組織特異的プロモーターは癌特異的自殺遺伝子治療において用いられている.しかし,その転写活性は低いものである.HER2発現腫瘍の遺伝子治療をより効率よく行うために,組織特異的プロモーターの調節のもとに Creタンパクが働く「制御」ベクターと,Creタンパクによって活性化される「標的」ベクターをくみあわせた2重アデノウイルスシステムが確立されている.これの応用として我々は HER2プロモーターのもとで働く Cre発現ベクター AxHER2Cre を制御ベクターとして作製した.標的ベクター AxCALNZ とこのベクターの組み合わせにより,HER2発現細胞株である MKN7, MDA-MB-453 でそれぞれ 90%,70%の細胞にβガラクトシダーゼが誘導された.これに対して HER2低発現細胞株である MKN28, MCF7 で発現は20%および10%にすぎなかった.
定量分析を行ったところ,このシステムによる βガラクトシダーゼの活性は,強力なプロモーターとして知られる CAプロモーターを用いた AXCANcre と AXCALNLZ の組み合わせに匹敵するものであった.
以上の結果から,HER2プロモーターの制御下での Cre/LoxP システムは HER2発現特異性を保ち,かつ,効率的な遺伝子発現を行えることが示唆された.HER2 発現乳癌に対しては Trastuzumab が用いられているが,耐性が問題となっている.このシステムは,そのようなケースの治療におけるあらたな選択肢となりえると考えられる.
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