虽然一直都不是中国饮茶文化的主流,但却伴随着饮茶文化、出现在每一个时代。而笔者在研究中国茶文化的过程中发现,“茶粥” 的概念和样态在不同的时代、多有不同。

      本文的主旨在于通过厘清古代 “茶粥” 的诸样态,通过分析 “茶粥” 概念的历史变化,对 “茶粥” 的实质以及 “茶粥” 对中国茶文化主流饮茶法的影响等进行考察与分析。

      本文通过实地调查和文献资料分析,得出主要结论如下。

      【1】魏晋以前至魏晋时期

      茶粥主流:茶鲜叶生煮羹饮类的 “鲜叶茶粥” 是主流,并且作为商品进入市场。

      其他样态:“谷物茶粥” 也许已经出现,但尚缺乏有力证据,需进一步考证。

      【2】唐代

      变化:出现了 “茶汤茶粥 ”和 “谷物茶粥”。

      其他样态:在云南等少数民族地域,“鲜叶茶粥” 应该依旧存在,并最终延续到现在。

      【3】唐末、五代十国时期

      变化:并非熬煮,而是通过冲泡、搅拌等方法形成的 “茶汤” 也开始被称为 “茶粥”。

      影响:“以果仁类入茶汤” 的做法,虽然未被正式称为 “茶粥”,但却为宋代 “花草茶粥” 的出现打下了基础,这不仅丰富了 “茶粥” 的种类,还使 “茶粥” 文化涵盖了茶料理、添加茶、单纯茶汤等多个领域。

      【4】宋代

      变化:出现了 “花草茶粥”、“泡沫茶粥”、“乳肉茶粥” 等几个新的茶粥种类。

      茶粥主流:以(点茶时形成的)茶汤泡沫为着眼点的 “泡沫茶粥” 成为主流。

           “粥面” 等词汇成为宋代 “点茶” 审美追求的专业术语。

      其他样态:“谷物茶粥” 已经很少被茶人提及,将“ 浓茶汤” 称为 “茶粥” 的现象也少了。

      影响:北方的添加乳制品和肉类的茶粥(“乳肉茶粥”)对 “点茶” 审美造成了破坏性冲击。有宋一代,往茶中添加 “乳制品或肉类” 的添加茶(包括茶粥)成为 “点茶” 拥护者攻击的对象,但最终的结果却是 “点茶” 人气渐趋式微,“乳肉茶粥” 最终成为明代罢造龙团凤饼、散叶茶成为主流的契机之一。

      【5】明代以后

      清饮文化进一步成为茶文化的绝对主流,《中国茶叶大辞典》所说的 “以茶汁煮成的粥” 应该主要出现在这一时期。由此,“茶粥” 逐渐被视为 “茶料理”,逐步与 “清饮” 茶文化划清了界限。关于明代以后的 “茶粥” 文化,将留待后考。

  • Muta Hiromitsu
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 169-193
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/03/14
    ジャーナル フリー

     幼児児童生数規模から基礎教育学校の分布を見ると,半数以上は100名以下の学校で、極端に小さな学校が多い.しかし,学校規模が小さければ,図書室,コンピュータ室,実験室,LLなどの特別室はおろか,校長室,教員室の捻出もままならない.学校規模の小ささが校舎の効果的,効率的運用を阻んでいる.

     回帰分析の結果からも,TEOに近いアクセスの良い学校や古い学校は特別室の存在割合も高い.以前の分析でこれらの学校では教員の数や質が高い事を示したが,施設面からも教育条件が恵まれている.このように,教育条件が学校によって異なっているのは,教育の機会均等を考える上で問題である.

     学制改革によって小学校課程と高校課程でそれぞれ1学年増える.このため,新たな教室が必要になる.新たな学年の人数が少なくとも,1ユニットの校舎を増設するとなると,現在の全学校の校舎を最大24.06%増しにしなければならない.増加人数が少なければ,新しいスペースを用意せず,その他は必要最小限の施設を用意するにしても,13.83%の増加が必要である.これを新学制が完成する2028年までに完成することは費用的にはもちろんのこと,工期,学校数の多さを考えれば不可能に近い.優先順位を決めて,校舎増設を着実に施工するとしても,多くの学校で,一時的に2部制を新たに実施せざるを得ない.他方,大幅な校舎増設を機会に,効率的効果的な学校配置計画を考える好機とも考えられる.

