人間生活文化研究
Online ISSN : 2187-1930
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2021 巻, 31 号
選択された号の論文の38件中1~38を表示しています
原著論文
  • 吉井 健
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 37-51
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/07/20
    ジャーナル フリー

     本稿では,リアル店舗とネット店舗を往来してアパレル商品を購買するショールーマーとリバース・ショールーマーにおいて,SNSの情報への満足感がリアル店舗の売場での情報・サービスへの満足感にいかに影響を与えるのか,そしてリアル店舗の従業員を活用したSNSからの情報が,いかにその購買行動に影響を与えるのかを解明することに研究の目的を置く.実証分析では,設定仮説に基づき,インターネットリサーチ方法にて,アパレル商品を購買したショールーマーとリバース・ショールーマーを対象に,情報探索と購買に関するアンケート調査を行い,仮説検証を進めた.本分析結果より, ショールーマーとリバース・ショールーマーは,事前に確認をしたSNS情報に対して理解し満足することで,実際の売場情報への理解を深めて満足することが明らかになった.そして,リアル店舗の従業員を活用したSNSからのコーディネート情報は,実際の売場での従業員からの情報とも連携し,消費者の満足感に影響を与えることが明らかになった.これにより,アパレル小売事業者として取り組むべき,施策案と今後の課題を提示した.

  • ―全国学力・学習状況調査10年間の分析を通して―
    樺山 敏郎
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 68-99
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

     記述力は,二つの側面から捉えることができる.一つは書き手の視点から文や文章を創出する能力である.もう一つは,書かれたテキストを理解し,それらを一定の条件下において記述する能力である.本研究で分析の対象とした全国学力・学習状況調査(本稿では以下,「全国学力調査」と称す.)は後者の能力を測るものである.

     10年間にわたる全国学力調査から小学校国語科教育における記述力に関して4点の主要な課題が見出された.一つ目には,考えの形成につなぐ記述に課題がある.二つ目は,目的に応じた情報の取り出しによる記述に課題がある.三つ目として,非連続型テキストの確かな読解に基づく記述に課題がある.四つ目は,提示される条件に対応する記述に課題がある.こうした課題の所在を十分に精査し,改訂された学習指導要領の目標及び内容を踏まえた指導改善が必要である.

  • 河野 武
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 104-123
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/10/13
    ジャーナル フリー

     日本語は古くから情報構造の図式を意識する言語である.事態を言表する際に,主題マーカーの「は」によって主題と題述を截然と分ける.古典日本語においては,修辞的効果のために構成素を焦点化し,際立たせる手段として係り結び構文がある.係り結びによる焦点化には2種類の形式がある.一つは,「ぞ」・「なむ」・「や」・「か」が関与し,主題と題述を倒置し,本来の終助詞を係助詞とし,文末の主題節を連体形で閉じる形である.もう一つは「こそ」が関与し,通常の語順の特定の構成素を自由に焦点化し,文末は已然形をとり,逆接および順接の等位節を従える形である.従来,これらの係助詞は「は」と並行して何らかの主題を表すとされてきたが,議論の余地がある.そこで,本論では,係り結びの係助詞はむしろ題述(の焦点)を表すものとみなす.また,これと連動して,主題は基底の主題とさらなる主題化によってもたらされた主題との多重主題を生み出すことを述べる.本論では,第二に,係り結びの係助詞の全体像に目を配りつつ,その個別的性質について発話内容,発話構成プロセス,発話態度の観点から明らかにする.また,それぞれの係助詞の関連性モダリティの特性を示す.第三に,係り結びの洗練された修辞があっけなく衰退した要因が,構文の過剰性,コストの高さ,情報構造表示の一般化の達成に帰されることを述べる.以上の係り結びの議論を通して,係助詞という文法カテゴリーは,主題マーカーと焦点(題述)マーカーの下位類からなる情報構造マーカーであることが示されたことになる.

  • ―理想的観賞者と美的価値をめぐる近年の論争から考える―
    森 功次
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 365-381
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/12/09
    ジャーナル フリー

     近年の分析美学の領域では,理想的批評家や美的価値についての伝統的理論を再考しようという動きが高まっている.本論では,伝統的理論を批判的に再検討するその近年の動向を紹介し,その理論進展をふまえるとわれわれは専門家の意見にどのように耳を傾けるべきなのか,という問題を考察する.

     本論はまず,伝統的な議論として,ヒュームが「趣味の標準について」で提示した論点を紹介し,次に最近の議論として,理想的批評家について検討しているジェロルド・レヴィンソンの議論を紹介する.その後,美的価値の快楽主義に対する近年の批判について検討する.本論ではとりわけ,ドミニク・ロペスが提示しているネットワーク説に焦点を当て,その利点と動機を明らかにする.最後に,そこまでの考察を元に,われわれ凡人は芸術批評をどのように読むべきか,という問題に答える.われわれは,批評家がそこで何を達成しているか,そして批評家がそこでどのような能力を発揮しているか,といった点に着目しながら批評文を読むべきである.

