地理学論集
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84 巻, 1 号
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特集
  • Preface
    Teiji WATANABE
    2009 年 84 巻 1 号 p. 1-2
    発行日: 2009/07/31
    公開日: 2012/11/15
    ジャーナル フリー
  • 渡辺 悌二, アナルバエフ マクサト, 落合 康浩, 泉山 茂之, ガウナビナカ レンバイアテライテ
    2009 年 84 巻 1 号 p. 3-13
    発行日: 2009/07/31
    公開日: 2012/11/15
    ジャーナル フリー
     キルギス共和国南部のパミール・アライ山脈地域において,ツーリズムの現状を明らかにし,その問題点を指摘した。現地では7つの村で合計514世帯にアンケート用紙を配布し,354世帯から回答を得た。また,地元関係者に対して聞き取り調査を行った。その結果,90%以上の回答者がツーリズム開発を望んでいることがわかった。この地域では,旧ソ連邦時代からレーニン峰やベースキャンプへの登山・トレッキングツアーが実施されてきたが,現在でもその多くがウズベキスタンをはじめとする周辺諸国の観光・トレッキング会社によって行われており,収入のほとんどが地元に還元されない仕組みができている。最近になって,アライ谷東部のサリタシ村とサリモゴル村に,ユルト(移動式のフェルト製テント)や民家を使ったきわめて小規模なツーリズム施設が散見されるようになってきた。しかし,そこでもたらされる収入は,きわめて限られた世帯にしかもたらされない。ほとんどの住民が,ツーリズム開発を推進させる鍵として地方空港やホテル建設,道路整備などを期待している。しかし,外部資本が開発を始める前に地元にエコツーリズム関連の組織を設立する必要があると考えられる。この組織は,ツーリズム開発による収入の多くを地元に落とす役割を果たすだけではなく,不必要な開発を抑制し自然資源保全にも結びつく役割を果たし得る。その結果,この地域の持続性が高まると期待される。
  • 泉山 茂之, アナルバエフ マクサト, 渡辺 悌二
    2009 年 84 巻 1 号 p. 14-21
    発行日: 2009/07/31
    公開日: 2012/11/15
    ジャーナル フリー
     キルギス共和国南部のアライ谷地域で,地元ハンターへの聞き取りと住民へのアンケート調査を中心に,現存する大型野生動物のリストを作成し,この地域にみられる問題点を明らかにした。その結果,13種の動物をリストアップした。この中には,ソ連邦崩壊後に増加したオオカミと,絶滅の危機に瀕しているマルコポーロ・シープ,現在も続く狩猟によって個体数が激減していると考えられるアイベックスが含まれている。オオカミの群れはいわゆる「里オオカミ」として集落付近で定着するようになっている。これは,ソ連邦時代には国家がオオカミを害獣として組織的に捕殺していたのに,現在では地域の住民が自ら対応しなければならなくなった結果である。オオカミの駆除は必ずしも好ましいとは言えないが,少なくとも人間の居住地域からの排除は必要である。また,マルコポーロ・シープについては,タジキスタン国境に近い,住民の立ち入りが困難なザ・アライ山脈のある地域を除いてすでに絶滅が進行してしまっている。アイベックスについては,新型の銃器による違法狩猟が続いており,食肉用に捕獲されるため,狩猟された個体がトラックの荷台に満載されていたという目撃情報も複数存在している。こうした現状から,実効性のある対策が急務であるが,この地域の生物資源保全を有効に進める一つの貢献として,現在,議論が進んでいる,パミール・アライ国際自然保護地域の設立(PATCAプロジェクト)が期待される。しかしながらアンケート調査によれば,このプロジェクトの計画の存在を知っていた住民はわずか16.9% (331人中56人)に過ぎなかった。
