比較生理生化学
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36 巻, 1 号
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発表要旨
総説
  • 関 洋一
    原稿種別: 総説
    2019 年 36 巻 1 号 p. 51-63
    発行日: 2019/04/15
    公開日: 2019/04/26
    ジャーナル フリー

    昆虫の嗅覚経路は脊椎動物とも多くの共通点をもち,嗅覚情報処理のよいモデルとして研究されてきた。従来の嗅覚研究では,嗅覚受容体の機能同定および嗅覚系一次中枢における糸球体を機能単位とした情報表現の解析から,ラベルドラインや組み合わせコーディングといった情報処理様式について研究が行われてきた。近年,特にキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster: 本稿ではショウジョウバエと記載する)を用いた研究の進展から,嗅覚情報処理に関するより詳細な機構が,高次中枢における神経回路の理解とともに明らかになりつつあり,従来の見方が変わろうとしている。性フェロモン情報処理経路の全容解明に加え,生得的な匂い価値の情報表現,生態学的に重要な匂いのラベルドライン処理様式,キノコ体出力部の区画化とドーパミン修飾機構や側角構成神経の全貌が明らかになってきた。本稿では,性フェロモンと一般臭情報処理系における匂い情報表現について,ガ類と特にショウジョウバエを中心に最新の知見をまじえて概説する。嗅覚系一次中枢の触角葉から高次中枢であるキノコ体,側角,さらにその出力における情報表現を概観し,嗅覚情報処理経路の構成について考察する。

  • 渡辺 伸一, 松井 健介, 木原 涼
    2019 年 36 巻 1 号 p. 64-71
    発行日: 2019/04/15
    公開日: 2019/04/26
    ジャーナル フリー

    汽水域に棲む魚類は,塩分が大きく変動する環境に順応するための生理的機構を持ち,さらに好みの塩分の環境水を選択する行動的順応を行う。生理的機構の研究に比べて,魚類の塩分選択に関する行動学的研究は少ない。その理由として,魚類の経験した塩分を計測することが技術的に難しいことが挙げられる。本稿では,広塩性魚であるクロダイ(Acanthopagrus schlegelii)を対象に2種の電気伝導度ロガー(ジオロケーター・ORI400-DTC)を取り付けて,汽水域で魚類が経験した塩分を測定した研究例として報告する。

    ジオロケーターは,塩分を含む環境水でのみ通電することから,淡水域への進入を記録することができる。ジオロケーターをクロダイに付けたところ,放流から回収までの4日間で,淡水域の利用はみられなかった。ORI400-DTCは,深度・水温のほかに電気伝導度を1秒間隔で記録することができる高精度のデータロガーである。ORI400-DTCのデータから,記録した3日間のうち48%をクロダイの体液より低張と考えられる水域で過ごすことが明らかになった。さらにクロダイの経験水温・塩分から水温と塩分の密度躍層を調べた結果,深度1m付近に形成された密度躍層がクロダイの回遊行動に影響を与えていることが示唆された。クロダイのような海産魚の行動解析では,ORI400-DTCの利用が効果的であるが,淡水域へ進入する通し回遊魚の回遊行動の解析においては,より安価で小型のジオロケーターの適用も期待される。

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