  • 池上 幸江
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 647-655
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/12/16
    ジャーナル フリー

     粘性のある難消化性多糖類5種(ジェランガム、タマリンドガム、サイリウムシードガム、グアガム、キサンタンガム)についてラット消化器官に対する影響と粘性の関係について検討した。実験には4週齢のSprague Dawley 系雄性ラットを用い、難消化性多糖類5%を含む飼料とセルロース5%飼料をコントロールとして24日間投与した。

     実験1では上記6種の難消化性多糖類飼料を投与し、飼料投与中止後5時間目に解剖し、消化管重量、内容物の重量と粘度、糞重量を測定した。小腸、盲腸の内容物の粘度はキサンタンガム群が最も高く、グアガム群がもっとも低く、難消化性多糖類そのものの粘度とは相関しなかった。また、消化管重量、消化管内容物重量、糞便量にも粘度との関連性は見られなかった。

     実験2ではセルロース、ジェランガム、タマリンドガム、サイリウムシードガム、キサンタンガムを含む飼料で飼育し、5時間絶食後を0時間として、飼料5gを投与して2時間後に解剖した群を2時間とした。2時間後の胃固形物量は最も粘度の高いキサンタンガム群が他の4群に対し、有意に低かった。

     実験3ではセルロース、サイリウムシードガム、グアガムを含む飼料で飼育し、絶食後を0時間として、飼料5gの投与2、5時間後に解剖した。2時間後の胃固形物量は粘度の高いグアガム群が他の2群に比べて有意に低かった。しかし、グアガム群の胃内容物の高粘度は、小腸と盲腸では顕著に低下した。他方、サイリウムシードガム群では胃内容物の粘度は低かったが、盲腸ではグアガム群より高くなった。

     以上の結果より、難消化性多糖類を飼料として投与すると、飼料や消化管内容物の粘度は本来の粘度とは異なることがあり、飼料成分や消化管内での物理化学的影響によって変化することが示唆された。また、従来高粘度の難消化性多糖類は胃から小腸への食物の移動を低下させることによって、血糖値低下などの機能が示されると考えられてきたが、本研究は再考が必要であることを示した。

短報
  • 長谷川 千織, 伊香賀 玲奈, 行方 衣由紀, 田中 光, 田中 直子
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 10-13
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/03/09
    ジャーナル フリー

     【目的】ミトコンドリアはエネルギー代謝における主要な細胞内小器官であり,細胞の状態を積極的に制御していることが明らかになってきている.本研究では,白色脂肪細胞モデルである3T3-L1細胞を用いて,脂肪細胞の炎症性変化におけるミトコンドリアの役割を解明することを目的とした.【方法】3T3-L1細胞を脂肪細胞に分化させ,分化誘導後17日目に脱共役剤FCCPを2μMとなるように添加した培地に交換し,24時間培養した.培養した細胞のミトコンドリア,脂肪滴,核を蛍光染色して,共焦点レーザー顕微鏡で観察し,炎症性サイトカインのmRNAをリアルタイムPCR法を用いて定量した.【結果および考察】蛍光観察から,FCCPを添加した細胞でミトコンドリアが小さく分裂し,エネルギー代謝が抑制されていることが示された.ミトコンドリアは脂肪滴周辺から離れて細胞全体に分散して存在していた.炎症性サイトカインTNF-α,IL-6,MCP-1のmRNA発現量が有意に増加しており,ミトコンドリアATP合成の抑制によって脂肪細胞に炎症性変化が引き起こされることが示された.

  • 守田 美子
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 14-23
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/03/10
    ジャーナル フリー

     現代日本語には「5時です」を「5時ッス」というように話す言葉づかいがある.これは若い男性が主として使用すると考えられ,親しい間柄にある目上の相手に「親しみのこもった敬意」を伝える新しいタイプの敬語と考えられてきた.しかしながら,この「ス」の使用が拡大するにつれ,その意味は拡大し,敬意よりも「ノリの良さ」や「軽さ」を示す一種の談話標識として機能しはじめている.

     本稿ではこの2タイプの「ス」体をとりあげ,この2タイプがそれぞれ別の言語形式である可能性を指摘した後,これら2つの「ス」の語用論的意味を関連性理論の枠組みで考察する.

  • ―最低賃金未払い克服への方策―
    藤井 直子
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 601-613
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2022/02/05
    ジャーナル フリー

     本稿は,1998年にイギリスで制定された全国最低賃金法の履行確保に関し,2019年および2020年に公表された低賃金委員会報告をもとに,現状および今後の課題と展望について検討,報告する.法の目的を遂行するためには,何より法の履行を確保することが不可欠である.この点,イギリスでも同様に認識されつつも,2016年に25歳以上を対象とする最低賃金額が新たに設定されて以降,法定の最低賃金額を得ることができない(過少払い)労働者数の増加が続いていた.こうした状況のなか低賃金委員会が,法の履行確保と執行を特に調査・検討し,報告したものが,2019年および2020年執行報告である.

     同報告によれば,過少払いにある労働者数は2019年にわずかに減少したものの,2016年以降,基本的には増加傾向にある.他方で,最低賃金法の所管官庁である歳入関税庁が監督調査等を実施しており,労働者に支払われ解決した未払い総額も大幅に増えている.ただし,過少払いの原因が過失もしくは故意によるものか,あるいは使用者や労働者の無知によるものかは,統計上のデータからは判断できない.また,インフォーマルエコノミー事例など深刻な過少払い事案が,統計上には現れずに隠れている可能性もある.

     全国最低賃金法の履行確保は,労働者を保護し,かつ,企業間の公平な競争条件を確保するための要であり,低賃金委員会も引き続き,事実を収集し,政府に報告するとともに,より効果的な方策を提案・勧告していくとしている.25歳以上の最低賃金は,その後,対象年齢引き下げによる対象範囲の拡大がなされ,2024年までのさらなる引き上げも予定されている。こうしたなかで,最低賃金額に近接し,過少払いリスクを負う労働者がますます増えることも危惧される.法の履行を確保するためには,いかなる方策が実行されるべきか,今後もイギリス最低賃金法の執行システムを注視する必要がある.