  • 奈良間 千之, セベルスキー イゴール, イェゴロフ アレクサドル
    2009 年 84 巻 1 号 p. 22-32
    発行日: 2009/07/31
    公開日: 2012/11/15
    ジャーナル フリー
     天山山脈北部地域のイリ・アラタウとクンゴイ・アラトー山脈を対象に,Corona(KH-4B), Hexagon(KH-9), ALOS(PRISM,AVNIR-2)の衛星データを用いて,最近の氷河の面積変化,氷河湖の分布とその特徴を明らかにした。この山岳地域には760以上(約570㎞2)の小規模な山岳氷河が分布しており,これらの氷河は1971~2007年の36年間で15%の面積を消滅した。この急速な氷河縮小にともない,現在の氷河前面には約320の小規模な氷河湖(0.0001~0.2㎞2)が発達している。この地域でみられる氷河湖のタイプは,氷河前面に広がるデブリ帯に形成されたサーモカルスト湖や融氷水湖,あるいは氷河と接するモレーンダム湖である。現在観察できる氷河湖のほとんどは1980年代以降に出現しており,氷河縮小が大きい場所で氷河湖の出現率が高い傾向にある。イリ・アラタウ山脈北面において1970年代に大規模な氷河湖決壊洪水(GLOF)を発生させた氷河湖の面積は0.01~0.05㎞2であった。この面積はヒマラヤに比べるとかなり小規模であるが,数名の犠牲者と家屋や道路などの建設物に被害がでている。現在,この面積の氷河湖の数は決壊が集中した1970年代と同数に達しており,決壊する危険性の高い氷河湖が存在しはじめている。
  • 岩田 修二
    2009 年 84 巻 1 号 p. 33-43
    発行日: 2009/07/31
    公開日: 2012/11/15
    ジャーナル フリー
     さまざまなインターネット情報,とくにGoogle Earthの立体画像やGoogle Mapの等高線地図によってフェドチェンコ氷河の地形特徴を明らかにできるようになった。これらの情報と1970年代のソビエト陸軍の地図(1:100,000)を用いると,ロシア語圏以外の人々にはあまり知られていないフェドチェンコ氷河の氷河地形学的側面が理解できる。フェドチェンコ氷河はパミールの北西部の山岳地にある長さ77㎞の巨大な谷氷河で,偏西風によって大西洋からの湿気によっておもに冬に涵養される。フェドチェンコ氷河は革命峰(6,940m)の西側斜面の海抜5,400 mから始まり北に流れ高度2,900mの末端で終わる。氷河下流区間(末端から30㎞まで)は表面岩屑に覆われた細長い氷舌で,中流区間(30㎞地点,高度4,050mから45 ㎞地点,高度4,500mまで)は南東から北西に流下し多くの支氷河を合わせる。中間地点の最上部の右岸には,氷河本流が東側にあふれ出し小規模な氷舌(タヌィマス末端)を形成している。上流区間(45㎞から流域上端まで)は,非対称形である。右岸側には革命峰を含む6,000m級の山塊になっているが左岸側には顕著な高まりがなく,氷河に覆われた緩やかな分水界を経て,南西側の谷氷河へと通じている。氷河の上流区間を含む流域は小規模な氷原,または横断型氷河系を形成しているが全体としてみると,フェドチェンコ氷河は谷氷河である。氷河下流区間で本流に接しているビバーク氷河(パミール最高峰イスモイル=ソモニ,7,495mがある)では,繰り返し氷河サージが起こっている。人工衛星画像の比較によれば,1990年代以後のフェドチェンコ氷河の末端の縮小はおこっていない。氷河変動の状況はカラコラム山脈の大型氷河とよく似ている。フドチェンコ氷河がこのような大きな氷河にまで発達したのは氷河侵食による流域の争奪が起こったからと考えられる。
  • 小松 哲也
    2009 年 84 巻 1 号 p. 44-50
    発行日: 2009/07/31
    公開日: 2012/11/15
    ジャーナル フリー
