弘前医学
Online ISSN : 2434-4656
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59 巻, 2-4 号
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原著
  • 松井 淳, 小川 吉司, 玉澤 直樹, 山下 真紀, 松木 恒太, 田辺 壽太郎, 村上 宏, 須田 俊宏
    2008 年 59 巻 2-4 号 p. 59-64
    発行日: 2008年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー
     高血圧の危険因子であるアンギオテンシノーゲン遺伝子 (ACT) 235T allele を有する2型糖尿病 (DM) 腎症患者において ACE阻害剤と ARB 併用によるレニン-アンギオテンシン系の強力な抑制は,アルブミン尿に対して有効なのか検討した.すでに ACE阻害剤を内服している2-3期の腎症を合併した,かつ,235T allele を有する DM患者15名 (TT 9名,MT 6名) を対象とした.ARB を併用し,併用前と併用16週間後に評価した.併用前後で,収縮期血圧は有意に改善し,拡張期血圧は改善傾向を認めた.また,尿中アルブミン/クレアチニン比 (ACR) も有意に改善した.しかし,ACR の改善率と血圧変化率とのあいだには有意な相関関係を認めなかった.以上から,ACE阻害薬と ARB併用によるアルブミン尿改善は降圧以外の効果が関与しており,ACT 235T allele を有する DM患者においても有効と考えられた.
  • 寺山 百合子, 須藤 美穂子, 對馬 惠, 山谷 金光, 斎藤 久夫, 百瀬 昭志, 舟生 富寿
    2008 年 59 巻 2-4 号 p. 65-70
    発行日: 2008年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー
     透析患者の進行した二次性副甲状腺機能亢進症 (SHPT) に対して副甲状腺全摘出術後自家移植術 (PTx・AT) が行われている.副甲状腺の局在部位は一定せず,4腺以上存在する例もあるので,最初の手術で全摘出できないこと もある.時に PTx・AT 後残存腺や移植腺からの PTH分泌亢進により SHPT が再発する.われわれは PTx・AT 後の再発率を検討した.対象は 92例, 101回の PTx である.摘出腺数と手術翌日の血清PTH により5群に分けた.捕出腺数と PTH (pg/ml) は平均値でそれぞれ, A群 4.1,15, B群 4.1,280,C群 2.8,29,D群 2.8, 371 および E群 (再手術例) 1.4,28 であった.再発の基準は PTH > 300 pg/ml とした.手術翌日 PTH < 60 pg/ml の A,C および E群の再発率はそれぞれ11.9,20.0,16.6% と低く,手術翌日 PTH ≧ 60 pg/ml の B および D群では再発率は約 70 % と高かった.再発時の PTH産生は A,C群および E群ではほとんどが移植腺,B および D群では残存腺であった.
  • 成田 浩司, 胡 東良, 辻󠄀 孝雄, 中根 明夫
    2008 年 59 巻 2-4 号 p. 71-82
    発行日: 2008年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー
     毒素性ショック症候群毒素1 (TSST-1) は黄色ブドウ球菌の産生するスーパー抗原の1種である.本研究では無毒変異 TSST-1 (mTSST-1) による経鼻粘膜免疫の黄色ブドウ球菌全身感染,鼻腔内定着に対する防御効果を検討した.マウスを mTSST-1 で経鼻粘膜免疫をした後,黄色ブドウ球菌を経静脈感染させた,免疫群マウスでは非免疫群マウスに比べ臓器内生菌数は低下し,高い生存率を示した.また黄色ブドウ球菌を鼻腔内に投与した場合,免疫群マウスの鼻腔内黄色ブドウ球菌生菌数は減少した.mTSST-1経鼻粘膜免疫は血中,粘膜分泌液中の抗TSST-1抗体,さらに鼻関連リンパ組織における抗TSST-1 IgA産生細胞を誘導した.これらの結果から,mTSST-1経鼻粘膜免疫は全身免疫,粘膜免疫を誘導し,黄色ブドウ球菌全身感染だけではなく鼻腔内定着に対しても防御効果を示すことが示唆された.
  • 皆川 智子, 木村 一之, 松﨑 康司, 中野 創, 今泉 忠淳, 佐藤 敬, 澤村 大輔
    2008 年 59 巻 2-4 号 p. 83-89
    発行日: 2008年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー
    【背景】 Retinoic acid-inducible gene-I (RIG-I) は RNAへリガーゼの一種であり,ウイルス感染により,細胞質内に蓄積する二重鎖RNA を認識する細胞内受容体である.
