比較生理生化学
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28 巻, 3 号
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総説
  • 松尾 亮太
    2011 年 28 巻 3 号 p. 253-258
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
     哺乳類の脳は,ひとたび損傷を受けると再生することが非常に難しく,また脳の構成要素であるニューロンは,最終分化を果たしていて細胞周期は停止した状態である。一方、軟体動物腹足類であるナメクジの中枢神経組織は、損傷や欠損を受けても自発的に構造レベル、機能レベルでの回復を遂げることができる。例えば触角は,切断を受けてもそこに含まれる神経組織を含めてほぼ完全に再生することができる。同時に,大小二対存在する触角は,互いに機能レベルでの冗長性も有している。また,脳の左右に一対存在し,高次嗅覚機能を担っている前脳葉と呼ばれる部位は,損傷や欠損を被った際,自発的に組織レベル,機能レベルでの回復を遂げることができる。そして前脳葉自体も,常に左右いずれか片方ずつが機能するという,ある種の機能的冗長性を有している。さらに,ナメクジのニューロンは,物質合成能を高める必要がある場合には自身のゲノムDNA量を増やすことさえできる。本稿では,こういった,我々哺乳類には到底不可能な,さまざまな離れ業を示すナメクジの神経組織について紹介する。
  • 齋藤 茂
    2011 年 28 巻 3 号 p. 259-266
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
     動物は環境温度を正確に感知して行動や生理的な応答により順応している。そのため温度感覚は適応進化においても重要な役割を担ってきたと考えられる。温度受容体はtransient receptor potential(TRP)遺伝子ファミリーに含まれる温度感受性チャネルである。進化過程で温度感受性TRPチャネルに生じた変化は温度感覚に直接的な影響を与えるため,これらの遺伝子の進化過程を調べることは適応的な役割を解明する上で欠かせない。筆者らは,温度感受性TRPチャネル遺伝子を複数の脊椎動物種のゲノム配列データから収集し,分子系統解析を行い遺伝子レパートリーの多様性およびその進化過程を明らかにしてきた。また,機能の進化過程を推定するために,哺乳類から系統的に離れた両生類であるニシツメガエルからTRPV3をクローニングし電気生理学的な手法による機能解析を行った。ニシツメガエルTRPV3は温度感受性が哺乳類のものと大きく異なり,進化過程でその機能を柔軟に変化させてきたことを明らかにした。本稿では,脊椎動物の温度感受性TRPチャネルの遺伝子と機能の進化について最近の知見を紹介する。
  • 森山 徹
    2011 年 28 巻 3 号 p. 273-277
    発行日: 2011/10/31
    公開日: 2013/07/10
    ジャーナル フリー
    本能行動は,動物の生存や繁殖の成功を実現するという意味において適応的である。一方,実験者が本能行動を観察しようとするとき,適応とは無関係と思われる変異行動もしばしば観察される。しかし,「変異行動がどのようなメカニズムで生成するのか」「そのメカニズムの機能的意義はどのようなものなのか」といった問題は,これまでの動物行動学ではほとんど扱われてこなかった。また,本能行動の神経機構を探る神経行動学や生理学の分野では,変異行動はそもそも除外される対象であったと思われる。 本稿では,動物は変異行動を生成する能力を備え,それによって,環境が突発的に変動する際,新たな適応行動を生成できることを,オカダンゴムシやオオグソクムシを用いた行動実験で例示する。
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