  • 柴山 真琴, ビアルケ(當山) 千咲, タマヌーン ラスメーマスムアン, 矢野 博之
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 312-333
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/05/02
    ジャーナル フリー

     本稿では,タイ居住の泰日国際家族が子どもの複数言語形成に向けてどのような「教育戦略」をとっているのかを親へのインタビュー調査に基づいて分析した.その結果,1)対象家族の親達は,大学教育までを見据えた長期的な展望の中で子どもの小学校を選択していること,2)全家族が両親の母語(タイ語・日本語)と英語の習得を子どもに期待していたが,三言語の優先順位は子どもの通学校により異なること,3)現地校に子どもを通わせている家族では,三言語に対して多様な手段を駆使した学習支援を行っていること,が明らかになった.こうした親の教育戦略には,タイの学校教育における外国語教育強化策と居住地域の特殊性が影響を与えていると考えられた.

  • 杉本 亜由美
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 334-342
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/05/02
    ジャーナル フリー

     本稿は,企業で上司の業務補佐ができるために必要な能力を身につける,ビジネス実務教育の授業において実施した,構成的グループエンカウンターの実践報告である.

     筆者担当のビジネス実務教育授業科目「秘書学Ⅱ」における各授業内で,構成的グループエンカウンターを実施し,その効果を客観的尺度として事前・中間・事後テストの結果,主観的尺度として事前・中間・事後アンケートの結果を数値化して測定したところ,ビジネス実務教育の授業における構成的グループエンカウンターには一定の効果が見られることが示唆された.

     また,構成的グループエンカウンター実践にあたり,実施クラスの人数【A クラス(38 名),B クラス(30 名),C クラス(22 名)】は,その効果に相関があるかについても分析を試みたが,実施するクラスの人数による,明らかな相関性は見られなかった.

  • 八城 薫
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 349-352
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/05/02
    ジャーナル フリー

     我々人間にとってもっとも古くからの身近な伴侶動物と言えるイヌは,一緒にいることで心身の緊張を和らげ,人間のコミュニケーションを促進する社会的潤滑油としての役割を持つ.筆者らの研究は,近年の職場ストレスとメンタルヘルス対策を問題の所在として,職場内にイヌが介在することによるストレス軽減,メンタルヘルス向上の効果について検証することを目的として実施されてきた.具体的には,セラピー犬を職場に介在させるプログラムを作成し,職場内のコミュニケーション量の変化,人間関係の変化,社員個々人の心理的・身体的変化を検証するためのデータを収集し,犬介在の効果を検討した.本稿では,2018年度に実施された2つの研究成果について報告し,今後の課題について考察する.

  • Kenji Sakamoto
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 358-367
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/05/12
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,質的キャリア・アセスメントツール ‘My Systems of Career Influences (Adolescent)’の日本における有効性と今後の課題を検討することであった.日本の大学生 19 名を対象に,MSCI を用いたキャリア教育を 7 セッション実施した.セッション終了後,受講生に質問紙調査を行ったところ,MSCI の意義は 7 ポイントスケールで平均 5.58(standard deviation .84)であり,日本の大学生の適用の有効性が示された.今後は,環境 ‐ 社会レベルの影響を認識しづらい青年や自分の人生に対するコントロール感の低い青年の心性を明らかにし,支援アプローチを開発することが課題である.

  • ―マス・メディアと国際機関,NGO,フリーランスの共通基盤を考える―
    五十嵐 浩司
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 374-379
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/05/12
    ジャーナル フリー

     東日本大震災にともなう福島第一原発事故の報道は,日本のマス・メディアにとって災害をどう報道するかの試金石となった.記者らのリスクを回避するため退避指示を出したことが,報道する使命との相克を生んだからである.本研究はそこから出発し,テロや内戦を含む危険地をだれがどう報道するのか,また国際機関やNGOと互いに学び合えるものはないのか,考察を試みた.これまでの研究で,日本のマス・メディアのDisaster Reportingが柔軟性に欠けるとの指摘が欧米メディア 幹部から出ていたが,本研究ではこうした見方が日本駐在の経験がある欧米ジャーナリストとマス・メディア組織の枠外に置かれる日本人フリーランス・ジャーナリストの聞き取りで検証を試みた.また,メディアにもまして危険地へ赴くことを余儀なくされる国際機関やNGOがどのように派遣を決め,安全策を講じているかの聞き取りから,マス・メディアとこうした機関が共同歩調を取ることが可能なのかを考察した.