  • 相良 友哉, 戸川 和成, 田川 寛之, 崔 宰栄, 辻中 豊
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 614-622
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/12/15
    ジャーナル フリー

     ますます長寿化が進む現代の日本においては,健康長寿を目指し,高齢期においても積極的に社会参加することが重要である.既に,高齢者の地域活動に関する研究は多数見られるが,活動への参加行動に着目されることが多く,活動内容や頻度,地域内の人的ネットワークについての検討は少なく,また,地域も限定的である.そこで,本研究では,全国13都市の住民に対して実施したWebアンケートの結果をもとに,どのような属性を持った高齢者が活発に地域活動をしたり,地域の役職者と交流しているか検討した.その結果,他者との交流や地域活動の多くにおいて,住民の性別による違いが顕著であった.女性は日常的な人付き合いが多いが,男性は地域の役職者との交流や役割・目的が明確な地域活動への参加者が多い.居住年数や就業状態,教育状況では,性別ほどの顕著な参加状況の差は見られなかった.人生100年時代とも言われる昨今の日本において,より効果的に高齢者の地域活動,ひいては社会参加を促進させていくためには,こうした性別による違いを踏まえる必要がある.

総説
  • 佐藤 実
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 461-470
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/12/14
    ジャーナル フリー

    本稿では『麻衣相法』の版本に関する 2 つの先行研究(梁偉賢「《麻衣相法》版本初探」『漢学研究』(34 号,2016)と三浦國雄『術数書の基礎的文献学的研究―主要術数文献解題 第三篇』平成21 年度〜平成 23 年度科学研究費補助金(基盤研究(C))研究成果報告書,2012)を整理検討したうえで,中国では散逸したと思われる『人相編』が日本に伝存すること,そしてその内容は梁氏が指摘する中国で最も古い『麻衣相法』の版本(全 10 巻,万暦 15 年刊)の内容と類似することを指摘した.また,広く流布する 5 巻本『麻衣相法』に付された倪岳の序文に省略があることに注目し,その省略された内容を検討した.その結果,倪岳の序文は本来は『神相全編』に付されたものであり,5 巻本『麻衣相法』の倪岳序は,『麻衣相法』の内容にフィットするように部分的に削除された可能性を提起した.

報告
  • 杉本 亜由美
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 1-9
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/03/10
    ジャーナル フリー

     本稿では,筆者が担当した授業科目「日本語表現実践」の受講学生を対象に,敬語能力を培うことを目的として行った場面ごとの敬語使用例の説明や,ロールプレイング実践授業の効果を,主観的尺度である事後アンケート調査と,客観的尺度である事後テストより実証した.授業を実施する前に,事前データとして敬語に関するアンケートとテストを実施し,実践授業の設計,構築に役立てた.

     事前データより明らかになった受講学生の実態から,学生の自己肯定感,自己効力感の向上を図り,敬語を身につけたいという高い向上心を満たすべく,授業内では敬語の知識教育と実践教育の両方を実施することとした.

     調査の結果,知識教育の一環として場面毎の敬語使用例の説明,実践教育の一環としてシチュエーション別にロールプレイングを行うことで,学生自身が様々な場面を体験しながら自信をつけ,敬語能力に関する自己評価を上げることが可能となる敬語教育は有益であることが示唆された.

  • SATAKE Takashi, YOSHIDA Satoru, PEIRIS Roshan
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 24-28
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/04/02
    ジャーナル フリー
     人類学調査の歯の計測において,歯冠近遠心径,歯冠頬舌径は基本的な計測項目である.これらの計測値をグラフで示す場合,計測項目ごとに別のグラフにプロットして分析することが多い.本研究では座標平面のX座標に歯冠近遠心径,Y座標に歯冠頬舌径をとると,歯冠近遠心径,歯冠頬舌径の値から歯の指数で代表的な,歯冠モジュール(Crown Module:(歯冠近遠心径+歯冠頬舌径)÷2)と歯冠指数(Crown Index:(100*歯冠頬舌径)÷歯冠近遠心径)も同じグラフ上に示すことができるよう工夫した.このように歯冠近遠心径,歯冠頬舌径をもとに4変数を1つのグラフ上に示すことができる,歯冠多次元チャート(Dental Proportion Chart: DPC)を考案・作成した.歯冠の大きさとプロポーションは,歯種に伴う変化が大きくその変化のパターンには関心がもたれてきた.DPC上に中切歯から第三大臼歯の歯冠近遠心径,歯冠頬舌径をプロットすると,歯冠モジュールと歯冠指数の変化も一目でわかり,DPCを用いることにより,歯冠の大きさとプロポーションを同時に把握することができる.歯種による歯冠の大きさやプロポーションの変化から,歯の左右差,上下顎の差,個体差などの分析,また集団の各歯種の歯冠の平均値の変化パターンから,人種差,男女差などの分析に有用であるだろう.
  • ―流布本『曽我物語』注釈ノート―
    小井土 守敏
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 29-36
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/07/06
    ジャーナル フリー

     仮名本『曽我物語』の注釈作業の過程で、問題となる「馬芸」の描写に関する記述について、注釈の試案を提示する。併せて、『曽我物語』が、「弓馬の芸」について詳細な描写を指向していることを指摘する。

  • ―世田谷区と北九州市の比較を通して―
    福井 弘教
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 52-61
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/07/06
    ジャーナル フリー

     少子高齢社会においては多くの前提が崩されることになる.多世帯構成を前提とした社会福祉の施策対応は困難となり少人数の世帯構成を前提とする必要がある.そして,憂慮すべきは最終的に独居高齢者が増加して,それに付随する社会福祉の負担や対応である.社会的弱者としての側面を持つ独居高齢者には行政の支援が不可欠となる.今後,独居高齢者に対して行政がいかに最適な施策を展開できるか検討する必要がある.人口規模,地域の高齢化率の推移が同レベルにある東京都世田谷区と福岡県北九州市の議事録データ比較(テキストマイニング)を通じて,独居高齢者が増加するなかで行政がこれまでどのような取り組みをしてきたか,今後いかなる取り組みが求められるか検討した.考察の結果,住居をはじめとした多様な支援策が析出されると同時に,独居高齢者数をはじめ孤独死者数など関連する調査が行われていないことが明らかとなった.他方,独居高齢者と共に高齢者,子と同居する高齢者など,いわば独居高齢者「予備軍」の層に対しても早期の把握,対応が求められる.

