弘前医学
Online ISSN : 2434-4656
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62 巻, 2-4 号
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総説
  • 鳴海 俊治, 今西 賢悟, 大山 力
    2011 年 62 巻 2-4 号 p. 101-106
    発行日: 2011年
    公開日: 2021/07/27
    ジャーナル フリー
     2010年10月1日より財団法人鷹揚郷からの寄付講座として弘前大学大学院医学研究科に先進移植再生医学講座が設立された.1997年10月16日に「臓器の移植に関する法律」が施行されて以来,青森県においても八戸市立市民病院から2例の脳死下臓器提供があった.一方,2010年7月17日より改正臓器移植法が施行され脳死下臓器提供者は増加しているものの,心停止下の提供者は減少しており,臓器提供全体は増加していないのが現状である.本講座の設立を機会に青森県の移植医療,特に肝移植と腎移植に関する歴史を紐解き,本邦及び青森県の移植医療の現状を報告するとともに,その発展に必要な事項や取り組みを述べる.
原著
  • 奈良岡 琢也, 石橋 恭之, 津田 英一, 山本 祐司, 楠美 智巳, 藤 哲
    2011 年 62 巻 2-4 号 p. 107-116
    発行日: 2011年
    公開日: 2021/07/27
    ジャーナル フリー
    目的:コラーゲントリペプチド (Ctp) 関節内投与による変形性膝関節症 (膝OA) 予防効果を,現在臨床応用されているヒアルロン酸 (HA) と比較した.
    方法:日本白色家兎30匹を用い右膝関節前十字靱帯切離による OA発症モデルを作製.それらを生食,Ctp,HA投与群に分類し,週1回関節内投与を施行した.6匹を5週投与後,4匹を10週投与後屠殺し,大腿骨内側顆を用いて OA進行度を肉眼的,組織学的に評価した.
    結果:肉眼的評価では10週投与時で Ctp 及び HA投与群で生食投与群に比し膝OA の進行は軽度であったが,統計学的有意差は認めなかった.組織学的評価でも3群間に有意差は認めなかったが,Ctp投与群では5週から10週にかけてスコアの改善を認めた.
    考察:Ctp関節内投与による OA予防効果が示唆された.生理活性の詳細な検討と,治療に向けた至適な投与濃度及び投与期間の更なる検討が必要である.
  • 是川 あゆ美, 中野 創, 六戸 大樹, 赤坂 英二郎, 中島 康爾, 豊巻 由香, 澤村 大輔
    2011 年 62 巻 2-4 号 p. 117-121
    発行日: 2011年
    公開日: 2021/07/27
    ジャーナル フリー
     Buschke-Ollendorff症候群 (BOS) は近年 LEMD3遺伝子の変異により発症することが明らかになった.これまでは変異解析症例がきわめて少なく,病態と変異との関係が明らかになっていない.本研究では臨床的に BOS が疑われた1家系について遺伝子変異解析を行った.5歳男児の発端者は背部と腹部に,無症候性,常色の円形または卵円形の扁平小結節を有していた.病理組織では真皮から皮下脂肪織内にかけて膠原線維の著明な増生を認めた.骨レントゲン写真は正常であった.発端者の父,姉にも体幹に同様の結節がみられた.骨レントゲン写真では,父の長管骨に骨斑紋症の像を認めた.以上より BOS が疑われた.遺伝子変異解析を行った結果 LEMD3遺伝子のエクソン6 / イントロン6 接合部において,G が T に変わる遺伝子変異が同定され,発端者の父と姉にも同変異が検出されたことから BOS の診断が確定した.今回同定された変異がどのような病的意義を有するか,分子生物学的に議論する.