    【目的】 Tumor necrosis factor-α (TNF-α) と Interferon-γ (IFN-γ) はそれぞれ表皮ケラチノサイトにおける RIG-I の発現を増強させるが,その作用機序は不明である.本研究では.培養表皮ケラチノサイトであるHaCaT細胞において,RIG-I の発現に対する TNF-α と IFN-γ の協調作用を検討した.
    【結果】 RIG-I の mRNA とタンパク発現量を半定量的 RT-PCR法とウエスタンブロッティング法でそれぞれ解析した.その結果,TNF-α と IFN-γ を同時添加した条件では,RIG-Iタンパクと mRNA発現量が相乗的に増加していた.
    【結論】 両サイトカインが相乗的に RIG-I の発現を上昇させたことから,2つのサイトカインは別々のシグナル伝達経路を介して RIG-I の発現を制御していると考えられた..
  • 島谷 孝司, 石黒 陽, 川口 章吾, 佐藤 裕紀, 平賀 寛人, 山口 佐都子, 櫻庭 裕丈, 藤田 均, 山形 和史, 福田 眞作
    2008 年 59 巻 2-4 号 p. 90-97
    発行日: 2008年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー
     炎症性腸疾患は,潰瘍性大腸炎 (Ulcerative colitis: UC),クローン病 (Crohn's disease: CD) を含む原因不明の難治性炎症性腸疾患である.その病態には,Smad を介した Transforming growth factor-β (TGF-β) シグナル伝達の異常が関与していることが報告されている.そこで, ステロイド治療抵抗性UC,ステロイド治療反応性UC の TGF-β受容体Ⅰ,Ⅱ型の蛋白量及び mRNA発現量について,腸管手術標本を用い Western blotting と Real-time PCR で検討した.ステロイド治療反応性UC と比較しステロイド治療抵抗性UC で,TGF-β受容体Ⅰ,Ⅱ型の蛋白量,mRNA発現量ともに有意な低下を認めた.このことから,遺伝子レベルでの TGF-β受容体の発現の低下がステロイド治療抵抗性UC の病態に関与している可能性が示唆された.
  • 上里 涼子, 石橋 恭之, 大鹿 周佐, 奈良岡 琢哉, 藤 哲
    2008 年 59 巻 2-4 号 p. 98-103
    発行日: 2008年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー
     間葉系幹細胞の軟骨分化過程においてバーシカン.アグリ カンといったプロテオグリカン (PG) が発現することは知られている.本研究では,外因性サケ鼻軟骨由来PG を間葉系幹細胞のペレットカルチャーに添加し,組織学的および mRNA発現について検討を行った.その結果,成長因子 (GF) 単独および GF と PG の両方を添加した2群において,細胞の形態が軟骨様に変化し,組織学的に細胞外マトリックスの産生を認めた.軟骨特異的遺伝子である2型コラーゲンおよびアグリカンの mRNA発現は,コントロール群および PG群ではほとんど発現を認めないが,GF群では高度な発現を認めた.しかし GF と PG を併用するとGF単独群に比してその発現は有意に減弱した.PG の直接的な作用により遺伝子発現が抑制されたか,PG と GF の相互作用による影響と考えられた.軟骨分化の過程で発現する糖タンパク質は,分化の方向性や程度を決定する重要な因子であると考えられ.外因性の PG にも同様の効果があるものと考えられる.
  • 対馬 史泰, 小野 修一, 清野 浩子, 森本 公平, 大畑 崇, 長畑 守雄, 三浦 弘行, 阿部 由直, 対馬 敬夫, 鎌田 義正
    2008 年 59 巻 2-4 号 p. 104-109
    発行日: 2008年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー
     肺癌診断に対して薄層CT (thin-slice CT) による胸膜播種の術前診断が可能となってきたが,胸膜の良性病変との鑑別が困難な症例が存在する.肺癌の胸膜播種の診断能向上目的に,術前CTにて胸膜に病的所見の見られる症例について原発巣胸膜浸潤所見を検討した.対象は 2003年1月より 2005年12月までに肺癌として手術が施行され,術前CT が施行された138例 (男性 84名,女性 54名,38~82歳,平均66歳) である.肺癌の術前CTを2名の放射線科医で評価した.葉間あるいは胸壁胸膜 (臓側 / 壁側) の病的所見 (不整な肥厚,小粒状影,結節影) の有無を検討した.胸膜に所見の見られた症例について,原発巣の進展,周囲浸潤を示す所見を検討した.肺癌 138例中,術中に播種の判明した例は6例 (4.3%) であった.6例全例に病理組織学的に原発巣の胸膜浸潤が見られた.術前CT では 31例 (22.5%) に胸膜に所見が見られ,実際に播種のあった6例中5例は葉間胸膜に小結節影を認めた.また,胸膜播種陽性例には術前の薄層CT にて全例に原発巣と胸膜との接触が認められ,特に原発巣の胸壁胸膜浸潤および肥厚所見は偽陽性例に対し胸膜播種例で高頻度であった.術前の薄層CT における播種陽性例と陰性例の原発巣胸膜所見に差を認めたことから,胸膜に病的所見が見られた場合,原発巣を詳細に評価することが肺癌術前の胸膜播種診断に有用と思われた.