  • 阿部 惠理, 小林 実夏
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 380-384
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/05/12
    ジャーナル フリー

     妊娠期は母子の健康のために適切な食生活を営み体重増加量を管理しなければならない.つわりは妊娠期の食生活に影響を与える要因のひとつである.母子の健康の観点からは食事摂取量の減少やつわりの悪化した妊娠悪阻に注意が払われる.しかし,吐き気を緩和させるために食事を頻回摂取するいわゆる食べつわりの症状に着目した報告は少ない.本研究では食べつわりも含めたつわりの症状と栄養摂取および妊娠中体重増加量との関連を明らかにすることを目的とした.

     対象の日本人妊産婦154名(35.2±3.7歳,妊娠前BMIは20.1±2.3)をつわりの症状別に食べつわり群,変化なし群,吐きつわり群の3群に分類した.各群の妊娠初期・中期の栄養摂取状況,および妊娠中体重増加量を比較した.その結果食べつわり群は他の2群と比較し,妊娠中体重増加量が有意に多かった.妊娠初期における3群のエネルギー摂取量は吐きつわり群が少なく有意差があった.妊娠中期には吐きつわり群のエネルギー摂取量は初期と比較し有意に増加し,3群間の有意な差はなかった.

     つわりは生理的な現象であり悪阻以外は臨床的に重要視されにくいが,つわりの影響で妊娠初期の段階で食事摂取量が増した者はその後の体重管理に注意を払う必要性があると示唆された.

  • ―ルイ14世とヘラクレス―
    榎本 恵子
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 385-388
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/05/12
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は太陽王と呼ばれていたルイ14世のヘラクレスとしての表象についてその実態を明らかにすることである.

     17世紀フランスを治世したルイ14世は,太陽王としての異名で知られるが,対外政策として顕示した雄姿にはギリシャ神話の英雄ヘラクレスに表象されるものもあった.そこで,フランスにおいて国王のイメージがどのように製作されるのか,ヘラクレスがフランス国王の表象として選ばれた背景及びそれがどのようにルイ14世のイメージ戦略に適用されたのか調査・考察した.

     本稿はパリ市内,ヴェルサイユ宮殿,ルーヴル美術館,マザリーヌ図書館に現存するルイ14世の資料,オペラ『恋するヘラクレス』と喜劇『アンフィトリオン』の分析から浮き彫りになったルイ14世のイメージ戦略についての調査報告である.

  • ―ルイ14世と三つのヴェルサイユの祝祭―
    榎本 恵子
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 389-391
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/05/12
    ジャーナル フリー

     今日,アメリカのトランプ大統領,フランスのマクロン大統領のイメージ戦略が話題になっているがこれらの戦略は今に始まったことではない.改めて考えてみるとそこには「芸術の政治化」があるように思われる.本研究の目的は,そのイメージ戦略の原点の一つともいえるルイ14世のイメージ政策のうち彼が主催した祝祭に焦点を当て,国内外へのパフォーマンスを検証し,その位置づけを明らかにすることであり,本稿はその祝祭の持つ意味をまとめたものである.

  • Hiromitsu Muta
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 392-415
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/07/03
    ジャーナル フリー

     2016年に遠隔教育大学を卒業した学生を対象に,大学教育の評価を中心に,2017年2~4月にアンケート調査を実施した.遠隔教育大学の学習はキャンパスベースのレギュラーコースの学生の学習と異なり,学習時間が比較的柔軟である所から,入学前から仕事を持っていた者は49.6%と多く,在学中にも就業率は上昇し,卒業の半年後では就業率は72.8%と比較的高い.

     大学に進学した目的は,知識,技能の獲得,将来の昇進,将来の高位学位取得,コースの内容に興味があるなど,選択目的が明確である.入学前から仕事を持っていた者は,その仕事に関連するコースを選ぶ傾向が強い.大学の評価に関しては,講義はおおむね理解できた,教育内容は自分の関心と関連がある,教育にある程度満足している,と答えている.様々な形態の授業に関しては,インテンシブ・コースや講義の内容,質については比較的満足度が高く,有効であったと感じられている.様々な能力の開発に関しては,大学教育によってある程度は開発されているが,創造性,国際的視野に関する能力の開発程度は弱い.

