明治期に編纂された百科事典『古事類苑』に掲載されている山に地理情報 (緯度・経度・標高)を与え, GISを用いて地図化した。この百科事典は30の部門に分かれており, 現代の自然・人文・社会科学の対象とされる広い範囲をカバーしている。このうち, 地理的な事象は「地部」で扱われている。「地部」は50の章からなり, 地部1では日本地理の総説が述べられ, 地部2では日本の首都の変遷が取り上げられる。続く地部3~36では地誌的に, 地部37~50では系統地理的に, それぞれ日本の地理が記述されている。本研究では, 地部43~44の「山」に関する記述に着目した。
この百科事典では, 山は「名山」「高山」「火山」のカテゴリーに分けられている。取り上げられている山の数は, それぞれ, 27, 59, 17である。「名山」は近畿地方に集中しており, とりわけ和歌や連歌に登場するような里山がほとんどである。「高山」は比較的全国から選ばれているが, 宗教登山の対象となっている山が多く, 日本の代表的な高山地域である日本アルプスからはほとんど選ばれていない。「火山」の分布にも偏りがあり, 全国に広範囲に分布する火山のうち, ごく名の知れた少数の山しか選ばれていない。この3つのカテゴリーの山を, 現代の名山として広く認知されている深田久弥の「日本百名山」と比較してみると, 古事類苑に選ばれている山は概して標高が低く, 文化的要素が極めて重視されているといえる。
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