  • 佐藤 江里, 田村 綾女, 丹藤 雄介, 須田 俊宏, 中村 光男, 山岸 昌一
    2008 年 59 巻 2-4 号 p. 110-117
    発行日: 2008年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー
     病歴の長い糖尿病患者において,アミラーゼ分泌の低下や膵萎縮・線維化を呈する症例があることが報告されている.しかしこのような病態の動物モデルは現在確立されていない.また,終末糖化産物 AGE,その受容体である RAGE は糖尿病血管合併症に関与しているとされているが,膵への影響は不明である.糖尿病における膵外分泌障害とその機序を明らかにするため,加齢により膵ラ氏島の線維化を生じる自然発症2型糖尿病モデル,Spontaneously Diabetic Torii (SDT) ラットに caerulein急性膵炎を発症させ,糖尿病の発症および程度,膵の線維化に変化を生じるか否か,同時に,RAGE の発現を RT-PCR により検討した.結果,膵炎による糖尿病発症および膵の線維化,糖尿病発症前後および膵炎の有無による RAGE の発現に変化は認めず,糖尿病ラットモデルにおける膵障害と RAGE の関連は明らかではなかった.
  • 中井 款, 吉原 秀一, 諸橋 一, 石戸 圭之輔, 佐々木 睦男
    2008 年 59 巻 2-4 号 p. 118-127
    発行日: 2008年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー
     ヒアルロン酸 (HA) は,細胞外マトリックスを構成する主要成分であり,細胞の接着能や遊走能,腫瘍の転移にも関与している.我々は 4-メチルウンベリフェロン (MU) が HA合成阻害を来たし,癌の転移を抑制する効果があることを示した.今回我々は,悪性中皮腫に注目し,MU と MU誘導体である 4-メチルエスクレチン (ME) の悪性中皮腫に対する HA合成阻害効果の検討をした.MU は NCI-H2052培養培地中の HA を control群より約 80%,ME は約 60% に抑制した.MU および ME 存在下に培養した NCI-H2052 の接着能は control群よりそれぞれ 70%,50% に阻害した.遊走能はそれぞれ 70%,60% に阻害された.in vitro で MU および ME は悪性中皮腫細胞において HA合成阻害効果を示し,ME でより HA合成阻害効果がみられた.その結果,悪性中皮腫患者の今後の治療の一助となることが期待された.
  • 松倉 大輔, 横山 良仁, 田中 幹二, 尾崎 浩士, 水沼 英樹
    2008 年 59 巻 2-4 号 p. 128-135
    発行日: 2008年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー
     妊娠高血圧症候群 (PIH) 胎盤の絨毛間腔におけるプロテオグリカン (PG) 発現やグリコサミノグリカン (GAG) 糖鎖の構造について研究した.胎盤絨毛間腔から抽出したプロテオグリカンやグリコサミノグリカンを,塩濃度勾配を用いた DEAE-Sephacel カラムクロマトグラフィーで精製し,アクチナーゼやセルラーゼ酵素消化にて GAG を分離した.正常妊娠胎盤と PIH胎盤の GAG糖鎖についてセルロースアセテート膜電気泳動法を用いて比較した.ヒアルロン酸,ヘパラン硫酸,コンドロイチン硫酸には差違は認められなかったが,PIH胎盤におけるデルマタン硫酸 (DS) の発現が増加していた.抗凝固因子を特異的に活性化するデルマタン硫酸の胎盤内での増加は、PIH で見られる凝固亢進に対抗するための生体内反応である可能性がある.
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