  • 小関 右介
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 62-67
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/09/17
    ジャーナル フリー

     文献調査にもとづき,佐渡島の淡水魚類相の変遷を調べた.2012年の前回魚類相報告以降,本島の淡水魚類目録には2種の純淡水魚と1種の周縁性淡水魚が加わり,目録掲載種数は46種となった.魚類相の大きな特徴は,通し回遊魚,とくに両側回遊性ハゼ科魚類の種の多さであり,この特徴は過去60年間で大きく変化していなかった.しかし,人為的移入により,種全体に占める純淡水魚の割合がかつての4分の1から3分の1に上昇しており,これら移入種による生態系への影響が懸念された.種の移入防止のために講ずべき施策および侵入の早期発見のために実現すべき環境DNAベースの魚類群集モニタリングについて簡単に述べた.

  • 井上 淳
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 124-143
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/09/17
    ジャーナル フリー

     本論文は,WHOとEUに焦点をあてて国際社会における保健,公衆衛生のグローバル・ガバナンス——問題管理のありよう,多様な行為主体による国際問題管理のありよう——を検討するものである.COVID-19感染拡大にともないWHOが批判されたが,条約や憲章に基づいて運営される国際機構には,構成国に対して発揮することができる権限,そして予算にはそもそも制限がある.

    それゆえ,国際機構やNGOといった多様な非国家行為主体によって支えられるグローバル・ガバナンスが成立する訳だが,本論文はそのガバナンスにおける国際機構の取り組みを検討する.

     検討の結果,健康を多面的にそして権利だと捉えて取り組みを発展させてきたWHOの「平時」の取り組みとは裏腹に,「有事」の新興(未知の)越境感染症対策においては,21世紀以降のグローバル化の様相とグローバル経済における中国の位置づけを踏まえずに,「貿易(人の移動と交易の自由)か防疫か」という二択の論理を旧態依然として維持していることが判明した.EUについての検討を通じても,WHOの検討と同様,「平時」の取り組みが発展してきたこととは裏腹に「有事」とりわけ「域外」からの新興越境感染症対策において脆弱さが見られた.人,モノ,サービス,資本の自由移動を掲げるEUにとって,防疫による人の移動ならびに貿易への影響は最小限にとどめたかったところだが,「域外」から流入した感染症に対しては脆弱で大きな打撃を受け,復興には多大な費用と労力,経済成長,そして加盟国間の結束が必要になる.

     いずれのケースでも脆弱性が見られた「有事」の取り組みについては,構成国が承認していて,それゆえ本来なら遵守すべき条約(EUの場合は二次法)が関わっている.新興越境感染症対策を改善するのであれば,こうした条約や法の改善ならびに構成国による遵守(コンプライアンス)が急務であり,国際機構はもとより構成国の意思と遵守,コミットメントがより問われる.

  • 西田 梨紗
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 266-274
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

     1905年に出版された,バーネット (Frances Eliza Hodgson Burnett,1849-1924)が執筆した『小公女(A Little Princess)』1の舞台は19世紀後半のロンドンだ.当時のイギリス社会では社交におけるルール2が存在し,階層の違いは文化,言葉,価値観の違いでもあった.ミンチン女子学院においても生徒と使用人の間には目に見える隔たりがあり,生徒もそれを意識している3.これらを踏まえると,学院の使用人とも親しく接する主人公セーラ・クルーの振る舞いは注目に値する.

     クルー大尉がセーラについて「困っている人を見ると,必ず戦ってあげたくなるんだ」(バーネット 27頁)[1]と考えていると,ナレーターが述べているように,セーラは薄情者や道徳心に欠ける者には苛立ちを覚える.それは,アーメンガード・セントジョンのフランス語の失敗を笑うジェシーやラヴィニア・ハーバートに対する,セーラの怒りにもいえよう.

     とりわけ,セーラが反感を抱くのはマリア・ミンチンだ.セーラはこの教師の支配下に置かれ,飢えや寒さに襲われながらも,学院の使用人として過酷な労働に従事する.セーラはミンチンの命令に従っているが,この女教師の面目を意図せずにして最終的にまるつぶしにしてしまう.

     セーラは出版当時のイギリスで理想とされていた良妻賢母型の女の子である一方,ミンチンは未婚でかつ冷徹な女性である.この二人の性格の違いを念頭に置きながら,『小公女』のクライマックスに着目すると,この本では少女たちが指針とすべき女性像について教訓的に教え説かれているのではないかという結論を導き出せた.

  • ―東京都居住者への調査結果から―
    反橋 一憲, 牧野 智和
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 275-285
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/10/09
    ジャーナル フリー

     性教育をめぐる対立は政治問題となり得るにもかかわらず,一般市民が性教育をどのように評価しているかに関しては,あまり顧みられてこなかった.そこで本稿では,東京都に居住する18歳以上の男女を対象にした調査をもとに,自身が受けてきた性教育をどのように評価しているのか,また若者が受ける性教育にどのような期待を抱いているかを分析した.その結果,性教育への評価と期待は,当事者性ではなく自身の価値観によって規定されることが明らかになった.性教育への評価と期待が価値観に規定されるからこそ,性教育をめぐる対立は容易には解決しがたいものであることが示された.