     カラクル湖 (ca.39°N, ca.73°25’E) は,東パミールの北東部,標高3,915mに位置する閉塞湖である。その湖岸には,過去の湖面変動と氷河変動による地形・堆積物が非常に良く残されている。これらを発達史的な観点から研究することは,東パミールの第四紀後期以降の古環境変遷の理解に貢献すると考えられる。そこで,本稿では,そうした研究を行う上で重要な意味を持つ地形・堆積物の特徴,ならびにそれらの露出年代の指標となる風化礫の特徴の二点について取り上げ,それらの写真を研究資料として提示した。
  • 落合 康浩
    2009 年 84 巻 1 号 p. 51-64
    発行日: 2009/07/31
    公開日: 2012/11/15
    ジャーナル フリー
     本稿は,パキスタン北部地域ゴジャール地区の開発にともなう農牧業形態の変化や観光化の進展,住民の生活の実態について分析し,そこに存在する問題点を整理しながらこの地区の持続的発展に向けての課題について考察するものである。
     ゴジャール地区はカラコラムハイウェイ(KKH)の開通および外国人への開放と,アガ・ハーン財団などNGOによる開発事業の推進により,物流の増大や観光客の流入,農業構造の改善,児童教育の普及が促進された。中でもパスー村は地の利を得て開発の進展が著しく,農業は商品作物であるジャガイモの栽培に特化したものになり,観光関連産業が村内に成長した。村人の現金収入は拡大したが,支出もまた増大し,新たな就業機会や収入増加の道を模索する必要も生じている。
     こうした状況は,観光業を推進する上で不可欠な地域固有の貴重な資源,すなわち地域の個性でもある伝統的な生活様式を失うことにもなりかねない。それを回避するには,地域をよく理解する地元の人々自らが,適正な開発理念を考案し,独自の手法による開発を推進する必要がある。そしてそのために重要なのが,地域住民の組織力の強化である。住民の自主的な組織によって,新たな生産活動の成長を促し,一方で伝統的な技術や文化を継承していく支援を続けながら,それらを村の経済発展に活用する方法を見出していくことを検討しなければならない。各々の住民,さらには各村々の役割についても配慮し,分業体制,もしくは相互補完システムを構築することも重要である。何よりもゴジャール地区は,教育水準の高い有為な人材に恵まれており,その力を結集することで,地域の組織化,そして持続的な開発を実現することは十分に可能であると考えられる。
  • —カラコラム山脈渓谷に立地するフセイニ村の灌漑用水問題—
    水嶋 一雄
    2009 年 84 巻 1 号 p. 65-74
    発行日: 2009/07/31
    公開日: 2012/11/15
    ジャーナル フリー
     パキスタン北部地域ゴジャール地区に居住するワヒ民族のフセイニ村は,グルキン氷河の形成したモレーン堆積物上に立地し,麦類や豆類などを輪作する灌漑農業と羊や山羊を中心に移牧する牧畜を,伝統的生業にして自給自足の生活を維持してきた。
     ところが,1986年に開通したカラコラム・ハイウエー(KKH)は,ゴジャール地区に近代化と商品・貨幣経済を浸透させ,ワヒ民族の伝統的生業と自給自足の生活は一変することになった。このインパクトは,ゴジャール地区の多くの村々で,麦類や豆類などの灌漑農業から,換金作物となるジャガイモ栽培の灌漑農業へと変化させたが,山岳乾燥地域のフセイニ村におけるこの面積の拡大は,地域課題として灌漑用水問題を発生させることになった。
     フセイニ村では,従来からモレーン堆積物の下にある氷河から溶け出す水を取水し,5本の用水路で村まで運び,村独自の分配方法で農作物を灌漑してきた。もちろん,この栽培でも,村は慢性的な用水不足に直面していたが,自給自足の生活では地域課題として浮上することはなかった。しかし,市場販売を目的としたジャガイモ栽培面積の拡大と,量や質の維持には,安定した用水量は不可欠であったが,モレーン堆積物の下の氷河から溶け出す用水量では,年ごとの気候条件に影響を受けた氷河の動向に左右されるため,極めて不安定で不足しがちであった。村はこの面積の拡大で深刻な灌漑用水不足に陥った。