     このコースでの学習をどの程度友人に推薦したいかという質問は,そのコースへの全般的な満足度と同じと考えられる.回答者の属性では,性別では女性,就業状況別では継続して学習している者,入学前と同一・類似の仕事に就いている者,コース別では実用的アートコース(英語,経済学)が全般的に高い評価をしている.大学教育への評価結果との関連から見ると,大学の教育が役に立ったと感じた,自分の仕事に関係があると考えたり,推薦された,コースに興味をもって意欲をもって入学した,などがプラスに寄与し,勉強に困難を感じた事はマイナスに寄与している.

  • 井上 淳
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 444-456
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/09/12
    ジャーナル フリー

     ギリシャに端を発する財政,債務危機で一部では崩壊まで懸念されたユーロだったが,現在は「真の経済通貨同盟へ」の標語のもと,それまで取り組まれてこなかった財政同盟や銀行同盟に向けた取り組みすら進んでいる.EUを分析する理論研究は,それぞれがそうした動向に対する説明能力をもつことを示すために,様々な論考を展開している.本論文は,そのうち,EU理論研究の一大学派を形成しておりEU統合を説明する「ベースライン」だと自らを位置づけているリベラル政府間主義(Liberal Intergovernmentalism)を取り上げ,その説明力を検証する.

     リベラル政府間主義は,危機後の取り組みがEU内の債権者であるドイツの国益,選好を反映したものであると議論している.ただ,多くの加盟国が参加する制度にかかる選択が特定加盟国のプロフィールで説明されるという結論は,リベラル政府間主義の特徴である選好形成,政府間交渉,制度選択という3段階のモデルを必要としない説明になりかねない.ドイツの意見が,リベラル政府間主義のいう「トランスアクション・コストが下がる」ものだと受け入れられた理由や背景を説明する必要がある.また,欧州中央銀行による国債買い入れ(OMT)決定のように,危機後の対策の全てがドイツの意見の反映ではない.こうしたリベラル政府間主義に見られる説明不足がその静的かつ短期の視座に起因するのであれば,考慮しなければならない問題である.

     そこで本論文は,経済通貨同盟の提案から今日に至るまでのEUの取り組みを概観した.歴代の経済通貨同盟に関する取り組みは,特定加盟国の国益の反映ではなく,その都度の制度選択は完全な解決でもなかった.経済通貨同盟には,経済や金融面でEUをリードしているドイツよりも,ドイツ・マルクを抑えて対称的な通貨関係を希求するフランスが積極的になっていた.ただ,その制度的なデザインは,フランスの選好,国益通りにはならなかった.それはドイツとて同じであり,各国の国益はそれぞれ部分的にしか反映・採用されていなかったのである.

     そのうえ,これまでのスネーク,欧州通貨制度,ユーロといった諸制度はいずれも「部分的」な解決,つまり未完成のまま徐々に進んできた.リベラル政府間主義は,この「部分的」あるいは「漸進的」にしか統合が行われていない事実,そしてその部分的な統合では各国の国益が単線的に反映されている訳ではないことを捉えなおすべきである.

     初期の経済通貨同盟を実施する直前にこれが破綻したのも,フランスがスネーク(フロート)を離脱したのも,欧州通貨制度が当初不安定だったが1980年代に安定に転じたのも,ドラギ欧州中央銀行総裁がOMT決定にあたって意識したのも,いずれもドイツの通貨や経済政策を評価し,フランス(や危機後はギリシャなど)の通貨や経済評価を懸念する国際金融市場・投機の存在が鍵になっている.加盟国やEUの取り組みを評価する存在がいたからこそ,「部分的」に進められた統合がそれでよしとされることはなく次の危機を招き,加盟国がそれに取り組むことが求められた可能性がある.つまり,統合の進展を説明する際に,加盟国やEU(制度)だけでは説明できない何かを説明要因に加えねばならない可能性がある.今後の研究課題としたい.

  • 干川 剛史
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 511-538
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/09/16
    ジャーナル フリー

     本研究では,まず,南三陸町と気仙沼市で参与観察とアンケート調査を継続して実施して東日本大震災発生から長期にわたる復興過程の実態と変化を把握する.次に,被災地復興に関わる諸主体間の相互協力信頼関係に基づく関係構造を「デジタル・ネットワーキング・モデル」によって可視化することで復興過程の現状と課題を解明する.