  • Sudo Ryoko
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 286-291
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     本研究は大妻女子大学戦略的個人研究費の助成を受けて実施した,ラオス,タイでの伝統的な染織品の実情を調査した結果について考察するものである.筆者はラオスのヴィエンチャン,ルアンパバーン,タイのチェンマイ3つの都市部で伝統的な技法で織物を織っている工房,それを販売しているギャラリーなどを訪ねて調査を行った.ラオスでは,現在でも若い女性が自ら糸を染め,伝統的な機で手織りをしている状況が分かり,技術の継承を積極的に行っている工房があることを確認できた.また,これらを販売するためのギャラリーも多くあり,外国人観光客などに人気のあることも確認できた.チェンマイでも昔ながらの技法で手織りの布を織っている工房もあり,中心部の市場には周辺民族の伝統衣装を扱っている店も多くみられた.また,山岳民族などの生活を支援するフェアトレードの店も多くあり,そのような店には洗練された商品が多く展開していた.おおむね伝統的な染織が彼らの生活を支えていることも理解できたが,一方で,自家用に作ってきた染織品が販売され収益になるということは,自分たちの作った染織品が商品になるということであり,商品として売れるものを作る必要が生じる.このような現象が各少数民族の伝統技術や伝統的な文様に影響を与えるのではないかと推察され,今回の調査から危機感を抱いた.

     染織が流行とともに変化していくことは当たり前のことではあるが,その流れが急激であったり,外から強引にもたらされるものであれば,自分たちが培ってきた衣服文化を崩壊させることにもつながる.伝統的な技術や文様がいまだ残されている現在,昔ながらの染織とこれからのテキスタイル両方を見据えて,さらなる調査分析をする必要性を感じた.これについては今後の研究課題としたい.

  • ―Verification of the job coach training program―
    Yeo Swee Lan, Hiroshi Ogawa, Grace Gan Wei Cheng, Sharifah Hafizah Saa ...
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 300-321
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/10/09
    ジャーナル フリー

       Competent job coaches are vital human resources in implementing a national supported employment program. The supported employment implemented in Malaysia since 2012 aims to create sustainable employment for persons with disabilities (PWDs) nationwide. This research examined the job coach training approaches in Malaysia, its positive impact, challenges and areas for improvement. Job coaches that were trained are mainly practitioners from non-governmental organizations (NGOs) and in-house job coaches who are supervisors and buddies of employees with disabilities in the private companies. Thematic analysis of this research included progress and impact on the development of supported employment in Malaysia; effectiveness of job coach training and additional knowledge as well as skills recommended to be taught. Certification of job coaches based on the Malaysian PWDs Job Coaching National Occupational Skills Standards was recommended to be implemented. The research concluded that though there is room for improvement in the job coach training program implemented in Malaysia, it was recorded that the job coach training in Malaysia has already impacted other countries, such as, China, Myanmar, Jordan and other Middle Eastern countries. It is therefore, crucial for the relevant authorities to further enhance the development of the job coach training in Malaysia, so that the employment for PWDs in Malaysia will progress further and that Malaysia will continue to be a model to other Asian countries on supported employment.

  • ―独日児と台日児の比較に基づいて―
    柴山 真琴, ビアルケ(當山) 千咲, 池上 摩希子, 高橋 登
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 325-343
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

     我々は,日本語を継承語として学習中のバイリンガル小学生が書く日本語作文に見られる特徴をより詳細に解明するために,優勢言語が異なる小2児童(独日児と台日児)を対象に作文調査を行った.優勢言語の違いを超えて共通に見られる特徴と個別に見られる特徴に注目して分析した結果,以下の2点が明らかになった.第一に,共通点として次の3点が確認された.1)表記・文法や正書法の間違いが散見されるにも関わらず,文体を揃えたうえで書き言葉,構文や複文を使って談話を構成する力が形成されつつある.2)談話構成力については,物語作文よりも説明作文で評定平均値が高い.3)談話構成力が高い反面,説明作文では物語作文ほどに構文を使えていない.第二に,個別の違いは,MLU・副詞節使用・正書法の誤りにおいて見られたが,漢字使用や漢字表記間違いの差はほとんど見られなかった.以上から,多少の違いはあるものの,小2の段階では,優勢言語の違いが日本語作文に及ぼす影響の違いはそれほど明瞭ではなく,むしろ日本語で聞いて話せる力や日本語での活動経験が影響していることが示唆された.

  • 内藤 千珠子
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 344-348
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー

     日本語文学のなかにあらわれた戦時性暴力の表象を考察する.現代日本の暴力をめぐる構造を,ジェンダーとナショナリズムという視座から検証するため,学術的背景を概観した上で,問題の所在を明らかにし,今後の見通しと課題を提起する.戦時性暴力と現在の日常との連続性,植民地公娼制度と「慰安婦」問題の連続性,戦時性暴力が「恋愛」という物語形式を通して不可視にされる文化的構造について論じ,日本語文学における「花柳小説」というジャンルがもつ問題,文学が「慰安婦」の記号をどのように扱ってきたのかという問題を整理していく.戦時性暴力をあらたなかたちで描く現代小説における批評性を展望し,今後の課題を示した.

  • ―トリチウム水の海洋放出処分を巡って―
    桶田 敦
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 349-364
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/11/27
    ジャーナル フリー
  • Michiru Ito
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 382-392
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/11/27
    ジャーナル フリー

     かつての英国植民地トリニダードにおいて,白人エリートたちの邸宅であったグレートハウスは,奴隷制度の副産物とみなされている.なぜならアフリカ人奴隷などの労働力を搾取し続けたことによって築いた巨富を元手に建設されたものだからである.本稿は,そのようなグレートハウスの代表格であるマグニフィセント・セブンとカントリー・クラブが,現在のヨーロッパ系白人トリニダード人にとって,どのような意味を持つのかを探る.非白人を支配し酷使してきたとレッテルを貼られたヨーロッパ系白人トリニダード人に対して行った聞き取りから,マグニフィセント・セブンは大した意味を持たない一方,カントリー・クラブは白人としての意識の核心としての役割を担っていることが明らかになった.権威ある会員制クラブであるカントリー・クラブは,21世紀のトリニダードにおける白人社会においても,植民地時代から変わることなく白人同士の絆を強固にする役割を果たしている.

