弘前医学
Online ISSN : 2434-4656
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61 巻, 1 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著
  • 板橋 幸弘, 馬場 俊明, 加藤 智, 袴田 健一
    2010 年 61 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2010年
    公開日: 2021/08/17
    ジャーナル フリー
     当院での LADG は早期胃癌に対し,鏡視下操作にて D1+α郭清を,小開腹操作にて胃切離と再建を行っている.これまでの40症例について手術時間,出血量,合併症,術後病理所見を検討した.
     症例は男性22例,女性18例で平均年齢 64.6歳 (45~83歳) であった.開腹術への移行例はなく,全体の手術時間は中央値 285分 (150~482分) で,最近の10例は 216分 (154~278分) と短縮していた.出血量は 48 g (7~565 g),術後在院日数は中央値 17日 (10~85日) であった.合併症は吻合部の出血が3例,狭窄が2例で縫合不全は認めなかった.術後病理所見にて進行癌4例を認めたが EUS 導入により正診率は向上した.リンパ節転移は3例,再発は pT2 (SS) pN2 の1例のみで術後4年3か月で癌性胸膜炎にて死亡した.
     早期胃癌に対する LADG は手技的に安定し,経過も良好であるが,正確な術前診断が重要と思われた.
  • 吉田 一弘, 石坂 浩, 長谷川 一志, 佐藤 清彦, 長内 智宏, 元村 成, 奥村 謙
    2010 年 61 巻 1 号 p. 8-18
    発行日: 2010年
    公開日: 2021/08/17
    ジャーナル フリー
     アデノシン誘発性冠抵抗血管の拡張は ATP感受性Kチャネルと一酸化窒素 (NO) を介することが報告されている.本研究ではアデノシン誘発性冠抵抗血管の拡張が ATP感受性Kチャネルの障害を介して2型糖尿病動物で抑制されているかどうかを検討した.8,32週齢の2型糖尿病ラット (OLETF) とコントロールラット (LETO) のランゲンドルフ心を用いてアデノシン,ピナシジル,ニトロプルシドによる冠灌流の変化をグリベンクラミドと NG-nitro-L-arginine methyl ester (L-NAME) 投与前後で測定した.32週齢では,アデノシン並びにピナシジル誘発性冠灌流の増加は OLETF が LETO に比して小であった.グリベンクラミドは LETO ではアデノシン誘発性冠灌流の増加を抑制したが,OLETF では抑制しなかった.一方,L-NAME は,OLETF ではアデノシン誘発性冠灌流の増加を抑制したが,LETO では抑制しなかった.ニトロプルシド誘発性冠灌流の増加は LETO と OLETF で差はなく,グリベンクラミドの影響を受けなかった. 8週齢の OLETF と LETO では,アデノシン,ピナシジル,ニトロプルシド誘発性冠灌流の増加に差は認められなかった.以上より, 2型糖尿病モデルでは,冠抵抗血管における ATP感受性Kチャネルは障害されている.また,アデノシン誘発性冠灌流の増加は主に NO の機序を介する.
  • 須藤 武道, 福田 幾夫, 木村 大輔, 対馬 敬夫
    2010 年 61 巻 1 号 p. 19-25
    発行日: 2010年
    公開日: 2021/08/17
    ジャーナル フリー
     セリンプロテアーゼ阻害剤であるメシル酸ナファモスタット (FUT-175) は,臨床的には急性膵炎や播種性血管内凝固症候群に対する治療薬として用いられているが,悪性腫瘍に対する抗腫瘍活性に関しても報告がなされている.本研究では,ヒト悪性胸膜中皮腫細胞株における,FUT-175 の抗腫瘍活性に関して検討した.その結果,細胞増殖能は対照群に対し FUT-175濃度 10⁻⁵M で47.0 ± 2.1%と有意に減少した (p<0.05).また細胞浸潤能も FUT-175濃度 10⁻⁵M で有意に減少した (p<0.05).さらに,ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子 (u-PA) 蛋白とプラスミノーゲン活性化因子インヒビター1 (PAI-1) 蛋白の分泌も同様に抑制された.これらの結果から,FUT-175 が u-PA 及び PAI-1蛋白の分泌抑制を介し,ヒト悪性胸膜中皮腫細胞の細胞増殖能及び細胞浸潤能を抑制することが示唆された.
  • 野田頭 達也, 小田桐 弘毅, 池永 照史郎一期, 丸山 将輝, 佐藤 利行, 袴田 健一
    2010 年 61 巻 1 号 p. 26-34
    発行日: 2010年
    公開日: 2021/08/17
    ジャーナル フリー
     組織特異的プロモーターは癌特異的自殺遺伝子治療において用いられている.しかし,その転写活性は低いものである.HER2発現腫瘍の遺伝子治療をより効率よく行うために,組織特異的プロモーターの調節のもとに Creタンパクが働く「制御」ベクターと,Creタンパクによって活性化される「標的」ベクターをくみあわせた2重アデノウイルスシステムが確立されている.これの応用として我々は HER2プロモーターのもとで働く Cre発現ベクター AxHER2Cre を制御ベクターとして作製した.標的ベクター AxCALNZ とこのベクターの組み合わせにより,HER2発現細胞株である MKN7, MDA-MB-453 でそれぞれ 90%,70%の細胞にβガラクトシダーゼが誘導された.これに対して HER2低発現細胞株である MKN28, MCF7 で発現は20%および10%にすぎなかった.
