本研究は大津波の到来が予想される釧路市の中心市街地を事例として津波避難ビルの整備状況を概観し,その有効性と課題を住民の徒歩避難に関するマルチ・エージェント・シミュレーション(MAS)から明らかにした。このシミュレーションでは,高層建築物が存在しない地区を対象として住民をモデル化し,居住地の近隣にある津波避難ビルまで水平移動した後に,ビル内の階段で最上階へ避難するまでの行動を想定した。その結果,当該地域では東日本大震災後に津波浸水想定が更新されてから,津波対策により収容人数の多い津波避難ビルが複数建設されたことで避難環境は改善されたことが確認できた。しかし,MAS では,津波避難ビルから離れた地区の住民にとって,津波到達までにビルの上層階へ避難することは困難という結果も得られた。これは,階段を上り始める際の歩行速度の変化や,階段付近における滞留などにより,避難移動が遅滞することが原因となっていた。このように津波避難ビルの有効性については定員数だけから判断するのではなく,水平移動や垂直移動も考慮して,津波到達までの時間に収容できる避難者についても検討する必要があり,そのために本シミュレーション手法は有効と考えられた。
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