日本造血細胞移植学会雑誌
Online ISSN : 2186-5612
ISSN-L : 2186-5612
10 巻, 2 号
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総説
  • 真部 淳
    2021 年 10 巻 2 号 p. 72-80
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/15
    [早期公開] 公開日: 2021/02/09
    ジャーナル フリー

     ALLの治療成績は大きく改善したが,難治例の治療,抗がん剤の毒性軽減のために新薬導入が必要である。Ph陽性ALL患者に対してはイマチニブと化学療法の併用によってHSCTを回避出来る可能性が示唆されている。またPh-like ALLでもABLPDGFRBなどのチロシンキナーゼ遺伝子転座を有する例でTKIの有用性が示された。B細胞型ALLの再発・難治例に対しては免疫療法として,ブリナツモマブ抗体投与とCAR-T細胞療法が保険収載された。6メルカプトプリンの代謝はNUDT15の遺伝子多型に依存することがわかり,その検査が保険収載された。一方ALL治療後に二次がんを来たしやすい遺伝性素因(TP53など)もわかってきた。今後,ゲノム医療の進歩により,ALLの発症機転,芽球の薬剤感受性,薬物による毒性,二次がんを来たしやすい素因などが統括的に明らかにされ,個別化医療の一層の進展が期待される。

  • 佐々木 謙介, 前田 高宏
    2021 年 10 巻 2 号 p. 81-86
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/15
    ジャーナル フリー

     Philadelphia chromosome-like(BCR-ABL1-like)acute lymphoblastic leukemia(Ph-like ALL)は,Ph染色体が陰性にも関わらず,Ph陽性ALLに遺伝子発現パターンの類似した非常に予後不良なB細胞性ALL(B-ALL)の新たなサブタイプである。Ph-like ALLでは,キナーゼやサイトカインレセプターシグナルの活性化に関連した遺伝子異常を認め,その活性化するシグナル経路によって1)JAK/STAT関連,2)ABL関連,3)その他に分類される。活性化したシグナルをターゲットとしたJAK阻害薬やtyrosine kinase inhibitor(TKI)などの分子標的薬の効果が期待されており,JAK/STAT関連の遺伝子異常に対してはRuxolitinib,ABL関連にはDasatinibを使用した臨床試験がアメリカではすでに行われている。しかしながら,Ph-like ALLの診断方法や治療法は未だ確立されておらず,Ph-like ALLの予後改善は今後の課題である。

  • 木村 宏
    2021 年 10 巻 2 号 p. 87-93
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/15
    ジャーナル フリー

     慢性活動性EBウイルス感染症は,EBVがT細胞あるいはNK細胞に潜伏感染し,クローナリティを持って増殖,臓器に浸潤し,多彩な症状を呈する難治性疾患である。予後は,概して不良で,無治療の場合には,臓器合併症・急性転化により死に至ることが多い。筆者らは,慢性活動性EBウイルス感染症患者に対して大規模な網羅的遺伝子解析を行い,1)生殖細胞列の変異はほとんど認められないため原発性免疫不全症が潜んでいる可能性は低いこと,2)EBV感染細胞では,DDX3X,KMT2Dなどのドライバー遺伝子変異が認められ,経時的に観察できた例では,EBV感染細胞のクローン進化が確認されること,3)高率に欠失ウイルスが認められ発症に関与している可能性があること,を明らかにした。本稿では,これら遺伝子解析によって解明されつつある慢性活動性EBウイルス感染症の発症病理と,診断・治療に関わる最新の知見について概説する。

研究報告
  • 南條 由佳, 佐藤 篤, 鈴木 資, 鈴木 信, 小沼 正栄, 今泉 益栄
    2021 年 10 巻 2 号 p. 94-101
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/15
    ジャーナル フリー

     当科で造血細胞移植を施行した41移植(38名)を対象とし,低用量valacyclovir(VCV)投与による移植後帯状疱疹発症予防効果を検討した。2015年7月以降の移植患者17移植(16名)に移植後帯状疱疹発症予防を目的に低用量valacyclovir(VCV)投与を行い,2015年6月以前の帯状疱疹発症予防非実施群24移植(22名)と比較した。用量はVCV約10mg/kg/day 1日1回内服とし,免疫抑制剤終了まで継続した(投与期間:11.4±9.9ヶ月)。VCV非投与群では水痘罹患歴のある児の約半数が帯状疱疹を発症していた。VCV投与群ではVCV投与中には帯状疱疹発症はみられなかった。VCV投与終了後に3例(17.6%)が帯状疱疹を発症しており,予防投与終了時期については検討が必要と考えられた。移植前水痘罹患歴あり,VCV予防投与なしが移植後帯状疱疹発症リスク因子と考えられた。長期間低用量VCV投与は安全かつ帯状疱疹発症予防に有効であり,少なくとも水痘罹患歴がある症例では免疫能がある程度回復するまで予防投与の継続が望ましいと考えられた。

