比較生理生化学
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26 巻, 3 号
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総説
  • 伊藤 伊織
    2009 年 26 巻 3 号 p. 93-100
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/06
    ジャーナル フリー
      脳は感覚刺激に応じて感覚情報の脳内表現を作り出す。脳内表現は各脳領域における情報処理のタスクに応じて再変換されていく。昆虫の嗅覚神経系は,ほ乳類と多くの共通のデザインを持ちながらも,神経細胞の数が比較的少ないため,このような脳内表現の変換過程を理解するためのよいモデルである。昆虫におけるにおい情報の脳内表現は触角に存在する嗅細胞に始まる。各嗅細胞は特定の範囲のにおいに応答し,におい刺激中はスパイク発火頻度を増加させる。そのため,におい情報はにおい特異的な組み合わせの嗅細胞に起こる定常的なスパイク発火として,嗅覚系の一次中枢である触角葉(嗅球に相当)へと伝えられる。触角葉の投射神経細胞は,嗅細胞からの感覚入力と局所介在神経細胞からの抑制性入力を受け,においの脳内表現を興奮と抑制からなる複雑なスパイク発火パターンへと変換する。この時,投射神経細胞の空間的な活動パターンは冗長性の多いパターンからにおい特異的でにおい識別が容易なパターンへと素早く変化する。この過程は脱相関化と呼ばれ,においのカテゴリー化・識別の両方に役に立つ可能性がある。さらに,投射神経細胞からにおい情報を受け取るキノコ体のケニオン細胞は,におい情報表現を少数の細胞に起こる少数のスパイク発火からなる時間的にも空間的にも疎(スパース)な情報表現へと変換する。このような情報表現様式はスパースコーディングと呼ばれ,連合記憶に都合が良いため嗅覚記憶に重要なキノコ体の機能によく適している。本稿では,このような脳の領域間でのにおいの脳内表現の変換とその意義について,昆虫での研究成果を中心に解説する。
  • 中川 将司, 堀江 健生
    2009 年 26 巻 3 号 p. 101-109
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/06
    ジャーナル フリー
      動物の眼は多種多様である。しかし,脊椎動物内ではその器官の構造,視細胞の形態,そして視細胞内信号伝達系等の性質は,最も下等な円口類からヒトまで殆ど同じである。脊椎動物の眼の体制が進化の過程でどのように確立されてきたのか,まだ殆ど分かっていない。ホヤは脊椎動物の最も近縁な現生動物で,その幼生は脊索をもち,神経管から神経系が発生する等,脊椎動物の基本的特徴を備えている。ホヤは脊椎動物型眼の進化を解く鍵になると期待される。筆者らは,ホヤ幼生から視細胞特異的遺伝子を単離し,それらの遺伝子産物に対する抗体によってホヤ幼生の視細胞の形態を明らかにしてきた。本稿では,ホヤ幼生の光に対する行動とその視細胞の形態を基に,脊椎動物の原始的な眼と,脊椎動物の眼や松果体との関連性について考察する。
  • 河村 正二
    2009 年 26 巻 3 号 p. 110-116
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/06
    ジャーナル フリー
      近年様々な動物において色覚を担う光センサー(錐体オプシン)の解明が進み,動物によりその数や種類や発現パターンが異なることがわかってきた。明度が絶え間なく変動する浅瀬の水環境と森林環境は色覚進化の揺籃地であり,脊椎動物では特に魚類と霊長類が顕著な色覚多様性を示すことと符合する。例えば,魚類のゼブラフィッシュは8種類もの錐体視物質をもち,網膜の領域により発現する錐体オプシンの構成を違えることで,視線の方向によって色覚を違えていると考えられる。これを実現するためのオプシン遺伝子の制御メカニズムもわかってきた。また,中南米に生息する新世界ザルには1つの種内に6種類の異なる色覚型が存在するものが知られており,生息環境と色覚との密接な関連もわかってきている。本稿では魚類と霊長類の錐体オプシンの多様性とその生態学的意味についての最近の知見を紹介する。
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