     具体的な研究方法は,以下の通りである.

     1.南三陸町「福興市」と「さんさん商店街」及び気仙沼市「海の市」の来場者
       アンケート調査

     2.「気仙沼サメの灰干し」加工品の商品化・販路開拓のための「福興市」での
       各種「灰干し」試験販売による参与観察

     3.気仙沼市での「ご当地グルメ」の試作・商品化を目的とした「気仙沼サメの
       灰干し」料理講習会・検討会による参与観察

     上記のアンケート調査と参与観察によって,長期にわたる復興過程の実態と変化を把握した上で

     4.「デジタル・ネットワーキング・モデル」によって,被災地復興の課題の解
       明を行う.

  • 金田 卓也
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 539-548
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/09/24
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,ネパールの村において,アクションリサーチとして「社会関与型アート」を実施し,その意義を発展途上国における芸術実践と芸術教育の視点から明らかにすることである.この村におけるアートプロジェクトは身近なところから入手できる竹素材を活用して貯水タンクを保護する小屋を作ることから始まったが,竹組みによる集会所の建設や大地震で崩れたヒンドゥー教寺院の神話的壁画制作も含めた復興といった形に発展し,村人のアートプロジェクトへの参加は新たな別のアートプロジェクトを生み出すことになった.

     現地調査の大きな成果は村で栽培されているウコンを染色素材として活用することの可能性を示すことができたことである.この村では栽培しているウコンを用いて縄などに着色することは知られていたが,布を染色することは行われていなかった.ウコンによる染色技術を伝えると,村の女性グループによる絞り染めが始まった.アートプロジェクトは創造的なことにチャレンジする契機が生まれ,その経験は持続可能な発展へ向けて村人たちのエンパワーメントという点からきわめて重要だといえる.

  • -「カバディ」教材の授業実践を事例として-
    厚東 芳樹, 森下 純弘
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 549-559
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/09/24
    ジャーナル フリー

     本研究では,小学校低学年(2年生)の子どもを対象に,ボール操作を伴わずに相手との駆け引きが存在する鬼遊びゲーム教材「カバディ」の体育授業を実施し,単元内で子どもたちがどのような「戦術の立案」をいくつ考えるのか,また「戦術の実行数」はどうかといったチーム戦術を事例的に検討することで,低学年で「ゴール型」ゲームにつながる戦術学習の導入可能性を明らかにすることを目的とした.

     まず,態度測定による体育授業診断の結果,男女共に比較的高い評価になった.これより,実施した「カバディ」の単元計画は低学年2年生にとってある程度妥当な内容であったことがわかる.また,「プレイ数」「戦術(ゲーム様相毎も含む)の立案数」「戦術の実行数」は,単元計画や企図した戦術的気づきに関わった内容構成とよく対応していた.これらより,実施した鬼遊びゲーム教材「カバディ」の体育授業は,低学年の子どもたちに戦術学習の「わかる」と「できる」の両面を保証できていた可能性が示唆された.以上のことから,低学年の体育授業でも「ゴール型」ゲームにつながる戦術学習を導入することは可能であることが示唆された.

  • ―2014-2016日本人の人体計測データの分析―
    中村 邦子
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 560-564
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/09/24
    ジャーナル フリー

     シニア世代の衣服には,その体型特徴やサイズに対応することが求められる.しかし,シニア用衣服は成人用衣服の延長上に位置付けられ,シニア世代独自の体型やサイズを明確に意図したものは殆んど生産されていない.日本の65歳以上の人口は3,558万人で日本の全人口のおよそ28.1%(2018年10月時点)を占めている.今後シニア世代のEコマース利用はさらに増加することが予想され,シニア世代に特化したアパレルのサイズ設定が必要である.本研究では,人体寸法・形状データベース2014-2016の手計測データを用いて日本人の特にシニア世代の男女の体型分析を行い,アパレルのEコマースに対応するサイズ展開に関わる基礎的分析を行った.

  • 青江 誠一郎
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 565-569
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/09/17
    ジャーナル フリー

     大麦由来のβ-グルカンを単離精製した素材を脂肪エネルギー比25%の中脂肪食に配合してC57BL/6Jマウスに給餌し,回腸に流入する代謝物のうち,低分子化合物をGC/MSを用いて網羅的に解析した.本結果より,大麦β-グルカンの摂取により,回腸内でも短鎖脂肪酸産生が増加すること,少糖類やアミノ酸類が多く流入することが示唆された.これらは,全て回腸のL細胞に影響を及ぼす成分であった.一方,胆汁酸濃度には差がなかった.