  • 藤田 直人, 岩戸 康治, 松浦 裕子, 菅野 玲子, 若佐 智恵, 小林 正夫
    2021 年 10 巻 2 号 p. 102-105
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/15
    ジャーナル フリー

     2004年から2019年にかけて調整医師として105例の骨髄バンクドナー最終同意面談を担当したので,そのまとめを報告する。日本骨髄バンクが保有するデータをもとに,担当した例と同時期の全国例との比較検討を後方視的に行った。15年間で担当した自験例の年齢中央値は37歳,男女比は1.8/1であった。同時期に全国では18,515例の面談が行われており,年齢中央値37歳,男女比2.0/1であった。確認検査〜面談〜採取に要した日数につき各々検討したところ,確認検査から面談に要した日数は自験例で38.7日,全国例で45.3日と有意の差が認められた(P=0.004)が,面談から採取に要した日数は両群で差を認めなかった。面談を行った曜日につき検討を行ったところ,自験例では土日に面談を行った割合が36.2%と高く,全国例ではこれが6.4%であった。最終同意面談の日程調整の段階で,土日を候補日に挙げることが,コーディネート期間短縮につながったと考えられる。

  • 今滝 修, 加地 智洋, 久保 博之, 木田 潤一郎, 植村 麻希子, 藤田 晴之, 門脇 則光
    2021 年 10 巻 2 号 p. 106-112
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/15
    ジャーナル フリー

     【目的】本研究では造血幹細胞移植(HSCT)のためのバイオクリーンルーム(BCR)管理区域内において,人の動きなどに伴う浮遊微小粒子状物質(PM)数の日内変動について調査した。【方法】2017年4月から2020年3月までの3年間に,当科HSCT専用BCR病棟の共用区域において,一定期間BCR内PM測定を行い,日々の病棟診療に伴うPM数変動のパターンを分析した。微小粒子測定器は,市販のパーティクルカウンターを用いた。【成績】PM数日内変動は午前7 : 40,午前10 : 00,午後16 : 15に平均的ピークがみられ,日中の変動は夜間には定常状態に戻っていた。BCR内の一日の人の動きを確認したところ,粒子数が上昇する上記時間帯に配膳や検温が行われていた。PM数減衰の半減期はBCR面会制限前後でそれぞれ17.2~23.8分,12.6~23.4分と変わりがなかったが,面会制限によって日中時間帯(特に午後時間帯)のPM数平均値が有意に低下していた。【結論】BCR内粒子数は人の動きによって大きく変動し,その特徴を把握して粉塵拡散の予防に努めるべきである。

短報
  • 蒸野 寿紀, 西川 彰則, 堀 善和, 小浴 秀樹, 栩野 祐一, 𠮷田 菊晃, 森本 将矢, 高木 良, 上田 かやこ, 細井 裕樹, ...
    2021 年 10 巻 2 号 p. 113-117
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/15
    [早期公開] 公開日: 2021/02/09
    ジャーナル フリー

     There is an increased risk of late complications such as chronic graft-versus-host disease and secondary malignancies among patients who undergo allogeneic hematopoietic cell transplantation (allo-HCT), which could lead to deterioration in the quality of life and late mortality. Recently, the long-term follow-up (LTFU) clinics have been recognized as an important intervention to patients who underwent allo-HCT. In 2017, an LTFU clinic was established at the Wakayama Medical University. However, visitation to the LTFU clinic was difficult, especially for patients from remote areas. Thus, using internet telemedicine and medical information cooperation system called Seishu LINK, we set up a remote LFTU clinic in the Kinan Hospital, in which five patients were already catered. Despite a few flickering screen issues and acoustic noises in the system, medical interviews and patient guidance were successful. Furthermore, developing a remote LTFU clinic system for allo-HCT survivors in Wakayama, Japan, is our next step.

症例報告
  • 濵田 のぞみ, 但馬 史人
    2021 年 10 巻 2 号 p. 118-123
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/15
    ジャーナル フリー

     慢性移植片対宿主病(chronic graft-versus-host disease,慢性GVHD)は,造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation,HCT)後の高齢者で発症率が高くquality of life(QOL)を低下させている。本施設ではlong-term follow-up(LTFU)外来でSF-36® v2日本語版(MOS 36-item Short Form Health Survey,SF-36)のサマリースコア精神的健康度(MCS),身体的健康度(PCS),役割/社会的健康度(RCS)を参考にセルフケア指導を行っている。今回,70歳代の2症例において慢性GVHDの経過でQOLの内容に差があり,セルフケアの充足状況がRCSに影響することが考えられた。QOLは,身体機能だけではなく,社会的背景や役割遂行にも影響される。HCT後の高齢患者のQOLは,高齢者が価値をおき,大切にしている生活習慣がセルフケアにより維持され,継続できることが影響すると示唆された。

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