  • ―ネイティブスピーカーの役割についての研究―
    池頭 純子
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 393-400
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/12/04
    ジャーナル フリー

     大学での英語教育は基本的には日本人教員あるいはネイティブスピーカー教員のいずれか1名で行われる.本研究では,大学の英語クラスにおいて日本語教員とネイティブスピーカーがティーム・ティーチングを行う可能性について検討した.英語が苦手な学生が多いクラスにおいて,授業のほとんどを英語で行い,学生が英語を聞くという環境に慣れ,多くの日常表現を体験することにより,自らも英語で発信する力を養うためである.ネイティブスピーカーは単なるゲストではなく,主体的に学生とかかわり,自らの体験を含め英語社会の文化や生活についても幅広く学生に伝えることで,それまで海外に興味のなかった学生も含め学生たちの視野を広げることに大きく貢献した.

  • 森 功次
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 409-419
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     近年「アートをビジネスに活かそう」というメッセージを掲げた本が多数出版されている.本報告では,近年のこの動向をまとめつつ以下の4点を指摘する.この動向の書籍では,(1)「アート」という語は基本的に価値語として用いられている.(2)「解釈は自由だ」とされる一方で,アートの文脈の豊かさも強調されている.(3)「アート」「アーティスト」に関する主張が不適切に一般化されたり,逆にことさらアートのことでもない話がアートの特徴として語られたりしている.(4)想定されている芸術形式や芸術的価値に偏りがある.最後に,この動向を大学教育に導入するさいの注意点を,対話型鑑賞教育,授業履修者数,アーティスト・イン・レジデンスの3つに関して述べる.

  • 倉住 薫
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 434-440
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     大妻女子大学図書館に所蔵されている「嫁入本万葉集」の書誌と書写形式を明らかにする。大妻女子大学図書館蔵「嫁入本万葉集」の平仮名本文に漢字を付すという書写形式の独自性と、万葉集の本文・諸本研究における価値を位置づける。

  • 青江 誠一郎
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 441-445
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/12/03
    ジャーナル フリー

     大麦由来のβ-グルカンならびに小麦由来のアラビノキシランを単離精製した素材を配合した飼料をC57BL/6Jマウスに給餌し,回腸に流入および盲腸を経由して糞中に排泄される胆汁酸量を調べた.本結果より,大麦β-グルカンの摂取により,糞中脂質の排泄は促進したが,回腸に流入および糞中に排泄される胆汁酸量は減少傾向にあることが明らかとなった.一方,小麦由来のアラビノキシランの摂取は,回腸に流入および糞中に排泄する胆汁酸量に影響を与えないことが示された.以上により,大麦由来のβ-グルカンならびに小麦由来のアラビノキシランの血清コレステロール濃度低下作用はこれまで提唱されてきた胆汁酸排泄促進ではない可能性が示された.

  • 趙 方任, ウリジバヤル , 伊藤 みちる
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 446-460
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/12/14
    ジャーナル フリー

      长期以来, “茶烟” 很少被论及,更从未成为过茶文化的主题或 “亮点”。而且,《中国茶叶大辞典》所收录的 “茶烟” 词条也只给出了两个解释,即(1)制茶时的茶烟、和(2)烧茶煮水时的茶烟。

      然而,笔者在研究唐、宋、元三个时代的茶诗时发现,包括上述两种 “茶烟” 在内,历史上共有下述七类 “茶烟” 见诸史料。

      (1)茶园茶树上面的云雾 “茶烟”。

      (2)制茶时的茶烟。

      (3)为去存茶之湿气,消费者给茶焙火之茶烟。

      (4)烧茶煮水时的炉灶茶烟。

      (5)将煮茶时汤面冒起的蒸汽或茶汤之蒸汽比喻为茶烟。

      (6)茶烟在墙上形成的烟煤。

      (7)团饼茶表面的茶烟。

      据笔者统计分析,唐代已经出现前六类茶烟。宋代增加了第七类,说明宋代更注重团饼茶本身的形态和品质。到了元代,严密地讲,第三类和第七类茶烟没有出现,只有其他五类茶烟见诸史料,而且第一、二、六类茶烟诗的数量均比宋代有所减少。也就是说,元代的茶烟诗集中在第四、第五两类上。另外,元代茶烟诗数量是唐、宋、元三个时代中最多的,从占全部茶诗的比例来看,是宋代的一倍以上。这从侧面说明,元代茶人逐步脱离了宋代追求茶汤泡沫美感的情趣,回归到了朴素的、以 “品饮” 为主的审美意识上。

      另外,通过对元代茶烟诗大幅度增加原因的分析,可以看出,“茶烟” 文化不仅体现出每个时代的饮茶审美意识,更使文人饮茶情景的描写增添了立体感、跃动感,让朴实的饮茶行为融合了“动”与“静”、包容跨越了复数空间概念。通过本文,我们可以毫不犹豫地认为,“茶烟” 是中国茶文化的非常具有魅力的一个组成部分。