  • 蔦屋 昭司, 杉本 一博, 中路 重之, 保嶋 実
    2011 年 62 巻 2-4 号 p. 122-128
    発行日: 2011年
    公開日: 2021/07/27
    ジャーナル フリー
     ギテルマン症候群の責任遺伝子である SLC12A3遺伝子変異検出頻度とそれらの変異と血圧との関連性について検討した.青森県の地域住民1,567例を対象とし,T180K,L849H,R919C の3変異について TaqMan PCR法で行った.それらの3変異は,以前の研究で低K血症を呈した対象者の SLC12A3遺伝子解析により検出した.1,567例中140例 (8.9%)で変異が検出され,ホモ型変異が3例,コンパウンドヘテロ型変異が5例,ヘテロ型変異が132例であった.また,3変異の変異型アリルの検出頻度の合計は4.8%であったことから,本邦におけるギテルマン症候群の頻度は従来考えられていたより高い可能性が示唆された.L849H では変異アリルを有する群が対照群に比べ収縮期血圧が低値であったことから,SLC12A3 機能低下を介して血圧を減少させ高血圧に防御的に働く遺伝的因子と成り得る可能性が示唆された.
  • 三國谷 恵, 中村 邦彦, 奥寺 光一, 高梨 信吾, 林 彰仁, 森本 武史, 當麻 景章, 傳法谷 純一, 田中 佳人, 奥村 謙
    2011 年 62 巻 2-4 号 p. 129-137
    発行日: 2011年
    公開日: 2021/07/27
    ジャーナル フリー
     慢性閉塞性肺疾患患者の増加に伴い,在宅酸素療法 (LTOT) を要する患者の増加が予測される.LTOT患者の携帯酸素ボンベ使用量から携帯酸素使用時間を評価した研究は少ない.LTOT患者54名において,携帯酸素ボンベ使用量から外出時間の算定を,また認知症・うつ状態の割合の評価と携帯酸素使用時間との関連性を検討した.認知症は改訂長谷川式簡易知能評価スケールを,うつ状態は自己評価抑うつ尺度を用いて評価した.また23名において1年後の再評価を行った.携帯酸素使用時間はばらつきが大きく,平均使用時間は1日1時間であった.LTOT 患者の41%に認知症を,24%にうつ状態を認めた.携帯酸素使用時間と認知症・うつ状態に関連は認めなかった.1年後の再評価では,うつ状態の割合は有意に上昇していた.LTOT患者の携帯酸素使用時間に留意し,認知症・うつ状態の評価を経時的に行う必要がある.
  • 赤坂 英二郎, 中野 創, 神 可代, 木村 一之, 六戸 大樹, 芋川 玄爾, 澤村 大輔
    2011 年 62 巻 2-4 号 p. 138-143
    発行日: 2011年
    公開日: 2021/07/27
    ジャーナル フリー
     皮膚の紫外線防御において中心的な役割を担っているのはメラニンである.エンドセリン-1 (ET-1),幹細胞因子 (SCF) は UVB 照射時にケラチノサイトから分泌され,メラニン合成を促進する.本研究では正常ヒトメラノサイト (NHM) において ET-1,SCF により UVB 照射による細胞死が減少することを解明し,そのメカニズムについて検討した.ET-1,SCF 添加により NHM において生体防御因子の一つであるヘムオキシゲナーゼ-1 (HO-1) 発現が誘導された.ET-1/SCF はメラニン産生を介してケラチノサイトを防御し,HO-1 を介してメラノサイトの紫外線防御にも関与しており,皮膚紫外線防御機構には ET-1/SCF を介したメラノサイト,ケラチノサイトの相互作用があると考えられた.
  • 久米田 桂子, 檀上 和真, 松坂 方士, 高橋 一平, 渡邉 清誉, 岩根 かほり, 津谷 亮佑, 梅田 孝, 佐藤 研, 福田 眞作, ...
    2011 年 62 巻 2-4 号 p. 144-165
    発行日: 2011年
    公開日: 2021/07/27
    ジャーナル フリー
     我々は国内一地域の一般住民において IBS と生活習慣及び抑うつ度との関係を検討した.一般住民 763名 (男性 288人,女性 475人) に,質問票による調査を実施した.食事内容は因子分析で5つの食事パターンに分類した.IBS の有無を従属変数に,年齢,抑うつ度,BMI,喫煙,飲酒,運動,5つの食事パターンを独立変数として,多重ロジスティック回帰分析を行い,IBS の有無に対するオッズ比を算出した.その結果,IBS に対するオッズ比は,男女とも抑うつ度が有意に高値であった.一方,飲酒が男性でのみ有意に高いオッズ比を示し,和食パターンの食生活が女性でのみ有意に低いオッズ比を示した.日本人の IBS の予防で,節酒は男性に,和食パターンの食生活は女性に,メンタルヘルス対策は両性に必要と考えられた.
