比較生理生化学
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39 巻, 3 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
総説
  • 小島 慧一, 柳川 正隆, 山下 高廣
    原稿種別: 総説
    2022 年 39 巻 3 号 p. 122-131
    発行日: 2022/12/07
    公開日: 2022/12/21
    ジャーナル フリー

    ヒトを含む多くの脊椎動物は,明所では色を識別できるものの,暗がりでは色を識別できない。これは,明所で働く視細胞・錐体を複数種類持つ一方で,暗がりで働く視細胞・桿体を1種類しか持たないことに起因する。しかし,多くの種が夜行性であるカエルやヤモリは,「暗がりで色を識別できる」特殊な能力を持つことが古くより知られていた。これは,カエルには通常の桿体に加えて特殊なもう1つの桿体(緑桿体)が存在し,また,夜行性ヤモリには3種類の桿体が存在することに起因すると考えられていた。そして通常,桿体には光受容タンパク質・ロドプシンが含まれるが,カエルの緑桿体や夜行性ヤモリの桿体にはロドプシンは含まれず,本来は錐体の中で明所での視覚を担う錐体視物質が含まれる。しかし,錐体視物質に比べてロドプシンは,光がない時の熱活性化頻度を低下させることで暗がりでの視覚に貢献しているため,「桿体に含まれる錐体視物質は暗がりでの視覚に利用できるのか?」という課題があった。そこで私たちの研究グループは,独自に開発した生化学的解析法を駆使することで,カエルと夜行性ヤモリの錐体視物質が,ロドプシンのように熱活性化頻度を低下させていることを明らかにした。カエルと夜行性ヤモリは,収斂進化によってロドプシン様の性質を持つ特別な錐体視物質を生み出したことで,夜にカラーで周囲の状況を認識することが可能となり,自身の生活に役立てていると考えられる。

  • 柿沼 由彦
    原稿種別: 総説
    2022 年 39 巻 3 号 p. 132-139
    発行日: 2022/12/07
    公開日: 2022/12/21
    ジャーナル フリー

    心筋細胞は,副交感神経系由来の神経伝達物質アセチルコリン(ACh)とは別に,自らの細胞内でAChを産生していることが近年複数の研究組織から報告されている。つまり非神経性ACh(non-neuronal ACh)としての由来の一つが心臓である。この心臓におけるACh 産生システムをnonneuronal cardiac cholinergic system(NNCCS)と呼び,区別している。このシステムにより心臓・心筋細胞での生理学的機能が制御され,そのホメオスターシス維持に不可欠なものであることが明らかとなってきた。本稿では,このシステムの紹介・発見の経緯・その機能,さらに心臓疾患における病態生理への関与,またNNCCS 機能を亢進させることで,迷走神経を介した非心臓系臓器への影響について最近明らかになったことも含めて,まとめながら述べていきたい。

  • 原野 健一
    原稿種別: 総説
    2022 年 39 巻 3 号 p. 140-149
    発行日: 2022/12/07
    公開日: 2022/12/21
    ジャーナル フリー

    ミツバチの働き蜂は,蜜胃を利用して体重に匹敵する量の花蜜を運搬することができる。しかし,働き蜂は常に蜜胃を満タンにして帰巣するわけではない。いくらでも糖液を摂取できるフィーダーを訪れているときでさえ,ミツバチは蜜胃を満タンにする前に帰巣する場合がある。80年代には,この一見不可思議な行動を理解するために数理モデルと実験による解析が行われた。これらの研究は,採集した糖液を運搬するためのエネルギーコストに注目し,ミツバチが採餌を早めに切り上げることで採餌のエネルギー効率(=獲得エネルギー量/消費エネルギー量)を最大化していることを示唆した。この考え方に対しては批判もあり,一部の研究者は,ミツバチの早期採餌切り上げを,情報交換の観点から理解するべきだと考えている。近年の研究は,花蜜の積載調節が出巣する採餌蜂でもみられることを明らかにした。採餌蜂は,コロニーが持つ花蜜を少量蜜胃に積載して出巣し,採餌活動のための燃料あるいは花粉荷の材料とする。この花蜜の量と濃度は,餌場までの距離や採餌物の種類,餌場についての情報量,餌供給の安定性などによって影響を受ける。本稿では,これら2つの花蜜積載調節についての知見をまとめ,その意義とメカニズムについて議論する。

技術ノート
  • 立石 康介, 渡邉 英博
    原稿種別: 総説
    2022 年 39 巻 3 号 p. 150-159
    発行日: 2022/12/07
    公開日: 2022/12/21
    ジャーナル フリー

    昆虫は,特に発達した嗅覚神経系を備えており,匂い情報を利用して種内でコミュニケーションを取り,天敵から身を守るだけでなく,匂い情報から環境状況をも適切に判断することができる。近年,昆虫の嗅覚受容関連遺伝子について解析が急速に進む中,非モデル生物でも嗅覚受容関連遺伝子の報告が盛んに行われている。このような遺伝子の機能解析には嗅感覚細胞からの電気生理学的記録が欠かせない。しかしながら,昆虫嗅覚神経系からの電気生理学実験を展開する研究室が世界的にも少なくなってきている。 本稿では,昆虫が備え持つ嗅感覚細胞から匂い物質に対する応答を直接的に記録でき,匂い情報の符号化様式を解析できる「単一感覚子記録法」について,筆者が発展させてきた実験方法を紹介する。

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