  • ――保育者養成校学生はどのように考えているか――
    渡辺 直人
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 575-583
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/10/03
    ジャーナル フリー

     現在,子どもの生活が懸念されている.今では昔と比較して大きく変化しており,幼児の高いスマートフォンの使用頻度,運動機能の未発達,子どもの体力低下など様々な面での変化が指摘されている.これは子どもの「生活の変化」が起きていることを表しているのではないかと考えられる.今後も社会の変化に伴い子どもの生活は変化し,生活習慣が乱れ,健康が懸念されると考えられる.子どもの規則的な基本的生活習慣の定着は喫緊の課題である.

     生活習慣はどのように定着するのか.これに関しては教育社会学の知見から説明できる.ピエール・ブルデューは文化資本を提唱した.その中でもハビトゥスに関するブルデューの主張は参考になり得よう.ハビトゥスとは「人々の日常経験において蓄積されていくが,個人にそれと自覚されない知覚・思考・行為を生み出す性向.」だという.すなわち,幼児の普段の生活を取り巻く環境が影響し,生活習慣も同様に周囲の影響から身についてゆくものであるとも説明できるのではないだろうか.

     幼児が普段過ごす場所は保育園・幼稚園であり,そこで幼児と関わる者といえば保育士・幼稚園教諭であろう.そして上述した文化資本論の考えを用いれば,保育者の意識は幼児の生活習慣の形成に大きく影響しているのではないかと考える.そこで本研究では,今後保育者を志す学生を対象に,就学前までに定着させたい幼児の生活習慣に対してどのような考えを持っているかを明らかにする.

     本研究では以下の3つの調査を行った.調査①では自由記述の質問紙調査法で問うた.レポート用紙を配布し,「就学前までに定着させたい幼児の生活習慣をあげられるだけあげてみましょう.箇条書きのような形でもいいです.」と問うた.調査②では,学生に挙げさせた各項目に関して重要性の高い順に順位をつけさせた.次に調査①で自由記述で挙がった内容の21項目にまとめた際に「重複した数の順位」と,「学生がつけた順位」をPearsonの相関分析により検討した.調査③では調査①で分類した項目を質問項目として用い自記式質問紙調査を行った.各項目で「それぞれどのくらい重要だと考えるか」と5件法で問うた.

     その結果,調査①では21項目にまとまった.その21項目はさらに7つのカテゴリー,「睡眠」4項目,「食」4項目,「衣料」3項目,「排泄」2項目,「清潔」3項目,「社会的生活習慣」3項目,「遊び・運動」2項目にまとまった.次に調査②でPearsonの相関分析を行った結果,0.68という有意な高い相関が確認できた(p < .05).調査③で適合度の検定を用い分析した結果,問2と問19を除き有意性が確認された.以上,本論の結論として,「学生が考える就学前までに定着させたい幼児の生活習慣」としては,問2と問19を除いた19項目が採択された.

  • -学祖の言葉を通して大妻の伝統を学ぶ-
    下坂 智惠, 谷口 新, 中尾 桂子, 中村 邦子, 岡田 小夜子, 玉木 伸介, 堀口 美恵子, 廣瀬 友久
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 584-601
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/10/06
    ジャーナル フリー

     本学は,専門的な知識や技術の修得だけではなく,女性として人間としての豊かな人格を形成することにも力を注いでいる.本短期大学部では,学生が創立者大妻コタカの建学の精神を学ぶことで,多様な生き方の中から自分らしい生き方をみつけ,新時代に対応できる優れた社会人となるために,2020年度入学生より専任教員が担当する「コタカ学」を必修科目として開講した.8 回全てをオンライン授業で実施し,manaba によるアンケート結果より,学生が短期大学部での2 年間の学びについてどのように捉えたかを把握し,今後の教育の方向性を探ろうとした.出席率は96.7~99.5%と非常に高く,学生の「コタカ学」に対する学修意欲の高さが示された.8 回を通してアンケートの平均点が4.19~4.88(5 段階評価)であり,学生からの評価が高かった.テーマにより学科・専攻間に有意差がみられ次年度以降の参考としたい.全8 回分の自由記述をテキストマイニングによる分析対象のデータとして,KHCorder を用いて多変量解析を行った.