  • 池永 五月, 会津 隆幸, 神戸 有希, 山崎 尊彦, 中野 創, 花田 勝美, 澤村 大輔, 土田 成紀
    2011 年 62 巻 2-4 号 p. 166-172
    発行日: 2011年
    公開日: 2021/07/27
    ジャーナル フリー
     Raf kinase inhibitor protein (RKIP) は Raf-1や mitogen-activated protein kinase kinase (MEK) に結合して,mitogen-activated protein kinase (MAPK) シグナル伝達を抑制することが明らかにされている.近年,我々は RKIP遺伝子をヒト表皮角化細胞に導入することにより,表皮角化細胞の分化を誘導できることを示した.本研究では,まず,マウス表皮での RKIP の発現を検討した.その結果,マウスの表皮では全層で RKIP の発現が認められた.しかしながら,培養表皮細胞を用いた実験で,より分化した表皮角化細胞は未分化状態の細胞に比べて,RKIP を強く発現することを示すことができた.この結果は,マウスの表皮でも RKIP発現が表皮角化細胞の分化に伴って増加することが明らかにされた.1α,25-dihydoxyvitamin D₃(1,25(OH)₂D₃) は表皮角化細胞の増殖を抑制し,分化を誘導することが知られている.そこで,次に1,25(OH)₂D₃ の RKIP に対する発現を検討した.その結果,マウス培養表皮角化細胞において1,25(OH)₂D₃は RKIP の mRNA と蛋白をともに上昇することが示された.この結果,1,25(OH)₂D₃ が RKIP の発現誘導を介してマウスの表皮角化細胞の分化を誘導する可能性が示唆された.
  • 諸橋 一, 村田 曉彦, 小山 基, 坂本 義之, 堤 伸二, 米内山 真之介, 小笠原 紘, 吉川 徹, 室谷 隆裕, 中井 款, 石戸 ...
    2011 年 62 巻 2-4 号 p. 173-179
    発行日: 2011年
    公開日: 2021/07/27
    ジャーナル フリー
    【目的】大腸癌に対する腹腔鏡手術は急速に拡大しているが,その適応については議論が多い.当科では早期大腸癌症例に対して積極的に腹腔鏡下大腸切除術を導入している.そこで,術前早期大腸癌と診断され腹腔鏡補助下大腸切除術を施行した71症例を対象として当施設の初期治療成績を後方視的に検討した.
    【結果】内視鏡的切除後腹腔鏡下大腸追加切除施行群は27例,内視鏡切除非施行腹腔鏡下大腸切術群は44例であった.平均手術時間は163分,平均出血量は 57ml,合併症は8例 (11.3%) であった.深達度は内視鏡切除非施行群で術後筋層以深と判明した浸潤癌が多く認められた (p=0.04).内視鏡切除後腹腔鏡下大腸追加切除理由は,1000μm 以上の sm浸潤癌が14例,脈管浸襲陽性が5例であった.術後のリンパ節転移陽性例は全体で9例あり1例に再発が認められた.
    【結語】早期大腸癌に対する腹腔鏡下大腸切除は,根治性と低侵襲性の両面から妥当と考えられた.この場合,特に内視鏡医と腹腔鏡手術医との連携が重要である.
  • 和嶋 直紀, 諸橋 一, 渡邊 伸和, 中井 款, 宮本 慶一, 川崎 仁司, 米内山 真之介, 小笠原 紘, 吉川 徹, 室谷 隆裕, 矢 ...
