日本造血細胞移植学会雑誌
Online ISSN : 2186-5612
ISSN-L : 2186-5612
5 巻, 3 号
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総説
  • 石田 也寸志
    2016 年 5 巻 3 号 p. 51-63
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/15
    ジャーナル フリー
     移植成績の改善を背景に,患者QOLや晩期合併症が重要になってきた。移植後晩期合併症は,全身照射と大量化学療法のいわゆる前処置に伴うものと慢性Graft versus Host Disease(GVHD)によるものと大きく二つの機序による。移植群では40%以上にやせがみられ,低身長の頻度は非移植群の2倍となり,晩期合併症は78%(非移植群45%)に観察された。呼吸障害は生命予後にかかわる重要な合併症で,内分泌障害が高率に生じ成長障害・甲状腺機能障害が主なものである。骨髄破壊的移植後の性腺機能障害は高率で不妊率も極めて高い。移植後は二次的免疫不全となるためワクチンの再接種は不可欠である。二次がんとしては,移植後の固形腫瘍累積発症率が高く,発症には慢性GVHDと放射線治療がかかわっている。移植後のQOLを評価した研究も増加しており,移植後小児患者の長期フォローアップとQOLの重要性を示している。
  • 杉田 純一
    2016 年 5 巻 3 号 p. 64-73
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/15
    ジャーナル フリー
     同種造血幹細胞移植は悪性または良性の血液疾患に治癒をもたらしうる有用な治療法であるが,適切なドナーがいなければ実施することはできない。同種造血幹細胞移植に最も適したドナーはHLA適合の血縁または非血縁ドナーであるがすべての患者にそのようなドナーが得られるとは限らない。HLA半合致ドナーであればすべての患者に得られる可能性があるが,HLA一致移植と比較して,GVHD,拒絶の両方のリスクが高いことが問題であった。近年,CD34陽性細胞純化やTCR-αβ陽性細胞除去などのex vivo T細胞除去,抗ヒト胸腺細胞グロブリン(ATG)またはalemtuzumabを用いたin vivo T細胞除去,移植後シクロホスファミドを用いた方法など様々な方法の開発によりHLAの障壁を乗り越えられるようになってきており急速にその適応は拡大している。
  • 松本 雅則
    2016 年 5 巻 3 号 p. 74-81
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/15
    ジャーナル フリー
     血栓性微小血管症(TMA)は,血小板減少,溶血性貧血,全身もしくは腎臓内の血小板血栓を特徴とする疾患群である。血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)と溶血性尿毒症症候群(HUS)が代表的な疾患であるが,造血幹細胞移植後にも移植後TMAが発症する。移植後TMAはTTPと同様の疾患と考えられていたが,血漿交換に対する反応の違いから別疾患と考えられるようになった。TTPではADAMTS13活性が著減するが, 移植後TMAでは著減しない。病因は不明な部分が多いが,移植変対宿主病(GVHD),カルシニューリン阻害薬などによる血管内皮細胞障害が重要である。移植後TMAに対する治療法は確立されていないが,早期に治療を開始することが重要である。現状ではカルシニューリン阻害薬の減量や変更が行われているが,血漿交換の効果が十分でないことから遺伝子組換えトロンボモジュリン,リツキシマブ,エクリズマブなどの新規薬剤の効果が期待されている。
研究報告
  • 五井 理恵, 梅田 雄嗣, 川口 晃司, 岩井 篤, 三上 真充, 納富 誠司郎, 才田 聡, 平松 英文, 平家 俊男, 足立 壯一
    2016 年 5 巻 3 号 p. 82-86
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/15
    ジャーナル フリー
     1995年から2015年の間に当科で血縁ドナーを第一候補として計画された造血幹細胞移植についてHLA検査の実施状況,最終的なドナー選択,第一候補ドナーから移植しなかった症例の経緯,臨床経過を後方視的に検討した。対象59件の内訳は同胞35件,親24件で,54件が最終的にドナーとなった。一方,第一候補ドナー5件(同胞4件,親1件)のうち4件はドナーの健康上の問題,ドナー本人または家族の希望,遺伝性疾患のキャリアからの移植の回避などの理由で代替ドナーに変更となり,1件は患者の希望により移植が中止されたため,最終的に採取が施行されなかった。さらに,2件のドナー候補は健康上の理由で骨髄から末梢血幹細胞採取に変更となった。ドナー候補への不必要な苦痛を避けるため,HLA検索前に年齢に応じた身体的・精神的適格性の判定とドナー候補・家族へのインフォームド・コンセントを十分に行う必要があると考えられた。
  • 関口 昌央, 荒川 ゆうき, 大隅 朋生, 磯部 清孝, 滝田 順子, 花田 良二, 富澤 大輔, 松本 公一, 岡 明, 康 勝好, 加藤 ...