     定量分析を行ったところ,このシステムによる βガラクトシダーゼの活性は,強力なプロモーターとして知られる CAプロモーターを用いた AXCANcre と AXCALNLZ の組み合わせに匹敵するものであった.
     以上の結果から,HER2プロモーターの制御下での Cre/LoxP システムは HER2発現特異性を保ち,かつ,効率的な遺伝子発現を行えることが示唆された.HER2 発現乳癌に対しては Trastuzumab が用いられているが,耐性が問題となっている.このシステムは,そのようなケースの治療におけるあらたな選択肢となりえると考えられる.
  • 佐藤 英明, 佐藤 雅, 千葉 真希枝, 伊藤 京子, 伊藤 巧一
    2010 年 61 巻 1 号 p. 35-45
    発行日: 2010年
    公開日: 2021/08/17
    ジャーナル フリー
     本研究では,組織適合性抗原 (MHC) 不適合の臍帯血移植により構築される免疫系細胞の成熟とその機能を検証した.致死線量照射 RAG2欠損 BALB/c マウスに,GFP遺伝子導入 C57BL/6マウス胎児の臍帯血を移植した.移植後,レシピエントマウスの免疫系は,そのすべてがドナー由来の緑色蛍光を示す T細胞,B細胞,単球および顆粒球で構築されていた.さらにこのキメラマウスは,TNP-KLH免疫に対し,特異的 IgM および IgG で応答した.この結果は,ドナー由来B細胞の正常な抗体産生能だけでなく,Ig クラススイッチに必要な T-B相互作用の存在も裏付けている.またキメラマウスは,第三者の C3H/HeJ の移植皮膚片を拒絶したことから,ドナー由来キラーT細胞とヘルパーT細胞の相互作用を伴う正常な機能が示された.以上の結果は,MHC不適合臍帯血移植で構築される免疫系の正常な機能的成熟性を示唆する.
  • 伊藤 京子, 増子 和尚, 伊藤 巧一
    2010 年 61 巻 1 号 p. 46-57
    発行日: 2010年
    公開日: 2021/08/17
    ジャーナル フリー
     一次免疫応答としてのT細胞活性化は,樹状細胞 (DC) などの抗原提示細胞との接触により誘導される.本研究では,神経組織に発現している NLRR3 が接着分子として一次免疫応答に及ぼす影響を検証した.NLRR3 は T細胞に特異的に発現していた.また NLRR3 は DC に発現するインテグリンと結合可能な Arg-Gly-Asp (RGD) モチーフを保有していた.そこで抗インテグリン抗体および合成RGDペプチドを DC刺激による T細胞増殖系に加えたところ,その増殖活性は抑制された.また NLRR3 を強制発現したチャイニーズハムスター卵巣組織由来 CHO細胞に DC を加えたところ,強制発現していない CHO細胞よりも結合細胞数が増加した.さらにこの増加は,抗インテグリン抗体の添加により減少した.これらの結果は,T細胞上の NLRR3 が DC 上のインテグリンと直接結合して一次免疫応答の制御に関与していることを示唆する.
  • 横山 公章, 齋藤 新, 樋熊 拓未, 花田 裕之, 長内 智宏, 大徳 和之, 福田 幾夫, 奥村 謙
    2010 年 61 巻 1 号 p. 58-64
    発行日: 2010年
    公開日: 2021/08/17
    ジャーナル フリー
     脂肪細胞は様々な生理活性をもつアディポカインを分泌するが,アペリンはその一つである.血中アペリン濃度は心不全患者で低下することが報告され,心血管疾患で重要な役割を演じている可能性がある.しかし,冠動脈疾患 (CAD) や弁膜疾患 (VHD) などの心疾患における血中アペリン濃度は解明されていない.我々は待機的手術を行った CAD患者31例と VHD患者14例を対象に検討した.心疾患のない健常例20例においても検討した.術前に採血を行い,術中に内臓・皮下脂肪を採取した.血中アペリン濃度は健常例に比して CAD と VHD では低下していた.アペリン濃度を CAD と VHD 間で比較すると,CAD で有意に低下しており,HMG-CoA還元酵素阻害薬 (スタチン) の影響を受けなかった.左室収縮能 (LVEF) は CAD で低下していた.血中アペリン濃度と LVEF の相関関係は認めなかった.内臓脂肪のアペリンmRNA発現は皮下脂肪より増加していたが,2群間に差を認めなかった.以上より,血中アペリン濃度はCAD で低下するが,その病態生理学的意義については今後の検討を要する.
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