    2011 年 62 巻 2-4 号 p. 180-185
    発行日: 2011年
    公開日: 2021/07/27
    ジャーナル フリー
    【目的】幽門温存胃切除は,早期胃癌に対する機能温存縮小手術として再評価されている.腹腔鏡手術は低侵襲性と拡大視効果を生かした機能温存手術への応用が期待されている.我々は腹腔鏡補助下幽門温存胃切除 (以下LAPPG) の有用性を腹腔鏡補助下幽門側胃切除 (以下LADG) と比較することで検討した.
    【方法】LADG (66例) および LAPPG (30例) を対象とし,症例背景と手術成績を比較検討した.さらに LAPPG のリンパ節郭清精度についても検討した.
    【結果】pT1 は 88例,pT2 は 8例であり正診率は91.7%であった. 2群で手術精度に有意差は認められなかった.また,リンパ節部位別郭清個数は #3,#4d,#6 で有意差を認めなかった.
    【結語】LAPPG は LADG と同等の術後成績を示し,リンパ節郭清精度の観点からも妥当と思われた.LAPPG は機能温存を重視した縮小手術としてさらに汎用されるべき手術手技であると考えられた.
  • 藤田 あけみ, 工藤 せい子, 岩田 学
    2011 年 62 巻 2-4 号 p. 186-198
    発行日: 2011年
    公開日: 2021/07/27
    ジャーナル フリー
     本研究は,直腸がん手術後の患者が認識する排便障害とセルフケアの実態,主観的QOL (SEIQoL-DW) を明らかにし,排便障害に対するセルフケアと QOL向上のための看護介入への示唆を得ることを目的とした.対象者は88名(62.2 ± 9.3歳),intersphincteric resection (ISR)が33名,low anterior resection (LAR) が55名であった.SEIQoL-DW の index の平均は ISR が 66.7 ± 15.3,LAR が 63.8 ± 14.8 で有意差はなかった.排便障害は,[排便回数が多い][排便回数が定まらない][薬の内服で排便がある][夜間の排便が多い][便失禁][肛門部痛]などの7 つにまとめられ,[排便回数が定まらない][夜間の排便が多い][便失禁]は ISR の割合が有意に高かった.排便障害に対するセルフケアは,[肛門部を洗浄する][オムツやパットをあてる][食事量をコントロールする][排便をコントロールする]などの11にまとめられた.看護介入として,排便のコントロール,肛門部の局所ケア,食事の内容や摂取方法をチェックリストで詳細に把握し,医師・理学療法士と協働した個別の指導が重要であると考えた.
症例研究
  • 斎藤 淳一, 橋場 英二, 大川 浩文, 坪 敏仁, 石原 弘規, 廣田 和美
    2011 年 62 巻 2-4 号 p. 199-204
    発行日: 2011年
    公開日: 2021/07/27
    ジャーナル フリー
     急性心筋梗塞に対する経皮的冠動脈形成術後に急激な血小板の減少を来たし,血漿交換により救命した血小板減少性紫斑病 (thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP) の症例を経験したので報告する.
     症例は77歳女性.急性心筋梗塞の診断により経皮的冠動脈形成術を施行され ICU に入室した.ICU 入室直後より血小板減少 (13.3×10⁴/μl→1.9×10⁴/μl) を来たし,ヘパリン誘発性血小板減少症が疑われた.高度凝固線溶障害,肝・腎機能障害を認めた.明らかな溶血性貧血,精神症状は認めなかった.ヘパリン投与中止後も血小板の改善を認めず,第6,7病日に血漿交換を施行した.血漿交換施行当日より血小板の増加を認め,第9病日一般病棟へ帰室となった.血漿交換施行以前に採取した血液より ADAMTS13 活性の低下および ADAMTS13 inhibitor 活性の上昇が判明し,TTP と診断した.
     TTP は急激な血小板の減少を来たすが凝固能障害は軽度にとどまるとされ,本症例の検査結果と矛盾したため診断に難渋した.ADAMTS13 および ADAMTS13 inhibitor の測定が TTP と血小板減少をきたす疾患との鑑別に有用であっ た.
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