     今年度は対面授業ができず,オンライン授業での実施となり,初年度の「コタカ学」の目標を到達できるか否か危ぶまれたが,学生からの評価は非常に高かった.「人としても成長できる2 年間にしたい」「大妻女子大学短期大学部の目指す学生の理想像や自分の目指す理想像が具体的に見えた気がする」「コタカ先生の言葉から,生きていく上でとても重要なことを学ぶことができたと思う」「女性として自立した立派な女性になりたいと感じた」等々の意見が出された.入学したばかりの学生にとって,「コタカ学」を学ぶことにより,大妻での学びを再認識し,2 年間の目標を掲げることができたことは非常に意義のあることであり,本授業の到達目標を充分に達成できたと考える.「コタカ学」で学んだコタカの含蓄に富む言葉が,学生の今後の人生において重要な指針となることを期待する.

  • 桶田 敦, 岡安 夏希
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 630-643
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/10/03
    ジャーナル フリー
  • ―KFDとRKFDの比較を通して―
    小西 一博
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 647-655
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/10/09
    ジャーナル フリー

     本研究では幼児期に虐待された経験をもつが,心理的ケアを受けていない8歳の女児を対象にして動的家族画(KFD)と回想動的家族画(RKFD)を実施し,虐待を受けた過去と虐待されなくなった現在の家族イメージがどのように描画に反映されてくるか,それはどのような変化を示すのかについての知見を得ることを目的とした.KFDとRKFDを比較すると,共通する特徴として人物像の省略が見られた.彼女は敵意や嫌悪感を抱く家族成員を描画上に敢えて描かないことで不仲な関係を表現した.また,KFDとRKFDの両方で家族関係の不和を強調するように包囲を用いて巧みに家庭内での様相を表出されていた.このことから,表層面では家族成員とうまく生活しているように思われるが,深層面では多く課題が彼女に累積されていると言えた.被虐待児にかかわる支援者は,表面的に評価するのではなく,子どもの心の奥底にある叫びにも目を向ける必要があると考えられた.

  • ─スピーキングテストの都立高等学校入学者選抜への活用─
    宇田 剛, 上山 敏
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 656-673
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/10/28
    ジャーナル フリー

     公立高等学校の入学者選抜においては,中学生が学習指導要領に基づき,中学校生活3年間で身に付けた学力を検査する必要がある.

     現行の中学校学習指導要領(平成20年3月告示)の外国語(英語)及び新学習指導要領(平成29年3月告示)においては,「聞くこと」「読むこと」「話すこと」「書くこと」という,いわゆる4技能を通して,コミュニケーションを図る資質・能力を育成することが目標として掲げられている.

     しかし,東京都立高等学校入学者選抜の英語検査においては,現在,「話すこと」の評価を行っていない.これは,選抜の当日に全受験者に「話すこと」の検査を行うことが物理的に不可能であることが理由である.

     そこで,現在,東京都教育委員会は,英語の資格・検定試験を行っている民間の事業者の知見を活用し,都立高等学校の入学者選抜に「話すこと」の評価を導入することを検討している.ここに,これまでの取組内容等について報告する.

  • 宇田 剛, 上山 敏
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 786-797
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/10/17
    ジャーナル フリー

     都内の公立学校の教員たちから「ここ数年で校内暴力は減ってきて,生徒指導は楽になってきた. 今,最も悩ましい生活指導上の課題はいじめ問題だ」という声をよく聞く.

     文部科学省の「児童生徒の問題行動・不登校等の実態について」によれば,いじめの認知件数は近年増加の一途をたどっている.これは,軽微ないじめも見逃さないという学校体制が充実した結果であると捉えることができる.一方で,解消率に好転が見られないことが大きな課題である.

     いじめに係る法令が整備されるとともに,様々ないじめ防止策が策定されているにもかかわらず,改善が見られないという現状を踏まえ,本稿では,いじめ問題の解決には,「別の角度からの対策が必要ではないか」「何か重大なことを見落としていないか」という観点から考察を進め,次の2点をいじめの未然防止に向けた「新たな視点」として提案する.


