?.はじめに
発表者は,かつて(1983から84年),わが国全域を対象として水産物行商人の分布と活動の地域的展開,およびその行動上の特徴について論究した1)。それによると,当時,在来型行商人が全国で約22,000名,自動車営業者が約15,000名あった。彼らの分布は,前者が主要産地市場や大都市に近接する漁村などに顕著な集中がみられたのに対し,後者は従来の鮮魚流通の空白地であった内陸部や僻地性の強い地域に集中するなど大きな違いがみとめられた。
九州地方に関していうと,1983年当時,沖縄県を除く7県で在来型行商人が計4,589名(内訳:福岡県1,034,佐賀県619,長崎県940,大分県357,熊本県499,宮崎県291,鹿児島県839),自動車営業者が沖縄県と福岡県を除く6県で計2,258名(内訳:佐賀県66,長崎県470,大分県489,熊本県507,宮崎県290,鹿児島県436)を数えた。
かつての調査から20年近くを経た今日,水産物行商は,その活動形態,活動内容ともに大きな変容が予想される。発表者は,昨年の日本地理学会秋季学術大会において,中国地方,特に山陰地方を事例に水産物行商活動の実態に関する報告を行った2)。そこで今回は,九州地方の事例について詳細な検討を行う。
?.在来型行商および自動車営業活動の変容
(1) 福岡県
在来型行商人は,県の資料が残っている中では1965年の1,850名が最大であったが,2000年末で474名となった。35年間での減少率が74.4%,年当たり2.1%減少した。年当たりの減少率を前回調査の1983年以降でみると,3.2%とさらに大きくなる。なお,福岡県では,営業を認めていなかった自動車営業を1989年の条例改定に伴って認めている。こちらは,2000年末現在で128名となっている。
(2) 佐賀県
在来型行商人は,県の資料が残っている中では1963年の1,250名が最大であったが,2001年末で256名となった。38年間での減少率が79.5%,年当たり2.1%減少した。年当たりの減少率を1983年以降でみると,3.3%とさらに大きくなる。一方,自動車営業者は,データ上では1979年の15名から始まり,87年の77名をピークに減少に転じ,2001年末で24名となった。ピーク時からの減少率が68.8%,年当たり4.9%の大幅減となっている。
(3) 長崎県
在来型行商人は,県の資料が残っている中では1977年の1,065名が最大であったが,2001年末で577名となった。24年間での減少率が45.8%,年当たり1.9%減少した。年当たりの減少率を1983年以降でみると,2.1%と大きくなる。一方,自動車営業者は,データ上では1977年の335名から始まり,84年の482名をピークに減少に転じ,2001年末で237名となった。ピーク時からの減少率が50.8%,年当たり3.0%の大幅減となっている。
(4) 大分県
1983年と2001年のデータを比較してみると,在来型行商人は,367名から133名となった。18年間での減少率が63.8%,年当たり3.5%の大幅減となっている。一方,自動車営業者は,489名から273名となった3)。19年間での減少率が44.2%,年当たり2.3%の減少となっている。
(5) 熊本県
1984年と2002年現在のデータを比較してみる4)と,在来型行商人は,499名から301名となった。18年間の減少率が39.7%,年当たり2.2%減少した。一方,自動車営業者は,507名から363名となった。18年間の減少率が28.4%,年当たり1.6%の減となっている。
(6) 宮崎県
在来型行商人は,県の資料が残っている中では1968年の1,270名が最大であったが,2002年現在でわずか79名となった。34年間の減少率が93.8%,年当たり2.8%減少した。年当たりの減少率を1983年以降でみると,3.8%の大幅減となる5)。一方,自動車営業者は,1979年の350名をピークに減少に転じ,2002年現在で157名となった。ピーク時からの減少率が55.1%,年当たり2.4%の減となっている。
(7) 鹿児島県
在来型行商人は,県の資料が残っている中では1967年の2,320名が最大であったが,2001年末で287名となった。34年間の減少率が86.7%,年当たり2.6%減少した。年当たりの減少率を1982年以降でみると,3.5%の大幅減となる。一方,自動車営業者は,1979年の460名をピークに減少し,2001年末で278名となった。ピーク時からの減少率が39.6%,年当たり1.8%の減となっている。
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