     今まで「茶煙」(茶にまつわる煙)に関する研究は見当たらず、研究物のスポットに当てられたことさえもなかった。

     『中国茶葉大辞典』に「茶煙」という単語は収録されており、下記の二つの説明がある。(1)製茶時の「茶煙」。(2)湯を沸かし、茶をいれる時の「茶煙」である。

     しかし、筆者は中国唐・宋・元という三つの時代の茶詩を研究した結果、『中国茶葉大辞典』が解釋した上記二種類の「茶煙」を含めて、歴史上、実は下記の七種類の「茶煙」が存在していたと分かる。

      (1)茶園や茶樹を覆う霧を「茶煙」と呼ぶケース

      (2)製茶時の「茶煙」

      (3)保存茶の湿気を取り除くために茶を焙る時の「茶煙」

      (4)湯を沸かし、茶をいれる時の燃料「茶煙」

      (5)茶湯から出た水蒸気を「茶煙」と呼ぶケース

      (6)茶を焙る、あるいは煮る時の茶煙が壁に残った跡を「茶煙」と呼ぶケース

      (7)塊の団餅茶の表面に漂う気体のようなものを「茶煙」と呼ぶケース

     筆者は大量の茶詩実例を引用して、諸種類「茶煙」の本質を説明、分析し、以下のような研究結果を得た。

     唐代には(1)から(6)までの六種類の「茶煙」概念がすでに出現していた。そして宋代に(7)番目の「茶煙」が新たに加わった。これは宋代において茶餅の外観と品質を唐代より重視するようになったことを意味する。しかし元代になると、(3)と(7)類の「茶煙」が史料に現れなかった。しかも(1)(2)(6)類の「茶煙」の出現回数が宋代より大幅に減少した。つまり元代の「茶煙」詩は(4)と(5)類に集中している。また、元代は存続年数が唐代・宋代の三分の一にも及ばず、短かったが、「茶煙」詩が三時代の中で最も多かった。当該時代の茶詩の総数に「茶煙」茶詩が占める割合で言えば、元代は宋代の倍以上になる。これらの諸現象は元代の喫茶美意識が宋代の茶湯泡と茶餅の華麗さへの追求から脱却し、喫茶の最も素朴の「飲む」へ回帰したことを意味する。

     さらに本文は元代「茶煙」詩が大幅に増加した原因について分析した。「茶煙」は喫茶場面の描写に立体感、躍動感を与え、「動」と「静」を融合させ、複数の空間を包含する役割を担っていた。「茶煙」は中国喫茶文化において魅力の非常に高いポイントだと指摘した。

  • ―アクションラーニング型の研修活動を通じて―
    坂田 哲人, 岩井 真澄
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 401-408
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/12/15
    ジャーナル フリー

     平成29年に改訂された幼稚園教育要領において,カリキュラム・マネジメントの必要性が指摘されている.これを受けて,保育現場ではカリキュラム・マネジメントをどのように理解し,実践していくことができるかという議論が進められているが,カリキュラム・マネジメントを実現していくためには多様な要因が絡み合っており,その道筋を導くのは容易ではない.

     これまでにもカリキュラム・マネジメントをどのように理解すべきか,という議論や,教育課程(カリキュラム)が実際にどのように編成されているかを分析した研究,あるいは運用上の工夫などをまとめた研究が進められてきている.本研究は,この議論の蓄積の上に立ちつつ,特に「組織マネジメント」の視座から,カリキュラム・マネジメントの実践がどのように可能となりうるかについて議論を進めていく.

     多忙といわれる現場においては,カリキュラム・マネジメントで求められるような組織全体を対象とした取り組みの導入には工夫が求められるところであるが,本稿では「アクションラーニング型の研修」を用いて取り組んだ実践について,その経過ならびに考察をまとめたものである.

  • 杉本 亜由美
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 640-646
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/12/15
    ジャーナル フリー

     本研究では,学生がビジネスマナーを身につけることができる有効な教育法を探求すべく,筆者が担当した,キャリア教育の一環であるビジネス基礎科目「ビジネスマナー基礎」の授業内で行った知識教育と,実技指導を含む実践教育の効果を検証した.

     検証の結果,客観的評価であるビジネスマナーテストと主観的評価である授業アンケートにおいて一定の授業効果を見てとることができた.また,客観的評価であるビジネスマナーテストの結果については統計的にも効果を実証することができた.

     また,ビジネスマナーテストにおいて設定した5つの領域の能力(サービススタッフの資質,専門知識,一般知識,対人技能,実務技能)のうち,サービススタッフの資質,専門知識,一般知識の領域においては,比較的短期間で身につけることができること,対人技能と実務技能の領域においては短期間で一定の効果は認められるものの,サービススタッフの資質,専門知識,一般知識の領域よりも長期間にわたる指導が必要であることが示唆された.

資料
  • 服部 孝彦
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 100-103
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/09/17
    ジャーナル フリー

     早期英語教育の考え方の理論的根拠として臨界期仮説をあげることができる.しかし現在まで,臨界期があるかどうかについては明確な結論は出ていない.本研究ではまず母語習得と臨界期の先行研究を概観する.その上で第二言語習得に関する臨界期の先行研究を概観し,研究動向を掌握する.そして臨界期が今後解明すべき課題について,言語習得環境からの視点も踏まえながら考察を行う.それらを踏まえ,2020年4月から全国の公立小学校で実施されている英語教育の有効性について,第二言語習得理論の立場から検討をする.

  • ―Web調査の結果をもとに―
    伊藤 秀樹, 酒井 朗, 林 明子, 谷川 夏実
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 176-185
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/09/17
    ジャーナル フリー

     本稿では,新型コロナウイルスの感染拡大に伴う学校休業中に,小学校等(小学校,義務教育学校,特別支援学校小学部)の2・3年生とその保護者がどのような生活を送っていたのかについて,調査モニターを対象としたWeb調査の結果をもとに検討した.その際,①小学校等の1年生とその保護者との共通点と差異,②世帯の暮らし向きや世帯構造による差異,という2点を明らかにすることを目指した.