     ◎ 「子供たちのアイデアと主体性を生かした取組」の推進

     ◎ 教員を含む大人たちによる「いじめを助長しかねない不用意な言動」の防止

  • 加藤 淳
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 798-801
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/10/13
    ジャーナル フリー

     Reasonの提唱する安全文化とは,4つの重要な構成要素,すなわち,報告する文化,正義の文化,柔軟な文化,学習する文化が作用し合い,形成されるものである.ただし,「学習する文化」の概念についての説明が曖昧なままとなっているため,組織研究領域における「学習する組織」や「組織学習」との概念の差別化がみられない.そして,その曖昧さ故に,その後の研究者らの解釈の迷走を生み出し,「理論」と「現場」実践との間の隔たりにも繋がっている.そこで,以上のような問題意識に基づいて,安全文化における「学習する文化」の概念を具体化することを試みた.

  • 生田 茂, 阪本 久世, 立間 好枝, 新城 理奈, 真下 真澄, 森屋 典久, 宮原 奈緒, 釘丸 紀子, 山口 京子, 市原 聡子, ...
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 802-824
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル フリー

     児童生徒一人ひとりが抱える「困り感」の軽減や解消を目指して,「マルチメディアを扱えるドットコード」を用いて,手作り教材を制作し,教育実践を行う取り組みは,全国の特別支援学校の教師を中心に,2019年度も活発に展開された.この日本発のドットコードの技術を用いた共同の取り組みは,海外においても高く評価され,Society for Information Technology and Teacher Education (SITE) 2020 では,著者らの論文が,Outstanding Paper Award の栄誉に輝いた.また,この間のいくつかの教育実践の取り組みは,A. Singh 教授らが編集した本 (Critical Issues in Special Education for School Rehabilitation Practices) の Chapter paper として採択され,掲載された.

     この学校の教師との共同の取り組みは,国内の活動にとどまらず,USA,オマーン,中国,韓国,UAE,サウジアラビア,ミャンマーへと広がり,今や国際的な教育研究活動となっている.Y. Katz 教授と F. Stasolla 教授が編集した Education and Technology Support for Children and Young Adults with ASD and Learning Disabilities の本の中には,Idaho State University の J. Gallup 教授と C. Perihan教授との連名の Chapter paper (Creative Inclusive Functional Content Using Dot Codes: An Exploration of Multistep Recipes for Individuals with Autism in Post-Secondary Setting) が掲載された.

     本報では,ドットコードの開発元のグリッドマークによって大幅に改訂された音声ペン用のソフトウエアについて記すとともに,2019年度に,全国の特別支援学校や通常学校の教師が取り組んだ「手作り教材の制作と教育実践」について報告する.

  • 厚東 芳樹, 桒田 七奈美
    2020 年 2020 巻 30 号 p. 825-835
    発行日: 2020/01/01
    公開日: 2020/10/28
    ジャーナル フリー

     本稿では,幼児の体力・運動能力に関する先行研究の批判的検討より,運動嫌い・スポーツ嫌いの幼児を生まない実践研究の要件を究明するための課題の導出を試みた.その結果,幼児にとって必要な体力・運動能力は明確に定まってないものの,「人間の身体の発揮し得る能力の総称」が体力であるという立場から人間らしい立位姿勢や歩行動作の基盤づくりをおこなっていくことが重要であるものと考えられた.また,経済成長に伴う社会環境や生活様式の変化によって,子どもの運動量や体力と関わりのある生活習慣や運動習慣に乱れが生じ,結果的に体力・運動能力の低下へとつながっていたことが認められてきた.さらに,子どもの自発性と主体性を重視した自然な「遊び」という形の方が準備された運動プログラムの実施よりも継続した運動習慣の獲得へと結びつく可能性が高いこと,などが認められた.

     これらの先行史より,運動嫌い・スポーツ嫌いの幼児を生まない実践研究の要件を究明するための課題として,(1)半年以上継続的に運動を実践するなど,ある程度の長期的な取り組みであること,(2)「遊び」という要素を担保すること,という2つの要件を導出することができた.一方で,「遊び」に関しては大人が介入した「遊び」と子ども達だけの「遊び」,施設の中での「遊び」と自然の中での「遊び」といった環境要因への考慮が必要であるものと考えらえた.もっと言えば,子ども達だけの「遊び」によってより良い立位姿勢や歩行動作の基盤づくりが可能なのかという課題が残った.

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