多くの動物は他個体の行動を観察することで様々な事象を学ぶ社会学習を行う。社会学習の神経機構は主に哺乳類で研究されてきたが,未解明の点が多い。筆者の研究室ではフタホシコオロギの社会学習とその神経基盤について調べた。学習訓練では,デモンストレータ室に砂糖水と塩水が入った容器を置いて,デモンストレータコオロギに自由に訪問させ,その行動を透明な仕切り越しに学習者コオロギに観察させた。2つの容器には異なる匂いをつけ,また仕切りに多数の小さな穴をあけ,容器(水場)の匂いが学習者に伝わるようにした。訓練後の匂い嗜好性テストで,学習者はデモンストレータが長時間滞在した水場の匂いを好んだ。この学習は2次条件付けに基づくとの仮説が考えられた。学習者が集団飼育中に他個体の水場での飲水を観察することで水場の他個体(条件刺激1)と水(無条件刺激)の連合が起こり,その後,社会学習訓練時に水場の匂い(条件刺激2)と他個体(条件刺激1)の連合が起こり,それらの連鎖により匂いと水の連合が成立したとの仮説である。この仮説は薬理学的な実験により支持された。2次条件付け仮説は,自身が水を飲むと発火するオクトパミンニューロンが,他個体が水を飲むのを観察した際に発火し,このミラーニューロン様の発火により社会学習が導かれることを示唆している。興味深いことに,哺乳類の社会学習でも同様なミラー様の神経活動が社会学習の成立に関わる可能性が指摘されている。コオロギ社会学習のミラーニューロン仮説の検証が待たれる。
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