日本建築史に名を残す建築家,白井晟一が設計した「大館木材会館」は71年余前に建てられた.天然秋田杉の産出で地元製材業の絶頂期だった.完成から18年後に移転建築され,現在に至る.建築史的には,移築後,旧会館から引き継がれたものが混在し面影を残しているが,改変もあり,現状は「一部現存」と考えられる.「活用」を主眼にした移築により「保存」までは至らなかったものの,「温存」された部分も多く,玉石混交の「眠れる価値」を保っており,建設当初の白井作品の姿に再生「復元」できれば価値は磨かれて高まる可能性があると考えられる.郷土史的には,秋田杉の産地繁栄を物語るものであり,郷土の「林業遺産」となる可能性が潜む.また,大火のまちの復興を見守ってきた歩みがあり,郷土の歴史の一端を記す価値ある建物と考えられる.
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