植生史研究
Online ISSN : 2435-9238
Print ISSN : 0915-003X
4 巻, 1 号
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  • 大井 信夫, 辻 誠一郎, 南木 睦彦
    1996 年 4 巻 1 号 p. 5-12
    発行日: 1996年
    公開日: 2021/06/16
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    北海道広尾の楽古川右岸に分布する初期最終氷期ピラオトリ層の花粉群の変遷を示す。調査した露頭断面で認識された19火山灰層のうち2層は最終氷期の広域火山灰Aso-4とK-Mに対比される。この堆積物から得られた花粉群は、主要木本花粉組成の変化から8局地化石花粉群帯HRO-I~VⅢに区分される。花粉群はK-Mの上下で操から泥炭への2回の堆積輪廻と対応して同じような変遷を繰り返す。それぞれの変遷は、下位より上位へ特徴的な花粉がハンノキ属から,カラマツ属,トウヒ属,そしてカラマツ属へと変わることで示される。この変化は湿原の発達と気候の寒冷化にともなう植物遷移を反映している。化石花粉群より復原される気候変動の振幅は上位の変遷の方が大きい。下位の変遷は酸素同位体ステージ5の中のより小さな変動を,上位の変遷は酸素同位体ステージ5から4へのより大きな変動を示している。
  • 木村 勝彦, 大井 信夫, 鈴木 茂
    1996 年 4 巻 1 号 p. 13-23
    発行日: 1996年
    公開日: 2021/06/16
    ジャーナル オープンアクセス
    屋久島は6300年前の鬼界カルデラの噴火で噴出した幸屋火砕流によって植生が大きな影響を受けたとされているが,花之江河湿原とその周辺で行われた過去の花粉分析ではそれを示唆するような結果は得られていなかった。本研究ではスギ自然林を通る林道脇の露頭に見いだされた火砕流堆積物の上に発達した埋没土壌の花粉分析を行い,火砕流噴火後の植生の回復過程を示すと考えられる3つの異なる花粉組成を得た。即ち,1)イネ科花粉とシダ胞子が圧倒的に優占する遷移初期の草原植生を示す組成,2)イネ科とシダの優占は変わらないものの,草本,木本ともに種数が多く特に草本ではアリノトウグサが,木本ではヤマモモが目立ち,先駆樹種が定着を始めた状態を示す組成,3)スギやヤマグルマなど木本花粉が優占し,現在の周辺植生に対応するものの,現在の森林では希な種や,より標高の低いところに分布する種を多く含む組成である。1)の堆積物の年代は5170~6300y、BPの間であると推定され,噴火後早い時期に埋没した土壌であると考えられた。
  • 南木 睦彦, 辻 誠一郎
    1996 年 4 巻 1 号 p. 25-34
    発行日: 1996年
    公開日: 2021/06/16
    ジャーナル オープンアクセス
    古代国家が創建した寺院の一つである上総国分尼寺遺跡における9世紀の井戸内堆積物から産した大型植物化石群と花粉化石群を記載し官寺と周辺の古植生の復元を試みた。大型植物化石群はモモ,ウメ,カキノキ属,ナス,ヒョウタンといった多数の栽培植物を含んでいた。寺院と周辺の古植生は,主としてイヌガヤ,エノキ,ケヤキなどの樹木,人里にふつうな多数の草本からなるものであった。これらは,南関東の古代官寺における人と植物のかかわりに関する新資料である。
  • 松下 まり子, 前田 保夫
    1996 年 4 巻 1 号 p. 35-40
    発行日: 1996年
    公開日: 2021/06/16
    ジャーナル オープンアクセス
    近江盆地南東部の八日市市布施町布施溜(ふせだめ)において,現在の溜池の堆積物とそれに続く一連の池沼堆積物とともに,最終氷期後半を示標する広域テフラ姶良Tn火山灰(AT)を挟在する一連の堆積物を得た。この堆積物中の花粉化石群を検討し,最終氷期と後氷期の植生史を議論した。最終氷期のAT降灰期前後にはハンノキやヤチヤナギが繁茂する泥炭地あるいは沼沢地が広がり,周辺にはマツ属単維管束亜属,トウヒ属,モミ属,ツガ属といった針葉樹とコナラ亜属,カバノキ属などの落葉広葉樹が混在する森林が成立していた。後氷期の古代から中世にかけては,沼沢地に溜池が築造され,フサモ属,ジュンサイ属,ガガプタなどが繁茂していた。溜池周辺では常緑広葉樹林からマツ二次林へ変遷する過程がみられた。
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