高い生物多様性を誇るサンゴ礁の形成に関わる「造礁サンゴ」は,光合成藻類である褐虫藻との共生を通じて光に強く依存した生活スタイルをとっている。しかしこれまで,サンゴが光をどのように感知し,行動や生理に結びつけているのかについては十分に解明されてこなかった。特に,浮遊生活を送る幼生が示す光応答行動は着底場所の選択や群集形成に直結する重要な要素でありながら,その実態や分子基盤は未解明の点が多い。本総説では,ミドリイシ属サンゴを例に生活史の中での光の機能を整理した上で,その中の一種ウスエダミドリイシの幼生期にみられるシンプルながら興味深い光応答行動について筆者らの研究を紹介する。また数理シミュレーションなどの結果を踏まえ,その生態的帰結や意義を考察する。最後に,サンゴがもつ多様なオプシン遺伝子とその光受容特性に関する研究を概観し,サンゴ幼生の光応答行動を支える分子機構の可能性について議論する。
本総説では, 脊椎動物から無脊椎動物に至るまでの幅広い動物群における睡眠の構造・機能とその進化的多様性について比較生物学的に整理した。哺乳類と多くの鳥類ではREM睡眠(REM : rapid eye movement)とnon-REM睡眠からなる二種類の睡眠がみられ, その機能については未解明な部分も多いが、記憶固定や身体回復、脳発達、認知機能との関連が指摘されている。哺乳類では陸生種で、REM睡眠とnon-REM睡眠の二種類の睡眠が保存される一方, 水生種では半球睡眠やREM睡眠抑制など生活様式に応じた適応的変化がみられ, 単孔類ではREM/non-REM睡眠の区別が不明瞭な睡眠が報告される。鳥類も同様に二種類の睡眠を有し, 半球睡眠や強固な睡眠恒常性制御を示す。爬虫類では特徴の異なる2つの睡眠段階を周期的に繰り返す特徴的な睡眠構造がみられ、REM睡眠を含む睡眠構造の祖先型である可能性が指摘されている。両生類や魚類は明確なREM睡眠とnon-REM睡眠は示さないが, 睡眠様の行動・生理状態が観察される。さらに脊椎動物の祖先型とされる円口類や無脊椎動物においても, 睡眠が確認されており, 頭足類のタコではactive/quietの二種類の睡眠に分類されることが報告されている。これらの比較は, 睡眠の機能が系統を超えてどのように保持され, 変容してきたのかを理解する上で重要である。
動物の中には入り組んだ閉鎖空間をすみかとするものがいる。このような環境では匂いを運ぶ風が滞留しやすく,風上定位によって匂い源を探し出すことが困難となる。閉鎖空間に適応した昆虫の代表格がゴキブリで,5cmを超える長い触角をもつことが特徴である。触角全域に分布する嗅感覚細胞は処理する匂いの種類に応じて一次嗅覚中枢(触角葉)の異なる糸球体に投射する。各糸球体内部では,嗅感覚細胞の軸索終末が触角の基部〜末梢の細胞体の位置に応じて組織化されている。この組織化は基部由来の新生嗅感覚細胞の軸索が脱皮毎に同一ルートから糸球体にアプローチし,その外縁を覆う「付加成長」を通じて形成される。発生依存的に作られた層状の糸球体内地図は,糸球体の一部に樹状突起を持つ複数の二次ニューロンによって利用される。触角長軸に沿って形成される興奮性受容野の幅は1cmあまりで,その外側には抑制性受容野が形成される。ゴキブリは長い触角を用いることで匂いの検出効率を上げるだけでなく,視覚情報処理と似たしくみで匂いの分布を把握することで,定位に役立てていることが示唆される。
野外代謝速度は,動物が自然環境下でどの程度のエネルギーを消費しているのかを示す指標である。地球温暖化の進行は,水圏に生息する外温動物,特に魚類のエネルギー収支に影響を与える可能性が高いとされ,魚類が日々の生活に費やしているエネルギー量である野外代謝速度を把握することは,温暖化が魚類に及ぼす影響をメカニズムから理解していく上で重要といえる。本稿では,魚類の野外代謝速度の推定手法として,バイオロギング手法と耳石の安定同位体比分析に着目し,原理や適用例を紹介する。両手法では推定できる時間解像度や不確実性が異なるため,研究目的に応じて適切な手法選択が重要といえる。推定された代謝情報を環境データとも統合していくことで,環境変化に対する魚類の行動生理的応答の実態把握が可能となり,気候変動への応答予測にも資すると期待される。
読者の方々は,幼少期に虫取り網を片手に野山や公園を駆け回って昆虫採集に夢中になった時期があったのではなかろうか?研究者となった今でも,それを生業としていらっしゃる方もおられよう。虫たちを追いかけた末に捕獲できた満足感や,幹や枝に擬態している虫を見つけた時の興奮,初めて見る虫と出会った時の感動など,宝探しにも似た感覚で夢中になられたのではないだろうか。それらの経験を通して,生き物の面白さや不思議さなどを昆虫から教わり,生き物の道に進まれた方も多いのではないかと思う。現在,学校現場では飼育舎(小屋)や教室,理科室に至るまでほとんどの学校で生き物の姿がなく,確実に子供たちの生き物離れが進んでいることを実感する。現代の学校現場でのタブレットや電子黒板などを用いたICT教育の普及は,もちろんメリットもあるが,画像や動画を多用することで実物との距離を離してしまったと感じる。そのような時代の中,私は学校現場で実物を目の前に学習することの大切さを唱え続けている。今では学校教員自身も「虫嫌い」が多く,教科書の記載部分を足早に流すだけの学習で,観察すべきポイントを押さえた昆虫教育となっていないことを痛感する。これでは,折角の楽しい理科への入り口であるにも関わらず,児童たちはその面白さにまで全く踏み込めないままである。ここでは,筆者が小学校への出前授業を通じて感じた児童の昆虫理解の実態と,改良を重ねてきた昆虫教育についてのアウトリーチ活動の実践例を紹介する。