比較生理生化学
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37 巻 , 2 号
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総説
  • 荒木 亮
    原稿種別: 総説
    2020 年 37 巻 2 号 p. 94-102
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    鳴鳥である鳴禽類はそれぞれの種で特異的な特徴を備えた個体独自の歌をさえずり,求愛や縄張りの主張,個体の識別に用いている。ヒトの幼児が親の話すことばを聴き真似ることで次第に言語の発声を獲得してゆくように,鳴禽類のヒナは成鳥のさえずりを記憶し,記憶を頼りに未熟な発声から次第に成鳥と同様のさえずりへと発達させることで,種特異的な特徴を備えた歌を身につける。このためヒトの発声学習の理解につながるモデルとして,歌学習の神経メカニズムが盛んに研究されてきた。しかし,同種へ向けた情報伝達に重要となる歌い手の種を表す歌の形質を,個体識別可能なまでに歌が多様化する中でどのようにして維持するのか,その神経基盤については多くが不明のままである。鳴禽類の一種であるキンカチョウは集団で繁殖し,ヒナは複数個体のさえずりを聴きながら個体独自の歌を発達させる。本稿では,キンカチョウの種特異的かつ個体独自な歌の発達過程と,その獲得を発達初期で支える聴覚野神経の神経活動について著者の研究も含めながら紹介し,今後の課題について論ずる。

  • 岡畑 美咲, 太田 茜, 久原 篤
    原稿種別: 総説
    2020 年 37 巻 2 号 p. 103-110
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    脳・神経系においてどのように複数の感覚情報が統合や区別されているかについては,未知の点が多く残されている。本稿では,線虫C. elegans の低温馴化の解析から見つかってきた,神経回路における酸素と温度という2つの感覚情報の統合に関する最新の知見を紹介する。線虫は302 個の神経細胞からなる神経回路を構成しており,複数の感覚情報を統合・区別することによって,適切に環境の変化に適応している。最近,線虫の低温馴化現象に関わる新規の遺伝子としてKQT 型カリウムチャネルを見つけた。興味深いことに,このKQT 型カリウムチャネルの変異体が示す「低温馴化」の異常は,「環境の酸素濃度」が高くなるほど強くなることを偶然見つけた。神経回路レベルでは,酸素受容ニューロンと温度受容ニューロンが局所回路を形成し,この回路が低温馴化に関わっていた。カルシウムイメージング法を用いた解析から,温度受容ニューロンの温度に対する感度は,酸素受容ニューロンからの神経情報により調節されていることが分かった。この現象にKQT 型カリウムチャネルが関わっていた。つまり,酸素と温度という全く異なる2つの神経情報の統合に関わる分子と神経回路の生理的動態が見つかってきた。

  • 島崎 宇史, 小田 洋一
    原稿種別: 総説
    2020 年 37 巻 2 号 p. 111-118
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    危険な刺激や敵から素早く逃げる逃避運動は,ほぼすべての動物が生きのびるために行う必須の行動である。逃避運動は刺激や敵の情報を素早く察知し,可能な限り速く遠ざかることが求められているので,逃避運動を制御する回路(逃避運動回路)は,一般的な神経回路には見られない特性と構成因子を持つことが多い。逃避運動回路の中心には,しばしば巨大なニューロン(giant neuron)が存在し,様々の感覚情報・環境情報を統合して「逃げろ」という司令を出し,できるだけ早く効果器に伝えて逃避運動を実行する。 ここでは,イカ,ザリガニ,ショウジョウバエ,キンギョ,ゼブラフィッシュ,ラット,マウスなどを例にあげて,異なる種の動物が示す逃避運動とそれを制御する逃避運動回路を紹介し,逃避運動回路における巨大ニューロンの存在とはたらきを紹介する。興味深いことに,巨大ニューロンが活動しなくても動物は敵や刺激から遠ざかることは辛うじて可能であるが,瞬時に素早く逃げるには巨大ニューロンが唯一無二の役割を果たしている。また,なぜ逃避運動回路に巨大ニューロンが組み込まれているかについても考察を加える。

  • 高橋 直美
    原稿種別: 総説
    2020 年 37 巻 2 号 p. 119-129
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    膨大かつ複雑な嗅覚情報を正しく認識できるかは,動物個体の生存や繁殖成功の鍵を握る。並列経路による嗅覚情報の処理は昆虫と哺乳類で共通して見つかっており,嗅覚情報を素早く,確実に処理するのに有効な手段の一つと推定される。本稿では昆虫嗅覚系の構造と生理を概説しながら,ワモンゴキブリ(Periplaneta americana)の嗅覚系における並列情報処理経路の構築様式を紹介する。ゴキブリの嗅覚系では,末梢から高次中枢キノコ体までのニューロンが一連の並列経路を形成することが知られていた。さらに最近,ゴキブリ嗅覚系の「キノコ体出力ニューロン」と「巨大抑制性ニューロン」を対象にした細胞内電位記録・染色によって,新たにキノコ体の並列フィードバック回路が示された。嗅覚系二次ニューロンの応答性から,これまでに知られていた並列経路のうち一方は匂いの種類特異的な情報を,もう一方は匂いの濃度や,匂いが触角に到達したタイミングといった情報を処理すると推定されている。新たに見つかった並列フィードバック回路は,これら質の異なる嗅覚情報を処理・表現するキノコ体内在ニューロン群に,適切な負のフィードバックをかけるのに役立つのかもしれない。

  • 渡邊 崇之
    原稿種別: 総説
    2020 年 37 巻 2 号 p. 130-138
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    求愛行動や交尾相手をめぐる闘争行動などの性特異的行動は,脳・神経系に存在する性的二型神経回路により制御される。昆虫では,モデル生物であるキイロショウジョウバエを材料とした分子遺伝学研究により,行動の性的二型性を規定する脳・神経回路の性差を生み出す分子・細胞基盤が詳細に明らかにされてきた。ショウジョウバエでは,性特異的なスプライシング因子であるtransformer 遺伝子の下流でfruitless 遺伝子やdoublesex 遺伝子などの転写因子遺伝子から性特異的な遺伝子産物が生じ,これらを発現する神経細胞が形態的・機能的な性的二型を獲得する。ではtransformer 遺伝子やfruitless 遺伝子,doublesex 遺伝子を中心とした脳・神経回路の性決定メカニズムは,昆虫の様々な系統で種を超えた共通のメカニズムなのであろうか?本総説では,ショウジョウバエにおける脳・神経回路の性決定メカニズムに関する研究を振り返りながら,近年報告された非ショウジョウバエ昆虫,特に原始的な不完全変態昆虫におけるfruitless 遺伝子・doublesex 遺伝子の研究を紹介し,昆虫脳・神経回路の性分化機構の進化について分子進化学的な視点から解説する。

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