     フセイニ村では,解決に試行錯誤を繰り返しながら,グルキン氷河末端から流れ出すグルキン川左岸から取水し,これを村まで運ぶという計画を立案した。しかし,この実現には,村まで約1㎞の距離をいかなる方法を採用すれば可能なのかが問題となったが,解決策に導水路となる鉄パイプを設置することを決定し,この購入費用をパキスタン政府に申請した。2003年にこの申請が認可されたため,村は2004年にこの設置工事を実施した。設置の終了後,村は2005年に取水を開始し2007年まで3本の鉄パイプで大量の用水を,3本の既存の用水路に流し込むことに成功した。村はひとまず灌漑用水不足を解決することになったが,固定できない取水口の不安定さ,地表に剥き出しの鉄パイプに落石による破損の危険性,漏水の著しい既存の用水路の利用など,今後解決すべき課題も多く存在している。
論文
  • 太田 陽子, 荒木 一視
    2009 年 84 巻 1 号 p. 75-87
    発行日: 2009/07/31
    公開日: 2012/11/15
    ジャーナル フリー
     北海道石狩川上流部の砂州において,ヤナギ属実生の発生と生残過程を検討した。調査地ではオノエヤナギとエゾヤナギが優占し,定着時期の異なる実生群落が成立していた。ヤナギ属の種子散布は融雪洪水後に水位が低下し始める時期に同調して始まるため,地表面が水面より上に現れる時期によりその場所に定着する種が異なっていた。地表面の出現時期は微地形と水位との関係で決定されていた。種子は地表面に到達すると直ちに発芽し,7月には実生数が最高となった。これらの実生は,前年やその前の年に定着していたより大きな実生や草本などに被陰されて枯死することが主な死亡要因であることがわかった。また,オノエヤナギよりもエゾヤナギの方が被陰に対する抵抗性が高いという結果も得られた。このような状況に耐え定着年を生残した実生は,次の春の融雪洪水で流失あるいは埋没して生残個体が減少する可能性も示唆された。定着後2年が経過した実生は融雪洪水で消失するものが相当数あったが,3年が経過した実生は多くが生残していた。このように,ヤナギ属実生は微地形に対応した不均一な立地で水位の変動に呼応して定着していき,その生残に関わる要因は,実生の生長段階に応じて異なることがわかった。
  • 和田 郁奈
    2009 年 84 巻 1 号 p. 88-98
    発行日: 2009/07/31
    公開日: 2012/11/15
    ジャーナル フリー
資料
  • 柚洞 一央, 祖田 亮次, 渡部 悟
    2009 年 84 巻 1 号 p. 99-110
    発行日: 2009/07/31
    公開日: 2012/11/15
    ジャーナル フリー
     本稿では,マレーシアの最大河川ラジャン川において,近年進行している河岸侵食の実態を報告し,派生する問題について若干の考察を加える。流域面積約5万平方キロメートルを持つラジャン川の中下流域では,過去30~40年の間に河岸侵食が顕著に見られるようになった。観察および現地住民からの聞き取りによると,侵食を促す間接的背景として,河岸植生の変化,上流からの大量の土砂流入,浚渫などが挙げられ,直接的な契機としては,乾燥が続き土壌がひび割れた後の大雨や,洪水氾濫後の過剰間隙水圧のほか,船舶による航走波や流木の衝突などが考えられる。こうした侵食の影響を避けるため,河岸に位置する村々(ロングハウスという居住形態をとる先住民が多い)は,これまでに幾度もの移転を余儀なくされてきたが,近年では,土地不足や資金不足などにより移転さえも困難になっている。また,近隣の華人による土地の買占めが移転を困難にしている場合もあり,民族間の緊張関係を生み出すなど,社会問題としても顕在化しつつある。一方,現地住民の自己防衛策は非常に緩慢で,政府援助や国際協力に頼ろうとする姿勢が目立つ。こうした姿勢は中央集権化の過程で形成されたもので「補助金症候群」と揶揄される。このように,自然的要因だけでなく,社会的・政治的背景が複雑に絡み合うことで,先住民の脆弱性が増大し,レジリエンスが減退しているという現状が見られた。
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