    2016 年 5 巻 3 号 p. 87-92
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/15
    ジャーナル フリー
     小児の造血幹細胞移植においてダブルルーメンの中心静脈カテーテルからタクロリムス持続静注を行う際,投与を行っていない側のルートからの逆流採血による検体で血中濃度モニタリングを行うのが一般的であるが,偽高値がしばしば問題となる。採血方法の工夫でその誤差を抑えられるか検討するため,標準的な逆流採血法(標準法)と,採血の直前に生理食塩水5mLでルートをフラッシュしてからの逆流採血法(フラッシュ法)とを後方視的に比較した。造血幹細胞移植でタクロリムス持続静注を行っている際,逆流採血で採取された検体の血中濃度と,穿刺採血の検体の血中濃度の比(Rc)を集計したところ,フラッシュ法で有意にRcが低値であった(中央値1.019 vs 1.142,p=1.8×10−10)。フラッシュ法は逆流採血におけるタクロリムス血中濃度偽高値を減少させ,頻回の穿刺採血なしで血中濃度をモニターすることを可能にすると考えられた。
  • Akihiro Ohmoto, Shigeo Fuji, Akiko Miyagi-Maeshima, Kinuko Tajima, Tak ...
    2016 年 5 巻 3 号 p. 93-101
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/15
    ジャーナル フリー
     It is still unclear what factors are associated with a poor prognosis after ASCT for relapsed or refractory diffuse large B-cell lymphoma (DLBCL). The study cohort included 43 patients with relapsed or refractory DLBCL who underwent ASCT. Biopsy specimens were immunohistochemically analyzed for CD10, BCL6, MUM1, BCL2, and MYC. Thirty-seven patients (86%) received rituximab before ASCT, and the age-adjusted International Prognostic Index (aaIPI) at relapse was 2-3 in 18 patients (42%). Immunohistochemical analysis showed that 88% of samples were of the non-GCB type, and concurrent expression of BCL2 and MYC was observed in 59% of samples at diagnosis. The probability of 3-year overall survival (OS) was 65%. The poor prognostic factors for OS were aaIPI 2-3 at relapse (hazard ratio [HR], 4.1; 95% confidence interval [CI], 1.4-12.4) and no rituximab before ASCT (HR, 6.6; 95%CI, 2.1-20.9). The 3-year relapse incidence was 43%, and 2 factors were also significant risk factors for relapse (high aaIPI: HR, 3.0; 95%CI, 1.1-7.9 and no rituximab before ASCT: HR, 9.2; 95%CI, 3.6-23.3). In the rituximab era, novel treatment strategies might be required in DLBCL patients with high aaIPI at relapse.
症例報告
  • 徳永 美菜子, 西川 拓朗, 棈松 貴成, 中川 俊輔, 倉内 宏一郎, 児玉 祐一, 田邊 貴幸, 新小田 雄一, 岡本 康裕, 河野 嘉 ...
    2016 年 5 巻 3 号 p. 102-106
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/15
    ジャーナル フリー
     症例は急性骨髄性白血病の7歳男児で,HLA一致同胞から同種骨髄移植後を施行したが,9か月後に再発した。FLAG療法を2コース行なったが非寛解であり,いずれの治療コース後にも緑色連鎖球菌敗血症に罹患した。その後,HLA半合致の父親から同種末梢血幹細胞移植を行なった。前処置は全身放射線照射(9.9Gy), fludarabine(120mg/m2),GVHD予防は移植後シクロフォスファミド(PTCy),タクロリムス,ミコフェノール酸モフェチルを用いた。移植翌日には高熱を認めたが,PTCy投与後速やかに解熱した。Day 18で好中球生着し,急性GVHD,粘膜障害共にGrade Ⅰであった。移植後第4寛解に達し,QOLを保ちつつ移植後6か月経過している。小児領域ではPTCyを用いたHLA半合致移植の報告はいまだ非常に少ないが,毒性が少なく,QOLも改善維持する可能性のある有用な移植法の一つと考えられた。
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