     分析結果からは,2・3年生とその保護者について,保護者の大多数は子どものケアや教育にかなり力を入れて取り組んでいたが,コロナ禍や学校の休業が無視しえない割合の子どもにストレスや不安を生じさせていたこと,学校からの宿題が子どもや保護者に大きな負担をかけていたこと,子どもの勉強の遅れに関する保護者の心配に学校が十分に対応できていなかったことなどの,1年生とその保護者と共通する傾向が見出せた.一方で,1年生とその保護者との差異としては,①保護者による子どもへのケアは1年生ほどには手厚くなかったこと,②保護者が1年生以上に勉強や宿題への不安・心配を抱きやすかったこと,③子どもの登校意欲は1年生より維持されている傾向にあったこと,の3点が明らかになった.

     世帯の暮らし向きによる差異としては,暮らし向きが苦しい家庭の方が,学校休業中に子どもの生活リズムを維持することや,子どもの学習環境を整えること,子どもにさまざまなケアを提供することなどが難しかった様子が明らかになった.その背景には,保護者の学校休業中の出勤頻度の高さがあることも示唆された.なお,世帯構造による差異は,今回の分析からはほとんど見出すことはできなかった.

  • 小治 健太郎, 福島 しえり, 田中 智美, 町田 修一
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 322-324
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/12/14
    ジャーナル フリー

     これまでに中高年層を中心とした内臓脂肪面積の測定はメタボリックシンドロームの予防の観点から腹部X線CTを用いて行われてきているが,若年層における内臓脂肪面積の測定はX線被爆の問題からほとんど実施されておらず,腹囲測定を内臓脂肪面積の代替指標とせざるを得ない.しかしながら,腹囲測定では皮下脂肪の多寡を考慮できない.このような背景の中,腹部生体インピーダンス法を用いた内臓脂肪計が開発され,すべての年齢層における精確な内臓脂肪面積を測定できるようになった.その結果,腹囲ではメタボリックシンドロームの診断基準以下であっても,内臓脂肪面積が100 cm2を超えている,いわゆる隠れ肥満を検出できるようになった.一方,日常的に運動量が多いアスリートでの内臓脂肪の蓄積状況に関する研究報告は少ない.そこで本研究において,男子大学スポーツ選手を対象に内臓脂肪面積を測定したところ,運動習慣のない事務系男性労働者と比べて,非常に小さい値を示した.今後の解析では競技種目間で内臓脂肪蓄積量の差について検討を行うとともに,種々の食品成分の摂取量の違いが内臓脂肪の蓄積にどのような影響をもたらすかについて詳細に解析を行う予定である.

  • 古市 孝義, 金 美辰
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 420-430
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/12/07
    ジャーナル フリー

    〈目的〉本研究では,高齢者の余暇活動に関する現状を把握し,地域におけるレクリエーションの一つとしての旅行の効果や課題を見出すことを目的とした.〈方法〉医学中央雑誌にて「在宅高齢者」「余暇活動」のキーワードと,「在宅高齢者」と「旅行」のキーワードで同様の条件で検索し分析を行った.〈結果〉レクリエーションには人間性の回復が最終的な目標であることがわかった.高齢者の旅行に関しては,旅行への参加者は旅行に対して身体機能の維持や向上を目的としているわけではなく,純粋に食事,観光,外出の機会を楽しみに参加していることがわかった.高齢者にとって旅行は生きがいを感じる行為の一つであった.〈考察〉レクリエーションは高齢者の人間性を回復するために重要なものとされており,高齢者の新しい人間関係を構築するためにも重要な役割を担っている.地域におけるレクリエーション活動の一つである旅行を通して,地域のボランティアとつながり,新たな人間関係を構築し,より充実した地域生活を営むことができるような支援が求められると考えられる.

  • ―ヨガで本当の自分を思い出す―
    石川 千暁
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 431-433
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/12/02
    ジャーナル フリー

     本稿は,ヨガに関する学際的研究の記録である.ヨガと文学が重なり合っていることを自ら体験して学ぶことができたのが本研究の最大の成果であった.

  • 大喜多 紀明
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 656-666
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/12/16
    ジャーナル フリー

     本稿では,大喜多(2013)におけるパターン②の形式を持つアイヌ口承「ハリギリで舟を作った男のウエペケレ」,「カニの話」,「この砂赤い赤い」を題材に,主語的対応と述語的対応,および,新たに,述語的対応の下位の概念である動詞的対応と修飾語的対応の観点による分析をおこなった.その結果,本稿で分析した全ての要素対が動詞的対応からなっていることが確認された.このことは,本稿の口承テキストにおいては,要素対を形成するにおいて,動詞が果たす役割が大きいことを意味している.

書評
  • 阿部 純
    2021 年 2021 巻 31 号 p. 292-299
    発行日: 2021/01/01
    公開日: 2021/12/14
    ジャーナル フリー

     本書は日本軍「慰安婦」制度、原爆投下、日系人強制収容など戦時暴力を題材としている。ただし当該暴力そのものを論じたものではない。そうした暴力の被害者側にいる「アジア」にルーツを持つ「北米アジア系の人々がどのように応答したのか、その多様性と複雑性を探る」ことこそ、本書が「試み」たことである。本書において最も注目すべき点は、先学が築いた「批判的比較研究」の方法論を導入し、複数の暴力を「補償是正」の範囲を広げる形で同時並列的に語ったことにある。多様な資料を用いつつ「アジア系アメリカ」の戦争記憶表象を様々な視角から論じた本書は貴重な情報と示唆に富むものである。

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