最終氷期の日本列島に広く分布していたトウヒ属バラモミ節の多い針葉樹林の分布立地を解明するために,南軽井沢において晩氷期(13,320 ± 130~13,710 ± 130 yr B.P.)に板鼻黄色軽石層(As-YP)によって埋積された埋没林から蘚類を含む大型植物化石を採取し,それをもとに当時の古植生と林床植生を復元した。その結果,南軽井沢の当時の古植生は,トウヒ属バラモミ節とハイマツの混生した針葉樹林であり,林床植生は,ホソバミズゴケやタチハイゴケなどの森林性蘚類からなるコケ型林床であった。森林性蘚類の微地形分布に着目すると,現在の日本の亜高山帯針葉樹林林床で優占するタチハイゴケは凸部と斜面部に限って優占し,現在凹部にしか見られないホソバミズゴケは凹部だけでなく平坦部でも広く優占していた。このようにトウヒ属バラモミ節とハイマツが混生する針葉樹林の林床に,ホソバミズゴケが広く優占するコケ型林床をもつような植生は,現在,北海道の大雪山系沼の原湿原に分布するアカエゾマツ―ハイマツ林でみられる。したがって,晩氷期の南軽井沢の針葉樹林は,湿原のような多湿な立地に分布していたと考えられた。
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